米国では今反動の大攻勢と高まる抵抗が激突

来年の選挙を前に

成長続ける抵抗の強化に全力を

アゲンスト・ザ・カレント編集部

 最高裁極右多数派が連邦の中絶の権利を一掃してから1年を経て、その命に関わる影響が広がっている。そして、同様に性と生殖の権利をめぐる戦闘が州から州に広がっている。同様に多くの他の基本的な権利が問題になることで、今米国の政治の危機が迫ろうとしているのだろうか?

人工的で党派的デフォルト危機

 米国が考えられないような、また全体として人工的な、債務返済義務を満たす「信頼と信用」に関するデフォルトに向かってどんどん進んでいた中で、ある疑問が生じている。つまり、この危機の外観はむしろ「音が大きいだけの、いつもながらの騒音」だったのか? われわれは前も債務限度の瀬戸際政策――相互の自殺に終わることがないようにとの、支配階級の命令によって最後には差し戻されるような、周期的で党派的な劇場型チキンゲーム――を経験したことはなかったのか?
 この論理的な仮説に反するもうひとつの事実があった。すなわち、資本家の支配階級が伝統的により好んだ政党内部の強力な極右分派がデフォルトを起きるままにする用意が――結果的な破局、あるいは崩壊は2024年の選挙でかれらを勝利に押しやるだろう、との仮説に立って、それを強制するという準備まで――できていたということだ。
 差し迫る危機は、最終的に、マッカーシー・バイデンの赤字と予算の取引に対する幅広い下院の支持で、また上院での63票対36票の承認で取り除かれた。「分割された政治体制」という実際上の命令と、支配階級の金融諸機構の要求がまさった。「勝ったのは誰か」に関する熱を帯びたメディアの論争――債務上限に関し交渉するよう大統領を脅したことでの下院議長のケヴィン・マッカーシーか、それとも厳しい社会的支出削減なしに、マッカーシーを予算の取引に誘い込んだことでのバイデンか――は、一時のものであり、重要ではない。
 1980年代以来の右翼の脚本は、共和党政府の下で、軍事支出、富裕層に税をかけない諸政策、さらに資金不足企業への補助金で赤字を増やすことであり、その後、民主党の大統領に予算カットを強要するために「統制の効かない支出」のことを大声で言うことだった。この間の歴史では、ビル・クリントン政府のみが、均衡財政――米国の悲惨な福祉制度とワーキングプアの犠牲の下で――を作った。

真の問題に背を向けた取引


 将来に向けて重要なことは、債務と財政の闘いが内包するより幅広い米国ブルジョア政治の機能不全との結びつきだ。共和党の要求は今後も、何千万人という人びとの暮らしを締め付ける食糧と住宅のインフレにもかかわらず、軍事予算や化石燃料企業助成金を削減することなく――そしてほとんど確実に、ひどく過少課税の富裕層と大企業から歳入を集めるためには何もせず――、勤労民衆と脆弱な住民向けのセイフティネットを切ることにしつこく焦点を当てるだろう。
 共和党――およびウォールストリート――の目標は、パンデミックの間経済を支え、また現実に貧困を減らした緊急支出と共に、民主党のかつての拡張的な「より良いものをまた建設」というインフラ計画で残されたものに「片をつける」(適切な英国の章句を借りれば)ことを意味した。そして残っているものはほとんど、半導体の国内生産やリチウム入手争いの強化といった方策――中国の世界的な広がりに対抗することを目的にした要素で、これに関し支配階級の両政党とも全体として一致している――なのだ。
 真実を知られたくないような取引の進め方では、国家債務であれ、インフレ、住宅費用、あるいはホームレスであれ、本当の問題はほとんど、あるいは全く解決しなかった。また現在の政治条件では、そうすることもできなかった。他方、ほとんどがレーガン―ブッシュ―トランプ政権と至近のパンデミック危機の下での――そして現在のより高い利子率の下で、ちなみに5%というそれが意味するのは、債務への利払いが年に1・5兆ドルということだ――、31兆ドルまで高まった国家債務に続くものとして、本物の問題がある(企業と個人の債務はもうひとつの全体的問題)。
 債務へのまじめな取り組みが求めることは、大幅な軍事予算カット、富裕層と企業の米国に向けた減税と抜け穴の逆転、そして化石燃料とアグリビジネスへの破壊的な助成金を終わりにすることだ。しかしこれらのどれひとつとして資本の日程表には全く載っていないのだ。
 他方、現在の取引の特徴は、一定の食糧支援(SNAP)受領者に課される新たな「労働要件」制限だ(とはいえ、退役軍人と一定のホームレス向けの新たな適性付与によって部分的に相殺される)。SNAPが拡大されなければならないその時の、より厳しい労働要件と関連する行政的なたがはめは、道義的に破綻し、民主党にとって政治的に愚かで、財政的には妥当性がない、「2大政党統治」の3重欠陥――①職の不安定さと生活保障のなさを経験しているもっとも脆弱なワーキングプアの顔を踏みつけにし②民主党の支持基盤を遠ざけ士気阻喪させ③大した節約にもならない――だ。

諸攻撃の合流が示す政治の危機


 債務上限の点で極右の脅迫の脅威は立ち消えになったものの、民主的な諸権利をめぐる抑制のない州議会と最高裁の猛攻は、米国ブルジョア政治の舞台の中に今危機がある、ということを示している。
 諸々の攻撃は、多くのメディアで十分に取り上げられ、公然と表に出ている――われわれはここで何か派手な暴露をするつもりはない――。そして重要なことだが、それらは標的にされた住民とコミュニティが準備できる限りの多くの抵抗で迎えられている。
 反動的な猛攻の主要な2つの活動エネルギーは、白人のレイシズムと抑制のない企業の貪欲だ。第1のものは、政治的に第2のものを、つまり支配階級の米国がもつ真の優先物を可能にするために影響拡大効果を及ぼしている。労働者の権利、および環境保護は骨抜きにされ、その中で、批判的レイス理論、ブラック・ライヴズ・マターまた想像上の「目覚めた暴徒」に対する「文化戦争」攻撃が大見出しを支配している。
 州の舞台で準備されたこの攻撃はまた、無秩序だが同時に威嚇的な相貌を伴って、ロン・ディサンティスの大統領選キャンペーン向けの推進薬剤でもある。「フロリダは目覚めた者が死に向かうところ」との彼の決め文句に民衆がうんざりするまでどれだけかかるか、は第二義的な問題だ。あるいは、職業的な不正行為者でまもなく一連の刑事被告人となる前大統領に対し、ディサンティスか何らかの他の反動派が主な挑戦者として浮上するかどうか、も同じ小さなことだ。ちなみにこの前大統領は、党の先頭ランナーの地位を占めている。
 ひどく反動的な社会的課題設定に向けた下部構造は、十分に資金を注がれた偽の草の根鼓吹諸勢力――「無教育を求めるママ」、「富豪階級のためのアメリカ人」、「貪欲クラブ」、「プロライフ(誕生までの)アメリカ」など――によって提供されている。悪名高いアメリカ立法交流評議会(ALEC)は、右翼州議会に切り貼りされるべき言葉を提供している。
 これらの方策ほとんどすべては、多数派の世論に反している。いくつかの例では、それらはあからさまに違憲かつサディスティックであり、特にそれは、トランスジェンダーの人びと特に若者に対する基本的な医療ケアを犯罪にする諸法令に当てはまる。中絶禁止は、昨年の「ロー対ウェード」をひっくり返した錯乱的な最高裁の後、一層命に関わる作用を伴って転移中だ。
 禁書と強制的図書館閉鎖――そしてもっと重要なことだが、それらに反対して高まる抵抗――は、本誌今号の他のところで取り上げられている。米国の子どもに対する誤った教育には、レイシズム、それが実際に展開しているような米国の歴史、ジェンダーや性的な実際に関係するもの、といったことについて教えることの禁止、が含まれている。
 ミシガンでは、今は少数派になっている右翼の議員たちが、「米国のキリスト教的な基礎」および宗教的自由を求めるピルグリムの探求に関する義務的な学校教育を――通過の即時的チャンスが全くないとしてさえ――提案した(「われわれはピルマウスロックに上陸しなかった。ピルマウスロックがわれわれの上に落ちたのだ」とのマルコムXの記憶に残る言葉を思い起こそう)。
 投票権に関する新旧の制限が浸透している――1例を挙げれば、オハイオで住民投票提出権(たとえば、州憲法の中に性と生殖の権利を書き込むような)実現のための動きは事実上不可能だ――。

露骨なエリート奉仕の最高裁


 トランスジェンダーの医療ケアを禁止するという乱暴な行為は、20年以上の間利用可能であり安全と証明されてきた中絶と流産ケアの薬剤であるミフェプリストンを禁止するテキサス地区裁判所判事の裁定と並ぶものだ。トランスジェンダーのケアを禁止する議員と知事たちは明らかに、最終「審判」である最高裁に対する極右の支配によって力を与えられていると感じている。
 この極右の法廷多数派は、全面的に正統性がないとされる怖れによって部分的に抑制されているように見える。ミフェプリストン禁止は、まさに多くの人々を直接脅かし、最高裁がそれを保留にし来年の審理まで飛ばすかもしれないほど怒りを生み出している。
 トランスジェンダーケアが直接影響するのは人口のはるかに小さな部分――およそ0・5%――とかれらの家族だ。いずれにしろ、相対的に小さな標的グループを選り抜くという戦略は、憲法によって紙の上で約束された平等な保護を茶番にする明白な事実にもかかわらず、その直接の効果ともっと広範な結果の双方でより危険にさえなっている。それは、いわゆる「保守派」が「伝統的価値」を名目に承認しない基本的な医療ケアに対する政治的抑圧に向け、毒虫のつまったより大きな缶を開けている。
 現在の極右最高裁多数派の正統性をはぎ取ることはたんなる「脅し」ではなく差し迫った必要、ということは、われわれが以前言ったようになお一層重要だ。われわれがこれまでWSCOTUS(米国白人至上主義法廷)多数派と呼んできたものはまた、米国政治内の最も腐敗し顧客奉仕の機関のひとつとしてもむき出しにされてきたのだ。言われていることはたくさんある。
 クラレンス・トーマス――いかがわしい億万長者から金を受け取り買収された――から、裁判を抱えたいくつかを含むエリート企業と裁判前に弁護士を調整させることにより1000万ドルを稼いだジョン・ロバーツの妻まで、「倫理基準」はこれらの最高裁判事たちの場合職務に関し存在していない、という事実が現れている。かれらの目的が裕福な者と力ある者に奉仕することである以上、これらの「保守的な」判事たちがそれらの者のように暮らすのがふさわしい、と気づいてもほとんど驚きではない。
 とはいえかれらの場合まったく「保守的」ではない。前例の尊重、法的な連続性による鋭く急進的な変更の回避、実際の人びとの暮らしに最高裁判決が及ぼす影響に対する熟考、などの諸原則は、全く意味をもっていないのだ(われわれのような、根底的な変化を欲している者たちは、それらが裁判所によって下されるのを期待してはいず、むしろ期待しているのは、強力な社会運動と政治行動を通じて勝ち取られることだ)。
 これに関し、EPA(環境保護局)が関わる裁判についての最も新しい決定は、長く存在しているEPAの規制職権を骨抜きにしている。最高裁は満場一致で、この特定の件では原告の財産権が根拠なく侵犯された、と一致したが、極右の多数派はこの機会を、清浄水法を基本的に一掃するためにつかんだのだ。
 この種の裁定はこの最高裁多数派の場合標準になっている。かれらの唯一の「保守派」としての忠誠は、エリートの特権と権力に対するものなのだ。
 全体的な右翼の攻勢の速度に関し重要なものを今後明らかにするものとして残っている問題は、このWSCOTUSがまさに今ミフェプリストン禁止を確認する――直接的な国民的公衆衛生の非常事態を生み出す――ことで、あるいは選挙結果の逆転を可能にするような、正気とは思えない「独立した州議会」理論を支持することで、自身の正体をさらす用意ができているかどうか、だ。
 これらのどちらか、あるいは両者は、本物の憲法の危機に引き金を引く可能性もある。法廷が強要するミフェプリストン禁止の場合は、進歩派と性と生殖の権利を唱導する活動家は、バイデンが即座にFDAと薬剤製造業者にそれを利用できるように維持する緊急命令を出すよう、要求しなければならない。

今はまず抵抗の拡大に全力を

 われわれは、不快で野卑な長く続く選挙シーズンから現れるかもしれないものを不利な要因にすることが始まりの方法、と特筆してきた。まさに今重要なことは、現にあり、成長を続けている抵抗を支え拡大することだ。まさにこれらの抵抗は、日々の見出しに十分現れていないとしても、印象的になっている。
 特に、中絶の権利の諸組織とネットワークは、州内であるいはその境界を越えて長い距離を旅する必要のある人びとにサービスを利用できるようにするために、創造的に動員を行ってきた。マスメディアのレーダーにかからないコミュニティレベルのものを含めて、右翼の権威主義に立ち向かっている事例は他に数多くある。
 政治的には、民主党が攻撃をやめさせる点で見てきたように惨めに敗北している理由をはっきり説明することが決定的だ。その大口献金基盤は党の既成エリートに、そのとらえどころのない郊外の「社会的にはリベラルだが財政的には保守的な」住民に訴えることによる勝利、という幻想に依拠するよう求めている。しかし他方、労働者階級のはるかに大多数は、社会保障、とメディケア、生計賃金と機能する社会的セーフティネットを救い拡大して欲しいと、実際により「財政的にリベラル」なのだ。
 そして、ストライキ、労働契約をめぐる闘い、また労組組織化は、民主主義と脆弱な人々の暮らしに対する反動派の猛攻からは1歩離れているように見えているかもしれないとしても、それらは現実に、社会の未来の形成において中心的な重要性をもっている。右翼の攻撃と反「覚醒」の悪ふざけは、資本の設定課題――賃金を低く、多数の暮らしを不安的かつ保障のない形で維持し、社会的連帯と闘争に敵対する個人主義と「規律」を強要するという――にほかならない。
 支配的な企業エリート自体としては、中絶の権利、トランスジェンダー、医療ケア、公共図書館や教育、あるいはいわゆる「文化戦争」のような課題を、どっちみちほとんど、あるいは全く気にかけていない。大事なのは、利潤と構造的な特権の確保だ。そして、極右の社会的設定課題と醜悪なレイシズムが資本の設定課題の前進に助けになる程度がどんなものでも、かれらはその支持を全く喜んで受け容れる。
 こうしたことが、現在の展開傾向は幾分音の大きな「いつもながらの騒音」なのかそれとも「今は危機」の始まりか、としてわれわれが提起した疑問への回答が、十分に両方となる可能性がある理由だ。(「ATC」2023年7・8月号より)

▼「アゲンスト・ザ・カレント」誌は、第4インターナショナルの米国のシンパサイザー組織であるソリダリティによって発行されている、その目的を説明する隔月刊の分析誌。米国左翼内の再編と対話というわれわれのもっと大きな構想の一部として、幅広いさまざまな課題についてさまざまな観点を提示している。そうしたものとして、左翼の立場に立つ活動家、オルガナイザー、また学者内部の討論を推進する目的に基づき、論争は頻繁かつ教育的。(「インターナショナルビューポイント」2023年7月1日)   

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