チリ フランク・ゴーディショウへのインタビュー
大統領の基盤の今
問題は労働者階級の脱落
国を進歩主義の道筋に方向替えするという希望に基づいて選出された、2022年3月以後の国家首脳として、チリのもっとも若い大統領となったガブリエル・ボリッチ(38歳)は、保守派ブロックと競うことができず、あるいは彼の政府を軸に左翼を統一できず、むしろ彼の政治の焦点を変えたように見える。ボリッチは任期中間地点で、期待された深い改革をまだ実行できていない。ルイ・レイガダがフランス紙の「ユマニテ」向けに、ラテンアメリカ専門家のフランク・ゴーディショウに以下のインタビューを行った。
変革への希望
が深い失望へ
――社会主義者大統領のサルバトーレ・アジェンデの「主要な道を再開する」と約束した男の、任期中間地点での収支決算はどういうものか?
ガブリエル・ボリッチは、2019年の社会的爆発に続いた非常に特殊な脈絡の中で、新自由主義後の転換という期待を体現して権力に到達した。彼は、非常に強力な要求、特に社会的要求によって押し上げられ、彼自身よりもはるかに左に位置した政党(たとえばチリ共産党)や、ポスト独裁期の20年にわたる政権に対し原理的に批判的な諸政党を含む連合のトップだった。この後者の政権であるコンセルタチオン(1990~2010年)は、妥協や、この時期における左翼政権による権力の新自由主義的管理までも特徴とした。
ボリッチはこうして、私有部門が社会の構造的基礎を代表した国で、幅広く大幅に規制緩和された諸部門(教育、公衆衛生、年金、その他)に対するある種の締め付けに基づく、底深い改革の約束を携えて登場した。当時は概して、ボリッチがほのめかしたような、公衆が市場の力への支配を取り戻すことに成功すると思われた「新しいチリ」という希望があった。これらの側面すべてに関し、結果は極度に失望を呼んでいる。
依拠すべき基盤
の動員への躊躇
――それは、議会内多数がないためなのか?
そうだが、しかしそれがすべてではない。政府は諸制度の中で力をもつ位置にはいない。したがって政府は、始終交渉を迫られ、社会党の中心人物を権力に再統合することを含め、最後には「極度の中心」から統治することになってきた。
大統領は、彼の任期における最初の6ヵ月の寛大な様子見を利用できなかった。つまり彼は、進歩的な方向をもつ政治的な推力を打ち固めるために、最初の憲法草案の承認にすべてを賭けたのだ。その拒絶(2022年9月の62%による:IV編集者)は冷水のシャワーだった。この敗北は全体としての左翼と社会運動を傷つけた。
そして後者は今、右翼が支配した2回目の憲法制定に導いた長くまたむしろ混沌化した投票サイクルを受けて闘争中だ。結局この2回目の憲法草案もまた拒絶された――55%以上で――。政権は、政治的主導権を取り戻すことができずに中立化されているように見えた。
加えて、社会基盤と社会運動を動員する能力の欠落が意味することは、政権が野党勢力と競うことを政府に可能とする幅広く構造化された支援に頼っていない、ということだ。その依拠は、チリのオリガルヒへの挑戦ではもっと小さい。そしてこの勢力は、その利益を代表するもっとも保守的で伝統的な諸政党に依拠できているのだ。
法と秩序の分野
が新たな問題に
――それでも進歩は実現され、世論調査は大統領に26%から30%の支持率を与えているのでは?
はっきりと、それは前任者を超えている。2年を経て、彼は依然一定の基盤に頼ることができ、否定できないこととして、彼は大学卒業の経歴をもつ進歩的な中産階級の中に一定の足場を保持している。しかし、労働者階級は抜け落ちている。
これまでに社会的分野で進歩(週労働時間の40時間への、しかし仕事の新たな柔軟さを付随した短縮、最低賃金の増額、無料の初歩的医療ケアのもっと容易な利用の可能性、その他)があった。しかし、大きな構造的な改革(特に財政改革)が生まれ出ることはできずにきた。そして支配的な枠組みは、全面的に資本主義のままであり、同じオリガルヒから支配されている。失望は非常に大きく、極右を強化している。
――その高まりは、犯罪の増加を伴った不都合な治安の背景によっても力を与えられているのでは?
確かに、約6年の中で、麻薬カルテル(たとえばベネズエラ人のカルテル)に結びついた集団の活動増大を伴って、チリはもっとも暴力的な犯罪率の2倍化を経験してきた。この暴力、時に悲しい事件は、労働者階級と中産階級に大きな衝撃を与えている。しかしながら、この数ヵ月で数字は僅かの改善を示し、われわれはもうひとつの問題に直面している。それは、克服が難しい、左翼に不利な角度から公的な論争に治安問題を押しつける主流メディアの能力によって鋭くされている問題だ。
しかしながら、カルテルの暴力の問題に対するボリッチの対応もまた、彼の支持者の多くを失望させた。深刻な人権侵害にこの間、特に2019年に責任があった武装警察部隊の改革は、全く実現していない。
ボリッチは常に法と秩序の問題の軍事化を拒否してきた。しかしこれが今、犯罪との闘いという脈絡の中で、しかしまた国の南部でのマプチェの人々との対立の中でも、行われるにいたったのだ。ここに、極右にとって扱うのがはるかに容易な問題との関係で、実体のある政治問題がある。そして極右は、外国人排撃とレイシストの主張によって支えられ、万難を排した軍事化を開けっぴろげに唱導している。
アジェンダとの
比較は不適切だ
――われわれは、右翼が描くのを好む「急進左翼」の大統領、とは大きな距離があるのだろうか?
ボリッチ大統領はいつも、対話に取りかかる、またある種の挙国一致の創出を追い求める意志をもっているとして、自らを示してきた。それがたとえば1973年のクーデター50周年記念イベントの中で見られたことだった。
この戦略は、われわれが今それを望まない右翼に対処している時には、うまくいかない。その右翼は、独裁の遺産保持を――最低でも部分的に――主張し続け、あらゆる妥協に反対し、逆に、たとえば毒気を含んだ反共主義が今も存在し続けている国で政権の左翼を指さすことで、どのような政治論争をも永久に興奮したものにしようとしているのだ。
2019年の反乱抑圧に責任を負っている者たちのひとりであるセバスチャン・ピニェラ前大統領の近頃の事故死(今年2月6日に搭乗していたヘリコプターの墜落事故で死亡:訳者)、およびその際にボリッチがそれでも彼の「共和主義者の」相貌を目立たせたやり方もまた、彼の活動家基盤を驚かせ、そこに衝撃をも与えた。
事実としてボリッチはこの間、数多くの思わせぶりな言動を行ってきた。そしてそこでは、1990年代の移行時代の主要人物であるキリスト教民主派大統領のパトリシオ・エイルウィンの遺産を最近になって主張する点まで、自身のイデオロギー的位置取りの進展を示している。
しかしながらボリッチは、先の歴史的な時期への反対の中で自らを政治的に構築してきたのだ。現時点まででわれわれが言えるのは、彼の権力委任は移行期とその「総意」が意味したものとより一致している、ということだ。クーデター(ピノチェトの:訳者)から50年、われわれが比較をしなければならないとすれば、それは、1970年代の人民連合政府の執権というよりも、むしろミシェル・バチェレ(前記ピニェラの前任者であった社会党の大統領:訳者)と彼女の執権に対してだ。(2024年3月19日、「ユマニテ」からIVが訳出)
▼フランク・ゴーディショウは、トゥルーズ・ジャン・ジョレス大学(フランス)のラテンアメリカ史教授。フランス・ラテンアメリカ協会の共同代表でもある。(「インターナショナルビューポイント」2024年3月29日)
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