モスクワのテロ攻撃

政府の対応こそ要警戒だ!

ポスレ

 3月22日、モスクワ・クロッカス・シティホールでロシア現代史上最悪のテロ攻撃のひとつが実行された。数人の武装した男たちがこの建物を急襲し、市民集団に直射的銃撃を加えた。3月23日午後4時現在、ロシア当局は、133人が殺害され、100人以上が負傷した、と報告した。われわれは、あらゆる犠牲者と彼らの愛する人たちにお悔やみを送る。無実の市民が政治的暴力の犠牲者になってはならない。
 イスラム原理主義者の関与に関する数多くの推測があるとしても、われわれは、犯人が何者であり、またこの攻撃の背後に誰がいたのかを、確かなこととしてはまだ分かっていない。しかしながら、いくつかの結論はすでに引き出すことが可能だ。
 第1に、このテロ攻撃は明確にロシアの当局を驚愕で不意を打った。ウラジーミル・プーチンは直近になって初めて、ロシアの都市におけるテロ攻撃の可能性に関するワシントンの情報機関からの警告を、「挑発」と呼んだ。
 ロシアと西側諸国の情報機関間の壊された直接接触、および明確に政治的な理由(差し迫ったテロ攻撃に関する情報は大統領選挙直前に発せられた)による公式警告に対するロシア当局による無視、これらによって、さらなる悲劇の危険が増大中だ。ロシアの当局は、世界に関する政府の陰謀論的見方およびあらゆる外国情報機関への不信と引き換えに、彼ら自身の市民が犠牲の対価を払うことを織りこんでいるのだ。
 第2に、ロシア国家の能力があらためて疑問に付されている。それはまず、存在もしない「国際LGBT市民運動」を「テロリストと過激派」リストに加える中での、6ヵ月前のプリゴジンの反乱の中で厳しい挑戦を受けた。想像上の敵に対する戦闘が優先される時、本物の脅威が見逃されるのはまったく余りにも簡単なことだ。
 第3に、ロシア国家はいつも通り、この緊張から利益を得ようと試みるだろう。これこそが、国家の対応がテロ攻撃それ自体よりももっとぞっとするものになる可能性がある理由だ。国家ドゥーマ議員、かつ戦争支持Zブロガー、さらに元ロシア大統領のドミトリー・メドベージェフは早くも、テロリスト(思い起こされなければならないが、ロシア国家はまた、ボリス・カガルリツキーを含むかれらを体制の平和的な敵対者と呼んでいる)に対する死刑停止の中断を今求めている。
 ウラジーミル・プーチンは、このテロ攻撃へのイスラム主義者の関与をなかなか認めようとしていないが、しかし彼は早くもそこに「ウクライナの痕跡」を見つけ出している。全く疑いのないこととして、このテロ攻撃はさらなる弾圧、新たな抑圧法の採択、ウクライナにおける暴力のエスカレーション、そしておそらく動員の新たな波を正当化するために利用されるだろう。
 このテロ攻撃はその種のものとして初めてではない。つまりわれわれは、1999年のアパート爆破、2004年のベスラン学校の包囲を思い出すことができる。それでもそこには重要な違いがある。ウクライナでの戦争を契機にロシア社会が投げ込まれている前例のない暴力の程度だ。メディアは早くも、テロ攻撃犯とされた者がロシア治安部隊によって耳を切り落とされ、それを食べるよう強要された、と報じた。あらゆる色合いの右翼はすでに、テロ攻撃との関連において反移民とイスラム排撃のレトリックを使い始めている。
 ウクライナへの全面侵略に乗りだした時に前例のない暴力のパンドラの箱を開けたロシアの体制は、それを統制下にとどめることができるのだろうか? テロ攻撃を阻止する点での治安機関の能力欠如を前提とする時、それを疑うに足る大きな理由がある。(2024年3月23日)

▼ポスレは、ロシア語と英語によるウェブサイトで、ウクライナでの戦争が提起する諸問題を熟考するために、ロシアとウクライナに向け2022年5月に設立された。(「インターナショナルビューポイント」2024年3月25日) 

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