ポルトガル 総選挙:結果と展望

情勢が右へと移行したとしても今後の進展方向は全く未確定

右翼政府への闘いはすでに始まっている

アドリアーノ・カムポス

右翼の勝利は数十年間で最大

 今年3月10日のポルトガル議会選挙で右翼が全体で得票率53%を獲得した。ルイス・モンテネグロのパルティド・ソシアル・デモクラタ(社会民主党―PSD、欧州人民党の1員)が率いるアリアンカ・デモクラティカ(民主連合―AD)の得票率は29・5%だった。ウルトラ新自由主義のイニシアティバ・リベラ(リベラル・イニシアチブ―IL、欧州のためのリベラル・民主連合の1員)の得票率は5%、一方2014年に創立されPID(アイデンティティと民主の党)傘下のチェガ(たくさんだ!)党は大伸長の18%を獲得し、議会では定数230のうち48議席を確保した(注1)。
 現与党で今まで議会絶対多数保持政党だったパルティド・ソシアリスタ(社会党―PS)は、2023年11月7日に辞任したアントニオ・コスタ首相に対するいかがわしい告発行為の結果としてのその総辞職に続いて、41・6%(2022年)から28・6%へと落ち込んだ。その政府は、もろもろのいわゆる便宜供与事件の渦中にあったが、住宅危機やインフレと公共サービスの弱体化に起因する実質賃金低落に対応できなかった中で苦境に陥らされ、加速度的な腐食を経験した。これが、数十年間で最大の右翼の勝利に道を清めた。
 その左翼の側では、ポルトガル共産党が6議席から4議席になった。アレンテージョにおける最後の非選出議員、またセトゥバル選出2議員のうちひとりを失ったことによるものであり、それは両地区が党の伝統的拠点という事実にもかかわらず起きたことだ。その得票率は3・3%に低落した。
 他方ブロコ・デ・エスクエルダ(左翼ブロック―BE)は何とか僅かながらその得票を増やすことができ、5人の議員による議員団を維持できた(得票率4・5%)。中道左翼の立場に立つリブレ党(PVE―欧州緑の党)は1議席から4議席になり(3・2%)、議員団を形成、他方動物の権利党(PAN)はその唯一の議員を維持した。

極右が集めた票は百万票以上

 昨年11月7日に公表された絶対多数を抱えたPS政府の退陣以来、世論調査は極右の伸長をはっきりさせ続けた。2019年までポルトガルは、極右が国会で地歩を獲得し続けていた欧州のいわば例外だった。
 2019年に唯一の議員として選出された元PSD指導者のアンドレ・ベンチュラ(チェガ党首:訳者)は、ポルトガルの全体構図に世界的なトランプ主義の手法を持ち込んできた。ベンチュラは、汚職と闘うとのイメージに依拠し、抑圧的、女性蔑視的、外国人排撃的、そして権威主義的課題設定に乗り出しつつ、警察部隊のような諸部分との政治的な接合の中で植民地国家の過去の称揚のような、これまでは押し込められてきた諸テーマを組み合わせ、伝統的な右翼を何とか消耗させることができた。チェガは、2022年選挙で得票率7%に到達することによって、数十年間システム内最右翼政党だったキリスト教民主党のCDS―PPを議会の議席から消し去った。
 チェガは、ブルジョアジーの金利生活者部分から資金を得て、またその中核活動家としてポルトガル右翼の周辺化されたメンバーに基づいて、ソーシャルネットワーク上にコンテンツを広めるための強力なシステムを自らに装備し、棄権を信条とした数千人、およびより懸念すべき若い有権者の票を獲得した。チェガは、住宅や公共サービス利用の点で、次々に引き継がれた諸政権の無視と見放しに苦しんだ地域であるアルガルベで第一党に躍り出ることで、住民層の憤りと欲求不満をとらえる能力を示した。これは、住宅問題と公共サービスの中での場の不在を移民のせいにするヘイトスピーチが基礎になっている。
 サンチャゴ・アブスカル(スペインの極右政党であるVoxの党首:訳者)自身に支援され、ボルソナロとヴィクトル・オルバンにより称揚されたベンチュラは、選挙キャンペーンを貫いて、合法的な移民(ポルトガルによって植民地にされた元の領土出身の)と、彼自身の言葉によるインド亜大陸出身の増え続けている「無統制な」移民に区別をつけた。ベンチュラはさらに、あらゆる投票箱を検査するような、本物のトランプ主義の化身であるかのように、選挙プロセスの信頼性にも疑問を投げかけた。
 今や48人の議員に基づいて、彼は、議会内の新たな力関係の中で、また政府に対し彼が及ぼすことが可能な影響力のおかげで、日の当たる場を求めている。ベンチュラは近年、いくつかのデモを通して、不首尾だったと分かったのだが、街頭での場を獲得しようと挑んできた。しかし彼は今、「汚職との戦闘」と権威主義的綱領の楯の下に、彼の選挙での力を社会的に統合された組織化に確実に移し換えるために、彼ができるあらゆることを行うつもりだ。これまでは虚像的で選挙上の現象だったことは、街頭に存在するヘイト組織の危険な形をとる可能性も考えられる。

綱渡り不可避な右翼の統治


 AD(PSD+CDS)は、国の数地区で票を失ってさえ、敗北した2022年選挙の時よりも僅かに多い票で今回の選挙に勝利した。この勢力は、チェガに加えて、設定課題が減税、私有化強要、さらに雇用法制のめった切りであるILによっても右へと押し潰されている。ADは、トロイカと緊縮時代(注2)以来の前支配者という引き続く外見を引きずったまま、ひどいキャンペーンを続けた。その指導者の多くは明らかに今も、中絶の権利の制限、気候危機の否認、移民攻撃を心に描いている。当面われわれは、法人税減税、公衆衛生分野での私有部分の強化、財産所有者保護の強化を予想できる。
 数年の躊躇を経て、また前回選挙での右翼政府へのチェガ参加に関する曖昧さ維持がPS絶対多数の強化に力を貸したとはいえ、今回PSDは、ILだけを統合しようと追求しつつ、チェガと一緒に統治することはないと約束する選挙スローガンとして、「防疫線」、を採用した。しかしながら、この解決策が今後安定するとの保証はまったくない。
 今や野党であるヌーノ・サントスPS書記長は開票日夜、この政権は10月の国家予算承認に当たってPSの票に頼ることはできないだろう、それゆえADはチェガの票に頼るだろう、と語った。モンテネグロが2025年国家予算(今年は10月に票決される予定)を前に、予算修正を提案することで、あるいは新たな選挙に自身が用意できていることを示すことで、またあるいはチェガとの交渉という危険なゲームに出ることで、これらの危機を先読みして先手を打つことになるかどうかは、まだはっきりしていない。したがって右翼は綱渡りで統治することになる。

PSの改革拒否に厳しい審判


 PSは2019年に、その左翼に位置する諸政党との交渉を拒否した後、「絶対多数」の獲得を目的にした戦略を本格化した。自らを極右に対する障壁と提示する「マクロン主義」的戦術を利用して、アントニオ・コスタはこの絶対多数を勝ち取った。しかし彼は、全国医療サービスや住宅危機や賃金安定策といった諸課題に関し、以前の時期に上げられた成果がインフレの作用によってむしばまれるような成り行きの中で、急に動きを止めた。2年の間PSの活動は、措置の不手際への疑い、また政府内部の腐敗までが数を増す中で、もっと緩慢なペースとなった。
 当初「党左派」として現れたペドロ・ヌーノ・サントスの下のPSの新指導部は、「絶対多数」のレガシー防衛を体現するひとつの悪ふざけであると分かった。キャンペーンの中で彼は、PSが議会内絶対多数を確保できない場合として、統治から他者を排除しないために、ADに向け互恵的協定を提案したのだ。
 この路線は、若年層と棄権追求層の票を惹き付けることができないと分かった。こうしてPSは、右翼に立ち向かい、近年の失策に対応するための、PSの左に立つ諸政党が防衛した新たな議会多数形成という仮説の信用を傷つけてしまった。そしてPSのキャンペーンは、ポルトガル民主主義の史上で最も重大な意味をもつ右翼の勝利を容易にした。
 今や野党であるPSは、議会での不信任動議を支持しないと約束している。そしてそれは、ADの政府形成を可能にしている。また同時にPSは、ADとチェガの友好関係回復に賭けつつあり、国家予算は支持しないつもりだと語っている。「絶対多数」の信用失墜に導いた諸問題に関する代わりになる綱領がなければ、この反対は無意味だろう。そしてPS内には、右翼が提案する予算の救出を求める声は十分だろう。

左翼は明確な綱領と統一政策を進めなければならない


 PCPの選挙での腐食は、政治的な間違いと永続的なセクト主義の結果だ。PCPは、ゲリンゴンカ(PCPとBEの支持に基づいて形成されたPS政府のような「ことがら」)の名称がつけられた年月の時期に三者交渉を拒否することで、PSに左翼の中心という役割を残した。議会および社会運動や労組運動の中で、PCPは、PSが障害となる勢力だった諸問題に関し、統一的なイニシアチブを邪魔した。2年前、ウクライナ侵略に関するその陣営主義の立場は、かれらが依然として一定の影響力を保持していた住民部分の中でさえ、PCPを深い孤立へと導いた。選挙キャンペーンの中での、政治的自律性の主張と左翼での多数派を支持する不鮮明な訴えの間の揺れ動きは、1975年以後で最悪な結果に導いた。
 開票日夜の主役のひとつは、LIVRE(ポルトガル語で「自由」)だった。当初「ワンマン党」(2011年にBEと決裂した前議員のルイ・タバレス)として創設されたが、LIVREは、欧州緑の党に加入し、その綱領全体をEUに対する熱烈な称揚に基礎づけて、政治再編と有機的成長の軌道を辿ってきた。このような方向で分析すれば、この勢力は、EU既成エリートに対する控え目かつ冷笑的な批判を押し出しているPSの右に位置している。
 タバレスは、環境主義的課題設定と革新的なレトリックに頼りつつ、PSの従属的な付属物を体現している。彼は選挙キャンペーンの中では3陣営論を支持した。それによれば、あらゆる政府問題の解決からのチェガ(第1陣営)排除、あるいは議会多数派は、PS、BE、PCP、LIVRE、さらに親動物のPAN党から構成された第2陣営に、ADとIL(第3陣営)よりも多くの議員に基づいて統治を可能にするはずとされた。しかしこの命題は立ち消えた。つまりわれわれは、棄権の減少を原因とする極右の前例のない成長を目撃した。したがって、PS、BE、PCP、LIVRE、PAN間の合意から結果するあらゆる政府はAD、チェガ、IL共同の拒絶に直面し失敗すると思われる。
 この不利な全体構図の中でBEは、その議員団を維持し、票を3万5千票伸ばすこともできた。たとえばBE全国本部の決議は次のように述べた。
 「ブロックの回復力は3つの本質的な側面に関する明晰さによっている。1番目は、公共サービスの管理運営、社会的権利、労働、そして所得の内容に関する明晰さ、2番目は、右翼の税制改悪を糾弾することによる、そして金利取得者、不動産所有者、およびインフレのあらゆる受益者(銀行、巨大スーパー、エネルギー)との衝突による、経済権力との衝突だ。ちなみにこの経済権力はその上、これまでブロックへの敵意を示してきた。そして最後は、極右との衝突であり、ブロックはそれに対し、キャンペーン全体で極右が直面した唯一の深刻な困難をつくり出した。つまり、その何百万ユーロもの資金の出所に関する説明だ」。
 極右の伸長と急進化した右翼政府の公表を前に、左翼には二重の使命がある。つまり、新政府と対決する闘いの組織化、そして信頼性のあるオルタナティブの提示だ。
 LGBTQI+、フェミニスト、さらに反レイシズムの運動の強さに依拠しつつ、また現在極右とウルトラ新自由主義の強力な影響力の下に置かれている学校内とソーシャルネットワーク上で支配的なイデオロギーに対抗することによって、保守的な課題設定に対決する民衆的な決起が街頭で現れなければならない。
 賃金、住宅、また公共サービスといった鍵になる問題に関し、代わりになる政府に対する希望をこの国に差し出す統一的政策を築き上げるためには、出合いや合流のための場が基本になるだろう。この闘いはすでに始まっている。そしてそれは、カーネーション革命50周年を記念し今年4月25日に予定されている巨万の民衆決起の中で、本質的な1歩を刻むだろう。

▼筆者は、左翼ブロック全国指導部の1員でポルトガルの第4インターナショナルメンバー。
(注1)ポルトガルでの登録有権者は900万人を僅か超える数で、今選挙での投票者数は614万人強、投票率は66・2%だった。
(注2)トロイカは、ポルトガル国家との2011年協定に署名した3者、つまりIMF、EU委員会、欧州中央銀行に対し使用されている用語。(「インターナショナルビューポイント」2024年3月22日) 

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