ロシア カガルリツキーへの国際連帯を

ウクライナ人左翼として

ロシア内の反戦運動のためにも

アンドリー・モフチャン

 日本でも一定の知名度があるロシア人左翼のボリス・カガルリツキーが今、ロシア政府から訴追されたことをめぐって、国際的な論争の対象になっている。どのような論争かは以下の論考での解説に詳しいが、簡単に言えば、彼が2014年のクリミア併合を支持し、いったんはプーチン体制擁護の隊列に加わったことなどから、解放キャンペーンに値するか否かの論争が巻き起こった。以下は、解放キャンペーンを支持する立場で論じられている。なお、ロシア社会主義運動(RSD)も解放キャンペーンの組織化を訴えている。(「かけはし」編集部)

長期刑前にする
カガルリツキー

 指導的なロシア人左翼思想家のボリス・カガルリツキーが今、彼は彼の反戦の観点を理由に逮捕されたということが誰――ウラジーミル・プーチンと彼のウクライナ侵略の支持者も含む――から見てもはっきりしているのに、「テロ正当化」の容疑で7年の投獄刑に直面している。
 カガルリツキーはおそらく、ロシア国内でまたそれを超えて学術界と政治の界隈で知られた、ポストソビエトの空間で最も著名なマルクス主義思想家だ。彼は、ウクライナの仕事であると信じられた2022年10月のロシアのクリミア橋への攻撃は、「軍事的観点」からは理解できる、とソーシャル・メディア投稿で述べた後、7月25日に逮捕された。彼の件は、反戦のロシア人に対する数百件の警察による捜査のひとつにすぎない。
 彼の逮捕は、連帯に関する白熱の論争――そして彼の以前の言明を前提とした時、カガルリツキーがそれに値するのか否か――を巻き起こしている。
 今64歳のカガルリツキーは、ソ連時代遅くに左翼異論派および地下のマルクス主義者として出発し、社会主義の信念を保持しつつ、ロシア内とソ連邦崩壊後に続くもっと幅広い地域における広範な認知を獲得している、先のコミュニティ出身のおそらく唯一の人物だ。数世代が彼の著作と講義の上で成長し、ポストソビエト諸国の政治的なできごとに対する彼の諸々の評価は、西側の観察者たちにとってはひとつの道しるべになった。彼は、ロシア人左翼を代表する象徴的な人物になった。
 全面的なウクライナ侵攻に対するカガルリツキーの公然とした拒絶はそれゆえ、ロシア当局を当然いらつかせる運命にあった。彼の逮捕は、高い地位の政界内に結びつきをもつ国際的に著名な公的な知識人であっても、もはや弾圧から自由ではないことを示している。

クリミア併合を
支持し体制側に


 しかし、ウクライナ内の戦争に関するカガルリツキーの考えはいつも同じというわけではなかった。ウクライナのユーロマイダン革命の後、彼は2014年のロシアによるクリミア併合、およびドンバスにおける親ロシア分離運動に対する熱烈な支持者だった。そして、これらのできごとにいくつかの進歩的な「反帝国主義的な」相貌を見た。
 たとえば彼は2015年に「ノヴォロッシア〔新ロシア〕は構想ではなく、ひとつの運動、ある種の夢、民衆の目標だ」と表現した。彼が運営するウェブサイトであるロブコルはそれにしたがって、「ウクライナ内の内戦を終わらせる方法は、……反乱する南東部を敵とする戦争における敗北〔のキーウによる認知〕を通じるもの」と論じた。そしてそれはいわゆるドンバスにおける「人民共和国」を意味した。
 彼の著作で成長した者たちの多くは、そのような記事を読み取るのは難しいと気がついた。それは、その著者が完全に異なった何者かで置き換わったかのような感じだった。
 カガルリツキーは国家テレビにおける度々のゲストになり、ドンバスでのロシアの軍事作戦にコメントを加えた。彼の新しい環境は、しばしば保守的で帝国主義的な立場を伴ったロシアのいわゆる「愛国的左翼」と連携する人びとによって支配されるようになった。
 カガルリツキーが世界システム論(国民国家を超えた長期的な政治的な、また経済的な諸傾向を強調する分析枠組み)から引き出した結論は、ロシア国家の拡張主義的目標に一致した。
 あなたが世界政治をもっぱら世界の周辺と世界の中心間の衝突として描くならば、ドンバスにおける2014/2015年の戦争をこの衝突の温床のひとつとして想像することは難しくない。この分析の中で、ロシアは(書かれていないとしても)西側のヘゲモニーから自身を解放するグローバルサウスを助けるとの想定の下に、反帝国主義闘争における1種の前衛になった。
 カガルリツキーもまた、新たな歴史的試練の重荷の下で、ロシアの体制は新自由主義に終止符を打ち、もっと進歩的なシステムへと形を変えると思われる、との期待を表した。しかし、これが非現実的であり、そのような立場はプーチン体制とその帝国主義的冒険に対する単なる左翼的なつっかえ棒にすぎないことが明確になるにつれ、彼は彼の考えを修正し始めた。

明確な反体制と
侵略反対へ転進


 カガルリツキーの政治的評価は、ロシアの政治生活が再び「興味のあるもの」になった中で、2017年に変わり始めた。彼は、むしろ不快な連中と関わるようになった、そして離れる――進歩的なロシア知識人の代表としての彼にとってははるかにもっと自然な場である、ロシア人反政府派の方へ――時がきた、と実感したように見える。
 彼は、若者の抗議行動に対するロシア警察の悪どい弾圧を褒めそやした政治的保守派と衝突した。ロシアの頂点の公職者たちと最高支配者自身を打倒する必要に関する曖昧さのないコメントが現れ始めた。カガルリツキーはさらに、「包囲された要塞」としてのロシアに関するプーチンの諸言明を、腐敗した体制の愚劣な自己正当化として仮面をはごうともした。
 2020年、彼はベラルーシでの巨大な反ルカシェンコ抗議行動を支持した。そしてロシア人にかれらの隣国から学ぶよう訴えて声を上げた。彼は2021年に、海外からの帰国に際し拘留された反政府派指導者のアレクセイ・ナヴァルヌイを防衛する抗議活動を支持し、彼の釈放を求めた。
 現在のシステムとプーチンに対するカガルリツキーの嫌悪は個人的にも以下の点までに高まっていた。つまり彼は、彼のロブコルのユーチューブチャンネル上で流されるもの全体を大統領の問題ある健康の噂を議論するために充てる用意ができていた。彼は、「待機」は長くないと思われるとの期待を隠さなかった。
 2022年2月24日、ロシア軍はそのウクライナ全面侵攻を始めた。カガルリツキーは即座にロシアの侵略に反対する非常に特定的な立場をとり、それを破綻を運命付けられた不吉な冒険と呼んだ。
 ウクライナに対する彼の変化した姿勢について質問された際、カガルリツキーは次のように答えた。すなわち「犠牲者は悪者かもしれないとしても彼はそれでも犠牲者なのだ。1930年代のポーランドは非常に反動的な国家だった。しかしドイツが攻撃した時、それは侵略の犠牲者となり、攻撃を撃退する点での支援と共感に対し、あらゆる資格をもっていた」と。彼は、ロシアを過去の最も汚い侵略者と比較することも躊躇しなかった。
 その侵攻以来、カガルリツキーのロブコルのユーチューブチャンネルとウェブサイトは、伝統的に反政府派メディアに向いているリベラルな視聴者よりもむしろロシア人左翼を標的に、マルクス主義の立場からの反戦コメントを掲載してきた。他の反戦派左翼とリベラル――8年前は彼とは主張の反対側にいた人びと――さえも、カガルリツキーのライブ放送に登場し始めた。
 たとえば反戦ブロガーのアレクサンデル・ステファノフが述べたように、カガルリツキーの活動はロシア当局には危険なものになった。なぜならばそれらが、反戦の反政府派の幅広い広がりに向け――そして特にロシア内にとどまった者たちに向け――結集点を生み出したからだ。
 2022年、当局は彼は「外国の工作員」と宣言し、彼にとっては国を出る時だ、とほのめかした。彼はとどまると決めた――刑務所に行く本当の危険にもかかわらず、そして今それが起きた――。疑いなくこれは、極めて勇敢で尊敬すべき行動だった。

不完全な現在が
反戦運動の母体


 カガルリツキーは過去の立場を捨てたのか? おそらくそうではない。彼は「絶対的なできごと」の理論を確固として守っている。そしてそれは、あなたがウクライナに対するロシアの戦争のような危機を前にしている時、過去の問題について功労も失敗もどちらも言わないことだ。
 カガルリツキーのアプローチは極めて実用本位だ。連携者になる潜在的可能性を秘めた者たちを排除する代わりに、それは、「絶対的なできごと」と対決する連合は開かれ、包括的になるだろう、ということを当然と考える。
 カガルリツキーのメディア活動は2022年2月以後、何千人にもなるロシア人の反戦の考えを形作ってきた。事実として、2014年と2015年の彼の立場が、穏健な愛国的考えをもつ者たちに彼が達する余地を得る助けになった可能性もある。そしてその者たちは、「理想的な」過去や鮮明な立場をもつアジテーターによっては、決して獲得されなかったと思われる。
 カガルリツキーは、領土的拡大にあこがれをもつロシア人の愛国的左翼の諸層を一度は支持したかもしれない。しかし他のよく知られた左翼は誰ひとり、何千人ものロシア人にひとつの単純な考えを、つまりプーチンの体制は犯罪的だ、ウクライナ侵略は犯罪的だ、それを正当化するものは何ひとつない、そしてそれは抵抗されなければならない、という考えを染み込ませるために、彼以上のことを行っていないのだ。
 それでも何人かは彼の過去の行いを許すことはできない。しかし今彼は彼の真剣な反戦の信念、戦争に反対する彼の行動を理由に勾留されている。この理由だけでも彼は国際的な連帯に値する。
 彼を解放するためのキャンペーンは他の理由からも重要だ。ロシアそれ自身内部の反戦運動なしには、ウクライナでの戦争を終わらせることは極めて難しく、おそらくあり得ないだろう。ロシア社会はもちろん理想とはほど遠い。しかし、反戦と反政府の運動が現れることが可能となるのは、その不完全な一代記を抱えるその不完全な人びとによる、この不完全な社会からのみなのだ。
 この運動を遅らせる者は誰であれ、害になることを行っている。カガルリツキーは18ヵ月の間それを近づけてきた。(2023年8月1日、オープン・デモクラシーより)

▼筆者は左翼のウクライナ人活動家で評論家。彼は2014年から、ウクライナ人極右からの肉体的攻撃後政治難民資格を与えられたスペインで暮らしてきた。(「インターナショナルビューポイント」2023年8月18日)  

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