英国 新たな左翼政党組織化の議論を始めるのは総選挙後ではなく今

政治的混迷の深化前に
全主要政党への幻滅拡大をガザの虐殺が加速

フィル・ハース

 以下の論考は、保守党の選挙における後退、イスラエル/パレスチナ紛争をめぐる労働党内の混乱、さらに極右諸政党の台頭を含む英国における近頃の展開を分析している。そこでハースは、これらの傾向が、政治的な分極化の高まりと次期総選挙後の英国における諸対立、の一時期を指し示していると強調している。

政治的大激動の一時期が始まる


 先週(10月16日から同19日)のできごとは、英国政治における混乱だけではなく、いくつかの基本的な傾向をも照らし出した。保守党は補欠選挙で大敗を喫した。そしてリシ・スナク(保守党の現首相:訳者)は見下げ果てた忠誠というバイデンの誓約を繰り返すためにイスラエルへと急行した。一方キア・スターマー(労働党の現党首:訳者)は、ムスリムの地方議員が反乱する中で意味不明のことを言うだけになった。また蔵相のジェレミー・ハントは、次の選挙には立候補しないだろうと、分からせる―――非公式に―ようにした。このすべては何を意味するのだろうか?
 潜在的に政権奪取へのスターマーの道を脅かす新しい要素は、ガザと連帯する大衆運動の高揚だ。それは10月21日、ロンドンのいくつもの通りに数十万人を登場させた。また、ムスリムの労働党地方議員の数十人による反乱もあり、その中の何人かは議員団幹事を辞任している。そして、いくつかの世論調査では6~8%を記録するような、ブレグジット党からの連続組織である「英国改革」に対する支持のかなりの上昇もある。
 ガザにおける進行中の大惨事について、労働党のスポークスパーソンは「われわれは、イスラエルには自身を防衛する権利があることではっきりしている」と語り始めた。かれらは2、3日遅れて、緊急人道援助を認め、「国際法を尊重する」ようイスラエルに訴える点で、バイデンとリシ・スナクに加わった。これは明らかに、イスラエルの爆撃作戦、そしてその50%が子どもである社会における市民数千人の殺戮という問題を避けている。見え透いてくだらないことを話し回ることは、労働党のムスリム基盤、支持者、さらに地方議員内部の反乱を食い止めることにはならないだろう。
 以下でわれわれが議論するように、これは特別な一回限りの事案ではない。労働者の広範な層内部で労働党の政治的支持が解体することは、総選挙で党がどれだけ多くの票を獲得するかに関わりなく次の時期には避けられない。危険は、総選挙の前に、また特にその後、急進右翼の諸勢力が幻滅した有権者内部でひとつの基盤を獲得する可能性もある、ということだ。

総選挙意識した保守党のあがき

 しかしながら、リシ・スナクが最大の問題を抱えている。タムウォースとサウス・ベドフォードシャーの補欠選結果は、労働党への20%にもなる票の移行によって、メルトダウンとして保守党に脅威を与えている。投票意志のある者に関するひとつの世論調査によれば(注1)、もし総選挙が今日行われるならばとして、労働党は400議席以上を獲得することになり、他方保守党は118議席にしか達しないだろう。この世論調査では、自由民主党が29議席を得、緑の党は1議席だけとなるだろう。
 保守党の選挙の苦境を見てのうれしさが、英国の非民主的なシステムは緑の党や「英国改革」に対する大量投票をほとんど記録にとどめそうにない、という事実を隠すようであってはならない。確かにそうした票は、そうであっても結果に一定の影響を及ぼす可能性ももっているのだ。
 多くの保守党議員は敗北は避けがたいと考えているように見える。そして一議員として身を引くというジェレミー・ハントによる明らかになっている決定は、高度に意味がある。評論家によれば、ハントはある種の「ポルティロ転機」を恐れている。それは、保守党の蔵相のミカエル・ポルティロが彼の選挙区で2万もの多数票が崩壊するのを経験した1997年総選挙における不名誉なできごとだが、それは彼の政治的キャリアを終わりにした転機だった。
 ジェレミー・ハントは、元蔵相かつもと保健相として、おそらく投資銀行や私的な医療企業の中に、高給管理職の限りない見通しが開けているのを理解していると思われる。この後者の諸企業は、NHSへの私的な投資を可能にしている彼の大仕事で彼に感謝しているのだ。確かに彼は、フードバンクに行ったり、NHSの待機リストに載ったまま体が弱ったり、冬に彼の暖房を切ったままにするのを迫られるのを避けるに十分なほど稼ぐだろう。
 ふたつの補欠選挙当日、リシ・スナクはボリスのまねをし(注2)、国を逃げ出し、イスラエルに急行した。そしてそこで彼は、「われわれはあなたの勝利を期待している」との声明で、ガザの封鎖と軍事攻撃に対するバイデンの全面的な支持を超えた。
 バイデンの訪問同様、スナクの旅には明白な選挙上の動機があった。英国のユダヤ人コミュニティは小さいが、それは圧倒的なイスラエル支持の形で非常な刺激を受けている。しかし労働党の場合、不吉な統計ががひとつある。ユダヤ人有権者は僅かふたつの選挙区で多数だが、ムスリム有権者は36の選挙区で多数なのだ。

多数は労働党支持の効果疑問視


 労働党に関する限り、中心的政治的作戦は、ほとんど何も語らないことで、また何も約束しないことで、権力を奪取するというキア・スターマーのもくろみだ。具体的には以下のことだ。
◦ローズバンク油田開発を取り消すことの拒否、あるいは、抜本的な純産出ゼロを伴う何らかの実質的政策を約束することの拒否。
◦NHS、老人ホーム、他の公共サービスに対する資金支援における何らかの大幅増大を約束することの拒否。
◦公共サービスにおけるまともな賃金を約束することの拒否。
◦社会住宅建設の大規模な計画を約束することの拒否。
◦富裕層、エネルギー企業、その利潤を外国銀行口座に隠している多国籍企業に対する課税について、あらゆる大幅引き上げを約束することの拒否(注3)。
◦警察法、刑法、判決宣告法、公共秩序法のような反動的な保守党の立法を取り消す約束の拒否。先の法はそれらを繋いで、デモを禁止し、市民的不服従の最も穏健な行為をも理由に人びとを逮捕する、新たな権限を実質的に警察に与えているのだ。

 何の不思議もなく、多くの人々は今労働党への投票に何の利点も見ていない。スターマーと彼の中核的副官たちは、移民に関する保守党の政策を取り消すつもりがあるとの言明を拒否し、保守党が難民申請の滞貨に対処できていないと単に批判するだけで、難民申請者への安全なルートの保証を自分たちからは全く行わない。
 すでに、NHSスタッフ、鉄道労働者、教員、、また大学スタッフの1年以上になるストライキを労働党が支援できないことが、広範な幻滅をつくり出し、次の選挙では労働党を支持しないだろうと語るような、数知れない労働党の忠実な支持者を生み出している。残念なことに、左翼の実行可能な労働党に代わる政党は全く存在せず、ひとつは2024年の選挙以前には現れそうにない。

政党不信拡大が極右を再活性化

 「英国改革」はブレグジット党からの連続組織であり、事実上は同じものだ。労働党とは異なりそれは、その選挙公約を隠すことを軽蔑している。そしてその公約は、減税、気候変動懐疑論、また「移民純ゼロ」が中心軸だ。「英国改革」は今、ブレグジットは適切には行われなかった、と語っている。ナイジェル・ファラージはこの間彼の露出度を引き上げ続け、総選挙が近づく中で、彼は「英国改革」の指導的スポークスパーソンとしての彼の地位をおそらく取り戻すだろう。
 「英国改革」がたとえ得票率6~8%になったとしても、選挙結果に及ぼすと思われるその効果は正確には誰も予測できない。「英国改革」が北部とミッドランドの元レッドウォール選挙区(旧工業地帯で、労働党の岩盤選挙区地域だった:訳者)で大量票を獲得するならば、それは、現在の保守党多数をひっくり返す結果になる可能性もある。正確な予想をするには変数が多すぎるのだ。
 鍵を握るもののひとつは棄権数だ。前述した2補欠選選挙区では、低投票率が保守党敗退に重要な役割を果たした。以前の保守党支持者のもっと高い比率が総選挙に向け動員され得るということも全くあり得ることだ。しかしほとんどの保守党議員は、そのような結果を今期待していないように見える。匿名の与党事情通はガーディアン紙に、敗北は避けられない、と伝えた。
 「英国改革」は、政権向けの信頼できる綱領をもっているように見える。しかし現実にはそれは無意味だ。かれらは、低賃金労働者を所得税課税枠から外すことで生計費危機に取り組むことを提案している。これには賃上げという対抗案がある。しかしかれらは、大企業の、特に石油と天然ガスの企業の税金については何かを言うことを拒否している。移民純ゼロは移民をフランスに、あるいはどこであれ出身地に送り返すことで実行されるだろう。
 保守党の政策に関してこの週出たひとつのリークは、労働力の約13%になる最上位500万人、年に5万ポンド以上を稼ぐ者たち、に対する減税というアイデアだった(多くの最上位稼得者は申告されない手当形態で所得を確保し、ジャージー島のようなタックスヘイブンの銀行口座に所得を置いているという事実は、この数字を歪めている)。最上位課税層――年8万ポンド――にいる人びとは、かれらは経営できず、また税の軽減を必要としている、などと繰り返し不平をこぼし続けている。
 スコットランドの総選挙結果もまた、スターマーにとって潜在的な危険になる。労働党は補欠選挙で勝利しスコットランド議会の議席を倍増させた。しかしこれは、スコットランド国民党(SNP)指導者としてのニコラ・スタージョンの辞任とその所属議員ふたりの辞任を強いたような、SNP内スキャンダルに乗ったものだった。
 何人かの評論家はこれを基礎に、総選挙での20議席獲得という労働党の好転を予測していた。しかしこの補欠選挙の投票率は僅か37%であり、得票率が59%だったとしてもほとんど労働党承認の合図ではない。あらゆる主要政党に対する幻滅というこの情勢では、スコットランドでの結果を正確に予測することは誰もできない。しかしいくつかの世論調査は、SNPはその議席の半分を労働党に明け渡すだろうと語ってきた。

左翼の不在で悲劇的な情勢に

 保守党の右翼と労働党の左派についてはどうだろうか?
 議会レベルの労働党左派は、SNP議員と緑の党議員のカロラインを頼りにしたガザに関する批判決議がその支援者に20点を着けられるほどに、しおれた若葉になっている。労働党大会は全面的にスターマーの盛り返しによって支配された。スターマーが持ち込んだ仕事における原理的な行程は、労働党左派が存在し参加するあらゆる可能な空間を潰すというものだ。
 労働党機構の冷酷な支配は、選挙区レベルでの影響もまた消し去った。過去には、右派がベバン派護民官グループやベン派左派に憎しみを燃やした。しかし、労働党の諸要素としての彼らの正統性に異議は突き付けられなかった。コービン主義の敗北以後、左派は正統ではなくなり、スターマーの小指の合図で党から、あるいは支部から排除される可能性がある。労働党内のコービン主義は戻ろうとはしていず、少なくともわれわれの生きている間ではない。そしてジェレミー・コービン自身は、戦闘的な新たな左翼組織の組織化に向けたいかなる実質的な動きを行うことも拒否している。
 保守党右翼に関しては、策謀や自暴自棄がある。そしてその理由を理解することは容易い。ほとんどの保守党議員が午前に済ませていた高報酬の専門職を確保していたような日々は過ぎ去っている。ジェレミー・ハントやリシ・スナクとは異なり、ほとんどが議会外で途方もない富にたどり着くことができない時、年8万8千ポンドの議員報酬とそれに上乗せされるおそらく年5万ポンドの議員経費は大きな動機になる。
 ほとんどありそうなこととして、保守党は多数を失い、スナクは辞任するだろう。次いでスエラ・ブレーヴァーマンを伴って、さまざまな右派分派間の口論が生まれるだろう。ちなみに彼女は、過激な右翼の綱領に基づいて指導部を最も獲得しそうな群を抜く党首候補であり、その綱領は内相としての彼女の政策によって予示され、ボリス・ジョンソンよりもはるかにドナルド・トランプやイタリアのネオファシスト首相のジョルジャ・メローニに似ている。民主的な権利に対する厳しい抑圧、労組、さらに移民に対する残忍な抑圧が保守党強硬右派政治の中心になるだろう。仕上げは気候懐疑論になる。
 しかし、キア・スターマーに対するありそうな大衆的な幻滅を考慮する時、大衆的支持をもつ労働党左派が見えなくなっているだけではなく、不在なのは、スターマー指導部とその活動すべてへのオルタナティブとして行動できる信頼に足る左翼政党でもあるのだ。これは本当に悲劇的な情勢だ。
 ガザ連帯の10月21日のデモは、ロンドンで30万人、国中で数万人という巨大決起になった。2003年以後では初めて、反帝国主義のデモが高比率の若者――多数の学生、しかし重要なことだが、ムスリムコミュニティとガザに家族のつながりをもつ人々からの多数――を抱え込んだ。
 われわれは、気候崩壊だけではなく、ガザやウクライナで見せつけられたような永続的な帝国主義戦争の世界に入り込んでいる(注4)。あらゆる国際的な経験が示すように、幅広い左翼政党の建設には、革命的な反資本主義活動家の核となるネットワークが必要だ。それ以外では、改良主義の屈服と崩壊の危険が差し迫る。

社会主義者と左翼の統一不可欠


 さて、総選挙後の英国にはあり得る見通しが以下のようにある。
◦保守党の政権獲得。それは右翼保守党のたちの悪い同類による反動の祝祭に道を開くだろう。これは、イタリアのメローニ政権に数多くの類似点をもつ政権になると思われる。しかし、新たな保守党政権は高度にありそうにない。
◦自由民主党およびSNPから課題毎に支持を得る少数労働党政権。これは、スエラ・ブレーヴァーマンと「英国改革」でのリシ・スナク置き換えに、あるいは街頭にはびこるようになるファシストグループの連携に導くと思われる。労働党はその時、進歩的なことを何もできない不能さを、議会多数の欠如のせいにすると思われる。
◦右翼に包囲された過半数労働党政権は、労働者階級と貧困層を助けるために実体のある何かを行う能力のなさを、保守党から引き継いだ悲惨な財政状況のせいにすると思われる。急進右翼がどのように再編するかはまさに推測の問題だ。ポール・メイソン(元BBCキャスターのジャーナリスト:訳者)は、保守党は半ファシスト政治に大きな空間を作り出して崩壊する可能性もある、またわれわれは保守党が急進右翼を抑制する十分な力を保つよう期待すべき、と語る。この考えの問題は、保守党はすでに今急進右翼へと吹き寄せられている最中、ということだ。

 これらのシナリオのいずれも、英国政治における基礎的な対立の促進を意味している。上記進展の各段階が、信頼に足る社会主義的、環境保全的、そしてフェミニストのオルタナティブの不在を露わにするだろう。社会主義者はどのように組織化する必要があるかに関する論争は、来年の総選挙後ではなく、今始められなければならない。これがここでの重大な責任だ。社会主義者と左翼の統一の必要は巨大だ。それ以外では、急進右翼の危険な諸勢力がわれわれを出し抜き、民衆獲得でわれわれをしのぐだろう。(アンティ・キャピタリスト・レジスタンスより)

▼筆者はソーシャリスト・レジスタンスに寄稿している。
(注1)似たような数字を示しているオンライン世論調査サイトは数多い。
(注2)外相としてのボリス・ジョンソンはかつて、テレサ・メイの下でのブレグジットに投票するのを回避するためには、スリランカに向かうことが不可欠と気がついた。
(注3)億万長者たちは、世界の超富裕層の何人かがほとんどあるいは全く税を払っていないということを見つけ出したひとつの報告にしたがって、最低限の税率を前にするはずだ。EUの課税監視局は、ほとんどの民衆は、それによれば逃避として複雑な事業ネットワークを利用できる超富裕層よりも高い率で税を払っている、と語った。それは、億万長者の世界規模の富に対する最低限の2%課税でも、年に2500億ドルを集めるだろう、と示した。合算して13兆ドルの富をもつおよそ2500人の億万長者がいる。パリ経済学院の一部であるEU課税監視局による報告は、個人や企業がそれらの公正な負担に払うことを確実にする努力が過去10年どれほど成功したかを検証した。それによれば、百ヵ国以上にまたがる資産口座情報の自動共有が、海外での脱税をかなりの程度減少させた。しかしながらそれが語ったところでは、億万長者たちは所得課税を逃れるために、「見せかけの企業の頻繁な利用のおかげで」、それらの富に対する〇%あるいは〇・5%に匹敵する税率の支払いだけで逃げ通すことができている。そうこうしている間に、報告は企業に最低15%の法人税を確実に払わせるための2021年における140ヵ国間の合意を推奨したものの、それによれば、「増加一方の抜け穴リスト」によって、この計画はそれ以後「劇的に弱体化され」ている。
(注4)ロシアのウクライナ侵略はもちろん、帝国主義的侵略行為だ。(「インターナショナルビューポイント」2023年10月25日)  

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