スペイン マドリードの公衆衛生防衛に関する簡潔な覚え書き

戦略的目標軸に底深い組織化を
アンクセル・テスタス/ブライス・フェルナンデス

 スペインでは15M運動以来、さまざまな課題毎に「波」と呼ばれた大規模な決起が起きてきた。その中で最も大規模かつ継続的な決起のひとつが、「白い波」と呼ばれる公衆衛生に関わる決起だ。コロナパンデミックも経由して、この「白い波」は昨年からあらためて勢いを強めている。以下はこのような情勢の中で提起された。公衆衛生をめぐるわれわれの観点を検討する素材としても紹介する(「かけはし」編集部)

広範な労働者層
への働きかけを

1.マドリードの基本的ケアの防衛として2月12日に行われたデモは、多かれ少なかれ似たような形で11月13日のデモを数で維持した。さまざまな話しや国民党(PP、マドリード州では与党)の利益よりもそこにある真実は、公衆衛生の防衛のために変わらずに決起する意志のある労働者の大きな層がマドリードにはいる、ということだ。この声明は単にイデオロギー的なものではない。今日決起した人々のほとんどは労働者階級の居住地区から来ているのであり、かれらは公衆衛生劣悪化の結果に苦しんでいるのだ。
2.デモのこのタイプが生み出している満足感と熱気は、公衆衛生防衛の運動の前にある戦略的な諸問題を無視する口実に使われてはならない。テーブル上には潜在的可能性と同じく諸問題も置かれている。これは、マドリード州で20年もの間続いてきた闘いであり、単に、絡み合った諸々の理由のために条件が悪化したときの周期的出現になってはならないのだ。公衆衛生の問題は構造的であり、体系的な、したがって戦略的な対応を求めている。
3.運動の組織的な構造と決起に向けたその能力の間には、後者を有利にするひとつの大きな違いがある。いくつかの特に推進力のある居住地構造がある。しかしあまりに多くの場合に、公衆衛生防衛を求める闘いの方法は、過剰に型にはまり、居住地区の昔ながらの組織に支配されている。この慣例的あり方は特に運動の構成それ自体に反映され、その決起の中核は、大規模決起の日に加わる小さな子連れの家族を引き連れた退職した人びとだ。
 もちろんこれは大きな出発点だ。しかしそれは、打ち勝ちがたい限界と見られてはならない。実際それは、何か別のものというより、むしろ「除外され」ているもの、つまり移民を出自とする労働者階級、若い労働者、労働者階級の幅広い層……の力を映し出している。
 この決起の波の外部にはまだ幅広い広がりがある。そしてこの決起の波は、依然あまりに固く伝統的左翼に結びつけられている階級構成を豊かにしつつその広がりを合体しなければならず、政治的代表性から排除されているマドリードの新しい労働者階級の多様性すべてを映し出してはいないのだ。
 人がマドリードの労働者階級居住区で暮らし、少しばかりの注意を払って観察すれば、これらの地域で活動しているますます多くの福音派教会や多くのテーブル(まさに、伝統的な「宣伝物配布」テーブル)を見ることができる。ムスリムには届かないとの決めつけとは逆のことだ。つまり、これらの層に体系的かつ密接に働きかけること、闘争のプロセスにかれらを合体させることが、どんな環境の下でも屈服する気がないPP政府と大規模な決起の間の「破局的な行き詰まり」という現情勢を克服する上では、基本的な前提条件なのだ。
 もちろん、この分子的な作業はすでに、公衆衛生を防衛する草の根の運動によっていくつかの場で今行われている。そして、それが行われているところで決起のタイプがより高いレベルにあることも偶然ではない。それを模倣し、拡大し、まさに決定的だがほとんど見えていない日々の戦闘性というこのタイプを強化することが必要だ。

攻撃のレベルに
見合う闘い必要


4.他の問題は当代の政治と大いに関係している。選挙が近づいている。選挙でイザベル・アジュソ(PPメンバーで2019年以来マドリード州知事)を敗北させる必要は、どんなときでも過小評価されてはならない。彼女の敗北は疑いなく、この運動を強化するだろう。それが、この闘いは公衆衛生劣悪化の犯人たちをたたき出すことができる、と示すと思われるからだ。
 このアプローチが抱える問題は、それが最も必要なことを弱める傾向があることだ。というのもわれわれは、闘いの「長征」に向けた準備を、運動を組織的に強化することを必要としているのだ。そしてこのためには、選挙運動とは異なる闘争の一定期間をつくり出すことが基本になる。アジュソが再度勝つことがあれば、われわれは闘いを維持しなければならないだろう。彼女が敗北しても同じだ。
 明白なことだが、制度的な左翼諸政党は、戦略的な破綻の中で、また満たされない約束のスパイラルの中で、選挙に勝つため金銀の約束を行うだろう。われわれは早くもこれまでにスペイン政府から、かれらは二次的な課題では屈服するつもりはあるが、経済の大物たちに立ち向かうつもりは全くないことを経験してきた。
 民衆的左翼のアジュソを倒したいとの「健全な」切望には敏感であることが必要だ。しかし同時に次のことも極めて明確だ。つまり、マドリードの制度的左翼は、民衆的決起の進展には波乗りするが、それを底辺から築き上げることはせず、投票以上の何らかの戦略を提案することもない、ということだ。なぜならば、公衆衛生を支配する経済界の大物とのいかなる衝突もその政治的綱領から排除されているからだ。
5.2月12日の決起のような呼びかけの中に映し出されている重要な戦略性をもつ1点は、運動の統一だ。そこには、このタイプの呼びかけに加わることを強いられた居住区運動や労組機構の分散的なもくろみを超えて、あらゆる人びとを巻き込む能力をもつ、2、3にはとどまらない組織が存在している。しかしこのことは、戦略的な統一、すなわちさまざまなレベルと時に合わせて組織されたやり方でストライキを行い反攻を加えるために「作戦可能な大衆」を動かす能力、が存在している、ということを意味するものではない――そこからはほど遠い――。
 これは、この運動が公衆衛生の構造そのものが強いている分断を、これらの大きな呼びかけを通じてようやく克服している、という事実と大きく関係している。問題になっているのは、公共部門と私有部門間の、労働者と利用者間の、初期ケア労働者と大病院労働者間の分断であり、さまざまな職種間の分断だ。それは解決が簡単な問題ではない。しかし出発点は、あらゆるタイプの企業主義とその逆、つまり市民の決起「のみ」がそれを克服することができるという考え、に反対するイデオロギー的な闘いでなければならない。
 マドリードの医師団体であるAMYTSが率いた医師のストライキは、これらすべての矛盾の1例だ。この組織は伝統的に労働貴族層の有機的な一部だが、その労働条件の劣悪化、およびそれ自身の仕事とその組織に関する高まる一方の支配力減退を理由に一層苦しんでいる。それへの対応は、戦闘的だったが同時に限界ももっていた。勝利するためには低下させられた戦略的な力を展開するだけでは不十分であり、闘いの中で質的な飛躍をつくり出すための平等な基礎の上で、それは他の職種や諸部門と結びつく必要がある。
 どのようなタイプの集団的なエリート主義も排した闘争の高まる計画の中でのあらゆる職種を含んで、病院のような他の労働空間に争議を拡大し、居住区の支援との協働を作り上げ、公的な公衆衛生の劣悪化を可能にしている政治―行政構造を混乱させつつ保健センターを占拠するような闘争手法を組み合わせよう。他の場合にわれわれが経験してきたように、闘いの強化がなければ、この諸決起も分解に向かう。対応は攻撃のレベルに見合っていなければならない。

単一かつ公的な
公衆衛生制度を

6.われわれがテーブルに置かなければならないもうひとつの大きな問題は、公的な医療ケアと私的な医療ケアの両立不可能性だ。私的部門に対する資金提供が終わることを要求するだけでは十分でない。つまり、私的部門は消えなければならないのだ。それが住民間分離の要素になっているだけではなく、一連の資金を吸収し、それが公的部門の劣悪化に導いているからでもある。私的部門は公的部門に寄生し続けている大きなサギなのだ。
 そしてここでわれわれは原理的な問題に行き着く。すなわち公的なモデルは、いわゆる技術者の公的な管理者がビジネス経営責任者以上の者では全くない、という矛盾した関係の上に築かれているのだ。つまり、資産は形式的には公的なものだが、経営はその母体と共に私的モデルを再生産しがちなのだ。そしてそれは、マドリードの公的モデルに押しつけられてきた外注政策をわれわれがよく見れば、もはや隠喩ではない。
 この意味で、全運動の統一はまた明確な目標を軸に出現しなければならない。その目標こそ、必要な資金に関し生き生きとした直接の統制を行使できる公衆衛生労働者と住民による統制と管理の下での、全員のための単一の公的な公衆衛生制度だ。そして問題の資金は、憤激した中産階級がしばしば言っているような「われわれの税金」からではなく、労働者階級の間接賃金から出ているのだ。
7.マドリードでは公衆衛生劣悪化に責任がある政治家はPPにつながっているように見えるとしても、制度的な左翼の対応は、問題の大元に対し労働者階級を子ども扱いする傾向がある。問題の大元は、自らを再生産する目的から新しい隙間を見つけようとする、資本にとっての必要以外の何ものでもない。つまり、経済的な拡大の時代に強力な労働者の運動によって以前は安全に守られていたものは、今日事業家たちにとっての戦略的な目標になっているのだ。
 われわれはこの意味で、反資本主義の線に沿った底深い変革を欠いたいかなる勝利も部分的なものになる、と考えなければならない。しかしまた当然に考えなければならないことは、わが階級の能力と自信を強める、闘うことでわれわれはわれわれの潜在的な強さを実体のある強さに転換できるということを見せつける、そうした部分的な勝利がなければ、このシステムを打倒できる政治的な構想を再建する真の可能性も全くないだろう、ということだ。
 その意味でこの闘いは一方に偏ったものとはかけ離れている。それはマルクスの言葉の中にあるひとつの政治闘争にならなければならない。すなわち、特定集団を超えて立ち上がり、共通の目標を軸に打ち砕かれバラバラにされたマドリードの労働者階級の統一に成功し、かれらにその強さを気づかせる闘争だ。それはまた、誰が誰のために統治するのか、という中心的な問題をも提起する闘いだ。実業家とその使用人だけが計画し、私的な財産と利潤が他の何よりも上にあり、それが容赦なくわれわれを零落させる人間と無縁な論理のようにわれわれに押しつけられる、そのようなシステムの中で 公衆衛生の権利はあり得るのだろうか?

新たな飛躍への
社会的組織化へ

8.マドリードの共闘機関は、2月12日の決起をさらに進めるために大規模な民衆的な意見聴取を準備中だ。それは疑いなく大きな戦術的成功であり、そしてそれは、居住区と街頭でのイベントが何千と組織されることを可能にするだろう。しかしながらその目的は意見聴取それだけであってはならず、保健センターと病院内外での、労働者階級全部門を含んだ社会的組織化の契機にそれを変えなければならない。
 それは簡単ではなくそこには本当の難しさがいくつもある。選挙日程、制度的左翼諸政党と労組機構の単なる宣伝的な利益、また幅広い意味における反資本主義勢力の非常な弱さ、などだ。しかし、国家が上からわが階級に押しつける原子化を克服できることになるのは、疑いなく、戦略的な鍵として活力があり意識的な自己組織化をそれらに与え、それらを広く知らせ、それらを建設し、それらを政治勢力に転換する、こうした進展を通じるものになる。
 われわれが先に概括した展望に基づいて、他の人々をこの戦略を納得させ組織化することに努め、あらゆる人々と共に諸勢力に加わり、公衆衛生を労働者の役に立つものにできる階級的戦略を作り上げる必要を共有する人々と共に協働を追求し、この闘いに加わろう。それが今日のわれわれの任務だ。(2023年2月13日、「ビエント・スル」誌より英訳)

▼ブライス・フェルナンデスはマドリードのポデモス内アンティカピリスタス活動家。
▼アンクセル・テスタスは、アンティカピリスタス・マドリードの活動家。(「インターナショナルビューポイント」2023年3月9日)

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