米国2024年選挙 機能障害と歪みが限界的段階に
老化したのはバイデンではなく米国の政治だ
アゲンスト・ザ・アレント編集部
米国では今年11月に大統領選、下院選、および上院3分の1の選挙が行われる。世界に大きな影響を与える選挙であり、現状では、トランプ政権の再来も大いにあり得ると見られているからにはなおのことその行く末は重要な意味をもつ。以下では、その選挙をめぐるいくつかの動きを取り上げた上で、その結果を左右する重要な要素が論じられている。(「かけはし」編集部)
嫌悪の程度が最低の者を選ぶ?
2極化、渇望、また危機に苦しめられた米国の中で、断片化され分裂した有権者の幅広い層は少なくとも、かれらが欲してはいないものの上に、つまり、ジョー・バイデンとドナルド・トランプ間の2024年大統領選という2020年の再現の上に、とにかく共通の土俵を見出している。それでも前に控える11ヵ月というその見せ物――変化を仮定とした、しかしそれも容易ではないのだが――は、まさにこれからわれわれが受け取ることになるものだ。
そのような見通しは、トランプの刑事裁判とバイデンの政策的よろめきと並んだ、同時並行的政治的アジテーションとしらけの奇妙な政治的空気を説明するかもしれない。労働者階級の民衆を含む何百万人という有権者(トランプ・カルト信者は別として)は、かれらが本当に好んでいる選択のためにではなく、少なくとも嫌悪の程度が最低の大統領候補者と政党に自分が投票していると気づくことになるだろう。
何らかの希望による興奮というよりもむしろこの沈滞もまた、次の理由を説明する。つまりひとつは、反ワクチンとレイシストで証明された変人候補者のロバート・F・ケネディー・ジュニアがひとりの無所属として支持率が24%の高さにあることの理由であり、あるいは、右翼の民主党上院議員のジョー・マンチンが、どんな形であれ選挙を投げ捨てる可能性もある「中間層を動員する」ための「ノーラベル」第三党キャンペーンを引き受けるかもしれない理由だ。
トランプの大統領職復帰が意味するかもしれないことを誰も過小評価してはならない。そこには、難民申請者向けに建設される公然とすでに約束済みの収用/追放キャンプ、親パレスチナ活動を理由とする学生の強制追放、報道に対する狙いをつけた攻撃、体制忠誠者で置き換えるための政府職員大量解雇、1月6日の反乱者に対する全面的恩赦、そして帝国主義の世界的管理におけるどれほどになるか誰も分からないような動乱がある。
トランプへの共和党競合者として先頭に浮上中のニッキー・ヘイリー(トランプ政権での国連大使:訳者)のキャンペーンは、コーク兄弟の「繁栄を求める米国人」(金権政治)によって承認されている。これは、反動を大いに打ち固めるもくろみを、しかしもっと大きくは、トランプと彼の見通せる第二期が内包する手に負えない犯罪性への既成エリートのネオ保守派のオルタナティブを意味する。その選択肢は確かに、米国資本家の多くにアピール力をもつと思われる(デトロイトニュースにおけるひとりの右翼評論家のノーラン・フィンレイは、ヘイリーが「ノーラベル」の候補者になることを主張している)。
草の根の活動と皮肉な結果
一方的に過度に寒々とされた光景を避けるために、われわれは違いを作っている社会的な行動の前向きな側面をいくつかあげなければならない。第1は、この間頻繁に議論してきたように、自動車労働者にとっての大きな成果を伴った、またUPS(米国最大の宅配企業:訳者)における労組の契約、およびテスラやアマゾンのような組織化の場における前進で頂点を印している、労働者の活動の復活だ。
第2は、現在の決定的な時における、ガザとパレスチナに対するイスラエルの戦争での停戦を求める、街頭への殺到だ。
第3は、冷笑的で深く悪意のこもった右翼の反中絶の過激さに対し、民衆的反感が継続していることだ。その過激な活動は、禁書や州レベルの有権者抑圧諸方策と並んで、女性の命を「プロライフ」運動の生け贄に捧げる準備をしているのだ。
それらの例は階級と社会の運動が続いていること――中でも中絶、トランスや住宅の公正の問題をめぐる闘いを含んで、無数の州、地方、コミュニティの闘争によっても示されるように――を示している。これらが全国選挙政治のレベルでは多くの建設的なエネルギーを生み出していないという事実は、歪められ、機能障害を抱える政治システムを示すひとつの指標だ。
われわれはこの場で、選挙のデータに関し予言したり議論したり、あるいは無所属の進歩派オルタナティブの見通しについて(当面)真剣に取りかかるつもりはない。後者の決定的に重要な可能性は将来の徹底した討論の主題にならなければならない。ここでわれわれは、選挙シーズンの始まりにおける多くの皮肉な結果のいくつかを検討したい。
バイデン―ハリス政権が少なくとも合格点を得、またおそらくは拍手も得るはずの政治領域があるとすれば、それは、ポストパンデミック経済の全般的な健康状態だと思われる。それでもそれはまさに、世論調査が「共和党にもっと大きな信任」を示しているところであり、そしてその共和党の政策は、もっともあからさまに富裕層を富ませ、貧困層を貧しくし、財政的に責任を果たすふりをしつつ赤字を貯め込むものであったのだ。
それは、ポピュリズムとしてポーズをとる金権政治からなる驚くような公的諸関係の勝利だ。民主党の専門家と機関要員は、「バイデノミックス」がそれに値する承認を集めることができていない、とありありと苦しんでいる。この明白な変則の理由は、民主党の陳腐な「メッセージ力」をはるかに超えるものだ。
確かにこの政権は、何ほどかの刺激を、また社会変革の潜在的可能性をも抱えた(その多くは、中国の台頭への対抗に関する民族主義的レトリックに覆い隠されて登場したとはいえ)「ビルド・バック・ベター」計画に基づいて任期に入った。それがバーニー・サンダースの机とグリーンニューディールの野心から登場する中で、その綱領は、年間軍事予算の半分のようなものに達する、いくつかのまじめな連邦支出――インフラとエネルギー移行に関する――を含んでいた。
しかし中でもマンチン上院議員のおかげで、この計画の最良部分は「インフレ削減法」になったものにまで摘み取られた。たとえば、米国の子供の貧困を半分に切り下げた――この残酷な不平等社会における極めて有意義な成果!――パンデミック救出補助金は終わりになった。こうして、マンチン自身の州では――公式のセンサス・ビューローの評価によれば――、ウェストバージニア州の子ども貧困率――この国で最高――は、2021年から2022年までに20・7%から25・0%へと上昇した。
もっとも重要なこととして、回復のある程度の利益は圧倒的に住民中の高所得層に流れている。 そしてこの層はそれらの必要が最も少ないのだ。低中所得の、あるいはもっと少ないレベルの庶民は、かれらの日常生活に何らかの違いが生まれているとしても全くほとんど実感していない。
インフレレベルは、その短期的な8%からかなり下がっているが、しかしそれは今も基本的な必需品価格をかつてよりもはるかに高いままに残している。その中で、表面上「インフレ抑制」のために必要とされた連邦準備制度理事会利率高騰はそれ自身で、特に若者たち(および多くの限定された所得の高齢市民をも)を苦しめている住宅危機を悪化させてきた。
累積的結果は、当座としてマクロ経済統計はほどほどよく見えるが、しかし何千万人という民衆の場合、実生活の経済はそんな感じはしない、というものだ。それが、現政権、すなわち2024年のバイデンにとっての選挙の見通しに害を与えている。それは2020年にトランプに対し起きたことと同じだ。
さらなる皮肉としての人口動向
共和党が極右的愚行へと猛烈な勢いで進んでいる丁度その時に、それが永続的な周辺化へと押しやられるはずと思われる要素がひとつあるとすれば、それは、米国がもはや人口統計的に「白人の」国ではなくなりつつあるということ、および若年層が以前の層よりもめいめいがもっと多様化しているということだ。
今日の共和党をすっかり支配している白人至上主義者、キリスト教民族主義者、そして宗教的右翼イデオロギー――もちろんトランプ・カルトを含んで、しかしそれにとどまらない層――の正面の標的になっているのは、まさに若いアフリカ系米国人と他の非白人移民コミュニティ、またLGBTやノンバイナリー住民だ。
それでも、民主党の当然視された圧倒的多数が狭まりつつあるところこそ、まさにこれらのより若く、より白人から遠い、またより豊かでない層なのだ。世論調査は今、アフリカ系米国人の4分の1近くがバイデンよりもトランプを好んでいることを示している。幻滅の度を示す驚くばかりの(一時のことと分かるとしても)指標だ。
何が起きてきたのか? われわれの主な考えは、それは、民主党が過大な約束を行い、実のある変化――人種的な公正、学生債務軽減、移民改革、気候変動の取り組み、そしてさらに多くの点で――を過少にしか届けなかった、ということだ。部分的にも、(第1期)トランプの悪夢からの安堵感が消え去るまでは時間の問題にすぎなかった。
またある程度まで、バイデンの年齢と動きの悪さもまずい外見を示している。しかし、2024年の民主党の見通しを本当に今傷つけている鍵を握る諸問題に関し、老いぼれているのはバイデンではなくアメリカの政策なのだ。
これは特に、現在のガザでのイスラエルのジェノサイド戦争に表示されている。民主党の支持基盤の決定的な若い層は、ますますパレスチナに共感を示し、党の伝統的なイスラエル無条件支持から遠のき、もはやずっと前に死んでいる「二国家解決」に関する弱々しい泣き言には騙されていない。12月1日の全面的なイスラエルの攻撃の再開は、軍と入植者の度を強める殺人的暴力と並んで、虐殺へのワシントンの積極的な共謀に対する深まる一方かつ絶対的に必要な嫌気を加速している。
アラブ系米国人とパレスチナ人コミュニティに関する限り、「ジェノサイド・ジョー」バイデンに対する憤激は、読者がそれをまだ見たことがないのであれば、表現するのも難しい。2020年の民主党の成功で鍵になったミシガン州デアボーンのようなコミュニティの指導者たちは今、「代わりの者がもっと悪いとしても、われわれはバイデンには決して投票しないだろう」と公然と誓っている。この瞬間、この感情が次の11月に投票や棄権にどのように移り変わるかを言うことは不可能だ――「あらゆる政治は現場にある」との格言を心にとどめつつ――。しかし民主党は、その重要性を過小評価しているとしても、強情に顔をそむけている。
さらに強い注意を求めるもうひとつの要素は、進歩派の親パレスチナ下院議員、たとえばラシダ・タリブ(ミシガン)、コリ・ブッシュ(ミズーリ)、イルハン・オマル(ミネソタ)を予備選で敗北させるための、AIPAC(アメリカ・イスラエル公事委員会)、および右翼の資金源からの両党向けマネーの洪水だ。AIPACは、タリブに挑戦するつもりのあらゆる候補者に向け、2千万ドルを投じると約束し続けてきた。これらの注力における民主党指導部の共謀はどんなものでも、致命的な選挙結果になる可能性があると思われる。
自ら生み出し解決できない危機
バイデン政権を苦しめているもうひとつの問題は明らかに、移民と難民をめぐる危機だ。これは、帝国主義が解決できない問題を生み出していることを示す強力なひとつの事例だ。南部国境で入国を求めている必死の難民と難民申請者多数が、米国とメキシコ北部の都市、町、さらにかれらを保護しかれらに食糧を提供しようと試みる支援ネットワークを埋め続けている。
難民危機は、われわれはそれを討論してきたが、完全に二大政党による何十年にもなる破壊的政策の結果だ。つまり、メキシコで家族農業の多くを一掃してきた何十年にもなる「自由貿易」、中米でのジェノサイド的反革命戦争、ベネズエラとキューバの解体に大きく力を貸している経済制裁、ハイチでの連続的な破局的介入、さらに多くだ。
そのすべての中で最悪なものとして、常軌を外れた米国の「麻薬との戦争」の50年があり、それは、麻薬取引を、北米の命とコミュニティを粉々に壊す中で暴力的な犯罪カルテルに移し換える点で、これ以上鮮やかな仕組みにされることはなかっただろう。
その頂点で、気候変動の度を増す作用が、たとえばホンジュラスのコーヒー作物のようなギリギリの生存手段を一掃しつつある。われわれは以前、必死の移民の旅路と悲惨は広がりとして世界的と述べてきた。それは、地中海における惨事、およびイタリア、英国、さらに他の欧州諸政権の冷酷さで示される通りだ。
この危機は、それをかれらが作っているわけではないとしても――そして「代わりの者」が共和党のむき出しのサディストだとしてさえ――、政策に関するバイデン政権の掌握力への国内的信用を徐々に浸食する。
新しく採択されたテキサス州の法は、何らかの口実で、あるいは何の理由もなく「非合法」と疑われた者の逮捕を現地警察に、また現地裁判所に、拘留と追放の手続き開始を可能にしている。この法は、移民に関する明瞭な連邦の裁判権を奪う点で、その適用ではあからさまな憲法違反であり、そこに暗黙に含まれるものは、勢力を誇る白人多数合衆国最高裁(WSCOTUS)だけがおそらくそれを支持しそうに見えるが、まさにファシズム的だ(ACLU〈アメリカ自由人権協会〉は、2月にこの法が効力をもつ前に、裁判所への異議申立を準備中だ)。
右翼と共和党が自爆の決意であるように見えるひとつの分野がまだ残っている。つまり、米国内での中絶禁止とその犯罪化を完遂しようとの突進だ。中絶の権利が有権者の選択の問題になっている州では、次々とそれは勝利している。それも決定的に。ホワイトハウスと下院の共和党全勝が内包する恐るべき含みは、女性だけではなく全有権者の大きな塊を民主党の側に維持するだろう。敗北中の反中絶十字軍を続行する共和党の決意は、ジェンダーや人種や社会の読み解き方に対する全体的「文化戦争」的猛襲――図書館、学校、大学キャンパス、また他のあらゆるところでの――におけるその問題の中心性に根をもっている。
この亡霊はもしかしたら、トランプ・カルト以外のほとんど誰もが実際には望んでいない差し迫る2024年選挙の選択後の民主党の権力掌握を、ほんのわずかに守るかもしれない。それはつかむにはかなりひ弱なアシであり、確実に、進歩的な左翼が当てにできるものでは全くない。
オルタナティブのための闘争は、労働者に関し、パレスチナに関し、移民とリプロダクティブの公正に関しこれまで見てきたような高揚中の活動を始めとして、他のところを見つめなければならない!(「アゲンスト・ザ・アレント」誌2024年1・2月号より)(「インターナショナルビューポイント」2024年1月1日)
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