アルゼンチン 予備選後の選挙

左翼議員陣営の強化が重要な鍵

確実な闘争に向け幅広い社会的統一を

エジュアルド・ルシタ

 アルゼンチンで10月22日に予定されている大統領選と議会選の候補者を決定するために8月13日に行われた予備選(PASO)は、前から存在している不透明なことのどれをも明らかにしなかった。逆に、それらは危機をもっと悪くし、もっと大きな不確実性を生み出し、次期大統領選の結果を空白のままに残した。

政治的・経済的
な不確実性拡大


 公開の義務的な諸勢力の内部的選挙は、世界を覆っている極右政治の波がわが国にも届いたことをはっきりさせた。2001年が伝統的諸政党の危機を示し、それらを連携形成へと導いたとすれば、今回の結果はあらゆる連携を危機に置き、政治的・経済的不確実性の広がりを高め、危機を深めている(その最初の表れは、最低限の埋め合わせ計画もないままのアルゼンチンペソの突然の切り下げだった)。
 この選挙の展開の全体的枠組みは以下を特徴とするサイクル変化の始まりだ。◦今までのペロニズム内部の支配的潮流であるキルチネル主義の危機。そしてそれは全体としての運動に移されている。これは、何年も起ころうとしてきた危機であり、今回の大敗によって深刻化するだろう(注1)。それは、ペロニズムが再構成される可能性はない、またキルチネル主義が内部潮流として復帰を見る可能性もない、ということを意味するものではない。◦産業がまた知的産業部門の編入がどんな役割を果たすことになるのかの問題と一体的な、支配階級のブロック再形成。さらに、そのブロックの指導部は、常に居合わせている金融資本と並んで、土地に由来する利益から利益を得る資本のような部門(農業、炭化水素、そして鉱業)の支配に変わるだろう。
 しかしながら、今回のPASOがこの20年で競争が最も激しかった以上、この全体的構図だけでは棄権の増大を説明できない。またそれは、右翼のハビエル・ミレイが獲得した驚くべきパーセンテージも説明できない。そして彼の全国横断的得票には、人気と若者という両者の内容がある。

希望なき者が
希望を探して


 しかしながらここにはもっと深い原因があるように見える。3つの政権を通じて続いてきた(各自が以前の者よりも状況をもっと悪い状態に残した)社会的危機を前にしたあきらめと疲労が、もっと棄権を正当化するように見える。そうであっても、広大な社会層を貫いて存在する希望のなさ、未来はかれらからはぎ取られているという、また現在の条件の悪化以外の見通しは全く見えないという感情が、ミレイ支持の票と大いに関係していると思われる。
 それは、今希望を探している希望のない者たちの票、と言ってもよいかもしれない。この希望は、その結果に気づかないでいる層に対し、あらゆるものを根底から変えると約束するような者たちの中に見出されているのだ。

選挙を通じた
権威主義の道


 選挙に先立っては以下のような総意があった。つまり、採掘優先主義、輸出依存、経済安定(順応)化が、最終的に押しつけられた。いくつかのモデル間での争いはもはやない(勝利が見込まれる3人の候補者は、この路線について幅広い範囲を共有している。とはいえかれらも、手法、タイミング、さらに特定の法的適用の点では違うかもしれない)。
 しかしこの総意を超える形で、ミレイと右翼のPRO(共和主義派の提案)のパトリシア・ブルリッチは、今回の予備選が高めることになった質的飛躍をめざしている。かれらは、順応や自然の極度の搾取のもっと先に進んでいる。かれらは、経済と社会の関係両者に、また市民の諸権利や国の国際秩序への差し込み……に影響を与える底深い構造的変革をめざしている。
 違った時期には、ミレイやブルリッチの提案のようなものは、それを実行に移すためにクーデターを必要とした。しかし現在の極右の波という現象の中で、かれらは、民衆の票を通して、また自由民主主義の体制を通して政治的権力に到達する可能性を得ている。われわれの観点では、大統領選を最終的に誰が勝ち取ろうが、それは1つの政党の政府になり、かれらが行政を仕切ることにはならないだろう。問題は、現体制の枠内では議会もまた重きをなしている、ということだ。
 ラ・リベルタード・アバンザ〔LLA、あるいは自由前進連合〕が獲得すると思われる40人の議員に基づいて、それは議会の定足数を妨げることも可能だろう。しかしそれはまた、自身の法を通す上では困難も抱えると思われる。そしてそれは、フントス・ポル・エル・カムビオ〔変化のために共に〕とユニオン・ポル・ラ・パルティア〔祖国のための連合〕(UP、現与党の中道左派連合:訳者)という両者の連合勢力にとっても同じことだ。
 ミレイは早くも今、軽々しくとは言えない形で、国民投票を頼りにすることをあちこちで話している。それは、デクレト・デ・ネセシダード・イ・ウルジェンシア〔必要かつ緊急指令、あるいはDNU〕による統治を迫られる場合に、動員された社会的支持を獲得するひとつの方法であり、今何人かの社会学者によって「選挙制権威主義」と名付けられている。この光景を前に、左翼議員の陣営を強化することがまさしく重要性を帯びている。

社会的闘争
への準備を


 労働運動と民衆運動は、歴史的で社会的な達成成果、およびこの数十年に達成された諸権利の拡張に敵対する総力をあげた攻撃を前にしている。しかしこの国には、この攻撃に立ち向かう社会的かつ政治的な蓄えがある。
 人権を求める運動は、人道を問題とした裁判や責任ある者たちの投獄に関する見直しを許すだろうか? 合法的で安全、かつ無料の中絶に関する法を、また包括的な性教育を無効にしようとのもくろみを前に、強力な女性運動は議会の論争をただ傍観し見守るだけだろうか?
 伝統的な労組指導部は、拡大活動条項の廃止を簡単に許すだろうか? そしてその廃止は、あらゆる協定を崩壊させ、単一代表制の産業規模の支部を破壊し、企業別労組へと扉を開くと思われるのだ。巨大な環境運動は、自然の極度の搾取や気候変動とこの国へのその結果に対応しないのだろうか?
 これらへの回答は、今後戦闘が起こり、政党と社会的左翼の責任はこれらの将来の闘争を包含せずに結集させること、というものだ。
 しかしながら、この対応はすぐさまとはならないだろう。それは、現在と将来の順応に立ち向かうことを迫られるだろうが、しかしもっと全体的には、論争とそれが実を結ぶには時間がかかるだろう。その間には10月に、また決選投票……があるならば11月に総選挙がある。

不確実性は
いたる所に


 予備選後の日々にも情勢は悪化している。通貨切り下げが原因で、経済的にも社会的にもその両者で。そして選挙の見通しとしては、最新データによれば、ミレイの立候補への支持がすでに37%内外という形で高まり続けている。ミレイの票は固まっているのだろうか、あるいはそれは移り気を仮定したもろいものなのだろうか? 彼の経済的提案(アルゼンチン通貨のドル化など:訳者)は矛盾のないものなのだろうか、そしてもし適用された場合、それらは最後には大混乱をつくり出して終わる可能性はないのだろうか?
 世論調査は、予備選候補者の1位と3位間にほとんど差がない三者タイを示している。この差は、予想通りにUPのセルジオ・マッサを有利にして、公式集計によりもっと小さくされるだろう。したがって、総選挙結果はもっと不確実になっている。ミレイは第1回投票で勝利することで終わるかもしれない。あるいは彼は、最多得票で終わるだけかもしれない。マッサは3位に来るかもしれず、あるいは決選投票でブルリッチと競争するに十分な票に何とか届くかもしれない。

民衆陣営内部で
対応の論争進む

 この一連の来る選挙はまた戦場でもある。この選挙が抱えるジレンマをどう止めるかが今、民衆陣営のいたるところで論争されている最中だ。代わるものが多くあるわけではない。白票や棄権はすでに除外されている。それらが何の解決ももたらさないからだ。
 残っているものは、抵抗の強化で協力する目的の下に、フレンテ・デ・イスクイエルダ・イ・ロス・トラバヤドレス―ウニダード〔FIT―U、あるいは労働者左翼戦線―統一〕(注2)の完全なリストに投票すること、あるいはあり得るミレイ対ブルリッチの決選投票を止め、左翼の陣営を強化するためにマッサに味方する投票を行うことだ。
 このすべては、労働者階級と民衆陣営内の討論として存在し、これからの数週間にも現れるだろう。ただひとつ確かなことは、将来は実際大荒れとなり、最も幅広い社会的統一が必要になるだろう、ということだ。近い未来には、統治の危機も除外されてはならない。(2023年8月26日、ビエント・スル誌よりIV向けに訳出)

▼筆者は、マルクス主義論評誌のグアデルノス・デル・スルの代表で左翼エコノミスト(EDI)のアルゼンチン人グループおよび第4インターナショナルのメンバー。
(注1)この危機の指標は多くある。すでに2009年の敗北後、義務的内部選挙やPASOは、危機にあるペロニズムのさまざまな分派を抑えつつ、すでに完全に弱体化していた二大政党制の強化を追求するものだった。UP連合の一部であるフレンテ・パルティア・グランデのフアン・グラボイスの現在の立候補は、同じ意味をもっている。経済相のマルティン・グズマンが辞任した時、プランBが全くないことは明確だった。内部選挙の2ヵ月前、ペロニズムは一人の候補者も綱領ももっていなかった。諸々の知事と市長は等しく、全国選挙よりもかれらの領域の方を優先した。内部選挙で主役を演じた二人の予備選候補者のどちらも、ペロニズムを出自としていない。ひとりは社会キリスト教であり、他は最良の場合でも、追い詰められたところから社会自由主義へと徐々に進んだ。ペロニズムは今日、指導部を欠き、伝統的な上意下達主義は分解している。
(注2)FIT―Uは、労働者党(PO)、社会主義労働者党(PTS)、社会主義左翼(IS)、および労働者社会主義運動(MST)の連合。(「インターナショナルビューポイント」2023年9月28日) 

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