チリ 4年で2度目の改憲国民投票
ピノチェト憲法復活策動の難破
カリナ・ノハレス
2023年12月17日、チリは右翼と極右の保守勢力が起草し提案した新憲法案に反対の票を投じた。こうして、4年で2回目になる、現行憲法を置き換えるためのふたつの対立するオルタナティブは難破することになった。ちなみに現行憲法はその起源をピノチェト独裁にもっていた。
二つの相反する
憲法改正の動き
思い起こされなければならないことは、2020年10月から2022年9月の間に最初の憲法改正運動が起きていた、ということだ。それは元々、議会代表者と諸政党――共産党を例外に――によって2019年11月に署名された協定に遡る。そしてそれは、当時チリで起き続けていた、またこの30年の全政治システムと政党の代表制に異議を突き付けた、巨大な社会的反乱への対応として合意された制度的解決としてのものだった。
この最初の運動では、住民が新憲法を欲しているか否かについて、またもし欲するのであればどんな種類の機関がそれを起草すべきかについて、住民に問いかける最初の国民投票があった。約得票率80%に基づき、「アプルエボ」(新憲法)とそれを起草する100%被選出の機関の選択がまさった。
2、3カ月後に選出されたこの機関は、それに明確な反新自由主義の方向を吹き込みつつ、男女同数と比例的方法の形で、また歴史的に排除されてきた社会諸層の民衆的代表者の参加に基づいてまとめられた。しかしこの提案は、2022年9月4日、62%の圧倒的な反対票によって国民投票で拒絶された。
投票の敗北、ポストパンデミックそして組織された社会的隊列の士気阻喪という脈絡の中で、この国の大統領、ガブリエル・ボリッチは新たな憲法制定プロセスを、今回は混合的性格で招集すると決定した。つまり、新憲法の提案は議会が指名する専門家の小規模な委員会により起草され、被選出機関にはそれを修正し裁可する権限もあるだろう、というものだった。この2度目のプロセスは、あらゆるあり得る筋書きとして、前回のプロセスのいわば否認だった。
女性への攻撃
が中心論点に
被選出機関は極右のヘゲモニーに基づくほとんど右翼諸政党から構成された。そしてそれらは、ピノチェトの1980年憲法の元々の形へのある種の回帰である提案を作成したのだ。それは、いわゆる民主的移行期の1990年以後にその憲法に施されてきたさまざまな修正をはぎ取っていた。
そのプロセスは、この問題での満腹感――それをさまざまな評論家は「憲法疲れ」と呼んできた――、および全体としての「政治家」に関する強い不信感の双方で強化された、全体的な民衆的不満という空気の中で起きた。この精神状態は、提案された新憲法の実際の内容と、それ以上ではないとしても同じ程度で決定的だった。
しかしながら、方向の内容もまた一定の役割を果たした。文書は、国際的な人権基準に憲法よりも下位の位置を与えているような、多数の警戒すべき基準を含んでいたとはいえ、社会的な論争は、中心的な場を占めるフェミニストの要求に関係しているものを伴って、多かれ少なかれいくつかの限られた基準が焦点になった。
中でも、胎児の命の保護を盛り込んだ、また国家による個人年金貯蓄の収用禁止を盛り込んだ基準は、特別な警戒感をもって広められた。提案された憲法が承認されるならば、前者の基準は、中絶が3つの根拠で憲法違反と宣言されるような確実な危険を必然的に伴うだろう。中絶は、ピノチェト独裁によって1989年に無効とされ、2017年になってはじめてチリで再獲得されたのだ。後者の基準の承認は、保護者の個人年金貯蓄から義務的な扶養料支払いを命じる権限を家庭裁判所に与えている2022年の扶養料支払い法が憲法違反になる、という確実な危険を必然的に伴うだろう。
女性と妊婦の経済的、身体的、また人生計画の自律性に対する正面攻撃になったこの深く家父長的な基準両者は、極右の提案の敗北にとっては決定的だった。事実、55・7%を獲得した新憲法反対票は、34歳以下の女性有権者の中では70%に達した。これは、その政治化経験がチリの2016年以後の大衆的なフェミニストのサイクルの心臓部で起きた、またその力がそれらの絡み合いに際して四方に広がり続けている、そうした社会層なのだ。
結果の本質隠す
ごまかしの解釈
制度的な諸勢力は近頃、この結果に対する自身の諸解釈を表明してきた。一方でボリッチ大統領は、ふたつの憲法提案――ひとつは反新自由主義、ひとつはネオピノチェト――の失敗をもって、一般市民は二極化と分断を拒絶したと語り、彼の任期の残り2年では憲法改正への新しい試みすべてを閉じた。
これは危険な読み方だ。それは「ふたつの過激派」の表現として双方の憲法提案を等値する傾向がある。そしてそれは、そのひとつが国際的な人権枠組みの基本的構成要素に一致し、他方他はそれを不要とするような環境における等値なのだ。ついでながらそれは、公平無私と言われて人を欺くような名目で、双方のプロセスと双方の憲法提案を原理的に異ならせている階級的な本性を隠す読み方だ。
他方、右翼と極右の諸政党が大きな敗者だった。極右の場合は、それがかれらの多数派によって起草されたかれらの提案だったからだ。そして伝統的な右翼の場合は、かれらがそれを自身のものとし、あらためて極右の背後に位置を定めたからだ。
彼らは合わせて、勝利する上でのあらゆる経済的資源とあらゆるコミュニケーション上の支配的影響力を確保していた。かれらは単独で運動し、二番手として現れた。かれらは、敗北を隠すもくろみの中で、次のような物語を略述してきた。つまり、チリはすでに現行憲法反対の投票を済ませている事実、それによってその起源になったものと民衆的支持の非正統性を新たにしたという事実をことごとく省いて、この最新の国民投票では、一般市民は2回目としてピノチェトの憲法を批准したのだ、と。
政治の危機は
今なお未解決
この結果はかれらを傷つけている。目下のところでは、選挙連携の思惑がかれらの内部で緊張し、超右翼の指導者であるアントニオ・カストが当てにしていた大統領への機会は、一撃を被ることになった。
12月17日の投票では、民衆層に守るべき構想がなかった。しかしかれらには、長く残り体系的な大きさで傷つけるような、制度的なレベルにおける右翼の猛襲に抵抗するという任務があった。かれらを敗北させることが決定的だった。そしてこれは達成された。
社会的分野の中では、フェミニズムがあらためて鍵となる役割を果たした。これだけでも次のような社会層の信用を失墜させる役に立つ。その層とは、左翼と右翼において、2022年9月4日国民投票の敗北を、要求に応じた中絶の憲法規定化のような基準を原因とするフェミニズムの「アイデンティティ過剰」と言われているもののせいにする部分のことだ。
右翼の側では、怖れを抱いたあらゆる部分が、あからさまに嘘を言い、彼らが提案した憲法に3つの根拠で中絶を無効にする意図はなかった、などと言明せざるを得なかった。左翼の側では、フェミニスト組織と性とジェンダーの反体制派組織を例外として、多かれ少なかれ広範な部分に影響する諸問題に基づいてキャンペーンを維持し展開する能力は、ほんのわずかな社会層しかもっていなかった。
しかしながら、政府によって指令された憲法サイクルの終了は、いずれにしろ、2019年の社会的反乱でこじ開けられた政治的危機のサイクルを閉じているわけではない。住民の多様で幅広い層がもつ急を要し心からの要求は、これまでに何ひとつ解決されていず、満たされてもいない。確定した不安定さのシナリオは未解決なまま残されている。(2024年1月9日、「プント・デ・ビスタ・インテルナシオナーレ」からIVが訳出)
▼筆者は、弁護士で、「女性労働者と労組活動家チリ委員会」および「3月8日フェミニスト共闘/国際委員会」のメンバー。「ジャコバンラテンアメリカ」編集部の1員でもある。(「インターナショナルビューポイント」2024年1月11日)
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