スペイン7・23総選挙を前にした声明

同じ古い政治に歴史を決めさせるな

アンティカピタリスタス

 スペインでは7月23日に総選挙が行われた。事前予想では、保守主流の国民党(PP)と極右のVoxの伸長が確実視され、Voxの入閣問題が関心の焦点になっていた。しかし選挙結果では、伝統的な社会民主主義派の社会労働党(PSOE)が勢力を維持、共産党の前副首相を軸とした左翼連合も一定勢力を確保し、国民党・Voxでの過半数は実現しなかった。その結果次期政権がどうなるか不透明になり、再選挙の可能性も浮上している。以下は、今回の選挙に先だって、「よりマシな悪」の論理から自立した闘いを呼び掛けたスペインの同志による声明。(「かけはし」編集部)

振り子の反動
の右翼的転回


 7月23日の選挙は、世界的にまたスペインで起きてきた反動的な変化を特徴としている。今回の選挙実施の背後にあった直接の要素は、5月28日の地方選における進歩ブロックの敗北だった。そしてそれは、政治情勢の変化を促進する最初の1歩になった。
 その結果はPPとPSOE間では相対的に接戦だったとはいえ、選挙上の算術がある種の大きな移行をつくり出した。われわれが見たのは、ウニダス・ポデモス(PSOEの左に位置しつつもそれとの連立政権に完全に合流した諸グループ)の劇的な崩壊とPSOEの後退であり、それは、PPが多くの州都と自治地域を勝ち取ることに導いた。これが、政治的なサイクルを変化させ、ペドロ・サンチェス(PSOE書記長で現首相)の総選挙呼びかけに導いた。しかしもっと先に進んでみよう。
 情勢における反動的な変化には底に潜む要因がいくつもある。第1のまたもっとも決定的なものは、国際的なレベルに見出されるものであり、2008年の危機後に現れた左翼の一連の敗北と降伏の中にある。そしてそれが新しい右翼の台頭を引き起こしてきた。それらの一連の敗北は、間にコービン主義とサンダース現象を挟んで、ギリシャのシリザからPSOEとの連立政権へのポデモス統合まで連なっている。残されている感覚は、左翼にはしっかりした大衆的構想を打ち固める能力、あるいは実行可能な計画を推し進める能力がない、というものだ。それゆえ、第1の要素は左翼内部の危機だ。
 もうひとつの底にある理由は、怖れに関係している。つまり、戦争、資本主義の地政学的秩序再編、さらに環境的な危機が、一時代の終わりという感覚を生み出している。資本主義中心部諸国内では不平等が高まり続けている。世界の全領域が、資本主義によって今混沌の中に投げ込まれている。そして、新しい諸大国が古い大国と覇権を争っている。
 中産階級には次のことが明確だ。つまり、炎を吹いている世界の中で相対的な特権を維持するためのより良好な位置にいるためには、各国内で法と秩序が強要されなければならない、と。
 労働者階級と被抑圧層は、強力な政治的代表を欠き、資本主義と闘う戦略的な展望をもっていない。そうであっても、はっきりした政治的方向性がないままであれ反乱は継続している。フランスはチリを引き継ぎ、チリは米国内の黒人民衆を引き継ぎ……、等々と。
 スペインでは、より制度的に統合され急進性を低下させた勢力へのポデモスの転換、および親独立サイクル(たとえばカタルーニャなどを指す:訳者)の敗北が、進歩ブロック内部の決定的要素となった。Vox(極右ポストファシストの声)の出現とPPの前進は、この激しい振り子の反動だ。

進歩的連立政権
は希望を壊した


 2018年に形成された進歩的連立政権は、大変革の時期の始まりにはならなかった。それはむしろ、15Mが扉を開いた希望の終わりだった(注1)。進歩的政府は、スペイン資本主義の近代化という政策を推し進めようとした。われわれはそれを、「改良なき改良主義」と表現する。
 かれらは、富の一定の再配分を基礎に資本主義社会の再構成を追求するどころか、「成長や再配分のないケインズ主義」という構図の中で、企業の利益を保つ政策をあらゆる犠牲を払って維持してきた。資本主義の現在の力学を映し出し、またそれを育てているこの政策との関係では、軍事支出が恐ろしいほど増額され、安全保障に親和的な国家の強化が推し進められ、抗議の趨勢が生み出され、領域的自治が擁護され、そして移民が攻撃されている。
 この意味で進歩的政府は、大げさな諸発言にもかかわらず、労働改革関連立法、年金、言論統制法、住宅その他の点で、その約束を守らなかった。明らかにこの政府は、移民に関して国家の権威主義的趨勢の強化を実行した。つまりこの政府は、西側帝国主義と提携し、そこで従属的な役割を果たしている(サハラ、ウクライナでの戦争、その他)。
 この政府は資本の経済政策を適用してきた。つまり、インフレが賃金を食いつぶしてきた。そして労働者階級はもはやこの議会が始まった時よりも社会的に強くない。気候危機に取り組むという大きな歴史的任務は、先延ばしにされ大企業に引き渡され、こうして「グリーン資本主義」の推進となっている。フェミニズムやLGBTIの権利のような一定の前進が図られた領域ですらこれらは、脆弱であり、中でも社会運動の吸収と制度化によって脅かされている。
 スペインにおける右翼の台頭は、将来の安全確保のなさ、政治分野における古い中産階級の支配的影響力、近年の社会的決起の進展を敵視する反動といった、こうした流れの一部だ。この右翼は、ある種ねじれたやり方で進歩ブロックへのその反動によって作り上げられてきた。それは、想像できる変化はただもっと悪いだけとの理由から、秩序を維持する必要として慢性的な危機を、また労働者の組織的な能力の構造的な弱体化を源として利用している。
 この底にある否定的な進展は容赦なく進み、他方で進歩主義は、それが「現実の情勢を管理する」中で苦しみ、苦悶している。

何があろうと自
立的左翼建設を


 われわれは右翼に向かう票は1票たりとも望まない。われわれは、PPとVoxの政権を望まない。しかしわれわれは、各自の個々の投票以上に、左翼諸政党の降伏政治に目を閉じることはできない。そしてその政治はすでに政府の中で、かれらが彼らの約束を満たすことができず、労働者階級の利益を守る目的で経済的権力に立ち向かうことができない、ということをはっきり示してきた。
 われわれは有権者に、以下の候補者が存在するところで、反動の波に反対する明確な立場を表現し、さらにまた降伏および社会自由主義との連携への拒絶も明らかにしている、そして自由と自己決定を擁護する候補者への投票を訴える。したがってわれわれは、CUP(カタルーニャ左翼の自立的潮流)への投票を訴える。この訴えは、親独立ブロックの残りに対するかれらの過度に独りよがりな政策とより戦略的な諸課題に関するわれわれとかれらの違いを超えた訴えだ。
 われわれはまた、アデランテ・アンダルシア(アンダルシア前進)に投票すると共にそこに参加する。そしてこの組織は、78年体制(注2)と対決して、この土地が耐え忍んできた現実的な圧迫に声を与えて、アンダルシアの労働者内部にエコソーシャリストとフェミニストの潮流を建設することを目的にしている。
 7月23日、われわれはこれから生きることになる新たな政治的な枠組みとなるものを知るだろう。進歩派が抵抗するとしても、右翼の猛攻が止まることはないだろう。そしてわれわれは、これから必要な変革が着手されるとは全く信用していない。右翼が統治するならば、労働者階級および女性、LGBTIの人びと、移民、さらにあらゆる被搾取層と被抑圧層の権利に敵対する倍化された攻撃が現れる。何が起ころうともわれわれは、さらに多くの人々と共に闘うだろう。
 しかし抵抗は単純に街頭を占拠することであってはならない。進歩主義の労苦は、右翼が資本家に示していると同様、従属化された階級に対する忠誠として、われわれには体制から自立した左翼が必要だ、ということをはっきりさせ続けている。アンティカピタリスタスのこの構想にはエコソーシャリズムという名称があり、それは、社会的抵抗を通じて、また政治の全体構図に関する妥当な教訓を引き出すことによっても建設されなければならないだろう。つまり、「よりマシな悪」を甘受することなく、また歴史を同じ古い政治によって規定され続けさせずに、ということだ。

▼アンティカピタリスタスは第4インターナショナルスペイン支部。
(注1)15M―5月15日は、巨大な街頭決起だった怒れる者たちの運動に与えられている名称。それは、2011年に爆発した急進化であり、急進左翼のポデモスに導いた。
(注2)フランコ主義からの妥協的かつ穏健な移行を導いた統治体制。(「インターナショナルビューポイント」2023年7月20日)

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