英国ストライキ運動が提起する課題

官僚支配の労組からの脱却を

テリー・コンウェイ

 われわれは、生活水準に対する昨年夏以来の大規模な攻撃に対抗する、この数十年では最も持続的な争議行動を経験してきた。
 この波は、圧倒的に公務部門で、あるいは元公務部門で、労働組合の全範囲の組合員、何千人という労働者個人を巻き込んできた。他のところでも、特にコベントリーのアマゾン労働者の中で、いくつかの限定された活動もあった。

集団行動への
積極的な成果


 これまでに起きたことに関しては多くの積極的な側面がある。ストライキ行動は、多くの若年労働者を初めて行動に引き入れた。この人々は労働組合を、集団行動の場というよりもむしろ、廉価な保険への通路として売り込まれてきた人びとなのだ。そして、資本主義とは実際にどのように機能しているかに関する、人びとに日々売り込まれているその神話を破壊することに関する教育の大鍋を生み出す点で、かれらの雇用主たちとの紛争と同様なものはひとつもないのだ。
 主流メディアと政治家からの激しい攻撃にもかかわらず、まさに多くの労働者が食べるか暖まるか選ぶことを迫られるのを阻止するための、まともな賃上げに対するさまざまな労組の要求は、公衆からの強力な支持で迎えられた。紛争の多くに中心的だった労働条件や協約に関する攻撃も、特に株主や経営者が労働者の背後ではぎ取った高まる一方の利益を祝い続けている時、また不人気だ。
 他の部門の労働者階級が、労組組織がない職場の労働者であろうが、福祉を頼りにしている者であろうが、退職労働者であろうが、または学生であろうが、今ストライキ中の者たちが事実上われわれすべての者のために闘っていると理解できる時、これには何の驚きもない。あらゆる人びとが今闘争中の他の友人や家族メンバーを知っている。そしてそこには、しばらく前には人びとが予測できた、とは思われないような職業や職場におけることが含まれている。

下部の行動を
絞め殺す動き


 食糧に対する権利や住宅のようなより幅広い課題をめぐる闘いとストライキ連帯を結びつける潜在力をもった、非常に人気を博した「もうたくさんだ」キャンペーンの発進は、昨年夏の終わりまでは非常に前向きに見えた。しかしながらこのイニシアチブは、その当初の発起人たちによって誕生時点で事実上絞め殺された。かれらは、一連の印象深い集会と巨大なメーリングリストを組織した後、現場の支持者が互いに連絡が取れるようになり土俵をひろげることを可能にすることを、何ひとつ行わなかったのだ。
 そして、何を行い行わないかを官僚が厳しく統制し続けようとしてきたところは、「もうたくさんだ」それだけではない。紛争それ自身は全体として、スチュワード(ショップスチュワード、かつて英国労組運動の戦闘性を支えてきた職場代表委員:訳者)や職場代表が行動の主体としてよりもむしろ演壇で指導者の後ろに立つ部隊として扱われる形で、極めて上意下達的に管理されてきた。

労働党が続けた
犯罪的抑制行為


 スターマー下の労働党がストライキを支えることができなかったという事実もまた、運動強化に何の役にも立たなかった。少数の左派選挙区労働党は存在していた。そしてその旗印は、同じく少数の左派議員と共にこの間に行われた大デモやいくつかの現場のピケットラインに登場した。また疑いなく多くの党員個人はストライキに現れ、支援活動に関わった。しかしこれも、闘争中の労働者に対する影の内閣メンバーの支援を労働党指導部が禁じた、という事実で完全に覆い隠されている。これは、まさに数多いスターマーの表明と一体となって、彼のただひとつの懸念は民衆の支持を集めることではなく、彼自身の位置を資本にとっての安全な片割れとしてはっきり定めることだ、ということを鮮明にしている。
 そしてこのどれひとつとして、以下のような長期的な要素で助けられていないものはない。たとえば、英国の労組組織は1984―5年の炭鉱ストライキの大敗北から、またその後に続いた脱工業化の波からまだ癒えていないという事実だ。ちなみにその波は、諸労組とそのショップ・スチュワードのネットワークという職場組織を志気阻喪させ空洞化したままに残した。

指導戦略の不在
で失速の危険性


 英国は欧州で最も反動的でその点で先に進んだ労働法を保持している――最低サービス法(主に公共サービス部門でストライキ中の労働者に最低限のサービス提供を義務づける法案、昨年以来のストライキ運動抑え込みを狙って現在議会で審議中:訳者)登場以前ですら――という事実、もまた諸労組を完全に縛り付けている。英国の経済的で社会的な危機の深さは、昨年夏多くの労組が行動に向け支持票を得るには十分だった。これらすべての要素を条件にわれわれは今、いくつかの行動が立ち往生しかけているという段階に、また他の行動が敗北になる危険にあるという段階に達しようとしている。
 反動的な法令が権限(ストライキ行動への:訳者)が6ヵ月しか続かないことを示している中で、いくつかの労組は再投票を迫られた。現に鉄道労組によって再投票が成功したところでさえも、指導部からの何らかの勝利に向けた明確な戦略提示の欠落は、士気阻喪が広がる可能性もあることを意味している。最大かつ歴史的に戦闘的な部分のひとつである市民サービス労組のPCS(公共・民間サービス労組)では、労働・年金部局が行動延長に向けた最低基準を取り逃したばかりだ。
 公衆衛生労働者の行動は今分散している。確かな事実として、王立看護学院(RCN)は、争議行動を一度も行ったことがなかった組織から、そのメンバーが指導部の勧告に反対して5%賃上げという政府の提案――現下のインフレ以下の提案――を拒否した組織へと転換を遂げた。書記長のパット・クレンはRCN大会準備の中で、クリスマス中のストライキ作戦を取り除けるのはふた桁提案のみ、と語った。しかしRCNは、あらためてストライキを可能にする前にもう1回の投票が必要なのだ。
 その間に、さまざまな職階を横断して公衆衛生労働者を一定数組織しているふたつの他の大労組であるユニゾンとGMB(多数の部門を横断して組織する一般労組:訳者)は、政府の提案を受け入れた。しかしユナイトの労組員はそれを拒否した。さらにこの間見習い医師による行動もあった。2015/6年におけるこの部分の以前の紛争は当時の指導部によって裏切られ、指導部はもっと決意の強いチームで置き換えられていた。
 こうした流れの中で諸労組を横断して活動家を結集している「ノーを言う公衆衛生労働者」キャンペーンの発展は、前進に向けた小さいながら重要な歩みだ。しかし、産業労働運動と争議に対する草の根の統制を支持して議論することに関し、はるかにもっと幅広い討論が行われる必要がある。
 NHS(国民保健サービス、全住民を対象に税金を財源とする無料医療サービス:訳者:)における闘争と教育における闘争の場合、賃上げ及びもっと全般的にサービス向けの資金問題が鍵になる。この脈絡の中で、現にある弱点は、ほとんどの労組指導部が全国教育労組を除いてこの問題を中心に取り上げようとしていない、という事実にある。

郵便労働者の
前に最悪事態


 行動を継続してきた労働者の中で最悪な状況は、郵便労働者の前にあるものだ。これらの労働者は2022年に18日間のストライキを行った。しかし今左翼と言われている労組指導部は、完全な大惨事である取引の受け入れを勧告中だ。今後それは屋外労働の量を相当程度引き上げ、病休をカットし、仕事以外の責任に対する気遣いを人びとに強要するだろう。そしてそのすべては、3年にわたる10%賃上げと引き換えにしたものだ。
 争議の中で経営者によって少なくとも400人の活動家が停職にされるか解雇された。そして労組は、これは労組員が取引に署名する場合「再調査される」だろう、とまさに今主張している。郵便労働者は歴史的に、現場レベルで労働条件や協約の改悪や管理者のいじめを阻止するための、山猫的行動――業務放棄、あるいは少なくともそうするという信用に足る脅しを行う――の誇り高い伝統をもっていた。しかし私有化のこの10年は、そのような戦闘性が依拠した職場の強さの深刻な掘り崩しをつくり出してきた。
 しかしCWU(通信労組:訳者)指導部はこの争議中ずっと問題のあるアプローチを採用してきた。そこではメディアのインタビューにおけるかれらの焦点の多くは、「このビジネス」が主席役員のシモン・トンプソンによってどれほどまずく経営され続けたか、に関するものだった。全く疑うことができないこととして、トンプソンは憎まれたいじめっ子だった。そして労働者たちは彼が身を引くよう強いられた時大いに歓迎した。しかし、トンプソン退陣による他の交渉者が方針を少しでも変えた、という兆候は全くない。昨年12月に押しつけられた迫害と職務改訂――しばしば達成不可能な配達目標を含む――はそのままだ。

下部の主導性
支援に全力を


 この腐った取引が承認されるならば、もっと多くを求める経営がすぐさま戻るだろう。これこそが、「ノー投票と言う郵便労働者」グループの発進が非常な歓迎に値する1歩である理由だ。しかしそれは、こうした変更を打ち破るためには真剣な行動のエスカレーションが必要になると思われることがはっきりしている以上、そうするために難しい活動を伴う1歩であり、この取引受諾勧告への反対投票を行った郵便労働者現執行役員がひとりもいなかった時、むしろ起こりそうにないものなのだ。
 そして中でも、この争議を指揮してきた書記長のやり方に対する、また高等教育の雇用主たちの多くが労働者に今強要しようとしているやり方に対する多くの活動家の不満を指摘すれば、任務はより長期的だ。ちなみにこの高等教育の労働者の労働条件は、今労組が実行中の採点と評価のボイコットに対し100%にいたる賃金控除を実行することで屈服させようと、この10年以上にわたって根本的に掘り崩されてきたのだ。
 ここで見てきた諸課題は、下層の組織化戦略を討論するためにこの夏遅くに計画されているふたつの会合――ひとつはロンドンで、他はマンチェスターで――における背景の一部だ。これらは歓迎に値するイニシアチブであり、重要なことは、両者が強く支援され、進行中の組織が結果として生まれ、それらの間に協力が生まれることだ。(2023年5月23日)

▼筆者は第4インターナショナルと協力関係にあるソーシャリスト・レジスタンスの支持者。(「インターナショナルビューポイント」2023年5月27日) 

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