パキスタン 国は崩壊中

民衆の苦難の中で支配層が抗争
IMFの無慈悲さが危機に拍車

ファルーク・タリク

 パキスタンではつい先頃前首相のイムラン・カーンが逮捕され、カーン支持者のデモが広がるなど、政治の不安定が一挙に健在した。しかしその危機は、この国を襲った大洪水も含め、この逮捕以前に深まっていた。以下では現地のファルーク・タリク同志が、今回の逮捕事件以前に、危機の深さを具体的に明らかにしている。(「かけはし」編集部)

 パキスタンは現在、最悪の経済的、政治的危機のひとつを前にしつつある。政治的な危機は、国民議会(議会下院)のほぼ半数が辞任し、他方4つの州議会の内2つがそうでなければ今年10月に予定されていた選挙の1年前に解散させられた、という事実でもっとも良く示されている。

国を貫く深い
分裂が進行中


 パンジャブ州とカイバル―パクトゥンクワ州の2つの州議会は、前首相のイムラン・カーンによって解散させられた。彼の党であるパキスタン正義党(PTI)はこれらの州議会で過半数を確保していた。彼は、この2州議会解散が連邦政府に前倒し総選挙告知を強いるだろう、と期待した。
 この2州の暫定管理政府は、そうでなければ議会解散の90日以内が義務の選挙告示を拒否した。この遅れはパキスタン憲法の違反になる。選挙遅延の口実は資金不足とされている。しかし民衆の見方は次のようなこと、つまり軍による操作、ということだ。軍は、選挙におけるPTIの勝利を恐れているのだ。皮肉なことだが軍は2018年には、イムラン・カーンに勝利を保証するための選挙不正で非難されたのだった。
 司法レベルでも大きな政治的策謀が進行中だ。最高裁とラホール高裁の首席判事たちはイムラン・カーンの支持者たちだ。これは、いくつかの政治的事件で判事たちが下した判決によって明らかにされてきた。
 毎回PTIは裁判所を動かし、誰もが前もって判決を知っている。たとえば、イムラン・カーンを支持していることで知られている3人の判事で構成されたひとつの最高裁の法廷が、今年5月4日にパンジャブ州で選挙を行うよう4月4日に命じた。しかしながらこの3人の法廷は、当初9人の判事を含んでいた。イムラン・カーンを支持していない者たちは策謀によって排除されたのだ。最高裁の判事たちは今矛盾した声明を出し続けている。司法はこの国のあらゆる他の機関と同じく分裂している。
 連邦政府とパンジャブの暫定管理政府は5月14日の選挙に関する最高裁決定を拒否した。最高裁と連邦政府間のこの公然とした紛争は政治的危機を今悪化させている。
 州の諸機関は親PTIと親ムスリム同盟の支持者で一杯になっている。シャリフ門閥から支配されているムスリム同盟(PML)は現在、パキスタン人民党(ブット門閥の政党)との連立で支配を続けている。
 最高裁は、法定侮辱罪によって現政権を取り除く権限をもっている。しかしながら問題は、崩壊中のパキスタンを誰が引き継ぐか、だ。

露骨な軍支配
IMFの圧力


 軍による乗っ取りという妖怪がしばしば議論されている。パキスタンの騒々しい政治の歴史は、1947年の独立以来、軍による直接支配の32年で刻まれている。軍は権力の座にいないときでも、陰から支配している。現在軍の既成エリートは「中立」を装っている。
 事実として上記のように、イムラン・カーンを権力に到達させた2018年の総選挙は、彼に有利なように軍の既成エリートによって偽装された。軍の既成エリートが2022年はじめにイムラン・カーンへの支持を撤回した時、彼の政府は崩壊した。
 イムラン・カーンは、彼の絶えず変化する物語りの中で、最初は米国を、次に軍の既成エリートと他の多くを責めることで彼の転落に対するスケープゴートを見つけ出そうとした。彼は「Uターン」の男と笑いものにされている。彼のあらゆる新談話は前のものと矛盾するのだ。
 イムラン・カーンは、ムスリム同盟を率いている(彼の兄であり3度首相になったナワズ・シャリフが2018年に政治から追放された後)シャーバズ・シャリフの連立政府で置き換えられた。シャリフがIMFの貸し付け条件を実行しようと挑んだ時、イムラン・カーンは消極的支持を得ることで人気を取り戻した。
 IMFはパキスタンの大衆内部で極めて不人気になっている。前例のない価格高騰が政府にとって告げられる時はいつも、IMFが理由として引き合いに出された。PML主導の連立政府によるIMFの条件を正当化する唯一の口実は、「われわれがIMFの条件を満たさなければパキスタンは破産することになる」、というものだ。しかし大衆はすでに破産している以上、国家も真の意味でそうなるが、この点で公式表明は遅らされている。
 容赦のない政治的危機と組になって、宗教的原理主義のあらたな上げ潮が見えるものになっている。たとえば、テレーク・タリバン・パキスタン(TTP)によるテロ攻撃が多方面で増大してきた。TTPはアフガニスタンのタリバンのいわば分家だ。この勢力は警察と軍の諸部隊を攻撃中だ。この部分はまた、非常な助けになるタリバン政府の下でアフガニスタン内に安全な逃げ場を確保している。

崩壊する経済と
民衆諸層の困窮


 イムラン・カーンは彼の権力の最後の数日に、明らかに和平対話を行う努力として、数百人の逮捕されたパキスタン人タリバンを釈放した。確かに、タリバン・カーンとして知られている彼と彼の軍の後援者はタリバンに共感している。今や、治安部隊はこの戦略の価格を払っている最中だ。
 経済的な危機は政治的な危機よりもはるかに厳しい。連立政府は、原油、ガス、電力、一般売上税、またあらゆる他の消費財の価格を引き上げることで、IMFの反民衆的貸し付け条件を実行中だ。
 パキスタンルピーは米ドルとの関係でほぼ毎日価値を失い続けている。4月7日それは、1年前の150ルピーから290ルピー以上に上昇中だ。
 カラチ港には、空になるのを待って横たわっている輸入商品で一杯のコンテナーが数百とある。政府は、これらの輸入品に対しドルで支払われるべき使用料の清算を拒否してきた。
 過去6ヵ月間、ほぼすべての食用品と日常的な消費財への一連の間接税が出現してきた。また民衆には、いくつかの小額の賦課金が強要され、時にいかなる前もっての注意もなしに公表された。
 パキスタンの人びとは、賃金引き上げのない、あるいはいかなる補償もない、巨額の経済的重荷の下にまさに崩壊中だ。
 パキスタンは今、前イムラン・カーン政府によって2019年に交渉された60億ドルの借り入れの内20億ドルを分割で引き出すために、最善を尽くしてIMFの条件を満たそうと挑んでいる最中だ。これは、IMFからパキスタンが借り入れを得た23回目だ。
 パキスタンの対外債務利払いは、2022年から2023年にかけた最初の2四半期に70%も跳ね上がった。パキスタンはこの期間に対外債務利払いとして102億千万米ドルを支払った。しかもIMFは、この気候惨禍を理由に債務返済を凍結する代わりに、前年以上に返済するようその圧力を引き上げた。
 外貨準備は歴史的な低さになっている。パキスタンの中央銀行の外国為替取引の準備は、直近の対外債務返済のおかげで42億ドルにまで減少した。
 パキスタンは、IMFを喜ばせ、条件を満たすために、利率を歴史的な21%にまで引き上げた。卸売物価のインフレは、1973年以後では最高の、37・5%という前例のない水準にある。結果は、労働者階級と中間階級のパキスタン人にとっての本物の惨事だ。
 パキスタンで不平等は歴史的な高さになっている。規制解体、私有化、自由化、さらに低い累進課税が極度の不平等に力を貸している。ある調査によれば、最富裕層の平均所得は最貧困層平均の16倍以上だ。
 オクスファムの報告によれば、この国の最上位1%が保持している富は、住民の底辺70%の富を超えている。
 パキスタン経済は、2023年に終わる現会計年度に0・4%しか成長しないと見られている。どのような測定から見ても、パキスタンの経済状態は他の南アジアとの比較で貧弱だ。
 人びとの中にはものごとが今後改善するというような期待は全くない。パキスタンの支配的エリートは、無料の教育や公衆衛生や雇用といった大衆の基本的な問題を悲惨なほど解決できずにきた。目下の必要は、オルタナティブな親民衆的政治的かつ経済的課題設定だ。進歩的勢力は弱体だが、いくつかの労働者地域でこの溝を埋めようと今挑んでいる。(「インターナショナルビューポイント」2023年4月8日) 

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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