アゼルバイジャンは攻撃をやめろ

人道的危機に真剣な対応を

ナゴルノ・カラバフ


マイク・フィップス

 9月20日アゼルバイジャンは、いわゆる「対テロ作戦」として都市や村に爆撃を加え、アルメニアの飛び領土であるナゴルノ・カラバフへの軍事攻撃に乗り出した。その夜アゼルバイジャン大統領のイルハム・アリエフは、テレビ放映された演説で完全な勝利を主張した。
 200人内外の人びとが殺害され、さらに数百人が負傷した、と見積もられている。そこには高齢の女性や子どもも含まれる。砲撃を受けたマルチュリの市長は、死者のひとりだった。トルコのレセプ・タイイップ・エルドアン大統領は、アゼルバイジャンの軍事侵攻への支持を表明した。

紛争の経緯と
人道への脅威


 アゼルバイジャンは昨年12月、ラチン回廊を遮断することでこの係争地域の封鎖を開始した。これは、食糧、エネルギー、医療ケアがますます不足するようになったこととして、この飛び領地に住むアルメニア系市民に人道的非常事態をつくり出した。
 アムネスティインターナショナルとヒューマンライツウォッチは、この封鎖を糾弾し、国連司法裁判所ははアゼルバイジャンに、アルメニアとナゴルノ・カラバフを繋ぐ高速道路の「妨げのない通行を保証する」よう命じた。EU人権法廷もまた、自由な行き来を求めて声を上げた。両者の裁定はアゼルバイジャン政権によって無視された。
 アゼルバイジャンの軍事介入は長い間恐れられてきた。2020年10月アリエフ大統領は、「かれらが彼らの自由意志でわれわれの土地を離れないのであれば、かれらをわれわれが犬のように追い立てるつもりだ」と言明した。
 ナゴルノ・カラバフと周囲の領域は、1994年の分離主義者の戦争終決以来アルメニア系の支配下に置かれてきた。しかしアゼルバイジャンは、2020年の戦闘の中で周辺領域とナゴルノ・カラバフの諸部分を取り返した。その戦闘は、ロシアの平和維持部隊をナゴルノ・カラバフに置く休戦で終わった。この飛び領地は国際的に、アゼルバイジャンの部分であると認識されているが、12万人にのぼるその住民は99%以上がアルメニア人だ。

事態の受益者は
ロシアとトルコ


 ニコル・パシニャンの現アルメニア政府は、分離した共和国から距離をとってきた。パシニャンはテレビ演説でアルメニア人に「われわれは軍事的エスカレーションが今後続かないことを期待する。現在の条件では、安定を確保し、戦闘行為を止めることが非常に重要だからだ」と語った。彼は、ナゴルノ・カラバフのアルメニア人の安全にはロシアの平和維持部隊が全面的な責任を負っている、と語った。
 アルメニアの首都で抗議を行った者たちは異なった見方をとった。エレバンの中央広場には、パシニャン政府に対し、またアルメニア系の命を保護する点でのロシアと西側の失点とかれらが理解するものに対して、彼らの怒りを示そうと数千人が集まった。
 ロシア社会主義運動は糾弾の包括的な声明の中で、最近の展開が「侵略者があらゆることを罰せられることなくやり通せる」とアゼルバイジャン政府に明確にした、と思い起こさせた。それは、「この戦争の明白な受益者はまたプーチンとエルドアンの体制でもある。ロシアの外交政策は、彼の観点からロシアの影響圏に永久にとどまらなければならない諸国内での政治的主体性の明示をプーチンは絶対に容赦しない、と明らかにしている。……アルメニア内であり得る憲法に関わる一揆が、アリエフが解き放ったこの戦争のプーチンが望む結果だ」と語った。
 他の分析も同様だ。あるものは、何人かのロシア高官と著名な宣伝家がナゴルノ・カラバフで再燃した戦闘を「満足そうに眺めていた」と指摘し、ロシアの元大統領でロシア安全保障会議議長のドミトリー・メドヴェージェフが、「NATOで火遊びをしている」、またウクライナに支援を提供しているとして、テレグラムでパシニャン大統領に激しく襲いかかったという事実に言及した。メドヴェージェフは「彼を待ち受ける運命が何かを推測せよ」と語ったのだ。
 ロシア社会主義運動の声明は、アゼルバイジャンに敵対を即時に停止し、いかなる前提条件もなしに交渉を始めるよう、また国際社会にアゼルバイジャン指導部に制裁を課すよう訴えた。その指摘では、この夏数回、ラチン回廊を統制しているアゼルバイジャンの国境警備隊は、飛び領地を離れようと試みるアルメニアの男たちを拉致した。「これが意味したことは、アゼルバイジャンがその人道回廊を統制する限り、ナゴルノ・カラバフの住民の安全な避難には何の信頼も置けないということだ」と。

非現実的でない
民族浄化の危険


 アルメニア人は、かれらの歴史を基礎に、この地域でのジェノサイドを恐れる十分な根拠をもっている。ナゴルノ・カラバフの民族浄化ははっきりした可能性なのだ。
 ロシア系米国人の反戦活動家のアルシャク・マキシアンは、ステパナケルトの1女性からのスレッドをツイートした。それは次のようなものだ。
 「私が仕事からの帰り道にスメルチ〔スメルチミサイルの意味〕が私の上空で音を立てた。次いで2回目、さらに3回目と。いくつもの爆発があった。それは近く、アパートの建物が破壊された。それが私がどのようにしてか〔戦闘開始について〕を知ったことだ。……電力も食糧も全くない。店は開いていない。人びとは火をたき飲み水を温めようとしている。それは黙示録のようだ。……人びとは空港に集まり続けている。そこには子どもを連れた多くの若い家族がいる。かれらはテントで暮らしているが、そこには食糧も温かい食事の場所もない。……ステパナケルトに着いたクラスニーバザール村の住民は、恐ろしい話を伝えた。かれらは歩いていたがその隊列は銃撃された。そしてそこで、女性と子どもは文字通り助けもなく亡くなり続けた。……今、マルチュニとマルタケルトの町はアゼルバイジャン人に包囲されている。かれら〔女性の住民〕は『1日か2日の猶予を与える。持ち物をもたずにすべてを置いていかなければならない』とラウドスピーカーで告げられている。……しかしどう去ればいいのか? われわれは歩けない病人を抱えている。われわれにはペットがいる。われわれはどこに行くと思われているのか? われわれは9ヵ月間封鎖の中に置かれてきた。われわれにはガソリンもない。交通手段もない。また行く当てもない。かれらの軍はあらゆるところにいる。かれらはわれわれの車を銃撃中だ」。

EUの消極性
は許しがたい


 マキシアンは次のようにツイートした。
 「EU/UNは、アルメニア系先住民12万人を救出しかれらの安全な場所への避難を助けるために、急いで平和維持部隊をアルトサクに送らなければならない。EUは、フランスが1915年に行ったように、その地での難民申請権を与えなければならない。今こそ、2回目のアルメニア人ジェノサイドから人びとのいのちを救う時だ」。
 それでもEUは、アゼルバイジャン政権との結びつきを危険にさらすようなリスクを犯すのをためらっているように見える。2ヵ月前、EUの外務・安全保障政策上級代表のジョセップ・ボレルは、ナゴルノ・カラバフの「深刻な人道状況についてEUは深く懸念している」と公表した。しかしそれは、いかなる具体的な行動の勧奨にもいたらなかった。1年前EU委員会委員長のウルズラ・フォンデアライエンは、EUへのアゼルバイジャンからの天然ガス供給を倍化する協定に署名するためにバクーへと飛んだ。
 英国政府もまた、アゼルバイジャン経済への対外投資では主要な源になってきた。それゆえ、爆撃に関する英国政府のコメントがこれまでのところ以下のように言うだけだったことは驚きではない。それは、アゼルバイジャンの力の行使は受け容れがたい、しかし休戦の公表によって元気をもらった、というものだった。潜在的にあり得る人権の破局を前にして、そのような陳腐な言葉はショックを呼ぶものだ。(2023年9月21日、「労働党ハブ」より)
▼筆者は英国労働党の活動家。(「インターナショナルビューポイント」2023年9月22日) 

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