フランス 漂流深めるブルジョア政治

移民に関し極右の主張への同調へ限りなく進めるマクロン政権

極右の攻勢に釣り合う決起の建設が急務

レオン・クレミュー

 今欧州では、右翼、極右による反移民プロパガンダが吹き荒れている。それらの勢力の伸長をめざす移民をスケープゴートにした民衆扇動だが、その中で伝統的ブルジョア政党自体でも大きく右傾化が進み、政治の混迷が深まっている。以下はそのひとつとして、首相交代を迫られたフランスの事態を伝えている。(「かけはし」編集部)

極右から広がる移民の政治利用


 マクロンと彼の政府は、極右の支えに基づいて、非EU外国人に向けた差別的でレイシスト的で外国人嫌悪の政策採用への派手な1歩に踏み出した。
 マクロン派の連合、右翼の共和党(LR)、そして極右のRN(国民連合)の共同した投票によってフランスで昨年12月に採択されたばかりの法は、ほぼ40年前の1986年に採択されたもの以後フランスではもっとも退行的であり、そこにはもっと反動的でさえある諸側面が含まれている。それは全面的に極右の基礎的前提と一致している。そしてその前提は、「移民の洪水」や移民によって生み出される経済的かつ社会的不均衡というおとぎ話を煽り立てつつ、また安全の低下や犯罪やテロの脅威を移民とごたまぜにしつつ、外国人と移民を、危険、この国への脅威、と決めつけている。これらの主題は、EUで、しかし特にフランスで、マリーヌ・ルペンのRNとマリオン・マレシャルとエリック・ゼムールの小さな再征服党によって広く発展させられている。
 この20年以上かそこら、伝統的右翼もまたそれらを広く行き渡らせ、これらの問題に関し徐々にジャン・マリー・ルペンと国民戦線のイデオロギー的プロパガンダに追いついている。2000年代はじめ、ニコラス・サルコジは特に、彼の顧問のひとりで1970年代の「革命的民族主義者」の極右からやってきたパトリック・ビュイソンの考えにしたがって、「内務および国民的アイデンティティの省」と選定された内務省の名称にこの考えを合体させることまでやって、「国民的アイデンティティ」に関する論争を持ち込むことでフランス社会を分断しようと試みた。
 マクロンと彼の政府もしたがってまた、当初は共和党を不安定化するための議会的策動を行っていると考えつつ、先の泥道を辿っている。そしてその策動は、大統領陣営に敵対的なブーメラン的動きへと変わったのだ。

マクロンとLRの政治ゲーム


 2022年夏の彼の2期目開始に際し、マクロンと彼の内相のダルマナンは、2019年に彼が押し通した法の僅か3年後、難民申請権を中心に置いた、入国と居住条件に関する新法提出を告げた。その公表された目的は、明らかに難民申請者と犯罪を等値しつつ、「移民の流れを妨げる」ために闘い、「難民申請手続き」と「国外退去手続き」を「スピードアップする」ことだった。そのすべては古典的な反動の主題だ。
 何よりも、人々の主な懸念がインフレや公衆衛生システムの危機や年金への脅しであった時、主な目的は、「移民の耐え難い脅威」を打ち振ることによってこの問題に関する民衆的論争を二極化し、あらためて労働者階級の社会的状況に関し移民に罪を着せようと試みることだったのだ。ダルマナンの言明された目的は、「移民の生活を不可能にする」ことだった。彼の横柄な人物像は、「ミスター・プラス」とさえ言えるものであり、彼は、「移民対処での」マリーヌ・ルペンの「軟弱さ」やジョルジャ・メローニの「無能」について性差別感を交えて語りつつ、極右よりも強硬だと自慢した。
 この法案は最初から左翼と社会運動から闘争対象にされた。それは、800の市民団体と共闘組織(無登録移民と難民申請者の歓迎と連帯を求めて1日単位で活動する数百人を含んで)を結集する「使い捨て移民反対連合」(UCIJ)に基づき、また緑の党と不服従のフランス(LFI)、そしてNPAを含む急進左翼の支援を得た闘いだった。
 マクロンが、議会多数を、あるいは他の政党との連合を欠いたまま現れた2022年6月の選挙以来、彼と彼の政府は他の政党、主には伝統的なドゴール派右翼の共和党と法案毎に交渉することを迫られた。結果としてそれらは、2022年6月から2023年6月の間に政府が持ち込んだ法案の3分の2に1条づつ票を投じた。したがってダルマナンは彼の法についてLRとの交渉に向かった。
 2023年春の退職年齢改革反対の抗議運動の高揚が政府に、この法案に関する論争を棚上げさせた。一方LRはLRで、この法案の論争に政治論争におけるかれらの場を取り戻す好機を見た。2022年6月選挙の結果――定数577中62議席、51議席後退――は共和主義者を、RNとLFIの背後に置き、マクロンの補助物の位置まで引き下げた。そしてかれらは、マクロンとRNに挟まれ、独立した勢力として存在することは難しいと気が付いているのだ。
 その上、多くのマクロン派指導者はLRからの転向者であり、ニコラス・サルコジは数度の機会に、彼が長い間率いた党にマクロンとの連合を形成するよう訴えてきた。結果として、LRは2023年春、フランスに暮らす移民と外国人を攻撃する2本の法案を自ら持ち込むことによって、ひとつの政治的な作戦をもくろんだ。
 かれらがマクロンとは異なった声を上げることができるただひとつの土俵がこれだと考えて、かれらの法案は、RNの綱領の主要要素を継ぎ目なく取り上げた。そこでは特に、「国民優先」の導入、社会的給付への資格切り下げに基づく非EU外国人の社会的権利に対する差別、フランスで生まれた子どもに対する出生地主義への逆戻り、未登録外国人へのより強化された抑圧とそのより早い国外退去に基づく、フランス国籍適用への新たな障壁の導入、がある。この間の年月を通じてLRは、移民の洪水や移民の侵略や移民の法外なコストに反対する脅迫観念的キャンペーンを展開し、この問題に関して自らを極右よりももっとはるかに声高くしてきた。

EUとフランスでの移民の真実

 フランスは長い間、開かれた法をもつ移民の国だったとはいえ、1970年代以来、入国と居住の権利をかなり締め付けてきた。出生地主義を通じた国籍取得を今も特徴として、この国は歓迎姿勢とますます閉鎖的になる実践の間に大きな違いをつくり出している。これが、難民歓迎と同じほど移民にとっての真実だ。
 住民の7・7%が外国人で構成されているフランスは、イタリアとスウェーデンの8・7%、またスペイン、ドイツ、ベルギーの11%から13%と比べてEU平均(8・4%)以下にある。これは、政府とその新しい友人たちが変わることなく非難する「寛大すぎる政策」とははなはだしい隔たりなのだ。
 難民に関する限り、戦争が、特に2014年から2015年、シリアからの難民大量出国に導いた。その現実は、亡命者680万人のほとんどがトルコ、ヨルダン、レバノンにとどまった、というものだ。17%、百万人少し多くのみが、それらの17%にあたる2・2%、約2万5千人を登録しているフランスを伴って、EU内で難民資格を適用された! アフガン人の場合は、EU内アフガン難民の8%をフランスが占めているという形で、力の入れ方は少しばかり大きい。
 同様に、EU内におよそ460万人、フランスに12万人というウクライナ人難民がいて、ムスリム出自ではないことで「幸運な」住民の到来に誰ひとり抗議していないが、ここでもまた先の数字は、EU内の重みとしてのフランス経済(17%)や人口統計(15%)とまったく比例していない。
 「難民歓迎におけるフランスの分担」に関するマクロンのうぬぼれた自己満足的な話は妥当ではない。特に問題が難民申請になる場合、EU内でフランスが最低の保護率国家のひとつである以上そうなる。難民申請者のおよそ70%が保護の地位(難民あるいは補足的保護)を拒否され、非正規の難民申請者や不安定な状況に、また国外追放の危険のままに放置されている。
 EUとフランスの指導者たちは今、国際的移民については統合失調症的な否認の中で生きている。移住は、人間の過去と現在の自然で逃れがたい現象であり、欧州人自らがこれまで実行し、実行し続けているような、そして今日欧州よりもはるかに強くアフリカと中東に作用しているひとつの現象だ。
 しかし反動派はそれを、文明戦争の、未開人の侵略の、人口統計的沈没の問題に変えようと試み続けている。残念ながら真実は、そこでは再びEUが最初の目的地にならないまま、戦争と気候変動が移民現象を引き立たせるだろう、ということだ。
 EUが否認していることは明らかに、直接には環境汚染を通して、間接には欧州の工業資本家と商業資本家のグループを通して、EUが気候変動の主な犯人のひとりだということだ。また、家を離れる一定の市民をつくり出して、EUが南の諸国との新植民地的関係を維持していること、あらゆる人間的な破局を伴った公然とした紛争と戦争にはEUの対外政策の責任があることだ。しかしそれはまた、EUが当然の移民の流れを妨げがっていて、数十万人の男と女を危険にさらし、移民の経路上で何万人という人間の死に導いている、ということでもある。
 他に否認していることは、フランスとEU全体が国際的移民を自ら組織中であり、それがEU諸国家により組織され大いに合法的であり、その理由はそれがEUの経済的かつ社会的システムの重要部分、ということだ。2022年、EUに入国したすべての未登録移民35万人に対し、350万人は合法的にそうしたのだ。

現実とかけはなれたおとぎ話

 そして、純粋に反動的なイデオロギー的民衆扇動以上に、この法への投票に続いたフランスでの3つの反応が特徴的だった。それは、救急医師を含む3500人の医師のもの、主要大学とグランゼコール(テクノラート養成校として知られている高等教育機関:訳者)の学長によるもの、そしてMEDEF(フランスの経営者団体:訳者)会長によるものだ。
 医師たちは、AME(国家医療支援)廃止の怖れに抗議し、もしAMEが廃止されることがあれば、病気の人は誰であれ治療するという「ヒポクラテスの誓い」を尊重する立場から、また公衆衛生への懸念から、未登録移民への無料ケアを続けるとおおっぴらに請け合った。
 大学とグランゼコールの学長たちは、他のEU諸国にすでに存在している「帰国保証」システム(フランス到着以前に外国人学生がかれらの銀行口座に一定額の貯蓄をもっていなければならなくなる)に抗議している。また、外国人学生がこれから耐えなければならなくなる社会的支援の制限にも抗議を続けている。それは、「社会制度を利用する偽学生」とのおとぎ話を口実にしているのだ。
 現在フランスにはおよそ40万人の、あるいは総計の13%になる外国人学生がいる。かれらは、大学システム、特にグランゼコールの支柱であり、7万人になる博士課程学生を含んで、その活力に、もちろん学生に対する大学教育の国際化に貢献している。それは、LR党首のチオッティやダルマナンの強迫観念になっているインチキ学生という外国人嫌悪のファンタジーとは大違いなのだ。
 もっとも新しい反応はMEDEF会長のパトリック・マルタンから出てきた。彼は、「われわれがわれわれの経済モデルをつくり変えなければ」、今後の年月にはフランスでさらに390万人の外国人労働者が、またEUの残りでも最低同じ数が必要になるだろう、と語ったのだ。LRやRNのスポークスパーソンとは異なり、雇用主たちはOECDのエコノミストたちが長きにわたって示してきた以下の現実を知っているからだ。それは、OECD諸国すべてにいる外国人と移民の住民は、受け入れ国の財政的重荷になっているどころか、受け入れ国の財政に「賃借対照表」上の純プラスを与えているという現実だ。
 この2、3ヵ月にわたるナンセンスなコーラスの中で、フランス民族主義党の1員は、移民は「それがもたらす以上のコストになっている」と主張した右翼日刊紙のフィガロを取り上げ、539億ユーロという数字を引用した。他の数字も引用されたがしかしそれは常に、外国人は社会制度を利用するためにやってきて、社会的給付や失業手当に頼って暮らしている、との考えからなる共通の筋道に基づいている。
 2006年から2018年までの期間を扱って、2021年にOECDが徹底的に実行した研究の現実は、研究対象になった25ヵ国で、財政的な純寄与は常にGDPのプラス1%とマイナス1%の間にあり、この期間フランスの場合は年当たり平均一〇〇億ユーロのプラス、というものだ。これらの計算以上に明白な現実は、外国人は明らかにかれらがいる国の経済生活に加わっている、ということだ。しかもEUでは多くの場合、低賃金労働とより困難な労働条件という形で。

極右に依拠する支配階級の偽善


 これらの困難は、一定の人々がかれらの状況を規制する点で抱えている困難、および雇用への到達をより難しくしている差別の空気の双方から由来している。そしてその差別は、外国人に対してだけではなく、外国人の2世代目、あるいは3世代目の子孫にまでも向けられている。明らかに、このレイシズムの空気を維持することが雇用主が利用する武器になっている。
 しかし、交通、物流、ホテル産業、建設、ケアのような定義によってその活動を移すことができない分野の雇用主は、非常に多くの場合、外国人労働者と移民の背景をもつ労働者を使うことを必要としている。
 そしてEU内の現実は、自然の人口統計曲線はどこでも純移民を除いて今下向き傾向ということであり、フランスもこの傾向では全く例外ではない。それゆえ、労働者階級を分断し、社会的崩壊の政策に本当に責任がある者たちからかれらを遠ざけておくのに役立っているような、多かれ少なかれ極右の立場に立つ者たちのレトリックの背後には、明白な逃れがたい現実がある。つまり、移民はコストでないだけではなく、それを妨げようとすることは、今後の何十年にもわたって社会的、経済的不均衡を生み出すことにもなる、ということだ。
 支配階級の偽善は、かれらがほとんど頻繁に極右の主張を支持し、かれらの文字メディアと放送メディアの中でそれを洗練し、未登録移民の最低の正常化であっても表に出すと思われる「吸収力」についてファンタジー化しているその一方で、同時に現在と将来について移民の継続的流入という現実を統合することを考えている、ということだ。それは、何百万人という男と女から社会的権利とまともな生活条件を奪い、移民を出自とする多くの子どもが暮らす労働者階級居住地区での差別と警察の暴力を維持し、しかしそうであっても、経済と社会的均衡にとって不可欠になっている移民の網を維持するという、実利本位で偽善的な政策なのだ。
 この政策は、それが地中海経由で、あるいは大陸の国境経由で欧州に達しようと試みる移民と未登録移民のことになると、もっと深刻にさえなる。右翼、極右、またそれらのメディアは、数字が異なった話を告げている時に、洪水についての話を中継している。ちなみに違った話というのは、政府の数字によれば、EU内には全人口の1%以下、あるいは400万人から500万人の未登録移民がいる、というものだ。その半数はドイツと英国で、フランスではおよそ70万人が、イタリアでは50万人から70万人が暮らしている。
 しかし、沈没や外国人嫌悪やレイシスト的なプロパガンダのファンタジーは、EUに来たがっている人々への非人間的な扱いを正当化するのだ。到着した人々を押し戻し、国境通過を阻止するためにアフリカや中東の諸国と交渉しつつ、国境を安全にし、統制することに何百億ユーロも費やされている。これらの額は、受け容れ、住宅、移民の住民に対する援助に与えられた少額と比べられなければならない。
 EU理事会が「一時的保護の地位」を与えた唯一の住民は、ウクライナからの難民だった。特にフランスでは、かれらは適切な受け容れ条件、つまり即時の居住許可、労働力市場や住宅や医療支援の利用、また子どもの教育の権利や銀行口座開設の権利、などから利益を得ている唯一の人々だ。これらの権利は明らかに、シリアやアフガニスタンやその他からの難民申請者すべてに当てはまらなければならない。

いつものあさましい政治的策動


 こうして、2023年春のこの法に関する論争の継続に関連して、共和党もまた、2023年5月に提出されたかれらの反移民法の中で、憲法変更を強く望んだ。フランスが、難民申請者に対するEU法の関連した義務から後退し、いわゆる「労働力不足」の職業(特にホテル業)での未登録移民のあらゆる正規化に反対することを可能にするためだ。ちなみに後者の正規化はダルマナンが彼の法案で提起したものだ。
 かれらはまた、病院で社会保障システムによってまかなわれる医療ケアの利用を未登録移民に与えているAME(2023年、ここから38万人が利益を得た)をも廃止したがっていた。ダルマナンと政府はこの廃止に反対した。
 上院での過半数から今も利益を得ているLRは、その縄張りにダルマナンとマクロンを押しやるために強い圧力を加えることも可能と考えた。ダルマナンはダルマナンで、LRが提案した諸方策のいくつかを取り入れることで、少なくとも何人かのLR議員に彼の計画を支持する票を投じさせ、国民議会でLRをさらに弱体化させるだろう、と期待した。外国人を踏み台にしたこのあさましい政治ゲームは、また2027年に大統領としてマクロンを引き継ぐレースに彼の場を見つけようと挑むダルマナンの目的にも役立っていた。
 したがってダルマナンの法案は、2023年の新学期開始まで保留にされた。年金をめぐる6ヵ月の大規模抗議を受けて、そして警察による若者の殺害と暴力を前にした夏中の労働者階級居住区での反乱を受けて、ここで再び政府は、移民出自の住民に烙印を押し、住民内部で有力な社会的懸念、つまり購買力、公衆衛生、環境……への懸念を抑えたいと思った。これらの懸念は、社会的な動員の中で、また最近の世論調査でもはっきりと示されている(たとえば2023年9月のイプソス研究所、そこでは質問された者の懸念では、移民の登場は9番目にすぎない)。
 極右と反動派指導者たちのメディアの武器庫を使った移民問題の誇張は、移民と安全の後退とイスラム主義を混ぜ合わせることを目的としたぞっとするような空気を維持してきた。そして、主なフランス資本家が支配するメディアと出版物のネットワーク、また何よりもボロレ(様々な企業グループを所有する百万長者:訳者)が支配するメディアの銀河……がもつ力ある助けによって、先の合成物を主な政治問題にしてきた。実際にこの問題は、9月から12月まで公的な論争の場を占め、しかしマクロンと彼の政府が欲した結果は付随しなかった。
 一定数の他の問題で政府がやったような策動が機能することを期待した政府の時間設定は単純だった。論争は、11月はじめ上院での票決で始まった。そしてそこでLRは、極右から借り入れたかれらの方策すべてを使ってダルマナンの草案を修正した。次いで12月はじめ、力関係が政府に総体的な多数を与えていた国民議会法務委員会は法案を整理し、当初の版に、上院の修正の多く(つまり、AME廃止、社会給付獲得のための5年の合法的居住、「労働力不足」職業における規制)を含んでいないひとつの反動版に戻した。
 したがって論理的には棄権ゲームが、法の条文にしたがった社会党の棄権、またLRからの票の寄与を頼りに、この法案の条文毎の採択をボルヌとダルマナンに可能にしていたはずだった。

わなにはまったマクロンの徒党

 そしてこれこそがものごとが道をそれ始めた時だ。NUPES(新人民連合・緑・社会)の全グループと並んでこの法案に反対のエコロジストたちが、法案を拒否する動議を提出し、国民議会によるその審議を阻止した。12月11日、あらゆる予想に反して、NUPESの多数票によって、しかしまたLRとNR議員の3分の2によって、つまり拒絶支持270票対反対265票で、この動議は採択された。
 次いでダルマナンと彼の政府にワナが締まった。もはや、政府版に関する国民議会での条文毎の票決は不可能だった。マクロンには、彼の文案を一挙に撤回するか、新しい策動を行うかの間の選択肢があった。後者は、同じ文案に関する両院各々の票決を阻止することに続く、国民議会議員と上院間で新文案を共同起草する(合同委員会で)ことによる妥協をめざすものだ。
 マクロンは、惨敗を喫し、国民議会で初めて多数票を取れずに敗北したことを受け、法を撤回することで彼の敗北を認めるのを拒絶した。5人のマクロン派と5人の右翼LRと中道派委員間の合意を通してこの定員14人の上下合同委員会で共同文書を起草することだけが可能であった以上、彼が好んだのは法案をLRの支配下に置く方だった。現実には、新たな草案は首相のボルヌとLR指導部の間で交渉された。
 最終的に国民議会と上院によって採択されたこの文書は、それゆえRNによって吹き込まれたLRの立場の極度に似かよったコピーだ。そしてRNは、その交渉には僅かでも参加することなく、またあまりに穏健すぎると見た草案に最後まで敵意を見せることまで行って、最後に、全般的抗議を生み出しつつ、かれらの立場によって大いに吹き込まれた文書への賛成投票でかれらの支えを示す機会をつかんだ。
 これは、伝統的諸勢力が移民に関し極右と同じ文書を支持する票を投じた40年で初めてのことだ。加えてボルヌ首相は公式に、AME改訂に向けた議会での票決を約束している。マクロンとダルマナンは、右翼自身の好んだ領域でこの法がLRに亀裂を入れ、RNを孤立化することによる政治的「一揆」を提供するだろうと期待したが、結果は逆になった。
 RNは、その外国人嫌悪の強迫観念を取り入れ、国民優先や社会的給付に対する差別やより厳しい帰化条件を導入している法の、政治的勝者になっているように見えているのだ。そしてLRは上院支配のおかげで、より強化されて浮上している。
 他方マクロン派は、弱体化と分裂を表面化させている。つまり、この法案支持に投票したのは171人中131人にすぎず、20人は反対に票を投じ、17人は棄権、そして「マクロンとともにある若者」グループはこの法を否認し、公衆衛生相は職を辞した。

左翼の対応が緊急に必要だ

 2期目の選挙後にマクロンが置かれた弱体化した立場は、年金防衛の巨大な決起によって、次いで夏の始めの労働者階級居住地区における反乱によってすでに粉々に打ち砕かれていた。政府は今、右翼と極右の単なる人質のように見えている。
 しかし残念ながら、左翼とNUPESの側では、極右に向かうこの移行が避けがたい衝撃を引き起こすトラブルになろうとしている。政府は、容赦ない多面的な報道キャンペーンを後ろ盾に、諸々の選挙で指導的野党勢力として現れたNUPESの、何よりもLFIの信用を傷つけるためにこの1年その権力の中であらゆることを行ってきた。そしてこの勢力はマクロンとボルヌによって、「共和主義の弧から去って」いるとして、排斥され、悪魔化された(特に、労働者階級居住地区での蜂起の中での、また警官が犯した殺害に関するその立場にしたがって)。一方で三色旗の絨毯はRNの足下に伸ばされた。
 したがって、議会内グループの地位の先までは決して進めなかったこの連合の解体を推し進めようと、最大限の圧力が加えられた。さまざまな理由から、NUPESの構成部分は、諸々の町や居住地区に組織化された全国的な民衆的政治勢力建設を自ら変わらず拒絶してきた。年金決起支持の中でその構成部分の立場が収斂したにもかかわらず、その機会では政治的勢いが何も生み出されなかった。
 現在までの数ヵ月、遠心傾向を諸々見せてきたものは、今年のEU議会選という選挙問題だった。その諸傾向は、NUPESを袋小路に至らせ、統一リストの提起を拒否するLFIと連携する諸政党によって、事実上の解体に導いている。そしてその拒絶の理由は特に、EUに関するNUPESの急進的な綱領を採用したくないというものだった。
 警察の暴力に反対する労組とコミュニティ運動の幅広い合流にもかかわらず、またもっと近くでは、イスラエル軍がしでかしている殺戮を前にガザでの即時停戦を求める合流にもかかわらず、マクロンへの左翼の反対派は今、実体的に統一した政治的、社会的力関係を建設することができないように見える。そうであっても、12月の票決に続いて、政府の政策を指示する極右という光景に対し、数万人の活動家が戦闘準備を整えた。
 2022年4月、ルペンの対立候補になったマクロンの票の半分は、ルペンのRNを阻止したいと思った左翼支持者からやってきた。UCIJ連合の呼びかけを軸に、いくつかの町で数千人が街頭に繰り出した。しかし今年の始まりにおける挑戦課題は、統一した民衆勢力、および社会的諸要求と極右の脅威に釣り合う決起の建設になるだろう。(2023年12月31日)

▼筆者は、ソリデール労組連合とNPAの活動家、また第4インターナショナル執行ビューローの1員。(「インターナショナルビューポイント」2023年12月31日)

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