フランス 年金から社会選択の問題へ

社会的危機と民主主義の危機また政治的袋小路累積の継続

孤立した政府、しかし運動も先行き未定

レオン・クレミュー

高い決起水準の維持と様子見

 3月25日の週末は、警察とダルマナン内務相が組織した警察の暴力を特徴とした政治的空気、またストライキ行動日と3月28日のデモの中での高い決起水準の維持を特徴とした情勢の中で、実体的な転換点を示した。
 しかし、全般的な感覚はあらためて、運動も政府も天秤を有利に傾けることがないままの一時的待機というものだ。これが、運動の外部にある日程に道を譲りながら、一定の様子見という空気を生み出している。ちなみにその日程とは、実のある目的を欠いたまま4月5日に行われる労組間共闘の会議であり、政府が票決がないまま押しつけた法を有効と認めることができるか否かに関する、4月14日の憲法会議の審議だ。(当日、年金改悪法を合憲とした:訳者)
 ここでは第1番の事実が心にとどめられなければならない。つまり、憲法49条3項を利用して年金への攻撃を強要する、3月16日の政府による力づくの可決はいかなる点でも、この3ヵ月間決起してきた何百万人という労働者の志気をくじいてはいず、住民の中で、運動に対する巨大な支持も、改革への拒絶も、またマクロンと彼の首相であるエリザベット・ボルヌの印象に刻まれる孤立をも修正していない、ということだ。
 この情勢は、メディアの面前で民衆の怒りと衝突する危険を犯さない限り、かれらがもはや最小限の公開の場への登場もできなくなるほどまで、かれらを今弱らせている。マクロンや彼の政府や彼の議会少数派のこの孤立は、落書きの札を貼り付けられた、あるいは燃えがらのブロックで封鎖された大きな数の議員事務所という形で、また国民議会解散のあかつきに選出されると思われるマクロン派議員数における崩壊を予想する連続的な世論調査という形で映し出されている。
 この政権の信用失墜は、この社会的攻撃の中でマクロンを支持している罪として、共和党にも反響を及ぼしている。それゆえ社会的危機、民主主義の危機、また政治的袋小路が累積し続け、不安定性という情勢、責任と出口探索の情勢がそのままに続いている。それは、運動の緩やかな弱まりと民衆的立腹の高まりの鈍化によって解決される可能性はあるが。しかしまた、この運動が3ヵ月間経験してきたような新たな高揚によっても解決される可能性があるのだ。

暴力が映し出す政府のパニック
 この2、3日で最も重要な事実は疑問の余地なく、大西洋岸のナント近郊サントソリーヌにおける警察の暴力の高潮だった。それはマクロンと彼の政府に刻まれた熱病的状況を露わにする暴力だった。
 数日間、環境保護闘争の諸々の市民団体と農民連合はいくつかの労組と左翼政党の支援を得て、ドゥー=セヴール県における16基の巨大貯水槽建設に反対して決起していた。その建設プロジェクトは、260個のオリンピック競泳プール分までの能力を備えた貯水量(65万立方メートル)を生み出すために、地下水位に冬期のポンプ汲み揚げ余地を与えるものとして、深さ10メートルまで沈められた無蓋貯水槽を建てる事業だ。
 この県の当局と政府は、動物の飼料向けに栽培されるトウモロコシのような、水を大量に必要とする穀物のための大規模農家が求める必要に応えるこれらのプロジェクトを強要したいと思っている。その中で、地球温暖化や地下水の減少の時代に、必要性のほとんどが疑問に付される栽培様式を満足させるための、先のような貯水施設の明白な危険を糾弾するネットワークと結びついて、抵抗の幅広い戦線が建設されてきた。加えてこの巨大貯水施設は、河川やその生物生息環境の貧困化と同義であり、さらにまたドウー=セヴール県の農民5%のための、またこれらの施設運営者の利益のための、共有財資源である水の私物化でもある。しかもそこには、科学的調査の専門家によれば蒸発率が20%から60%まで変動する以上、相当な資源浪費という結果も伴われる。
 3月25日、幅広いネットワークの「貯水槽はゴメンだ!」、「地球の蜂起」、農民連合の呼びかけの下に、これらの貯水施設のひとつの建設現場、つまり不浸透性防水布で被われた広大な空洞に向けて行進するために、3万人の人びとが結集した。この小山を守るために、デモは禁止され、3千人の憲兵隊と警察が動員された。
 内戦の雰囲気と参加したデモ隊の「殺意」を浮かび上がらせるように、5千個以上の催涙ガス手投げ弾、89個の包囲突破手投げ弾、さらに81発のLBD弾(ゴルフボール大にもなるゴム弾:訳者)発射の豪雨がデモ隊を襲った。催涙ガスをはき出し、人びとに重篤な傷を与える可能性もある破片を飛ばすGM2L破裂型手投げ弾によるものを含めて、抗議行動参加者200人以上が負傷した。しかしこれらの弾薬すべては、国内治安基準によって戦争用途弾薬として区分けされているのだ。
 しかしこれも、報道のインタビューを受けたダルマナンが嘘をつくのを止めることはなかった。彼は最初「戦争の武器はひとつも」使用されなかったと主張したのだ。。そしてその後彼も、警察の査定後先の主張を自ら否認せざるをえなかった。
 最新の情報によれば、ふたりの男性が今も昏睡状態にあり、ひとりの若い女性は顔を潰され、もうひとりは失明した。何年間か、人権同盟、アムネスティ・インターナショナル、国連反拷問委員会、さらに欧州評議会は次々に、社会的なデモの中でフランスで使われている介入手法に対し懸念や強い非難を示す見解を公表してきたが、無駄だった。
 マクロンとダルマナンは彼らの前任者に続いて、「国家の正統な暴力」の陰に隠れようとマックス・ウェーバーをねじ曲げて呼び出し、フランスに警察の暴力は存在していない、と主張する。この劇的な挿話の中で確かなことは、警察が守っていたものが貯水施設建設現場ではなかった、ということだ。それはむしろ、マクロンと彼の政府がはまり込んでいる沼地であり、社会的、政治的危機に対する恐れだった。
 そしてそれらの危機は、その多くの側面をはっきりと露わにし、また貯水施設と年金の問題で、社会的選択と、さらに、特に資本主義的支配と利益を名目に行われている階級的選択に異議を突きつけ反対するためのいかなる民主的統制もいかなる民衆的主権も不在であることと、われわれが衝突していることを照らし出しているのだ。
 住民の大多数は、民衆諸階級は暗黙の内にこの仕組みとこれらの選択を拒絶している。恐れられていることはもちろん、この無定型な拒絶がこれから建設的な結論確定に向かう諸要求と政治的な意志へと転じることだ。それゆえに、サントソリーヌに現れた3万人のデモ隊を犯罪人にし、息を止め、かれらにガスを浴びせることが必要だった。政府のパニックは、現場にいたオルガナイザーたちによれば、現在昏睡状態の男性のひとりを救出するためのSAMU(非常医療支援サービス)の介入を3時間遅らせるほどまでに深まった。
 その時以来、この暴力を糾弾するデモが数を増し、いくつかの苦情が提出された。しかし内務相はまず何よりも、先のデモを組織した「地球の蜂起」のネットワーク解散を求める手続き開始を急がせた。

運動と左翼諸政党への抑圧
 この数日は、サントソリーヌの暴力を繰り返す形で、集会禁止、デモをめぐる「予防」逮捕、警察署拘置、多くのデモ参加者に加え労組役職者までも含む起訴手続き、パリ第1大学・トルビアック大学のような警察による大学入構の統制、ボルドーの学部占拠を終わらせようとのRAID(組織犯罪事件とテロ事件を専任とする対処グループ)の介入を見る日々となった。ここでもまた明白な目的は、封鎖行動や占拠すべてを終わらせることだ。そしてそれらの行動は、49条3項後の日々の夜間デモがそうだったように、政府への圧力を維持し、決起を維持しようと今数を増している最中だ。
 この抑圧は、不服従のフランス(LFI)に対する暴力的な攻撃と相伴って進んでいる。この勢力は内戦を訴えていると想定されているのだ。国民連合(NR)が社会的な怒りを2027年に刈り取ることを期待して資本主義諸政策を疑問に付すことなく全面的に制度的な枠組み内にとどまっている中で、LFIとNUPES(新人民連合・環境・社会)諸政党全体も、社会運動とその要求を支持して、ある種の共鳴に多かれ少なかれ力を提供している。
 そして確かなことは、政府の怖れが、今は現実ではないが、社会的かつ政治的な戦線が、民衆の必要に基礎を置くオルタナティブに信頼性を与える合流点が今後生み出される、ということだ。それゆえにまた、そうした展望の危険を取り除くためにNUPESの信用を傷つけることが必要になっている。「人民連合よりも国民連合の方がマシ」が政府の路線のように見える。
 この全体的な流れの中で、労組間共闘が3月28日に呼び掛けた10回目の全国行動日は、あらためて決起の強さを見せつけた。全国的には200万人以上、パリでは45万人という形で、この行動は3月23日より少なかったとはいえ、特に再度中小規模の町で1月以後の高水準のデモ参加者数を示した。このデモに加えて、カーン、レンヌ、ルマンにおけるような数十の環状交叉道路封鎖行動、ビアリッツを例とする石油貯蔵所や高速道路料金所や空港の封鎖行動、またパリのルーブル美術館封鎖行動などもあった。デモには45万人にのぼる若者たちが姿を見せ、それは3月23日の50万人にほぼ等しい数だ。
 しかしそうであってもこの日は、パリとマルセイユにおけるごみ収集労働者ストライキの終結、および市民サービスと公教育におけるストライキのはっきりした下降という形で、ストライキ行動の一休みを印した。同様に、28日には運転士の45%がストライキを行ったフランス国鉄でも、運動は連続的継続というよりも、労組間共闘が選択する行動日に合わせて決定されている。

諸限界の突破が依然残る課題
 この運動の諸限界は――この数十年では最も重要な日々を経験してきたとはいえ――今も存在している。すなわち、これ以上連続ストライキにとどまることがほとんど不可能な僅かの部門を超える、連続ストライキの全体化が全くないこと、ストライキを行っている部門における全員総会への低い参加率、そして部門横断全員総会がほとんどないことだ。しかし最後のものは、1995年や2010年にそうだったように、以前の大決起の心臓部にあったものだった。
 これらの諸限界は、デモや封鎖を組織して運動の中心に今いる何万人という活動家、労働者の戦闘的な行動にもかかわらず存在している。また、労組間共闘の矛盾した役割もある。全労組連合のそのような統一は初めてのことであり、それはマクロンの改革に対する深い否認の大きさに基づいている。そして、警察の暴力に対する不可欠な糾弾、および諸々の衝突に関する疑問が、いくつかの部門や地方の労組横断構造の中で今論争のひとつの核心になろうとしているとはいえ、この統一は今日まで多くの町や部門の中で決起の組織化の上では実のある支点となってきていた。明らかに、地方の労組横断構造の確立やストライキ労働者の全員総会への参加をこの間妨げたのは、全国労組間共闘やその中でのCFDTやUNSAの存在ではない。
 他方で労組間共闘は、自身でペースを設定することで、その拡張を助けることを目的に、連続ストライキに最も動員されている部門を基礎とした衝突を犠牲にして、連続ストライキに入る能力が最も小さな部門の可能性に自らの基礎を置いてきた。これは、文書化された合意ではなかったとしても、限定的な成功だった3月7日をめぐる実践では少なくとも事実だった。その時以来これは現実になっていない。
 当面、すべての視線は運動それ自身には外部になる日程に集中している。これは、4月5日の労組間共闘と首相の会談に関する場合だ。これは、彼女がぶつかっていると気づいている障害から抜け出そうと試みるボルヌによる小細工だ。
 「彼の多数派を拡大するように」とマクロンから求められた彼女は、唯一の理論的にあり得る連携相手である共和党は、連立政府の申し出ですらないものにはっきりした拒絶を示すつもりであることを分かっている。それゆえ彼女は、「社会的パートナー」という場で新しい課題を議論することに開かれていると見られようとしている。
 しかしこれは、年金問題は解決済みになり、労組指導部は全面的な敗北を受け入れる、ということを考えることにほかならない。これは今日、CFDTであってさえ問題にはならない。したがって、何の驚きもなく見せかけ以外の何ものにもならないだろう(会談はわずか1時間で決裂:訳者)。
 この間に露わなできごととして、政府は2024年から2030年の軍事計画法を討論する予定でいる。そしてその法は、軍事予算を、以前は2930億ユーロだったのに4130億ユーロまで引き上げることを計画している。1000億ユーロ以上の増額であり、その1000億ユーロは、社会予算にも年金への資金手当にも向かわないのだ。(2023年4月2日)(「インターナショナルビューポイント」2023年4月3日)

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