ウクライナ オクサナ・ドゥトチャクへのインタビュー

緊張が蓄積中、新自由主義ゆえに
その不公正さは戦後再建をも阻害

 以下のインタビューは、パトリック・ル・トレホンダートにより今年2月3日に行われ、「プレッセートイ・ア・ゴーシュ!」からIVが訳出した。

決起の腐食を
新自由主義が


――2年にわたる戦争を経てウクライナ内の情勢をどう見ていますか?

 2年の戦争を経て、情勢は同じであると同時に違ってもいる。戦争は続いているが、全体関係――国内と対外双方の――に起因する変化が諸々ある。これらの変化すべては、引き延ばされた戦争の非常に似かよったシナリオの中で最初から予想できた(それは、私を含む多くが、可能性はより低いがもっと前向きなシナリオを期待していなかった、と言うものではない)。
 われわれは、ウクライナ社会の中で今蓄積し続けているさまざまな緊張――そのほとんどは、戦時を口実に政府が強いてきた予想できたものである新自由主義政策によって引き起こされた――を見てきた。政府は、経済的困難の正当化と「自由市場」資本主義のイデオロギーを使って、経済的危機によって打撃を受けた普遍的な社会的諸権利を支える代わりに、労働者の権利、また現にいるそして新たに生まれている不利な立場のグループへの社会的支援を犠牲にして、企業の利益を擁護し続けている。これらの方策は、戦争時に他のところで実行されたような、中央集権化され(ある程度まで)相対的に社会的志向のあらゆる政策の論理と完全にぶつかっているのだ。
 これらの政策の結果として、そしてそれは以前の年月のイデオロギー的継続なのだが、住民の奮闘の全体的動員、およびウクライナ社会の相対的統一は一貫して腐食し続けている。自分たちのコミュニティを守るための最初数ヵ月の決起後、多くの人々は今自分たちの命を危険にさらすのをためらっている(そしてある者はそれに反対している)。

不公正との感覚
が最大の障害に


 これには多くの理由がある。たとえば、ロシアの脅威の相対的な局地化、早期「勝利」という非現実的な期待(政治の既成エリートと何人かの有力インフルエンサーからなる部分によって高められた)、結果としての失望、さらに長引いた戦争が内包する構造化された混沌の中の、個人の状況と選択や利害における多くの対立、などがある。
 しかしながら、不公正感が大きな役割を演じている。一方には、動員過程に関係した不公正感がある。そこでは、豊かさや腐敗の問題が民衆諸階級からなる多数の動員に導いているのだ(もっぱらではないとしても)。そしてそれが、社会の全体が参加する「人民戦争」の理想的イメージに反するものになっている。さらに加えて僅かだが、軍内部の不正義という事件もある。他方では、相対的に魅力的かつ社会的に公正な現実と将来に対する見通しの不在も、あらゆる種類の個人的選択において重要な役割を占めている。
 もちろんこれは、社会の全体がロシアの侵略と闘うのを止める決心を固めたということを意味するものではなく、現実は全く逆だ。実際ほとんどは、占領あるいは紛争凍結が強いることになる寒々しい見通しを理解している。紛争は、〔ロシアの〕更新される戦争努力によって強度を増す可能性も高いのだ。
 大多数は政府の行動の多く(何十年間にもわたるウクライナの政治的現実における伝統的姿勢)に反対で、むしろ嫌っているかもしれないが、ロシアの侵略とロシア政府(それは、二国間協定から国際法と国際人道法にいたるあらゆるものをこれまでに侵犯し、また破り続けている)とのあらゆるあり得る「和平」協定への反対は、もっと強く、将来これが変わる余地は全くと言えるほどない。
 しかしながら、戦時政策と戦後再建に関する社会的に公正な観点は、生き延びのための個人的な闘いを共同体的で社会的な闘争――社会・経済的公正のためにこそ侵略と対決する――へと向ける上でひとつの必要条件なのだ。

進歩的な運動の
相互連帯が必須


 対外的全体関係もまたすっかり変わっている。地球のさまざまな部分でさらなるエスカレーションが起きてきた。それは、ロシアの侵略同様、ヘゲモニーの低下が引き起こし、「影響圏」のために闘うというあらたな競合から、つまり地域と世界双方のヘゲモニーを求める地域的かつ国際的な対立の中での新たな競合から帰結しているような、「火災中の」周辺に関するさらなる象徴だ。
 これらのエスカレーションは、ウクライナ外交のいくつかの大失態(すなわち、西側世界を超える民衆を現に遠ざけているような「文明」に関するレトリック)や多くの国における右翼ポピュリスト諸傾向を伴って、今ウクライナ社会に対する国際的支援に否定的な影響を与えつつある。
 この動きに照らせば、ウクライナの労働者運動と他の進歩勢力への国内と海外からの支援を発展させることが極度に重要だ。ウクライナの進歩勢力にとっては、世界の他の部分における解放闘争、労働者運動、また他の進歩的な諸闘争との結びつきと相互連帯を確立することも重要だ。
 近い将来に世界的な帝国主義と新植民地主義ルネサンスあるいは右翼ポピュリズムの潮を逆転することが可能だとは私は信じていない。しかしわれわれは、来るべき闘いに向け左翼の基礎構造を発展させる必要がある。われわれは、現在の恐ろしい段階に準備がないまま達することになった。したがってわれわれは、将来そのようなシナリオが再び起こらないようにするために最善を尽くさなければならないのだ。

左翼メディアの
任務を続行する


――「コモンズ」の状況はどうだろうか? そこであなたの計画はどういうものですか?

 われわれは、これらのあらゆる環境にもかかわらず、活動し続けている。その環境にはもっとも苦痛に満ちたものを含まれ、高名なエコノミストでわれわれの編集長で友人のオレクサンドル・カラフチュクの死亡、高名で一風変わった人類学者で友人かつ寄稿者のエフヘニー・オシエフスキや他の数人の友人、仲間、同志の死亡があり、その何人かは行動中に殺害された。加えて、われわれの編集者や寄稿者の何人かは軍に志願し、他は資金や人道的必要への供給、そして左翼と反権威主義ボランティアへの支援、を集めるために完全に忙殺されている。
 そして他の者たちは今も、個人的な生き延びを何とかしつつ、また戦争と追い出しが原因で時としてシングルマザーであり、あるいはそうなりつつ国中に、また国内避難民や難民として国境を越えて散在している。
 全面侵略の1年目にわれわれは、左翼メディアの発信源として、われわれ自身にとっての重要な任務を3点考えた。すなわち、ロシア帝国主義の侵略に関する左翼の論争に取り組むこと、戦争の事実およびウクライナの住民と国外のウクライナ難民へのその影響を伝えること、そしてウクライナ政府が計画し、現に進行中の政策と改革に関し批判的観点に基づいて介入することだ。
 時間を経て2022年終わりまでにわれわれは、ほとんどの人々はかれらの選択を終え、立場を変えるよう説得される可能性もある者はほとんど僅かだ、と感じた。とはいえわれわれは、ウクライナ民衆と連帯するこの左翼の論争に介入を続けている人々に感謝している。われわれはわれわれなりに、オンラインと印刷物(売り上げからの収益は「ソリダリティ・コレクティヴス」に行く)で利用可能なひとつの発行媒体でわれわれの立場をまとめてきた。同媒体は、われわれがもっとも重要と考えるわれわれのウェブサイトから文書を収集したものだ。

「周辺」諸国との
架橋構築が課題


 われわれはこれらの論争の流れを再考してきた。そして方向を見つけ出し、そこにわれわれの努力を集中させると決めた。われわれは、戦争や債務の従属や緊縮またそれらに反対する諸闘争に直面している他の周辺諸国の経験と、ウクライナの経験との間にあまりに僅かな橋しか架けられていない、と感じた。これこそが、「諸周辺の対話」構想がどのようにして生まれたか、ということだ。そしてわれわれの編集者の何人かはそれを、近い将来におけるわれわれの主な目標と見ている。
 もちろん他の主題も残っている。そしてわれわれは、ウクライナの闘争と問題について、歴史や文化や環境について、さらに他のさまざまな重要問題について書き続けている。われわれは、ウクライナにおける民衆の自己組織化――自発的なイニシアチブ形態でか、あるいは労組形態でか――について話し続けている。2023年われわれは、一連の「これを見つめよ!」ビデオ報道でこれを何とか行うことができ、ウクライナの看護士の運動に関する短編ドキュメンタリーも作成した。
 私は、このすべてはわれわれの編集スタッフや寄稿者がいなければ、また多くの左翼組織やイニシアチブと個人の支援がなければ不可能だっただろうと強調しなければならない。

相互連帯への
貢献を希望に


――2024年に向けたあなたの希望は?

 希望にはさまざまなレベルがある。私には個人的希望がある。また、ほとんどのウクライナ人が分かち合っている希望もある。それは、ウクライナにおける民主的で社会的に公正な未来に助けになるような方法で、あるいは最低でもそうした未来を求める真剣な闘いを妨げないようなやり方で戦争が終わるという夢だ。私の個人的な夢と全体的な夢はもちろんつながっている。2023年夏私は、これまでの2、3年私の街と考えてきたキーウにドイツから戻った。そしてもうどこへも行きたくない。私はウブではないし、2024年中の好都合な戦争終結というわれわれの夢はおそらく単なる夢にすぎない、と理解している。しかし、あなたたちの夢をそれにかけるにはひとつ夢は必要なのだ。
 「コモンズ/スピルネ」に関する限り、われわれは、われわれの活動を継続し、われわれに重要なことを書き伝え、ウクライナでの進歩的な闘いに有益であることを希望している。われわれは、「諸周辺の対話」を継続し、他の諸国における全体的流れや問題と闘争についてウクライナ人読者に情報提供することを希望している。それは、進歩的闘争における相互連帯に貢献するという希望の中で、他の周辺的地域に暮らす人々への理解とかれらとの結合を構築するという希望だ。

▼オクサナ・ドゥトチャクは社会学者で、労働問題とジェンダー不平等の分野の研究者、かつ「コモンズ」編集者でもある。彼女はキーウを離れ、現在は西ウクライナにいる。(「インターナショナルビューポイント」2024年2月13日)

 【訂正とおわび】前号2803号、8面コラムタイトル「わが良き友だち」を「わが良き友たち」に、本文2段右から1行目「それでも企業内の地位」を「それでも。企業内の地位」に訂正し、おわびします。

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