トルコ 希望の難破
エルドアン陣営内部の勢力変化に表現された労働者民衆の不満
反政府派は勝利できず、体制崩壊もなく
ウラズ・アイディン
トルコでは5月28日の第2回投票で現職のエルドアン大統領があらためて大統領に選出され、彼の独裁体制があと5年続くことになった。以下は、現地の同志および現地に滞在したフランスNPAの同志が、第一回投票直後に書いた選挙報告。現地の同志の報告は、大統領選そのものというよりも、同時に行われた議会選に表現されたトルコ内政治諸勢力の動向に焦点が当てられ、左翼の労働者政党が議会参入を果たしたことも論じられている。(「かけはし」編集部)
2023年5月14日の大統領選で現大統領のエルドアンが首位になった。それは、彼の専制がそのまま残るか否かを決める一種の国民投票を表現した。この高い投票率(88・9%)の選挙で、20年の間権力の座にあったAKP(公正発展党)指導者は49・5%で、44・8%しか獲得できなかった野党候補者のケメル・クルチダルオールをリードしている。反政府派からはエルドアンの連携勢力を有利にする多くの不正行為が糾弾されてきた。第2回投票は5月28日と予想されている。エルドアンが勝利すれば、彼の民族主義とイスラム主義の、そして独裁的な体制があと5年続くことになる。
議会選では反動陣営が過半数に
レセプ・タイイップ・エルドアンを軸に形成されたブロックはおそらく、この国の政治史上最も反動的な連合のひとつだ。すでに2015年以来AKPは、極右の民族主義者行動党(MHP)と連携してきた。エルドアンはこの選挙に向け、トルコにおける政治的イスラム主義の歴史的な指導者であるネジメッティン・エルバカンの息子のファティ・エルバカンが率いるイスラム主義政党、イエニデン・レファー(新福祉党)を彼のブロックに引き入れた。もうひとつの、極右のもっとイスラム的政党である大連合党(BBP)もまたこの連合の一部だ。このブロック内にはまた、HUDA―PAR(自由運動党)もいた。この勢力は、主にクルド地域内に設立されたトルコにおけるヒズボラの合法政党であり、1990年代には、PKK(クルド労働者党)に向けられたトゥルキッシュ・グラディオ(冷戦期に米国とNATOが展開した謀略行動のグラディオ作戦のトルコ部分:訳者)によって軍事部隊として利用され、多くの殺戮を行った。
同時に行われた議会選では、エルドアンの連合が得票率49・4%で322議席(定数600中)を獲得した。この票数は彼が344議席獲得した2018年よりも低くなっているとしても、エルドアンは依然、議会で諸法案を通過させたり阻止したりすることを可能にする過半数を確保している。AKPが得た結果もまた低下したが、しかしMHPは、6―7%まで落ちると見られていたが、10%に達することで2018年レベルまでほぼ回復した。こうして、不満の表明はブロックの変更としてではなく、エルドアン自身の陣営内部で行われたように見える。
反エルドアン国民連合の敗北
先のブロックに立ち向かったのが国民連合であり、その主な政党が中道左翼の共和人民党だった(CHP)。このブロック内の他の「大政党」はメラル・アクシュナーの優良党(IYIP)であり、これは、MHPよりももっと世俗的な民族主義を代表しつつ、しかし自身を中道右翼の方向に位置づけ直そうとしている、極右からの分裂勢力だ。
さらにこの連合の一部の2政党では、指導者がAKP内の著名者だった経歴がある政治家、具体的には前首相のアフメト・ダウトオールと前経済相のアリ・ババカンだ。最後にサアデト・パルティシ(SP)だがそれは、そこからAKPが現れたイスラム主義の歴史的潮流を起源とし、またもうひとつの小さな右翼政党と同様このブロックに参加している。
この野党連合は政治的には、議会制(国民投票の後2017年にエルドアンによって廃止された)への復帰を、また一定の「社会的な」相貌を備えた新自由主義を回復させることによる経済回復を擁護している。野党ブロックは、得票率35・4%で213議席を獲得し、つまり前回比で24議席増となった。その候補者がCHPリストの下に立候補したババカンとダヴトオールの政党、またSPは、CHPの結果に3%貢献したように見える。これらの右翼政党は40議席を獲得したが、23議席増だった。このリスト上で右翼候補者向けにとって置かれた有望な場は、CHPの基盤内部での論争に火をつけている。
「和解」の訴えは多数とらえず
大統領選に対し、エルドアンに対するこのブロックの候補者はCHP指導者のケメル・クルチダルオールだった。専制体制における大統領選の重要性を前提にすれば、クルチダルオールの勝利は、この体制の変革にとって決定的だった。後者は、住民の大きな部分を包含するキャンペーンを率いた。彼がアレヴィ・クルド(伝統的なスンニ主義によって異端と見られている少数派のイスラム潮流)であるという事実は、諸々の論争を、彼は反政府派を統一できないのではとの多くの考えを引き起こした。
しかしながらCHP指導者は、エルドアンの分極化諸政策を前に、彼のアレヴィニズムを誇らしく宣言し、トルコの住民の和解を求めるキャンペーンを率いてきた。ところが、「和解」への切望と法の支配や議会の支配への回帰は、トルコ社会の中で多数ではないように見えると思われる。
第3の候補者であるシアン・オアンは、ウルトラ民族主義者でMHP活動家出身だが、5・1%の得票率となった。彼の小さな民族主義と反クルドのブロックは今、第2回投票に向けて決定的な位置を占めている。ちなみにこのブロックは、クルチダルオールを支持することを拒否し、その理由は特に後者が親クルドのHDP党からも支持を受けたということだった。
彼がエルドアン支持を決めれば後者の勝利は不可避になる。彼がクルチダルオールへの投票を呼び掛ければ、何ごとも保証されない。理由は、彼が彼の支持者をひとまとめにうまく方向づけるのは難しく見える、ということだ。
彼の選択は交渉次第だろうが、そこでは、勝利の暁に各々のブロックがその連携者に渡すと約束する地位が討論されることになる。これは反政府派を、オアンを得心させるためにより民族主義的な(そして反移民の)主張を採用するよう導く可能性がある。しかしながらこれは、オアンの基盤がもたらすことができる最大限以上になる10%近くの得票率に当たるクルドの有権者を遠ざける作用を生むだろう。
もうひとつの反政府連合は「労働と自由」であり、HDP(クルド運動起源の左翼政党の人民民主主義党)、TIP(第4インターナショナルのわが同志たちがそこで活動しているトルコ労働者党)、そして急進左翼の他の4組織から構成されている。この連合は、大統領選に際してクルチダルオールを支持した。HDPは大統領選に際し、党が非合法化されるという可能性を前提に、その「代わりの政党」として緑左翼党(YSP)に参加した。
TIPは、HDPが大きな多数を確保していた都市(トルコ内クルディスタン)では、またHDPやCHPが議員を失う危険があったところでは立候補しなかった。したがってこの党は81の内52の都市で名簿を提出した。TIPが連合の中でしかしいくつかの都市では自立した名簿で立候補したいと思ったという事実は、多くの論争を引き起こした主題だが、今後われわれはそこに戻るつもりだ。
TIP名簿にはまた、トロツキストの2潮流、労働者民主党(IDP)と国際主義労働者連帯連合(UID―DER)出身の候補者も含まれていた。
HDP―YSPはこの選挙で得票率8・8%、つまり前回比で3%減になった。首尾一貫した分析を行うにはまだ早過ぎるが、しかし、大統領選に対するクルチダルオールへの支持がCHP支持として理解され、それゆえ票がこの党に回されることになったように見える。
他方で10%という敷居(議会参入のための)が、この党に投票する、そして議会でのその代表を可能にするという動機では、その重要な源だった。この敷居が現在7%(HDPは楽に超えると思われた敷居)であるという事実はもまた間違いなく重い意味をもち、この前はHDPに票を投じた左翼支持者が、CHPへの投票に、また部分的にTIPへの投票に戻った。
最後にわれわれは、特にクルド民衆内部で、一定のより保守的かつ民族主義的な部分がトルコ人極左との連携に反対であることを知っている。これもまた結果に一定の作用を及ぼしたに違いない。
労働者党100万票で議会参入
この悪夢のような光景の中では、小さな(しかし意味のある)慰めはTIPが達成した結果だ。1965年以後では初めて、労働者階級の大義に一体感を抱いている社会主義的で革命的な政党が自身の票に基づいて(別の政党名簿の下で選出されることによらず)何とか議会に参入することができた。TIPは、国の3分の2だけで立候補し、得票率1・7%、それゆえおそらく全体では2%を上回り、100万票を獲得した。
次のことを心にとどめよう。つまり、その票の一部、おそらく約半分は前はHDPに投票した支持者からの票であり、しかし残りはCHPの左派から、しかしまた右翼に投票した有権者からも来ている、ということだ。そして最後の者は、力あるものをものともせずに言葉を惜しまず、労働者の権利を前進させる戦闘的な左翼を発見するに至った(特にTIPの被選出代表を通じて)者たち、ということもだ。
党はその党員数を1月半ば以来4倍化し、特に地震で深刻な被害を受けたハタイ市(アンティオク)との連帯への動員を理由に、4ヵ月で1万人から4万人に増やした。こうして党は4人の下院議員を獲得したが、内3人は現職だ。
ハタイ市の議員として選出された4人目のカン・アタライは、この国の闘争すべてに取り組んできた、そして現在1年以上の間裁判前拘留の状態にある高名な弁護士であり、2013年のゲジ反乱(イスタンブールのマクシム広場近くにある緑地の再開発に反対した大規模な民衆決起:訳者)の主なスポークスパーソンだった。今後の数日に判決が下されないならばカンは、大統領選第2回投票の結果がどうなろうと、TIPとHDPの同志と共に搾取された者たちと抑圧された者たちの声を表すための議会の彼の場を占めるため、刑務所の外に出ることになる。(2023年5月17日)
▼筆者は、第4インターナショナルトルコ支部の機関誌、イエニヨルの編集者。また2016年のクーデター未遂後に宣言された非常事態という流れの中で、クルド民衆との和平を支持する請願に署名したことで解雇された多数の学者のひとり。(「インターナショナルビューポイント」2023年5月18日)
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