ゼロコロナ政策、その解除再開放、国家資本主義の増殖(下)
パンデミック対策に対する対応の違いにもかかわらず、アメリカと中国は資本蓄積への関与を共有している
2023年1月6日 プロミス・リー
この意味で、ここ数年間のゼロコロナ体制からの中国共産党の突然の転換を逸脱だと理解するのではなく、市場動向に応じた国家資本主義的蓄積の異なる論理への調整であると理解すべきである。中国共産党は、欧米の資本主義工業化への道を模倣してきた(そして、完成させた)のと全く同じように、今度はアメリカがやってきたことをもっと速いスピードでやろうとしているのだ。中国政府は近年、検査やロックダウン体制を優先して医療・保健インフラに対する資金を削減したため、病院やその他の社会資源がとりわけ農村部で急に手薄になってしまった。死亡者数が増えるにつれ、中国国民は適切な医療を受けることがさらに困難になっている。クリスマス前の一週間には、毎日数千万人が感染したと言われた。
中国政権のゼロコロナからの再開放への転換が突然だったことが示しているのは、これが最後の転換や政策変更ではないということだ。われわれはこうした公衆衛生戦略の多様性を、蓄積という普遍的・中心的な戦略を維持するための支配エリートによる戦術的・偶発的な反応であると認識しなければならない。
ゼロコロナ政策施策は中国経済に打撃を与え始めたために――(とりわけ労働者の抗議行動の波のあと、フォックスコンの利益も含めて、工業生産が鈍化した)――ために、党指導者エリートは資本主義的成長へと向かう新たな道筋を取り戻し、国内消費を刺激するために、ゼロコロナを放棄するという飛躍をおこなうことを決めたのである。中国共産党は、そうした不満が散発的に表現されることを相殺する経験を豊富に持っているが、2022年12月に起きたような突然の全国的で集中的な不満の表現、つまり、数十年間にわたる非政治化のあとで、中国共産党支配から独立し、組織された運動によって支えられた人民の大衆的政治化が起きたことは、党支配国家にとっての最も大きな恐怖を生み出す恐れがあった。人民の要求のいくつかに応じることは、人民が自らの持つ集団的な力を理解し始めることになるため、この運動がさらに強化される危険性もあるが、その一方で政権はチャンスを得たのである。
つまり、ゼロコロナ政策の撤廃は、抗議行動参加者の最も切実な要求をかなえることになり、運動を鎮める可能性がある一方で、経済成長の停滞を回復させる機会を政権に与えたのである。支配エリートが利潤率を回復させるためのさまざまな選択肢を使い果たし続けているため、われわれはさまざまな国家資本主義的戦略が展開されるのを間違いなく目撃することになるだろう。形の違いはあっても、そのいずれもが蓄積論理に対するオルタナティブを提供するものだなどと誤解しないことが絶対必要である。
国家資本主義の形態が多様であることは抗議運動の細分化を招いている。アメリカ支配層が軍事予算を増やすために中国における人権侵害を武器として用いたことで、進歩的団体や左翼組織が中国とその周縁地域における労働者や大衆運動との連帯を築くことをやめてしまった。アジア系アメリカ人組織は、全体的に見て、2022年12月初めに起こった中国におけるここ数年で最大の大衆的抗議行動についてほとんど何も語らなかった。労働者を含む中国の抗議行動参加者は、海外の進歩的団体や左翼組織からの支援を受ける手段をほとんど持っていない。そのような関係は特に、国家から「外国の干渉」という厳しい嫌疑を当局からかけられて容疑を受けてしまう可能性が大きいからだ。
しかし、中国の大衆的抗議行動は、短い期間だったにもかかわらず、コミュニティ、部門、アイデンティティを横断する政治的自覚を新たに覚醒させた。各地域での行動は中国本土で持続している。中国の多くの都市で医学生が先月、不適切過酷な労働条件に抗議行動を起こした。フェミニストやLGBTQ+活動家は運動の中で、国内外での運動の勢いを持続させる上で中心的役割を果たしてきた。国外のフェミニスト活動家は、海外での政治教育やその他の行動を組織してきたが、いまでは中国のLGBTQ+活動家で、光広州での抗議行動に参加したことで拘勾留された「點点心」[本名、楊紫 荊莉のハンドルネーム?]を支持する重要なキャンペーンの一つの先頭に立っている。
いくつかの取り組みは実際に、中国の活動家と国外のより広範な左翼運動とのギャップの橋渡しをしている。アメリカを拠点とするアップル販売員労組は最近、フォックスコン労働者との連帯を表明する声明を出した。フォックスコン労働者を支持するさまざま都市でのグローバル連帯キャンペーンは、ロンドンでの香港の連帯労働者運動に連帯するなどのさまざまな急進的左翼組織からの協力や支援を受けてきたし、アップル社の統一技術者・労働者連合、シドニーのブラック・フラッグも参加している。多くの中国人海外留学生がカリフォルニア大学の諸キャンパスにおける最近の教員ストライキ――(アメリカの歴史で最大級のストライキ)――で積極的に組織化に取り組んだ。
実際のところ、地理的な断片化と政治的多様性は、こうした闘争を結びつける努力を挫折させる可能性がある。しかし、特にとりわけわれわれが、その利益と力が国境を超えて広がっている利害と力を持つ支配階級と向き合うときには、起こりつつある運動が不規則に広がり、不均等なことは独特な力強さを有する種になりうる。中国の青年活動家の新たな世代がさまざまな多様な運動の中に組み込まれながら台頭してきたことにより、国家資本主義に対する明確な綱領的オルタナティブのもとにグローバルな左翼反対派を組織するための教訓を力強く統合することが可能となる。このことは不可避的にアジア系アメリカ人、労働者、社会主義者、フェミニストなどの運動の間で、より深い絆と重なりを築くことを必要とするだろう。
国家資本主義の体制や政策が柔軟で変わりやすいのと同じように、こうした運動の開かれた多様性こそが、漢民族排外主義、権威主義、セクト主義といった中国左翼の過去の世代の誤りを乗り越えることができる反資本主義的大衆運動を構築するために必要なものなのかもしれない。しかし、多元的であるということは、イデオロギー的に分裂したり、組織的に無秩序であったりすることではない。ブルジョア民主主義的改革や既存の権威主義的資本主義体制内での調整のどちらも、真の民主的自己組織化や実践のための闘いを促進することはできないことを理解した上で、われわれは結集しなければならないのだ。われわれは、多様な地域での運動と、さまざまな闘いから得られた洞察やそうした闘いから生まれた組織的活動家を包摂し含みこむ革命的変革のための広範な綱領との間の橋渡し役として活動し続けなければならない。
われわれが構築しようとする政治的未来を共同して定型化すれば、さまざまな組織が連合を発展させ、キャンペーンを同時に展開することができる。すなわち、その政治的未来とは、中国とその周縁地域における真に社会主義的で民主的なシステムであり、そこでは労働者組織やその他の周縁化されたコミュニティが結集して、抑圧されることなく、公衆衛生対策やその他の、社会的なその他の側面において、人々の必要に応じたものの生産を計画するのである。
このような社会ビジョンは、アメリカや中国の資本家エリートが推進する社会ビジョンのアンチテーゼとなるだろう。彼らが人間よりも利益を優先する価値観を実現するためにゼロコロナから「ウイルス拡散」まで、さまざまな方法を見つけ出したのと同じように、われわれもアメリカ、中国、その他の国家資本主義のさまざまな様相と効果的に闘うために、われわれ自身の多元的運動を構築しなければならないのである。
(訳注)バブル方式 ある一定の地区を厳格に隔離し、その中と外部の人の移動を禁止し、物の移動においても消毒などを徹底する感染対策。隔離区域をバブル=泡に見立てて、そのなかに感染リスクのある人間を閉じ込めることからそう呼ばれる。コロナ禍の東京オリンピックでも採用された。
(『流傘』サイトによる)
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