フランス マクロンの反動的家族政策

軍国主義とレイシズムを拒否する

ペネロペ・デュガン

出生率への
根強い執着

 1月16日、エマニュエル・マクロンは国民向けに演説し、そこで、市民、学問、科学、技術、企業化された農業の再武装、さらに人口統計的な再武装の必要を力説した。
 人口問題に関するこの好戦的な宣言は何をもたらしたのだろうか? 2023年、フランスで誕生した新生児は僅か67万8000人で、2022年比で6・6%の減少だった。
 フランスは長期にわたってその親民族主義的政策と高い出生率――EU内では最高の出生率――で知られる国になっていた。同時に出生率は、懸念の永久的な対象でもある。1990年、ルモンド紙は「フランス(あるいはまったく異なる政治的かつ社会的な脈絡の中にある中国)以外の世界のどこでも、その主題が大衆的日刊紙の1面になることはないだろう。それでも、西欧諸国の中では出産率がフランスよりも低いのだ」と書いた。2006年、ワシントンポスト紙は「この夏政府――フランスの女性はまだ完全な世代交代を保証できる十分な子どもをもうけていないと懸念した――は、フランスの女性に極めてあからさまに、さらにもっと多くの子どもをもつよう強く促した」と報じた。

出生率への
根強い執着


 第二次世界大戦の前とその後、さまざまな懸念――戦う用意のある若い男、および労働者に対するより良い条件の不足――が結びついて、「家族法典」の中に親家族的諸政策を導入することになった。この法典とその後の修正は以下におよんでいる。
第3子向けには上乗せがある、気前の良い妊娠助成金と妊娠休暇。
補助金付保育所、1日託児所、子守り、2歳半からの幼稚園の用意。
乳飲み子の母親への、パートタイマー労働や週休のある労働の奨励。
家族手当、交通補助金、住宅割り当てという形の、3人以上の子どもがいる家族に対する給付。
もっとも年齢の低い子どもが18歳に達するまでの、両親に対する税の全額免除。
子ども向け自治体キャンプを通した補助金付休日、賃金労働者向け「休日小切手」。

 今ひとつの重要な違いがある。元々の家族法典は避妊具の販売を禁じていた――これは1967年に廃止された――が、中絶に対しもっと厳しい法を導入した――1975年に最終的に合法化――。しかし今日、憲法への中絶取り入れが、フェミニスト運動がキャンペーンしてきた原則的権利というよりも「保証された自由」としてとはいえマクロンまで進める形で、論争の渦中にある(注)。
 当時の親民族主義諸政策は、われわれが今日の事実として強調すると思われるような、反移民の立脚点から駆り立てられたものではなかった。それらは、右翼の考え方を映し出していた。つまり、国は、自らを守ることができるように、強くあり子供をもうけなければならない、こうして、女性に子どもの生産者としての特別の役割を与える、という考えだ。
 ナチ占領下でフランス人協力者としてのフランス大統領であったペタンは、母の日の重要性を引き上げた。これは、フランスで1926年に公式化されたが、その目的は、出生率を高めることによって第一次世界大戦で多数が殺された国の人口増だった。出生率は19世紀末以来、フランスでは相対的に低くなっていた。ヴィシー体制はそこに子どもを引き込み、学校に、生徒と共にポスタ―や訓話や報道動員を使って母の日の準備をするよう求めた。

軍国化風潮下の
人口問題の再燃


 フランスには今日、「普遍的国民奉仕」の導入という形で、それが軍ではなく学校への制服導入の提案であるとしても、新たな軍国化の空気がある。
 フェミニストの『ソルシエーレ』コレクション編集主幹であるイザベル・カンブラキスは非営利オープンアクセスメディアの「レポルテッレ」に以下のように語った。
―女性の身体は戦争の武器ではない。民族主義政策をこの軍事的用語と結びつけることは私をぎょっとさせる。それは、政府が大砲のえじきをつくり出したがっているとの印象を与える。それは、史上のまさに他の多くのような単なる親民族主義のレトリックではない。これに加え、世界中で紛争が増加中である時期に、戦争との耐えがたい連結もある。人は、政府は実際何を今狙っているのかといぶかっている。人口統計的再武装とは、一体どんな類の政策に導くのだろうか?
 権威主義的で保守的な諸国〔からこの軍国主義的レトリックはやってきている〕。それは、ハンガリーのオルバン政権のそれとまったく同じレトリックなのだ。それは、家族、故国、さらに異性愛家父長主義モデルを守るファシストのファンタジーだ。最悪なことは、このレトリックは効果さえない、ということだ。それは、子供をもうける実践には何の影響力もない。人々が子どもをもとうと急遽決めるとすれば、それはマクロンが人口統計的再武装を訴えるからではない! これらの演説は何の効果もなく、それらは単に保守派向けの言葉にすぎない―

レイシズムも
露骨に表面化


 マクロンは今同時に、もうひとつの右翼のテーマを利用中だ。それに関し彼はつい最近、新たな制限的な移民法を、つまりフランスの若年層人口を押し上げ、同時におそらく出生率も高めると思われる移民に対する不信と拒絶を通過させるために、フランス議会の極右と公然と連携した。
 もし懸念が本当に出生率であるならば、政府は移民に依拠し、また医療支援出産とその全員への適用を可能として、「努力」にレズビアンやゲイのカップル、またトランスの人々や異性愛モデルの外部にある他の人々を統合していなければならないだろう。現実には政府は今、アイデンティティが基礎の取り組みを擁護している。その計画は白人女性が子供をもうけることなのだ。
 これは「大置換」理論が巻き起こした恐怖と共鳴している。これは、民族としてのフランス人と白人の欧州人口が、大量移民、人口増大、そして白人欧州人の出生率低下を通して、非白人――特にムスリム多数派諸国出身の――によって、人口統計的に、また文化的に置き換えられようとしている、というものだ。
 この再武装はこうして、内部の敵、移民、労働者階級住宅街出身の若者、ムスリムに敵対している。しかし、それはどこに行き着くのだろうか? 25歳で受精力検査(出生率を押し上げるための、女性向けの、そして男性向けには精子の検査を産婦人科に義務づける提案!)を受けるのを拒否する者、あるいは子供をもうけるのを拒否する者には何があるのだろうか?
 同時に、マヨット(フランス最高の出生率の、インド洋にあるフランス「海外県」)で政府は、若い母親すべてに不妊処置を提案し、フランスの地のその部分で生まれた子どもには、フランス国籍の自動的な権利を取り除くことを計画中だ。それは、フランスの残りに対し――もちろん、「非フランス人」両親から生まれた人々に対し――、右翼と極右がすぐさま取り上げた考えだ。

フェミニストの
反軍国主義抵抗

 軍国主義的思考傾向に囚われて徴兵にとられることへの拒絶は、フェミニスト運動では長い歴史がある。その歴史は、第一次世界大戦の苦悶の中で生まれた「平和と自由を求める女性国際同盟」から、平和のための母親運動、今日のパレスチナ―イスラエルを含む、紛争中の両側出身女性の共同イニシアチブ、1980年代の反核女性平和キャンプを貫いて続いている。政治の男世界と軍産複合体からなる浸透的関係に対する公然非難は、「男の子からおもちゃを取り上げろ」という有名なスローガンにまとめられた。
 子供をもうける女性の能力が、それを「国民」の奉仕に向けた道具にしてこのような方法で、またそうした軍国主義的な用語で悪用されそうだということは、われわれをぎょっとさせるかもしれない。しかしそれはまた、怒りでわれわれを燃え上がらせるに違いない。

差別のない家族
をつくる権利へ


 1970年代の女性運動――少なくとも女性たちが、離婚や結婚した女性の自身の財産への権利といった基本的権利を求めて依然闘争中だった諸国内の――は、「家族を打ち壊せ」のスローガンを押し出した。中でも社会主義者フェミニスト潮流内のわれわれは、トロツキーの「裏切られた革命」とその「家族におけるテルミドール」の章を読んでいた。そして、その中に子供が生まれた権威主義的、家父長主義的、資本主義の社会に向け、家族がどの程度まで訓練場なのかを認識した。われわれはまた、家族が女性と子どもに対する暴力の主な現場であるセクシャルバイオレンスの困難な問題にフェミニストとして対処することも学んだ。
 同時にわれわれは、家族生活のための権利を求めて、母親と両親がかれらの子どもを見苦しくない生活水準で育てることができるように、国家の支援とサービスへの権利を求め闘っている、移民や難民の労働者とも連帯した。そして今も連帯している。
 われわれは、「心ない世界と魂のない条件の心臓」という宗教に関するマルクスの言葉を、その資本主義的で家父長主義的特性にもかかわらず、今日多くの人々に家族が意味しているものに当てはめることも可能だろう。
 建設に向け社会主義者が骨を折っている新たな世界にとっての挑戦課題は、同じことを享受するどの他者の権利も制限せずに解放され、幸福であるために、かれらが望む社会的、世代間の、感情的、性的な関係をあらゆる人々にどのように確保するか、だ。(2024年2月18日、初出は「ラプチャー」2024年3月号)
▼筆者は、第4インターナショナルのビューローメンバーで「インターナショナルビューポイント」編集者、かつフランスNPAメンバー。また特に女性プログラムに責任を負うアムステルダムのIIREフェローでもある。
(注)これは3月4日、フランス議会両院の合同会議の評決で承認された。「フランスは中絶を憲法の権利にする」との、2024年3月4日のBBCの標題は誤解を招く形で「権利」にふれた。(「インターナショナルビューポイント」2024年3月13日)

【訂正とお礼】本紙4月8日号7面のアルゼンチンの記事について。ラテンアメリカ専門家の方から記事中の「乗り合いバス」法は、バスの法ではなく、さまざまな「改革」を一挙に進めるためのたばね法だとの貴重な指摘をいただきました。ご指摘に感謝すると共に、当該部分(1段目右から1行目、2段目右から19行目)を「改革たばね法」に、2つ目の中見出し中の「『バス』法案」を「改革法案」に訂正します。

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