資本主義はかつてない深い危機によって息切れを起こしている

エリック・トゥサン

 以下に紹介するものは、資本主義の現状に対する全般的診断と言えるもので、CADTM(正統性のない債務の帳消しを求める委員会)が、そのスポークスパーソンであるエリック・トウサンにインタビューしたもの(「かけはし」編集部)。

経済と諸側面の危機的様相


――われわれは今危機を見ているのだろうか?

 そうだ。あらゆる警告灯がチカチカしている。すなわち、温室効果ガス排出や他の環境的打撃にいかなる減少もないまま、非常に重要な経済的減速(2022年の最終四半期から2023年の第1四半期におけるEUの停滞)がある。
 さらに、特に気候によって明らかにされたようなエコロジー危機の激烈な作用。公私債務の非常な増大。激しいインフレと労働者階級の購買力損失。高まる職の不安定さ。私的所有と最富裕1%の所得の並外れた上昇による、不平等の爆発。北も含めた多くの諸国での、人間開発指標の、特に期待余命の下落。激しい貿易戦争。深刻な食糧危機。欧州、スーダン、アフリカの角、アラビア半島、DRC(コンゴ民主共和国、旧ザイール:訳者)東部、さらにもっと多くでの戦争。政府の行為における権威主義的形態の高まり(抗議活動へのさらに厳しい抑圧、法的プロセスの無視、その他)。中絶の権利のような基礎的人権への攻撃。一層制限的で命に関わるようになっている移民政策。極右の選挙での成功、その他諸々。
 生産性におけるずば抜けた進歩を経験してきた経済部門はただひとつ、軍需部門だけだ。これが、1914年から1945年の年月にあったもの以来では最悪の危機、世界化した資本主義システムの大きな危機だ。

――世界経済は今どのような危機の局面にあるのか?

 まだトンネルの終点を示す兆候は全くない。ものごとは悪化の一途にある。投機のバブルは、経済情勢の突然の深刻化を作り出していつでも爆発する可能性がある。現在のものよりも深刻とさえ言えるような戦争に似た偶発事象もあるかもしれない。今後気候と環境的な破局が悪化すると信じる理由はすべてある。公衆衛生危機は終わっていず、それとはかけ離れている。諸政府と中央銀行は、人間に危機から抜け出すチャンスを与えるために計算された方策は何ひとつ取ろうとしていず、それとはまったく逆に動いている。大きな私的な株保有者のさらに少数の支配下への、金融と生産の戦略的なツールの集中が、エネルギー部門、採掘産業、食糧や他の原材料の市場流通、医薬品製造部門、銀行部門、その他で継続している。

諸政府と中央銀行の政策の問題


――原因は何か?

 最富裕層1%による途方もない富の蓄積にもかかわらず、また特に食糧とエネルギー部門、「大製薬」、海運業、さらに軍需部門といった一連の大企業が得ている並外れた利益にもかかわらず、世界的な利潤率は、大資本が生産投資の巨大な波に乗り出すのを可能にする上では十分でない。
 人は、資本が求めるのはその利潤の最大化、ということを決して見逃してはならない。それが不可能な場合資本は、特に投機に集中する。これは、資本主義システムにこびりついた矛盾のひとつだ。
 パンデミック、エネルギー不足、また戦争といった危機を利用することによって非常な利潤を上げている大企業は別にして、企業の過半は、労働力搾取の劣悪化した条件や高まる職の不安定さにもかかわらず、利潤の下落と生産の下落に突き当たっている。
 また、諸商品の供給側に関する問題もある。つまり、2020―2021年(中国の場合は2022年も含むまで)の新型コロナウイルスパンデミックの間の制限的諸方策が、供給系列内の瓦解に導いた。少数の国に集中した生産に基づいた半導体部門は、生産の問題に陥ることとなり、需要を満たす点で問題を抱えている。この現象は、中国と米国間の貿易・技術戦争によって目立つものにされている。われわれは今、中国の経済的かつ商業的拡張を限定しようとする点で米国がさらに攻撃的になっている局面を経験中だ。
 不動産部門では、供給が需要にまさっている。支払能力の裏付けがある需要と対比した過剰投資の新しい局面があった。これが、米国、英国、中国の場合だった。それは特に、商用ビル(事務所と売却用家屋)の場合明白となった。新たな住宅ローン危機に引き金を引きつつ、ひとつの投機バブルが2018年から2022年に発展した。
 巨額な流動性注入と債務急増大という諸政府と中央銀行の諸政策は、新たな金融バブルの出現を維持してきた、あるいはそこに導いた。これは、株式市場の現金化、債券市場、いくつかの国における住宅部門、原材料向け市場、さらに暗号資産として証拠になっている。
 量的緩和(QE)から量的締め付け(QT)へと移った2022年以後の政策における180度転換は、金融上の安全保障の大きな欠落に引き金を引くことになった。つまり、インフレと闘うために利率を引き上げるという諸政府と中央銀行による決定は今、何らかの意味のある形でインフレを引き下げないまま、停滞に、おそらくは景気後退にまで、またさらに金融危機にまで導いているのだ。
 実際、2022年に暗号資産数企業の、また2023年3月の米国と欧州における4つの大手銀行の破綻へと既に導いた金融危機は、さらに銀行を崩壊させ、あるいは株式市場や特に商業財の資産部門や債券部門などのような他の分野に深刻な金融的不測事態を引き起こして、再浮上する可能性も十分ある。

南の諸国での深刻な対外債務


――南の世界で新たな債務危機はあるのか?

 新たな債務危機は今、全一連の南の諸国、たとえばアジア(スリランカ、パキスタン、バングラデシュ)で、サブサハラアフリカ(ガーナ、ザンビア)で、北アフリカ(チュニジア、エジプト)で、中東(レバノン)で、ラテンアメリカ(アルゼンチン)で、カリブ海地域(プエルトリコ、キューバ)で、さらに多くで悪影響を与え続けている。これらの諸国のいくつかは返済を一時停止したことがあり、あるいはスリランカの例のように、前もってそうした。返済のさらなる一時停止はありそうだ。
 これらの危機は一般的に言って、南の経済に深刻な影響を及ぼしている外部からのショックの連続によって引き金を引かれている。これらの外部からのショックは、北における諸行為とできごとからの結果だ。
1.南に広まる前に北(中国、欧州、北米)で始まった新型コロナパンデミックがあった。債務に関するパンデミックの作用は明瞭だ。すなわち、パンデミックとの闘いに資金を充てるための、また対外債務返済を確保するために求められた外貨準備における財源減少に資金を充てるための、公的借り入れの増大だ。後者の借り入れは大きく、2020年から2022年にかけた観光の突然の落ち込みに起因していた。それは、いくつかの経済が、たとえばスリランカやキューバのように、観光に大きく依存するようになっていたからだ。
2.ロシアのウクライナ侵略によって引き起こされた戦争も相当な影響を及ぼした。穀類と肥料の価格が跳ね上がった。その一方で全一連の南の諸国は、熱帯の果物、コーヒー、茶、綿花、また牛の飼料向け遺伝子改変大豆のような他のタイプの農産物に集中するようにとの、世界銀行やIMFのような諸組織と北の諸政府からの圧力の下で、穀類や化学肥料の純輸入国になっていた。
 輸入された穀類と肥料の価格におけるこのとてつもない上昇は、財源不足へと、こうして債務返済問題と輸入に充てることができる新たな債務の持続不可能な蓄積へと導いた。
 ウクライナでの戦争はまた、燃料価格の上昇をも引き起こした。そして南の諸国の大多数は燃料を輸入しているのだ。穀類と燃料両方を輸入しているエジプト、スリランカ、チュニジアの場合、債務の状況は持続不可能になっている。
3.第3の外部からのショックは、気候変動と環境的危機から来ている。これは特に、2022年の破局的な洪水の犠牲になったパキスタンの場合真実だ。
4.4番目の主な外部からのショックは、債務借り換え費用となっている。そしてそれは、利率の大幅引き上げという、米国の連邦準備理事会、欧州中央銀行、さらにイングランド銀行の一方的な決定によって引き起こされた。年利で3%から6%で借り入れていた南の諸国は今、新規借り入れに対し9%から15%にまでの利率に直面した。

――かれらはIMFは変わった、と語っている。そうなのか?

 IMFの政策は、世界銀行の政策と同様変わってはいない。それらはかつてと同じく有害だ。そして、南の多くの諸国がIMFの借り入れに頼ることをあらためて余儀なくされたために、それらの諸国はより切迫して反民衆的な新自由主義諸政策の適用を迫られている。このような全体的関係の中だからこそ、IMFと世界銀行の年次総会に合わせた2023年10月12―15日のマラケシュにおける対抗サミットというCADTMの呼びかけに対し、協調的な全面的支持を与えることが重要だ。

直視すべき戦後最悪な危機


――あなたはなぜ、現在が1945年以後では最悪の危機、と言うのか?

 1945年以後、現在の危機と同じような尺度の、またそれほどまで多くの側面を抱えた危機は一度もなかった。環境の危機とその気候の側面は、規模の点で以前は全く経験されていない。この環境的危機は、支配的システムとしての2世紀にわたる資本主義的生産の産物だ。この2世紀の中で、この生産様式は地球上の生命に深く悪影響を与え、それを劣悪化させてきた。そしてわれわれは今その臨界点に達している。
 われわれはこれに、われわれがようやく浮上しつつあり、しかし再発の可能性もあるような、この公衆衛生危機を付け加えても良い。この公衆衛生危機は700万人以上の死を引き起こしてきた。その規模は資本主義システムそれ自身にも結びついている。
 1945年との対比では、核兵器が激増していること、また国際的な緊張の水準がホロコーストへと導く可能性すらあることも付け加えよう。
 他の観点からは、資本主義の危機は現に、特に経済的崩壊という点で1945年以後では最も深刻だ。政府のより権威主義的で暴力的な形態に向かう傾向は今、さまざまに変化のある程度であらゆる国に悪影響を及ぼしている。極右勢力の世界的な台頭は1945年以後では最強だ。繰り返される人権侵害は、特に移民と難民の権利に関して上昇基調にある。
 これらの事実を前にわれわれはあきらめてはならない。われわれは、真に自己解放的な革命をもたらす努力を倍化しなければならない。(CADTM2023年6月20日より)
▼エリック・トゥサンは歴史家かつ政治学者であり、CADTMの国際スポークスパーソン、またATTACフランスの科学評議会の一員。多数の著作があり、第4インターナショナルの指導部メンバーの一員でもある。(「IV」2023年6月24日)  

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