ウクライナからパレスチナまで占領は犯罪だ!

戦争か平和か?

現実遊離の偽りのジレンマ排し抑圧の犠牲者との連帯を基本に

ダリア・サブロワ

 戦争か平和か? これは、ウクライナ問題を取り巻く論争中の偽のジレンマだ。
 交渉のための諸条件がない中では、軍事支援に対するオルタナティブとしての即時停戦の話は、選挙キャンペーンでフランスの公衆に狙いをつけた単なる空語にすぎない。他に現実的な選択肢が不在の中では、具体的な連帯はウクライナに対する継続的な軍事支援を必要とするのだ。

マクロンが仕掛けた偽りの論争

 私としてはこの招待(注)を、数週間ウクライナが主題となってきた論争に関して、いくつかの明晰化を提供するために利用したいと思う。最初の論争は、ウクライナのEU加入をめぐって欧州の農民運動によって口火を切られた。2番目は、ウクライナへの部隊派遣の可能性を呼び覚ましたマクロンによって引き金を引かれた。
 両方の件ではウクライナ問題が、選挙戦ゲームの中で全政治勢力によって冷笑的に利用されている。それは、当地の現実から切り離された議論を使って配置され、ウクライナ人の抵抗に対する公的な支援を掘り崩す以外には何の結果も残さない。私は、2番目の論争に焦点を絞りたい。軍事支援は今なお、ウクライナ人が欧州に訴えている要求の中心にあり続けているからだ。
 他のEU指導者によって、またNATO事務総長によって批判を受けたマクロンの見解は、同時に即座にウクライナ政府によっても異議を唱えられた。後者は、事実としてウクライナは部隊を全く求めていない、と指摘した。それが求めているのは、兵器類、特に砲弾なのだ。
 この側面では、誰が何を言おうが、フランスの貢献はこれまでのところ、相対的につつましいものにとどまっていた。つまりフランス政府の数字によれば、その支出が年に400億ユーロを超えている軍事予算の中で、軍事支援は2年で38億ユーロ、あるいは総軍事支出のおよそ4%になっている。実際は、報道媒体のメディアパートによる最新調査は、援助の実質価値は数倍低い形で、これらの数字が大きく膨らまされている、と示している。
 マクロンは、ウクライナへの部隊派遣に関する空威張りによって、EU指導部をめぐる競争において彼自身の目標達成に失敗しただけではない。これらの見解はまた、政治情勢が余地を与えた時多少ともおおっぴらにウクライナへの軍事支援にはじめから反対してきたあらゆる政治勢力に素材をも与えたのだ。

最小限の安全の保証にもノー?


 そこには、国民連合はもちろんだが、共産党や不服従のフランスのような制度的左翼諸政党も入っている。明確だが、かれらが新たな反ウクライナキャンペーンに今乗り出していることは、ウクライナのEU加入、および2月16日にフランスとウクライナ間で締結された二国間安全保障協定の両者に関して相伴っている。もっと悪いことにわれわれがつい先ほど知ったこととして、この協定に極右は棄権を選択した一方、共産党と不服従のフランスは反対すると決定した。
 協定の内容と不服従のフランスが代わりに差し出しているものを簡単に見てみよう。不服従のフランスに面倒をかけているものは、この文書に含まれる原則の断言であり、そこでは「フランスは、ウクライナのEU到達という目標を再確認する」、また「ウクライナの将来のEU加入は欧州の平和と安定に対する有益な貢献になるだろうと確認する」とされている。
 しかし、われわれがこの文書を具体的に細部を注視すれば、戦争の現局面で地上部隊を派遣することに関しては何もない。そればかりか、停戦や和平協定締結の後、ウクライナが再び侵略されるような情勢に対し計画されたような種類のものも皆無なのだ。具体的に引用すれば「ウクライナに対する将来のロシアの軍事侵攻の際には、……フランス側はウクライナに、安全保障の見地から、急速で持続的な援助、必要に応じたあらゆる分野の近代的軍事装備、および経済援助を提供するだろう」というものだ。
 同文書の残りは、訓練、サイバー防衛、兵器類、その他を含む先の援助の内容を詳述している。具体的に修正を提案する代わりに不服従のフランスが反対しているのは、ウクライナが現在利益を得ているものと実質的に異なることがないような、これらの最小限の安全の保証なのだ。

提案された計画は完全に無責任

 それは代わりに何を示しているのだろうか? メランションは、3月7日に公表されたビデオの中で、「ウクライナ―ロシア紛争」と彼が呼ぶものに関する彼の構想を提案している。彼によれば、「意味のある唯一の戦略」は、「和平プラン」を推し進めることだ。これを行うためには、この「ウクライナ―ロシア紛争」の本性を理解することが必要、と言われている。
 メランションを引用すれば「ロシアとウクライナ間の戦争にはふたつのことが関わっている。ひとつは国境……、そしてふたつ目は相互安全保障だ。ウクライナ人はもはやロシア人に侵略される怖れの中で暮らしたくはない。そしてロシア人は以下のような条件で暮らしたくはない。そしてその条件とは、かれらが言うところによれば、第1にNATOの軍事介入の脅威下にもはや置かれたくなく、また第2に、ロシア連邦に吸収されることを求めてきた住民が脅されるのを見たくない、という条件だ」。
 ひとつの合意に達するためには、「国境に関する評議会」を組織することが必要であり、そこでは、引用すれば、われわれは「関係住民にかれらが何に、誰に所属させられたいかを問う。人々の声が解決であり問題ではない。……これらの問題が住民投票で解決されるならば、次いでわれわれは和平のあらゆる要素を確保する」。
 私はこの主張をこれ以上くどくど言うつもりはない。私は単純に、この戦争は国境と相互安全保障をめぐるウクライナ―ロシア紛争ではなく、ロシア軍による残忍で絶対的に正当化できない侵略、およびウクライナ領土の占領だ、ということを皆さんに思い起こさせるだろう。また、NATOからの脅威、さらにウクライナ政府からかれらを守るための軍事介入を求めるロシア語話者住民の要求と言われるものは、純粋なロシアのプロパガンダだ、ということも。さらに、占領地域における住民投票の話は、それを民主的に組織することが不可能ということをメランションが十分に分かっている以上卑劣な主張だということもだ。
 ロシアはすでに、占領地域で住民投票の見せかけを組織したことがあり、それはロシアへの併合に90%以上の票を与えたのだ。投票できるようにするための難民の安全な帰還、投票できなくするためのロシア人入植者の退去、また独立した国際機関によるこれらの住民投票に対する指揮監督、これらをロシアに強要することに、われわれはどうすれば取り組めるのだろうか? 現在の情勢下でこれが可能とわれわれに信じさせることは、完全に無責任だ。

平和の条件には具体的検討必要


 情勢を現実に沿って見つめよう。ウクライナが自らをその中に見出している情勢を条件とすれば、前線での停戦がもっとも害の小さな選択肢と信じるのが合理的だ。ウクライナの部隊は、大きな数になる戦死傷者、弾薬や十分な装備の欠落、その他によって士気をくじかれている。同様にウクライナの市民も、すでに前線にいる者たちに代わろうとの熱望をほとんど示していない。
 夏の反攻の失敗の後、境界線はもはやウクライナ有利に動いていない。そして、始まりの際に事実であったように、志願へと人々を動かすと思われるような生存に関わる脅威を再び感じることは、銃後の人々にとって十分に去っているわけでもない。ウクライナ社会内部の緊張は全く事実だ。誰もが戦争の終わりを強く願っている。
 そのような停戦のための条件が満たされることが、そして何よりも、戦争を止め、将来の侵攻は皆無という約束の尊重にプーチンが利益を覚えるという条件が、依然必要なのだ。しかしながらこれこそがまさに現実でないのだ。
 ロシア軍が主導権を取り戻している。戦争は、「戦争経済」モードに入り込んでいる国内で自身を強化する余地を体制に与えている。反政権派のアレクセイ・ナワリヌイの先頃の暗殺は、政治的抑圧における新たな段階を印した。世界全体は、数千人の反戦派ロシア人が行進し、モスクワで彼の墓に花を置くのを見て、正しくも心を動かされた。しかし残念ながら、この姿勢が引き起こす感情や期待があろうとも、内部から何かを変える能力をもつ民衆的な高揚を直ちに予言するものは何もない。
 プーチン政権は今国内的にも国際的にもその双方で戦争を餌にしている。そしてそこでのあからさまな目的は、地政学的力関係を改変するためにウクライナへの侵攻を利用することだ。当面、ウクライナ人の屈服以外の何かがかれらを満足させる、と想像することは難しい。
 ウクライナ人の場合、その圧倒的多数には降伏を受け容れる用意はない。われわれは、軍事的支援に代わるものとしての即時停戦について、望む限りの多くを話すことができる。しかしわれわれは、これらの話も選挙キャンペーンという脈絡の中でフランスの公衆に向けられた空語にすぎない、ということに気づかなければならない。

具体的連帯か原則の純正さか


 確かに戦闘はいつかは止まらなければならないだろう。そしてあれやこれやの形で停戦はあるだろう。問題は、これがウクライナにとってどんな条件の下で現れることになるか、だ。それは攻勢に基づくのだろうか? ウクライナはもっとも有利な情勢に置かれるよう、十分に武装され支援されるのだろうか? われわれは、おそらく高度にあり得る新たな侵攻のあかつきにかなえてやるどのような安全の保証に、覚悟を決めさせられるのだろうか? われわれは、情勢の進展について大きな不確実性がある時期にいる。そしてその進展は多くの要素に依存するだろう。そして不確実性を前にすれば、もっとも合理的で公正なことは、ウクライナへの軍事的援助を支え続けることだ。
 フェミニストとしてそのような立場を当然と考えることは難しい、ということを私は分かっている。これは、運動のアイデンティティの問題に、その反軍国主義と国家への反対にふれることだ。ウクライナ人の抵抗は、あらゆる反資本主義組織、フェミニスト組織、また反帝国主義組織に刺さった棘になっている。ある者は、この情勢の分析と具体的な連帯を犠牲にして、それらの原則の純正さを保持する方を選んだ。
 しかしながら私の考えでは、そしてこれは2022年にウクライナ・フェミニスト・マニフェストがすでに確認したことだが、フェミニストの思考と実践は、彼女たちがどこにいようと、抑圧の女性犠牲者の直接的利益に、しかしまた抵抗する女性の利益にしたがった、経験の側面に系統的に自らを置くことができれば最善だ。
 ウクライナでは、数万人の女性が武器をもって侵略に抵抗し、数十万人が鍵的な公共サービスで働き、数百万人が自発的な仕事に関与している。われわれはフェミニストとして、われわれの行動はわれわれのキャンペーンの起点である観点に合わされている、ということを理解しなければならない。
 パレスチナへの支援との関係でわれわれは、侵略者を支えている陣営の内部で活動している。したがって最も有効なことは、武器の送り出しに反対し、イスラエルによる戦闘の無条件停止を求めて戦うことだ。これは、ロシアとベラルーシのフェミニストたちが政府に向け今力の限りで引き受けようとしている行動と同じタイプのものだ。
 しかしウクライナに関してわれわれは自分たちを、侵略の犠牲者である国に支援を提供中の国の中に見出している。他に現実的な選択肢がない限り、連帯は、われわれがウクライナへの武器送り出し支持を当然と考えることを求める。その上で、われわれはあらゆる側の陣営主義者に反対して、「ウクライナからパレスチナまで占領は犯罪だ!」と宣言する。(この文書は最初、2024年3月15日にメディアパート内のブログ投稿として公表された)
▼筆者はフランスで研究中のウクライナ人。
(注)この文書は、2024年3月12日のフェミニスト・パリ地域総会の公開会合の中での発言を出典にしている。(「インターナショナルビューポイント」2024年3月18日)  

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