サッチャー「改革」の現実
私有化は川と海の汚染水化を進め特権層を利した上で破たんに直面
上下水道私有化の悲惨な結果が今ここに
テリー・コンウェイ
以下は、英国の同志による、同国で先行的に進められた上下水道私有化が何を生み出したのか、についての考察だ。今日本でも上下水道私有化(日本では民営化という用語が使われ、その本当の性格がごまかされている)を推進する動きが目立つが、そこへの反撃に向けてひとつの参照事例として紹介する。(「かけはし」編集部)
河川汚染深刻化と民衆的懸念
上下水道産業の状態は、この近年、英国政治の中で懸念が高まる問題となっている。ますます多くの話しが、川や海への過剰な下水投げ捨てに関して起きている。多くの地方の地域では、特に川が重要な現地の魅力であるところや海岸で、この略奪行為が大きな声を集める現地の組織化の焦点になってきた。これは、伝統的には現与党である保守党に票を投じてきた人びとからも支持を得るにいたっている。
下水道システムは、雨水とトイレからの汚水を同じ管路を通じて水処理作業へ送っている。下水企業は、多すぎる降雨がある場合、過剰分をこれらの管路から水路に吐き出すことを許されている。こうしたことはまれにしか起こらないはずだが、しかしデータ――および経験――は、それが今ますます起きていると示している。
関係要素としては一定数の異なった要素がある。気候変動はより劇的な気象パターン――土地が吸収できないような豪雨に続く、コチコチに固まって乾燥する土壌に導く干ばつ期など――に帰着しつつある。これは洪水とより多くの吐き出しに導く。これらの現象はまだ、アフリカやアジアにおける穀類、家屋、また他の資産の損害と死と同じ水準の結果にはなっていない。しかしそれでもそれらは依然重要だ。そして英国でこれは、コンクリートで覆われた――そして自然の草よりもむしろ人工芝の利用にいたる――土地の比率が高まり続けていることによって度を増している。
もうひとつの理由は、集約農業――特に家畜の工場化された農業――の成長だ。特に家禽、豚、そして酪農業に基づく、汚泥排水が河川汚染の非常に大きな要素になっている。ガーディアン紙記者であるジョージ・モンビオットは、英国の河川汚染では農業が第1の原因で、下水による汚染よりもむしろ大きな脅威、と論じている。
これらふたつの領域は挑戦課題を提起しているが、私には以下でこれらをさらに探る見識がない。私はむしろ、上下水道システム私有化の影響、およびこれがたとえば環境保護機関への縮小攻撃のような、他の公共サービスの浸食とどのように相互に関係してきたのか、に焦点を絞りたい。
サッチャーによる私有化推進
全体としての私有化は、1979年から1990年まで英国議会を支配下に置いた4期のマーガレット・サッチャー政権の鍵になった主題だった。特に1983年後、市場の規律に関するイデオロギー的主張が優先性を高め続けるようになり、それは、資産売却によって政府に利益をもたらす、という願いを上回った。この考えは、私有化は大規模公益事業をより効率化し生産性を高くするだろう、こうして英国資本主義を大陸のそのライバルに比較して競争力のあるものにするだろう、というものだった。
国有化されていた産業は、過小投資に苦しみ、本物の民主的な統制にはしたがっていなかった。これらがサッチャー派を助け、かれらに反対が全くほとんどない形で先の政策を推し進めさせた。
公平さを保つために付け加えれば、次のような事実もこの政策遂行を助けた。つまり、左翼と労働組合にとっては他にサッチャー主義と闘う鍵となる戦闘があった、という事実だ。1984―1985年には、炭鉱労働者ストライキの形態をとった大規模な階級的戦闘があった。次には、人頭税導入――1989年にスコットランドに、次いでイングランドとウェールズには1990年から導入された――に反対する運動が現れた。
私有化から――同じく予算削減から――NHSを守るための、また自治体住宅売却をめぐるキャンペーンがあった。これは、脱工業化と労組への攻撃に、それゆえ所有権の問題よりも職の喪失にもっと焦点が絞られた、ブリティッシュ・スティールのような製造業部門をめぐる抗議行動からなる重要な時期だった。労働者階級に対する攻撃が勢揃いしたこの状況の中で、あらゆるものの中で最も関心の集中が小さかったものが、公益事業の私有化――ブリティッシュ・ガス(1986年)、上下水道(1989年)、電力(1990年)――に関する問題だった。
弱い規制下での上下水道私有化
水は疑う余地なく天然の独占物だ。それにも関わらずサッチャーの保守党は、僅か61億ポンドで売り払うことを躊躇しなかった。同時に、水サービス規制局(Ofwat)が、企業の行為を規制するとの想定の下に創出された。この話の中では、それがこれまで規制を行おうとしてきた程度、が重要な筋道になるだろう。
オックスフォード大学の経済学教授であるディーター・ヘルムは「規制はその発端からそこなわれた、Ofwatは、金融工学も、過剰な借り入れもまったく規制しなかった」と語った。
その時以来、水関連諸企業はそれらの株主たちへの配当として720億ポンドを引き出した。これは、われわれが下水に注ぎ込んだものを川や海に影響を与えずに確実に下水処理作業が処理できるように、インフラに向かわなければならなかったはずのマネーなのだ。
この産業は、高価格、低投資、そして高収益を引き出すための金融工学からなるその中心的要素に基づいて、古典的な私有株主向けビジネスモデルを採用してきた。このビジネスモデルは、普通株式を通じて長期的投資を行う株主の代わりに、債務を利用する。利払いが軽減税に資格を与えるからだ。これは事実上公的な助成金だ。これは、資本費用を引き下げ、株主への収益を高めるが、しかしそれはまた利子率高騰に対しては脆弱性をも高める。
シェフィールド大学の経理実務教授であるリチャード・マーフィーによる報告は、イングランドとウェールズの上水と下水の9企業が2002年から2022年までの間で35%の利益率(金融費用差し引き前)から利益を得た、と計算した。そしてそれらは配当に、利益の248億ポンドを支払った。
その間、イングランドとウェールズでは2022年、ほぼ40万件の下水投げ捨て事件が記録され、この国の水路への汚染流入は合計で330万時間になった。国全体に対するこの数字に基づく相互作用の構図はここに見出され得る。そして、しかし1000万時間近くまで高まっている汚染にもかかわらず、新たな貯水池は全く建設されていない。
その間環境保護局は、海岸の下水監視装置の90%が壊れている、と見出した。多くの設置個所ではそれらは全く設置されていない。2022年の夏を通じて、何十という浜辺が高水準の有毒廃棄物が理由で海水浴に訪れた人びとを締め出した。さらに、検査されていなかった浜辺はもっと多くあったかもしれない。そして劇的さはもっと少ないが、24億リットルの上水が毎日貧弱なインフラのために漏水で失われている。その間家庭向け料金は私有化以来実質料金で40%高くなった。
企業と規制当局つなぐ回転ドア
イングランドの上下水道企業の3分の2は、以前は企業を規制すると想定された番犬であるOfwatのために働いていた中心的管理者を雇用している。オブザーバー紙によるある分析は、規制するのに力ふるった相手である産業の中で、約半数が上級ポストについて、27人の元Ofwatの管理者、経営者、顧問が働いているのを発見した。イングランド内の上下水道企業の9社のうち6社は、以前はOfwatで働いていた規制の責任者あるいは企業戦略責任者を雇用していた。そこには、元戦略責任者で今はノーザンブリアン水道社にいるアンドリュー・ビーヴァー、および元戦略・計画責任者で今はサウスウェスト水道社のイアイン・マックガフォッグ……が含まれている。この調査結果は、規制当局と産業間の回転ドアに関するあらためての懸念を高めている。
この深く問題含みの関係に対する焦点の集中は、この2、3週さらに高まった。1500万軒の家庭に送水している最大の上下水道会社であるテームズウォーター社が約140億ポンドの債務を理由に破綻の危機にある、という懸念が現れたのだ。
このテームズ社は、漏水で1日当たり6億3000万リットルの上水を失い、通常のこととして何トンもの処理されていない下水を川に捨てている。この企業は2010年以来92回、違反を理由に制裁を受け、1億6300万ポンドの罰金を科されてきた。この3年を通じて、近頃辞任した最高経営責任者の俸給は倍になった。
テームズウォーター社の現共同経営責任者のキャスリン・ロスは、以前2013年から2018年までOfwatの代表だった。7月11日彼女は、規制責任者としての彼女の姿勢に関し、国会議員の1委員会を前に陳謝することを拒否した。彼女はその規制責任者として、株主配当の抑制ができない中でこの企業が債務を140億ポンド積み増すのを許可したのだった。
再国有化をめぐる変化への展望
このすべてに対する人びとの怒りが今成長中だ。今や、当初あった私有化への反対よりも再国有化要求の方が大きい。しかし、リシ・スナクの下での現保守党政権の危機の深さにもかかわらず、彼に譲歩を行う準備がありそうにはない。
英国では2025年以前に総選挙を行う義務があるわけではないが、来年の春か夏かどちらかにそれが実現するのはほぼ確実、という期待がある。劇的な180度転換にはならないとしても、これは労働党政府という結果になるだろう。現在の党首のキア・スターマーが2020年にその役職に選出された時、彼は10の誓約――上下水道の再国有化はそのひとつだった――の政綱を立場としていた。
それらの他の誓約の圧倒的多数同様、英国資本にとって彼が安全な支配の相手であることをはっきり示そうと急ぐ中で、先の誓約も早々と破られていた。彼は今何らかの「社会的目的の」企業形態――私的な支配に上下水道を残しつつ、想定では社会的責任をもっと多く強要する――を考慮中、との噂がいくつかある。
問題は、本物の再国有化――以前よりもっと大きな説明責任の下での――を求めるキャンペーンを準備できるかどうか、になるだろう。
▼筆者は、第4インターナショナルと協力関係にあるソーシャリスト・レジスタンスの支持者。(「インターナショナルビューポイント」2023年7月27日)
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