フランス 方向性空白の社会運動
社会の要求表現する統一枠組みを
草の根の主導性強化が必要
レオン・クレミュー
社会的決起には4月半ばから、ある種のペースの変化が起きてきた。運動は今、マクロンと彼の政府に対しあまり圧力はかけていない。しかし年金改革への敵意は、またマクロンと彼の政府への敵意はほとんど消えていず、あらゆる世論調査は、進む一方の支持率下落を示し、さらに、マクロンが彼の任期の2年目に入ったばかりでありながら、住民の中でも議員の中でも彼の政府を支持する過半数を見つけ出すことができずにいる中で、任期の終わりの空気を示している。
「ズボイルの100日間」
マクロンは、憲法評議会の白紙委任を獲得し、また国民投票共同イニシアチブ(RIP)の進展が行使する可能性もあった圧力を回避した後、4月14日に彼の法を公布できた。街頭の決起は4月の1ヵ月中、またそれからは地方の集会の形で、特に閣僚やマクロン自身による町の訪問に際して続いた。
禁令、また警察の暴力の挑発や数々の事例も、鍋たたきのコンサート、そしてこれらの訪問に合わせたデモ隊数百人の出現も止めることはなかった。まさにそれは、ダルマナン内相に次のような行動をとらせる程のものだった。つまり彼は5月6日に、フランス北部で市民センター落成式を行うために出かけようとしていることをむしろ否定しつつ、結局はこそこそと現れたのだ。このすべては、鍋たたきのコンサートにぶつかることを迫られないために、というものだった。
労組間共闘は、5月1日を前例のない統一したイニシアチブによる行動にすると決定した。事実それは、CGTによれば230万人のデモ参加、全国で300のデモという形で、2002年の5月1日を別にすれば、この30年で抜きん出て最も大規模なメーデーだった。ちなみに2002年の場合は、シラク対ルペンの大統領選第2回投票を前にして行われ、そのデモは、街頭に200万人以上を集め反ファシストの波に変えられたのだった。
労組間共闘の統一を特徴とした最後のメーデーは、金融危機のど真ん中にあった2009年であり、それは警察発表で46万5千人を動員しただけだったが、それに対し今年は同じ情報源でも参加人数は78万2千人だった。したがってこのメーデーは、決起の相当な再起を意味し、法の公布にもかかわらず、またRIPに対する拒絶や連続ストライキ運動の不在にもかかわらず、3月23・28日の大デモに匹敵するレベルへの回帰だった。
この勢いはあらゆる世論調査によっても記録されている。それは、改革反対の決起が続いて欲しいと思っている住民が60%にのぼることを示している。
それゆえ2023年のメーデーは、デモの中の活気づける戦闘性とページをめくらない決意によって、レースが終わった後に観客にあいさつを送る1周とは全く別物だった。これは、ソリデール連合が主導しソーシャルネットワーク上で引き継がれているような、反政府諸行動と鍋たたきコンサートのあらゆるイニシアチブ間の全国的競合である、「ズボイルの100日間」(注)と共に進んでいる。ちなみにこの100日は、マクロンが4月17日の演説で行った約束、「宥和政策の100日、行動し危機から抜け出すための100日」として自らに課した約束、への反対を表している。
労組戦線破壊狙う必死の策動
たとえマクロンが宥和政策について発言しているとしても、メーデーで表現された政府は、デモを敵視した警察の容赦なさだった。それはあたかも、かれらが催涙ガスの雲が集会の規模を隠すことができると考えたかのようだった。街頭の医師たちは、デモ参加者や通りすがりの人の負傷者が590人になったと数えたが、そこには、救急隊に渡すことを迫られた118人の重症者が含まれていた。
しかしあらゆるメディア媒体は、「破壊分子の暴力」と警官の負傷者を見出しにし糾弾するために結束し、警察の暴力とデモがもつ社会的重要性の両者を隠そうとした。
マクロンと彼の政府は、丁度今まずい立場でこの情勢から現れようとしている。経済相であるブルーノ・ルメールがECB(欧州中央銀行)と格付け機関に堅実な政策と安定した政府を見せようと努力している中で、みっつの主な機関のひとつであるフィッチは(ムーディーズとスタンダード・アンド・プアーズと並んで)4月末、フランスの格付けをAAから、ドイツから2段下のAAマイナスに引き下げたばかりだ。
自由主義資本主義の器具としてこれらの機関は、投資家や政府債券の買い手がもってよい信用を評価する。フィッチは「高い水準の財政赤字と公的債務、および財政強化政策に有害な社会的空気」を認めている。しかしながら、年金改革はまさに財政管理の厳格さに対する保証として提出されたのだ! したがってこの恩知らずは疑いなくフランス政府債券に対する利子率上昇に導くだろう。
情勢を支配下にとどめることに対するマクロンの無能力でやけどさせられたMEDEF(雇用主組織)は、価値の共有、テレワーク、あるいは職業訓練についての対話を、また「価値の共有」に関する、つまり利益の分かち合いと参加の組み合わせに重きを置いて賃上げを排除するあらゆる仕組みに関し、合意をCFDTやCFTCから得ることを、彼が何とかしてうまく行うよう、声を大に伝えている。
エリザベット・ボルヌ政府は、挑戦を始め、3ヵ月の間労組指導部を軽視してきた後になって、かれらに開かれているとのイメージを自身に与えたいと思っている。この政府は5月始め、実行されるべきあらゆる構想を討論するために労組への招待状を発送中だ、と公表した。
それは、あらゆる社会的方策に対する拒否をうまく隠すことも全くないシナリオだ。公衆衛生、教育、移民などあらゆる分野で、政府から知らされているすべてのことは、治安方策の強硬化、社会予算の制限の方向で進んでいるのだ。
ボルヌは労組間共闘を分断し、「代表的でない」労組(ソリデール、FSU、UNSA)を切り捨て、他の5労組(CFDT、CGT、労働者の力、CFE―CGC、CFTC)に、「正確な議題なし」に別個に迎え入れる形で5月16・17日の会合日程を提案した。政府の目標は明白に、労組戦線を壊すこと、そして政府の社会的イメージを回復すると思われる交渉開始があるかどうかを知ることだ。
議会への依存から脱却が不可欠
CGT、CFDT、FO、CFTC、そしてCGCはしたがって各自別々にマティニョン(首相公邸:訳者)へ向かうことになる。あらゆることにもかかわらず、共闘が内包する脆さを示す形でそれらは今も、退職年齢を64歳まで引き上げる法の撤回を求める要求の再確認以外に、諸要求の共通政綱を軸に行動しているわけではないのだ。
その上で全国労組間共闘は6月6日の新しい行動日を今呼びかけている。この日の明白な目的は、無所属の中道派グループであるLIOTグループが6月8日に計画している新たな議会のイニシアチブを支援することだ。このグループはすでに、3月20日の不信任動議でイニシアチブを発揮していた。
LIOTがもつ議会の位置を使ったこのイニシアチブは、法的な退職年齢の64歳までの後ろ倒しを無効にするひとつの法令からなっている。力関係を前提とすれば、この計画を支持する過半数はあり得ないことではなく、これは明白に、政府に対する新たな平手打ちになり、次の数日また数週間の紛糾の保証となると思われる。
しかし政府は、この票決を台無しにするために上院の共和党の半同盟派を、また下院に戻る前の共同同数委員会がもつ票決阻止の役割を当てにできると思われる。確かにそのような票決という仮説は存在する。しかし問題の本質は、全国共闘がこれからの数週間また数ヵ月であっても、2、3週間前RIPの実施に希望がかけられたと同じやり方で、この仮説的な票決を唯一の展望にしてはならない、ということだ。
政治的結集への運動の転換を
事実としてこの共闘は今、社会運動にいかなる展望も与えていない。それでも、この運動の活力、深さ、そしてその粘り強さは、共闘によって進展させられた社会的要求からなる統一政綱をあり得るものにしなければならない。そしてその諸要求は、年金問題を超えて、中でも生活費と賃金の問題で、公衆衛生や教育や公共サービスで、決起の土台となってきた。
残念なことに、1月以来運動にリズムを与えてきた統一した共闘のメダルの裏側は、それら自身のリズムと内容を与えつつも、自律的な地方や部門間協力がもつ勢いの弱さだった。これが、エネルギー、化学、港湾と埠頭、道路のCGT諸労組が主に行ったことであり、それはまたフランス国鉄での共闘が3月に行ったことだ。
今日地方活動家のエネルギーは、鍋たたきコンサートと閣僚に対する歓迎委員会に現れている。しかしこれは、消耗を見せていない社会運動に闘いの全体的な展望を提供できると思われる新たな推進力を与えるには十分でない。
以前からあるものの必然的な結論だが他の問題は、64歳退職年齢の延長として、資本主義的新自由主義と対決して闘うために、諸要求に関する論争を導くためにこの強力な社会運動に依拠する能力をNUPES(新人民連合・環境・社会)とその諸部分には欠けているということだ。NUPESは今、論争し、行動し、マクロンと極右に対するオルタナティブを提起できるひとつの勢力を築き上げるための、統一した枠組みの中で労組と運動の政治的活動家が現場で団結することを提案するために、現在の危機を利用しようとはしていない。
残念なことだが、職場と現場レベルにおける自己組織化の低いレベルもまた、1月以来運動の品質証明となっていたものだ。われわれは遺憾なことだが、この間の数ヵ月における政治勢力と労組勢力間の統一した論争を求めるイニシアチブが、少ない数しかなかったことを認めなければならない。
今日NUPESの諸部分は、運動の延長として統一した地域のイニシアチブを論争する代わりに、2024年の次期EU議会選を見つめている。そしてそこでは、不服従のフランス以外の諸部分(社会党、フランス共産党、EELV〈ヨーロッパ・エコロジー=緑の党〉)は、左翼における力関係を再編するための「ケーキの切り分け直し」を期待しているのだ。
しかしながら急を要することは、社会的怒りが民衆諸階級内部に十分また本当に存在している中で、マクロンの資本主義諸政策と闘うために統一した運動に道を開くことでなければならないのだ。1年前NUPESは総選挙の中で、左翼として戦場を占拠することに成功した。しかしその時から、この連合の議員諸々は社会運動を議会に引き継ぐ要素になってきたとはいえ、統一し戦闘的な運動の推進力は地域的にまた全国的に全くつくり出されてこなかった。これは、皮肉だが、NUPESがひとつの政治勢力としてこの社会運動から今いかなる政治的利益も引き出していない理由を説明する要素のひとつだ。他方で極右のRN(国民運動)は、右翼の危機と右翼の棄権層諸部分の分極化の上に今自身を建設中だ。
こうしてわれわれは、労組レベルと政治レベル双方で、マクロンに抵抗する社会的かつ民衆的運動が真空の中に吊されているひとつの時期にいる。それゆえこれからの数週間に急を要することは、社会的、政治的空間を占拠し、それによりこの数ヵ月共に闘ってきた活動家たちが結集し行動できるようにすることだ。(2023年5月16日)
(注)「混乱」や「カオス」を意味するアラビア語(本紙5月15日号7面の注も参照)。(「インターナショナルビューポイント」2023年5月19日)
The KAKEHASHI
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社