シリア 全く終わっていない悲劇に新たな危機が上乗せ

ジョセフ・ダヘル

地震被災者支援
には極度の落差
 2023年2月6日の地震はシリア内で、ほとんどがシリア政権の支配外にある地域の、少なくとも6千人の死をつくり出し、1万5千人近くを負傷させた。地震は主にイドリブ、アレッポ、ラタキアの諸州を(またより軽微な程度でハマを)襲った。
 この地震で少なくとも880万人が影響を受けた。国連は、3ヵ月間にわたる約500万人のシリア人に向けた緊急援助を提供するために3億9700万ドルを求める訴えを行った。
 2月25日現在、30ヵ国以上が総量数千トンと見積もられた量の形で、政権が支配する地域に人道援助物資を届けている。それと比べ、シリア政権の支配外にある地域にあるシリア北西部への国際人道援助は、そこが最も影響を受けた地域であるにもかかわらず極めて限定的かつ遅れている。最初の国連支援輸送車両隊は地震4日後の2月9日になってようやくハブ・アル・ハマ通過地点を通って入国した。国連のトラックは2月25日までで385台に達したものの、それは2022年に月当たり約600台と見積もられた地震以前に北西部に入ったトラックの数よりはるかに少ない。

人道援助支配を
狙うアサド政権
 地震を受けてシリア政府は、国すべてにおける人道援助の組織と配布を支配しようと、あるいは少なくとも影響下に置こうと試みることによって、その権力が中軸であることをあらためて主張しようともくろんだ。シリア政権の支配外にあるシリア北西部ではこの政策が、2ヵ所の国境通過点の再開放に対するダマスカスによる地震後1週間以上になる承認引き延ばしに反映された。これらの通過点はトルコが後押ししているシリア臨時政府(バブ・アル・サラメーとアル・ライ)が支配するもので、国連はここを通って3ヵ月間国境を越えて援助を届けることを許可されている。
 ダマスカスの当局はまた、「北部および東部シリア自治行政区」(AANES)からアレッポのシリア民主軍が確保している地域に燃料と医療チームを運ぶ援助トラック100台の車列を数日間止めることも行った。シリア政権は、その援助物資部分の半分を取り上げた後やっとその配送を受け入れただけだった。
 体制が支配している地域では、ダマスカスの当局者たちが、政府諸機構と体制のネットワークを通して人道援助管理を支配しようと追求してきた。そして現場レベルでの民衆的なまた自立的なイニシアチブをすべて妨げた。

新しい悲劇が
道具にされた
 シリア政権はさらに、当地域と国際的なレベルにおけるその政治的孤立逆転に向け努力しようとも試みた。シリアの当局者とかれらの連携相手は、西側の諸々の制裁凍結を訴える新たなキャンペーンに乗りだし、それらの制裁が緊急対応と人道的救援作戦を深刻に妨げてきた、と強調している。最も重要なことだが、ダマスカスは今、政治的かつ経済的な諸関係を引き上げる訴えを通して地域と世界の有力者との関係に関する正常化プロセスを前進させようとの継続的もくろみの中で、この新しい悲劇を道具にしている。
 ここでアラブ首長国連邦があらためて、アラブ諸国家とシリア間の関係を調和的にしようとの継続的もくろみの中で、これらの努力の遂行における主役になっている。これは、この地域における権威主義的安定性の一形態を強化しようとのもっと幅広い政策の一部でもある。そしてそれをかれらは、トルコ、イスラエル、サウジアラビアといった他の影響力をもつ諸国と共有している。とはいえ、そうした目標を達成する手段については違いもある。
 しかしながらシリア政権の正常化に関して成功は依然限定的だ。ダマスカスとの関係をこれまでに固めた地域内の国家はほんのわずかにすぎず、全体的には人道分野の協力に限定されている。
 シリアの、特にシリア政権の支配外地域の被災住民に対する緊急人道援助を最大化することが今の優先事項である中で、これらの地域には国際支援が欠けている。これらの地域には集中した国際支援がなく、インフラや装備もない。実際的な解決は、シリア政権の強化やその目標の達成を基礎とするのではなく、現地住民の利益を基礎とした潜在的可能性のある再建プロセスを組織し枠組みを作ることに見出されなければならない。同様に、国内の労働者階級と何百万人もの難民を統一しその利益となる民主的で進歩的なネットワークを再建する必要も依然存在している。(2023年3月3日、ソリダリテSよりIVが英訳)

▼筆者はシリア系スイス人の研究者で活動家。また「中東と北アフリカ社会主義者連合」の共同創設者。(「インターナショナルビューポイント」2023年4月6日)  

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