イタリアとEU首脳の難民新方針

変わることのない制限強化

ガブリジオ・ブラッティーニ

 つい先頃のオランダ総選挙で極右政党が反移民扇動を展開して第1党になった。問題を誇大に膨らませ、人びとの不安をことさらに煽る問題の政治的利用も大きく作用しているとはいえ、ともかく今EUでは、移民問題が政治を左右する人々の関心事になっていることを窺わせる。以下は、その一端を示している。(「かけはし」編集部)
 メローニとピアンテドシ(注)がイタリアに増やそうとしているキャンプで最後を迎えることを避けるためには、4938ユーロにもなる「国家保護」費(ピッゾ・ディ・アタト)を払うよう移民に求めることで、リビアのキャンプを運営するマフィアをまねするような傲慢で不吉な決定は、支配的な右翼の諸政策を要約している。

銀行とは和解し
難民とは戦争へ


 天文学的な借入利子を払わせ市民を困らせて銀行が蓄積したとてつもない利益を抱える億万長者に税をかける、という嘘っぽい提案(政府はもっとも貧しい者の側にいる、と騙されやすい人びとを信じさせた提案)は取り消されたばかりだが、かれらは移民を困らせてカネを作りたがっている。実際政府は、指揮官たちと署名を交わしたメモランダがあろうと、EU大統領のウルスラ・フォンデアライエンが提起した「10項目」があろうと、また首相と彼女の閣僚たちの脅迫的なメッセージがあろうと、移民は今後もイタリアと欧州に流れ込み続けるという事実に気がついている。
 政府が決定したこのゆすりは、「安全な国」、つまり戦争が全くなく、民主的な権利や人権に制限が全くないような国からやって来る移民に圧力を加えるものと想定されている。しかし、特に南の諸国の場合、どの国が「安全」と認められてよいかの問題が発生するのだ。
 新非常指令の中に規定された他の諸方策も、いわゆる緊急性を解決せず、移民の権利と人間的尊厳を掘り崩すだろう。またそれだけではなく、わが国における民主主義に対する新たな、一層深刻な攻撃ともなるだろう。それらを挙げれば以下のようなものだ。
 つまり、永続的本国送還センター(CPR)の増設、それらの紛れもない集中キャンプ(「監視しやすく、人口密度が極度に小さな地域に設置された」)への法制化、「難民申請者」に対してすら適用される「行政的拘留」期間の18カ月への延長、CPR管理の国防省への、つまり軍隊への委任、出身国や通過国の支配者との協定やメモランダを通した「海上封鎖」という新たな脅し、だ。

非常事態との
夢想的大騒ぎ


 1週間で数万人の移民がイタリアに到着したという理由で、非常事態との叫びが起きてきた。しかし、もっとも新しいデータにしたがって数をよく見てみよう。迫害、紛争、また暴力を逃れる人びとの数は世界総計で1億850万人、難民の40%は子ども、と見積もられている。最大数の難民を受け容れている国はトルコ、イラン、コロンビア、ドイツ、パキスタンだ。世界の難民の4分の3は、中、低所得の国で受け容れられている。
 EUには2022年に88万人、2021年には54万人の難民申請者――世界の難民の1%以下、EU人口の2%以下――がいた。しかし、現象が管理可能な領域であるにも関わらず、デリケートな選挙の接近(来年6月のEU議会選)が、EUのあらゆる政府と政党を今、あらゆる真剣な迎入れ政策から距離をとり、またダブリン規約(難民申請処理を担当する国を決定する規則を規定:訳者)の見直しを無期限に延期する競い合いへと圧力をかけている。

レイシスト的で
階級的ビザ政策


 他方で、EUもそのメンバー諸国も、「第三国国民」に向けた入境政策をあらためて明確にすることを深く考えたことはなかった。それは常に、あからさまなレイシスト的で差別的な原理を特徴としてきた。
 2001年以来、EUビザ規定は、EU諸国への入国(「対外国境を越える」)に際しその市民がビザ所有が必須である国をリストに挙げてきた。そしてそれらを「ホワイト・リスト」(その市民がビザ要件から除外される国)と「ブラック・リスト」(その市民がビザ要件に従わされ、そこに向けEU領事当局がしたがって自由裁量の権限をもつような国)に分断した。
 現実には、この「自由裁量」ですら極度に限定的かつ階級的だ。事実上それは、人びとが仕事目的の移民に余地を残さないような資産と所得をもっていると証明できる場合にのみ、「ブラック・リスト」に載っている国の非EU国民にビザを与えているからだ。
 もちろん、EUビザ規定の中では、「人種」や宗教や社会階級は、ブラック・リストとホワイト・リスト両者の資格証明のための基準とは明示的に述べられているわけではない。しかし、差別的、レイシスト的、そして階級的なアプローチはそうであっても明らかだ。あらゆるアフリカ諸国(例外なく)がブラック・リストに載っている。アジアの場合は、日本、韓国、マレーシア、ブルネイ、シンガポール、台湾、東チモール、アラブ首長国連邦、そしてイスラエルのみが除外されている。
 ムスリム多数派諸国すべての市民――シンガポール、マレーシア、ブルネイ、アラブ首長国連邦を例外に――が、ヒンドゥー教徒や仏教徒が多数であるすべての国同様にビザ要件に従わされている以上、宗教的志向もまた一定の影響をもっている。そして両者のリストに関する客観的な調査もまた、様々な国のひとり当たりGDPとの強い階級的相関を、いくつかの形で肌の色や宗教的志向との相関よりももっと強いとさえ言える相関を明らかにしている。
 他方、2001年に最初のリストが書かれてから21年で、この2つのリストは周辺部だけしか修正されていない。たとえば、いくつかのカリブ海諸島(アンティグア、バーブーダ、バハマ、ドミニカ、グレナダ、など)、モーリシャス、セイシェル、そしていくつかの太平洋諸島(キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ)向けのビザ免除という修正だ。これらのリストの場合の「観光」動機は明白だ。
 その上に、移住するという選択を多くの場合正当とする理由を基準に含めることで、再考慮される必要があるのは、「政治的難民」の概念そのものなのだ。そこにはたとえば、経済的将来性の実体的欠如、荒廃が進む環境的保証の欠如、高まる不平等、エリートの腐敗などがある。
 そして「かれらを本国で助けよう」とのレイシスト的唱和は、これが「誠意から」また十分な資金を条件としてと仮定するとしても、体系的に元植民地宗主国の責任とぶつかり合っている。後者はそれらの元植民地を、全面的に信頼できない指導者たちに任せ、新植民地主義の略奪的ふるまいで共謀し、19世紀の直接的植民地主義とあまり違わない、そのような行動をしてきたのではなかったか?

斬新さが皆無の
EU大統領提案


 9月のラムペドゥーサ島(チュニジア沖合にあるアフリカにもっとも近いEU領域の島、欧州をめざす特にアフリカの移民が最初の到達地として選ぶことが多い:訳者)訪問後にウルスラ・フォンデアライエンが提案した「EU計画」の10項目は、いかなる新しい部分も提案していない。
 第1項目(でっち上げられた「非常事態」対処向けのイタリアに対する「EU援助」の約束)は、メローニ政府(ラムペドゥーサ市民から糾弾されてきた)の怠慢な準備欠如とデマだらけの怠惰を覆い隠すのに役立つにすぎない。
 第2項目(「自発的連帯メカニズム」を基礎とした他の終着地への移民移送に対するEUによる「努力の段階的引き上げ」)もまた、「主権至上主義」諸国によってだけではなく「EU中核」部分である他の諸国によってもあからさまに妨害を受けるような、偽善的なつもりの問題にすぎない。
 第3項目(「本国送還に向けたフロンテックス〈欧州国境沿岸警備機関〉組織の支援」)、第4項目(「人身売買人と闘う行動の強化」)、第5項目(フロンテックスによる「空海監視の強化」)、第6項目(人身売買人の資材調達を阻害する具体的行動)はすべて、陰謀論的論理で「人身売買人」の問題に取り組むという言明だ。それはあたかも、大量移民現象は人身売買人の行為の結果であり、離れるためであれば何でもやる用意がある何千人という民衆のコミュニティ全体に充満する絶望の結果ではない、と言っているかのようだ。
 第7項目(実証されない移民を拒絶し、申請を提出していた移民を出身国に送り返すことによって、移民が提出した申請の点検速度を速めるための、「EU難民機関」職員による助力)は、問題になるような遅さ、および担当のイタリアの委員会が難民と保護の申請を調べている似たような遅さの速度を上げる点では有益になるかもしれない。しかしその効果は結局のところ、まじめな受け容れ政策を策定するかどうか次第であり、そしてその期待は、この数ヵ月にメローニ政府が行った選択によって全面的に裏切られている。
 第4項目(本国送還の時にも移民保護を確実にするための「国連機関との協力の強化」)、および第10項目(「チュニジアとのメモランダム実行」)は、イタリア政府が実行したいと思っているようなさらに不快な政策との、EUの全面的な共謀を示している。
 第5項目(人道回廊を強化することによる、非合法ルートに対する実行可能なオルタナティブの提供)が残っている。そしてそれはおそらく、この計画中の唯一の斬新さだ。しかしそれはおそらく、選挙キャンペーン、およびさまざまな政党の政治的重荷を引き上げようと試みるためのこの問題の冷笑的な利用、というデマに満ちた全体構図の中では、ある種の死文のまま残される運命にある。

政府の政策の
本当の狙いは


 「移民」の問題に対する回答は、「人道主義」の領域でのみ評価されるわけではない。イタリア資本主義の経済の場合、「非正規」であることを理由に脅され得る労働力を搾取する可能性は絶対的に、利潤の無視できない要素になっている。これが、移民の流れの正規化というあらゆる仮定に対する変わることのない反対の根源だ。
 それはまた政治的な「使用価値」でもある。「スケープゴート」に対する変わることのない糾弾、また「侵略を前にした緊急事態」についての何度も繰り返される議論が、プチブルジョアジーを、またそれだけではなく民衆的有権者をも、実体的社会問題と支配階級の真の責任からそらすことに力を貸している。かれらは今、抑圧的諸方策の採用を欲している者たちを軸にした総意を築き上げようと試みている。現実にその諸方策は、移民に対してだけではなくあらゆる者にも利用されるだろう。
 われわれは、そして以下を声高くはっきりと言うが、全員に対する居住許可、およびあらゆるところで認められるべきな移動の全面的自由を支持している。(初出は、「シニストラ・アンティカピタリスタ」2023年9月25日)

▼筆者は、CGIL(イタリア労働総同盟)の労組活動家で、1968年以来第4インターナショナルイタリア支部で活動してきた。
(注)極右政党のイタリアの同胞(FdI)の指導者であるジョルジャ・メローニは、2022年10月22日以後首相になっている。同盟に近いマッテオ・ピアンテドシはメローニ政府の内務相。(「インターナショナルビューポイント」2023年11月8日)

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