米国UAWスト

EVs工場は圧倒的にノン労組
闘いはそれを変える力も秘める

どこで働こうが基本的な権利は同じ、をめざし

ダイアン・フィーリー

 以下は、UAWのストライキをめぐる諸背景を、特にEV化という大きな産業再編の中での労組の対応を中心に考察した、ストライキ突入前夜に書かれた論考だ。時間はやや経過しているが、大きな技術転換が提起する労働運動の挑戦課題を考える上で貴重な素材であり紹介する。また、EV化に対する日米の自動車資本と支配層全体の向き合い方の、はっきりした落差が見える点でも興味深い。(「かけはし」編集部)

EV移行へ気前のよい企業支援


 バイデン大統領が昨年8月にインフレ引き下げ法(IRA)に署名してからの1年で、電気自動車(EVs)に向けた刺激策と税支払い猶予が、米国におけるバッテリー工場の急発展の進行を加速してきた。EV工業は2031年までに2200億ドルと見積もられた金額を受け取るだろう。そしてこの自動車を購入する顧客は、3750ドルから7500ドルの範囲の税支払い猶予をポケットに入れることができる。バッテリーの構成諸部分の数を増す過半は、国内で生産され組み立てられる予定だ。中国がバッテリー製造で世界的な先導者であり続けるとしても、北米は欧州をしのいで、最速で成長するEVバッテリーの中軸として浮上することになった。
 IRAはまた、国内歳入規則にも追加的な製造業税支払い猶予を拡大した。諸企業は、再生可能エネルギーの生産コストの10%を払い戻される。この部門は単位バッテリー(バッテリーセル)生産の1キロワットアワー当たり35ドルの貸し付けとユニット生産の同条件に対し10ドルの貸し付けを与えられる。さまざまな分析は、10年間の税支払い猶予が単位バッテリー製造者に追加的な額として、1350億から2000億ドルを提供する可能性があると評価している。
 UAW委員長のショーン・フェインは、ビッグスリーとの高い賭のかかった交渉のど真ん中で、公的支出を労働者の保護に結びつけていないとしてバイデンの政策パッケージを批判した。IRAは建設産業向けには全般的に確立された相場賃金基準と見習い計画を含めているが、製造業における賃金と労働条件については沈黙を守っている。ファインは「UAWはクリーンな自動車工業への移行を支持し、それに準備している」、「しかしEVへの移行は、自動車労働者が新たな経済の中に1つの位置を占めることを確実化する公正な移行でなければならない」と、8月遅くの声明で語った。
 バイデン政権は、IRA1周年の少し後、自動車企業の移行を助けるために追加の155億ドルを公表した。組織された労働者に向けたバイデンの目配せが、その適用に関し労組組織化を認めた場合の超過ポイントを企業に与えたが、それ以上のものはまったくない。
 この追加はIRAにおける気前のよい施しに比べれば小額とはいえ、政権の二重の目標を強化するものだ。そしてその目標とは、中国を拠点とする製造業へのこの国の依存を引き下げること、および、2030年までに使用可能なハイブリッドと全面的な電気自動車の数を劇的に押し上げることだ。エネルギー長官のジェニファー・グランホルムが言うように、バイデン政府は、化石燃料への依存引き上げを国内育成バッテリー工業の創出に結びつけることを通して「世界的な製造業の原動力になる主体」構築を狙っている。

バッテリー部門が潜在的課題


 自動車諸企業とバッテリー製造業者はかれらとして、米国とカナダへの新しいバッテリー工場建設に1000億ドルを投資中だ。この技術が主には中国と韓国の諸企業によって発展させられたことを条件に、デトロイトのビッグスリーは、しきりにそれらと組みたがっている。自動車諸企業はほとんどの例で、UAWとの労働協約を都合よく迂回することにより、新しい工場を共同企業体として設立してきた。
 改革派として選出されたフェインは今、職の保証要求を交渉における優先課題にしている。デトロイト・スリーは、本日の深夜に満期となる契約に関し、かれらの回答を引き上げたが、しかし労働者の臨時的あるいは「穴埋め的」低賃金/手当過少層を維持する決意をしているように見える。明日始まるストライキはほぼ確実だ。
 労組は3企業横断のほんの僅かな工場でストライキを始めると思われる。他の全員は仕事をすると届け出ると思われるが、ストライキ準備を続け、また必要とあれば業務放棄の用意ができている。
 バッテリー労働者を「マスター協定」に抱え込むことは、EV生産が浮かれ上がっている中では巨人的な勝利になると思われる。しかしそれは交渉テーブル上にはない。しかしながら、米国の開花中の大量に補助金をつぎ込まれたEV部門内の労働者の未来は暗黙ながら存在している。契約がもし数々の譲歩を巻き戻すことがあれば、バッテリー労働者はUAWへと集まるだろう。

鍵になる生産工程の最初の工場


 最も普通のバッテリーセルはリチウムイオンだ。コストの効率性と蓄電の容易さで、それはリチウム、ニッケル、コバルト、また酸化アルミニウムから作られる。ボリビア、チリ、アルゼンチンで見つけ出されたリチウム埋蔵に加えて、ネバダ、カリホルニア、ユタ、ノースカロライナを含む半ダースの州にはリチウムがある。
 バッテリーセルはEV全部品総価値の25%から30%を構成し、サプライチェーンの鍵になる構成要素だが、賃金は低い。労働者の賃金は時給で平均17ドルから21ドル、諸手当も僅かであり、危険な労働条件が前にある。政府の助成金、貸し付け、また税支払い猶予には、EV向けのバッテリーセル組み上げに関する相対的に新しい方法で製品を製作している労働者に対し、相場賃金の条件が含まれていない。ちなみにひとつのバッテリーセルは、3つの要素、つまり陽極、陰極、そしてその間に収まる電解液を組み立てることで製品になる。各構成要素に使用される化学物質への日常的ばく露は、呼吸管、肌、あるいは目の炎症、すなわち吐き気、頭痛、めまい、また下痢を引き起こす可能性がある。激しいばく露は、人の腎臓や生殖システムに有害となる危険があり(致命的な打撃を含んで)、胚細胞の突然変異やガンに導く可能性もある。
 ばく露を最小化するために、安全規定が確定され、細心の注意で現状が注視され、最新の形にされなければならない。これらには、空気の質を監視すること、一定の化学物質を熱から遠ざけておくこと、特定の化学物質との接触を限定すること、さらにあり得る問題に関する完全かつ透明な情報提供と代わりになるものを探すことが含まれる。
 セルが小袋に収められた後、それらは別の施設――同様のノン労組の――でバッテリーセルの密なネットワークへと組み立てられる。

バッテリーセル生産の現実

 操業中の米国バッテリー工場の中で最も古いものはテスラのノン労組工場であるギガファクトリー・ネバダ(2017年)だ。この会社は開業以来、低賃金、レイシズム差別、労働法違反、さらに危険な労働条件といった申立に直面してきた。テスラの投資家たちはこの歴史にもかかわらず、今年税支払い猶予として10億ドルもの大枚をかき集めると期待している。
 LGエナジーソリューションとGMとの共同企業体、ウルティウム・セルズは、2022年夏に開業した。この企業は、施設を軌道に乗せるに当たってのコストを23億ドルと見積もり、労働力を1700人と計画した。初任給は時給16・5ドルで、7年後同20ドルになると計画された。今年GMの主席財政役員のポール・ヤコブソンは、税支払い猶予で3000億ドルを集めると期待している。
 この企業は、低賃金に加えて深刻な安全問題を抱えてきた。8月23日に起きた最新の事件は、メチル系化学物質(NMP)の漏れ出しだった。環境保護局はNMPを、商業的使用や消費者の使用のほぼすべての段階において、人間の健康に対する「途方もない危険」と明確にしている。他の心配を呼ぶ問題には、空気の質監視における頻度の低さ、シャワー設備がないこと、さらに脱出ルートの欠如がある。
 結果として、新規採用の労働者が行動を起こした。多くが離職し、一方他の者たちはUAWをかれらの労組にさせるためにカードに署名した。「カード点検」を通して会社が労組を認めるのを拒否すると、労働者たちは全米労働関係委員会に基づく選挙を申請した。2022年12月に2日間にわたって行われた選挙は、710票対16票でUAW支持という結果になった。
 労働者たちは先月、初任給を時給20ドルに引き上げた暫定契約を批准した(895票対16票)。これは労働時間を基礎に、バックペイとして3000ドルから7000ドルになるだろう。健康と安全を含む労働条件は依然交渉中だが、UAWは今UAWの全国協定ではまさに中心になっている安全諸方策を要求中だ。UAWの一報告、「ハイリスクと低賃金」は、化学物質によって病気になった労働者の事例を証拠立てて提供した。この報告は、不安全な条件下にある仕事を放棄する労働者の権利を含んで、UAWの全国協定内の強力で実行可能な規定を概括している。
 しかし労組がない場合――EV労働者の圧倒的多数の状況――、安全の問題はただ資金不足の労働安全衛生管理局(OSHA)によって扱われるにすぎない。UAW報告は以下のように結論づけている。
―近い将来、バッテリー工場には数万人の労働者がいるだろう。これらの工場における最良の実践を作り上げることは、今産業全体を貫く高い障壁を設定することになる。EVs組み立てを貫く鉱業から鉱物処理までのサプライチェーン全体の労働者は、ウルティウムの労働者が直面したものに似た多くの危険に対処することになる。気候の影響を小さくするためのEV生産引き上げは、この国のコミュニティ全体に危険な製造行為を広げるという結果になってはならない。あらゆるEV労働者は、がっしりした保護とかれらの仕事を安全にする発言権に値する―

浮かれ騒ぎのような工場建設

 当面、建設ブームがノン労組工場で続いている。
 ウルティウム・セルズLLCは今、テネシー州とミシガン州で各26億ドルのコストをかけて他に2工場を建設中だ。両方とも1700人を雇用し、ポーチ型のセル部品を生産予定だ。GMは、今回は韓国のサムスンSDIとの、分光式と円筒型のセル部品両方を生産する、4番目の合弁事業を公表した。
 フォードは、韓国のSKオンとの合弁事業をつくり出した。ブルーオヴァルSKは今、58億ドルのコストをかけてケンタッキー州内に2工場を建設中であり、5千人の労働者を雇用しようとしている。3つ目の工場は、フォードが電動トラックを組み立てるところに近いブルーオヴァル市に建てられる予定だ。この施設は、工場団地全体向けの総額56億ドルの投資に基づき2500人の労働者を確保する、と計画されている。フォードは今、ケンタッキーの工場から供給されるバッテリーセルを容器にまとめるための組み立て工場をカナダのオークヴィレで再形成中だ。
 この米国の3工場は、エネルギー局から92億ドルの貸し付けを受けたがそれは、バッテリー製造向けに現在まで連邦機関が承認した最大の貸し付けだ。この取り扱いは、計画がうまく進まない場合の債務免除を含んだ、有利な返済条件を提供している。
 ものごとは、フォードが中国のバッテリーメーカーのCATLと契約して35億ドルで2500人の労働者を抱えるリチウム燐酸塩工場建設を計画中の、ミシガン州マーシャルでは少し良好だ。フォードは労組の代表権に同意しなかったが、カード点検のプロセスを通して労組を認めることになろう、と語った。ミシガン州は、連邦の補助金と信用供与に加えて、サイトの準備向けに3600万ドル、用地獲得と樹木伐採向けに3億ドル、道路や他の必要インフラ開発向けにさらに3億3千万ドルを提供した。他の諸州も今それらの地域におけるEV工場向けにカネを払っている。
 ノン労組企業もまたEV施設ブームに加わろうとしている。テスラはテキサスのリチウム精錬施設を拡張し、テキサスとカリホルニアでバッテリーセル、中間集合体、完成品を生産することを計画している。バッテリー工場に投資している他の諸企業には、BMW(サウスカロライナ)、ホンダ(オハイオ)、現代(ジョージア)、メルセデス・ベンツ(アラバマ)、トヨタ(ノースカロライナ)、フォルクスワーゲン(オンタリオとカナダ)、ボルボ(サウスカロライナ)が含まれる。
 さまざまなバッテリー製造業者もまた新しい施設を建設中だ。これらには、日本企業のAESC(テネシー、ケンタッキー、サウスカロライナ)、中国資本のゴーション(ミシガン)、韓国のLGエナジーソリューション(アリゾナ、ミシガン)、新規のアワーネクストエナジー(ミシガン)、日本資本のパナソニック(カンザス)、韓国のSKバッテリーアメリカ(ジョージア)、そしてリサイクル企業のレッドウッドマテリアルズが含まれる。
 過去のUAW役員たちは、自動車産業の迫りつつあった再編に取り組まなかった。こうして労組は、戦闘的な対応を発展させる点で何年も遅れている。  

戦闘的労組でノン労組攻略へ

 フェイン委員長は、過去20年で65の自動車工場が閉鎖され、いくつかの部品工場が売却された、と述べている。その間この10年だけで、デトロイト・スリーは利潤として2500億ドルを稼ぎだし、自動車労働者の賃金と退職者の年金が停滞していた中で、CEOのさまざまを含んだ総報酬は爆発的に跳ね上がった。
 労組は、人が部品工場や組み立て工場やあるいはバッテリー工場のどこで働くとしても、それで違いは出ない――よい賃金の職、安全な労働条件、また仕事を離れた暮らしは基本的――、と力説している。ステランティスは、労働者が標準以下の賃金であるような分割の維持にこだわっている。GMは、その子会社で働く者たちに対し同じ要求を保持している。
 「ノン譲歩」契約に向け組合員に刺激を与えようとの新指導部の熱望は、ストライキの潜在能力に向けた組織化を意味してきた。かれらは、「民主的労組を求めるチムスター」(チムスター内の左派集団:訳者)が発展させてきたいくつかの方策を採用した。契約要求を討論するための同僚の結集法に関する訓練、水曜日の赤い労組Tシャツ着用、ピケットの実行、そして可能なところで、支部でのストライキ準備委員会、などだ。
 もっとも近いところでは、UAWがメディアに話す方法に関しズームトレーニングを開催した。これは、以前の指導部の常だった記者に対する交渉中の「ノーコメント」とははっきりした対照だ。これは、フェインのズームを通じた週毎の最新化された情報提供や諸集会への登場に加えて、組合員を交渉から遅れさせずに保ってきた。機関分派(何十年もこの組合を支配した)がそのようなスト準備や戦闘性は有害だと組合員に語っている支部では、組合員がこの障害を迂回して組織化するツールを確保している。しかし多くの支部指導者たちは、組合員の熱意を見てキャンペーンに加わっている。このエネルギーには伝染力がある。
 旧指導部は取り戻されたものを逆転できず、外国自動車の「移植」ではひとつも組織化できないことを示した。今、共同企業体のEV工場の成長が任務を複雑なものにしている。UAWの新たな戦略は、ノン労組工場の組織化のためにどんどん進むことに視点を定め、「ノン譲歩」契約を獲得することだ。それは労組員に、1930年代の座り込みストライキにならって自らをモデル化するよう、そして9月14日に「正々堂々のストライキ」を始めるよう訴えてきた。
 革新的な戦術と山を動かすことへの献身を備えたそのような戦闘的な労組のみが、EVバッテリー労働者を発奮させることができるだろう。(2023年9月14日、「ジャコバン」誌より)

▼筆者は、一般組合員労働者分派である「自動車労働者キャラバン」で活動する退職自動車労働者で、「アゲンスト・ザ・カレント」誌編集者。(「インターナショナルビューポイント」2023年9月21日) 

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