ゼロコロナ政策、その解除再開放、国家資本主義の増殖(上)
パンデミック対策に対する対応の違いにもかかわらず、アメリカと中国は資本蓄積への関与を共有している
2023年1月6日 プロミス・リー
[訳者注]プロミス・リーは、香港出身でロサンゼルス在住の社会主義者で、海外在住の香港人活動家のサイト『流傘』、ソリダリティ、DSAのメンバーである。彼はこの論評の中で、中国とアメリカという二つの国家資本主義システムにおいて、パンデミック対策は大きく異なっているが、その両方ともが資本主義の利潤率確保・資本蓄積という論理にもとづいていることを明らかにしている。したがって、中国政府によるゼロコロナ政策の放棄もまた、その文脈の中で理解できると主張している。
12月に中国の主要都市のいくつかで大規模な大衆反乱が起きてから数日で、中国政府はパンデミックの期間中ずっと続けてきたゼロコロナ政策を完全に撤回した。多くの人々が新たにウイルス感染の危険にさらされ、医療などのサービスをフル回転させなければならず能力を最大限発揮させることになった。そして、政府は新規感染者数の公表を取りやめると発表した。隔離措置が緩和されたことで、多数の中国市民が数年ぶりに海外に旅行し始めたが、その多くは数年ぶりの海外旅行だった。反アジア感情を再燃させるに違いない動きの中で、アメリカの対応はダブルスタンダードで偽善的に対応した。つまり、すでに国内旅行や海外旅行において、検査やマスクなどの予防措置を緩和してきたにもかかわらず、中国から国境を越えて入国する旅行者には新型コロナウイルス検査での陰性結果を要求したのである。
中国外交部は、アメリカの発表に反応して、「新型コロナウイルスへの対応措置は、世界の産業とサプライチェーンの安定を維持するために、日常的な人と人との交流に影響を与えることのない、科学的根拠にもとづいた釣り合いの取れたものでなければならない」と強調した。
左翼の中には、アメリカの怠慢なパンデミック対策と中国共産党のゼロコロナ体制は統治と公衆衛生に対する施策としては正反対のものだと考えようとする人々がいるかもしれない。最近の『マンスリーレビュー』誌の論評のように、中国の悲惨な緩和の再開放プロセスを「科学と人民を中心に置きながら、歴史的で世界的なパンデミックに立ち向かう厳格なプロセスを継続したもの」と述べる者さえいる。
実際のところ、中国共産党がゼロコロナから再開放緩和へと突然に転換したのは、人々の生命よりも支配階級の利益維持を優先する統治論理の延長線上にあるからだ。それは、アメリカの弛緩したパンデミック政策と共通する論理である。パンデミックに対してアメリカが用いた手法と中国の手法とは異なっているが、二つの覇権国家に共通するビジョンは常に資本蓄積というグローバル論理の維持に力を尽くすことである。
実際に、中国共産党による180度の政策転換は国家資本主義の論理を示すものであり、その論理は一つではなく複数存在している。われわれはこの複数の論理を区別しなければならない。党支配国家の公衆衛生政策がジグザグな軌跡をたどるのは、利潤率維持が根本的に困難であることに対するグローバル資本家の支配エリートの反応の一部であることを理解するためにであると理解すべきだ。言い換えれば、資本家エリートはグローバルな利益追求を最大化する新たな方法を常に必要としているのであり、このことを実行するために対立しあっている国家経済ブロックを強化することによって、国家資本主義統治の多様なモデルの間をジグザグすることのようにもなるのである。われわれはこれを新自由主義に対するイデオロギー的なオルタナティブであると誤解してはならない。この転換の重要な影響は、労働者階級やそれ以外のその他の独立した大衆運動の中で分断が強化されてしまうことである。左翼にとって大事なことは、起こりつつある社会運動の多元主義に適合した動員のための新たな戦略を明らかにすることである。そうした社会運動のイデオロギー的・組織的多様性は、国家資本主義の多様な形態を反映するとともに、それへの抵抗でもあるからだ。
国家介入の
多様な現実
パンデミックによって、世界経済は第二次世界大戦以降で最も低い成長に陥った。そして、グローバル支配エリートにとって、経済的利益を回復するための新たな方法をもう一度多様化させ、刷新する必要性が生み出されたのである。中国は昨年、消費水準が落ち続け、企業利潤が低下したため、高度経済成長を持続させられなかった。数十年にわたる利潤率低下は、新自由主義的金融化がすすんだ当初には一時的な復活を遂げたが、世界的規模での永続的な過剰生産危機によって悪化し続けている。このことは、アメリカの非金融部門での利潤率が同じように一般的低下傾向にあることと並行して進んでいる。数十年間にわたって、経済政策の調整によって喚起された一時的で不均衡な景気上昇はあったものの、資本主義の「長期」的成長は存在してこなかった。
アメリカの覇権的役割が低下することで、さまざまな国の支配エリートにとって、利潤率を回復させるための市場蓄積の恒久化のために、構造の新たな修正が求められている。政治経済学者のバスティアン・ファン・アペルドーンとナナ・デ・グラーフが述べているように、このことは、「(グローバル)資本蓄積と資本主義市場の内部で、それに対して、国家が果たすさまざまな役割の再構成」をもたらし、「アメリカと中国の事例は、われわれが明らかにした国家のさまざまな役割が、潜在的には矛盾しているが、実にうまく両立しうることを明確に示している」のである。言い換えれば、われわれが国家中心主義的で専制的な枠組みの一般的な台頭に向かう傾向があると言うだけでは十分ではないのだ。われわれは、それが現実に存在しているときに、その表現が多様であることを認識しなければならない。あるいはさらに、国家資本主義の多元的で不均等な性質が資本蓄積の新たな局面に新たな力を与えるのである。
搾取の強化
ふたつの道
その例として、中国のゼロコロナ政策が中国の資本主義企業の生産性をいかに支えてきたかを取り上げてみよう。左翼の中には、ウイルスに直面して人民の生命を利潤よりも優先しているとして、中国のパンデミック戦略を賞賛する部分もいるが、現実が示しているのは、たとえ中国の失敗が必ずしもアメリカと全く同じではないにしても、それは真実ではないということである。世界最大のアイフォーン生産拠点であるフォックスコン鄭州工場は、地域のロックダウン措置と連動し、地元政府の承認のもとで「バブル方式クローズドループ」(訳注)体制を正当化した。それは、アップルの生産目標を達成するために労働者を工場内にとどめ隔離して労働生産を継続させるものだった。
さらに、パンデミック時に感染対策の名目で強制的に集団を強制移送するという中国共産党の戦略によって、人々はもっと安全ではない環境で感染にさらされやすくなっただけでなく、そのことによって新しい搾取モデルが導入されたのである。労働者が抗議行動に立ち上がったとき、フォックスコンに代わって何百人もの公安警察官が労働者を弾圧するために送り込まれた。そして、労働者の職場復帰が十分でないと、中国共産党は末端レベルの党幹部をフォックスコンの生産ラインにスト破り要員として送り込んだ。
中国共産党が多くの監視手段や反労働者的方策を西側諸国から取り入れる一方で、アメリカにおけるパンデミック対策は異なる搾取の現実を打ち立てるものだった。当初から緩やかなパンデミック規制措置や感染した労働者に対する最小限の経済的保護によって、新型コロナウイルスがコミュニティを引き裂くのを許容するというアメリカの戦略は、労働者に対する一連の圧力を生み出した。
このことが伝統的なアメリカの「死と隣り合わせにもとづく政治」という社会的怠慢と警察国家の拡大とを結びつけた。アメリカの労働者コミュニティ社会は国家政策の失敗による広範な破壊に直面したが、草の根の労働者の戦闘性が増加し続けていることで立証されているように、持続的で独立した自己組織化のための空間は依然として残されている。
国家資本主義的統治のこうした多様なあり方は、多様な体制が各々の国家による独特な政治システムと文化から導き出される蓄積を最大化する独自の方法を発展させる機会を生み出している。パンデミックによって、党による統制主義的な市民保護という名目で、中国国家はゼロコロナ政策による監視・警察体制を強化する口実を得た。アメリカは、(ワクチン反対・コロナ否定の極右に駆り立てられて)あたかも基本的な自由が尊重されているかのように見える平穏な生活を取り戻すことに熱心で、経済再生への新しい道を約束している。バイデンは、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」国内政策を利用しながら、新たな国内産業の回復の時代を推進してきた。労働法律家の藤田直樹 が指摘するように、この「最も重要な産業政策は、交渉力をほとんど持たない労働者の余剰を生み出すことだった」のである。歴史的なものになる可能性があった鉄道労働者のストライキを阻止するというバイデンの最近の動きはこのことの明確な例である。
そして、両国の支配階級にとって同じように重要なことであるが、こうした手法の違いを強調することは、民族主義的な感情をあおることによって労働者階級の分断を助長するのだ。中国共産党がアメリカの怠慢なパンデミック対策と欠陥データに狙いを定めていたとき、アメリカは過剰な制限をともなうロックダウン措置を理由に中国政府を攻撃していた。バイデン政権による中国からの旅行者に対する新たな規制はトランプの手口を踏襲して、新たに国内のアジア系アメリカ人コミュニティの中で中国人の背中に標的を定めるものである。 (つづく)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
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