世界の状況 2隻の対照的な難破世界の状況
恐るべき不平等の現実
ダン・ラボッツ
2隻の船の沈没――数百人の必死の思いの移民で一杯になっていたアンドリアナ、そして一握りの億万長者数人を乗せたタイタン――は今日の世界に関する生々しい絵柄を提供している。海洋でのあらゆる溺死は悲劇であり、人は愛する者を失った家族に同情せざるを得ない。それでもこれらのできごとは同時に、世界的な経済的不平等と不公正をも劇的に見せた。
タイタンで死亡した者たちの名前は分かっている。オーシャンゲート社の創立者でCEOのストックトン・ラッシュはタイタンの操縦士だった。ハミッシュ・ハーディングは英国の実業家で、ドバイを本拠とするアクション・アヴィエイションの会長かつ探検家、ポール=アンリ・ナルジョレはRMSタイタニック社の水中探査の指揮者だった。ちなみに最後の企業は、タイタニックの残骸に対する権利を所有している米国企業だ。そして最後に、シャザド・ダウッドと彼の19歳になる息子であるスレム・ダウッドは、パキスタンの最も裕福な一族のひとつの御曹司だった。
4人の旅客は、1912年に氷山に衝突した後1517人が死亡したタイタニックの残骸を見るための水面下1万2500フィートへと潜るぞっとするような冒険のために、各々25万ドルを支払った。この船は6月18日に行方不明になった。米国とカナダの沿岸警備隊はできることすべてを行い、5人の位置を特定し救出するために、何隻もの船と航空機を急派した。しかし、6月22日に見つけられた破片は、潜水可能な船が明らかに内破したということを指し示している。
対照的に、6月14日にアンドリアナが転覆した時死亡した者たちの多くは、名前が今も一切知らされていない。過剰積載の漁船であったこの船は、様々な国出身の移民を400人から750人乗せ、リビアからイタリアに航海していた。およそ104人が救出され、他の数百人は今も行方不明なままであり、その多くである女性と子どもは甲板の下にいた。
生き残った者たちの中には、エジプト人、シリア人、パキスタン人、アフガニスタン人、さらにパレスチナ人がいた。そしておそらく死者の中には他の国籍の人もいる。これらの客はほとんどが、もっとよい暮らしを作り上げ、自らと家族を養う方法を見つけ出す希望の中で、欧州に向かっていた貧しい人びとだった。
しかし欧州の多くの政府は、これ以上のどんな移民も、特にさまざまな国籍、肌の色、宗教、また言語をもつ貧しい人びとを欲していない。いくつかの欧州諸国で権力の座にある右翼政権と一体的に、連帯の見せかけすべては消え去っている。ギリシャ沿岸警備隊は、船は問題を抱えていたがその支援を断った、と理解した。
そしてここには、厳しい海を航海する者たちに関する分裂した光景がある。裕福な者は水中の冒険に数十万ドルを払うことができ、他方貧しい人びとは、欧州にたどり着き仕事を見つけるという希望の中で過積載の漁船に押し寄せるために、かれらのなけなしの貯金をはたいている。諸政府は、裕福な者たちを救い出すためにそれらの資源を動員するがしかし、遭難した貧しい者たちには背を向けている。これら2隻の船の沈没は、欧州人と世界中の人びとにかれらの意識を検証させなければならない。
タイタニックを訪れるために4人の個人が支払った数百万ドルがもし代わりに数百人の移民を助けることに費やされていたとしたら、それはどのようなことになっていただろうか? さらに1歩進んでみよう。今日世界には、気候危機、経済危機、また抑圧的な政府によって追い立てられたおよそ4500万人の移民がいる。明らかに必要以上のカネを所有している世界の金持ちに課税することは、この移民の危機に取り組むための相当な財源を提供することも可能にすると思われる。(2023年6月23日)(「インターナショナルビューポイント」2023年6月23日)
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