EU議会選に向けて
極右の攻勢への抵抗は可能だ
EU支配階級の政治こそが極右を助けている
NPA(反資本主義新党)反ファシスト委員会
欧州政治ではここ数年極右の攻勢が顕著であり、世論調査などで、6月のEU議会選でもその傾向がさらに強まると見られている。以下はそれをはね返す左翼の闘いを訴えるものだが、欧州極右の現状を知る上での貴重な情報も多くあり紹介する。(「かけはし」編集部)
フランスでは、極右が2024年6月9日のEU議会選で先頭に立つ政治勢力になりそうであり、おそらくEU内で2番目の(あるいは3番目の)勢力になりそうだ。極右の諸政党は今相対的に大きな数で各国選挙の勝ち組になり、各国政権への参加まで果たしている。
EU各国で極右が政治の前面に
イタリアでは極右が、ジョルジャ・メローニの「イタリアの同胞」とレガ(元北部同盟)に基づき、2022年9月25日の議会選以後、故シルヴィオ・ベルルスコーニのフォルツァ・イタリアを加えて共に政府を率いてきた。
スウェーデンでは、それより2週間早く、スウェーデン民主党(SD)が2022年9月11日の議会選で勝者の中にいた(注1)。SDは、得票率20・5%で得票の点では、現在野党である社会民主党(得票率30・3%)に次ぐ、この国で大きさが2位の政治勢力になった。その後穏健党(古典的右翼、得票率19・1%)がキリスト教民主党、リベラルズ、またSDと共に連立形成に進んだ。最後の党はいかなる省庁も確保しなかったとはいえ、それに頼る与党過半数内に場を占め、連立諸政党からなる「調整」委員会に1議席を得た。政権協定には、移民と安全保障に関するSDの署名が記載されている。
フィンランドでは、2023年4月2日の議会選後、真のフィン人党が、伝統的な右翼政党である国民連合党(得票率20・8%)と僅差の得票率20・1%によって2番目の政治勢力になった。ここでは極右が、保守派のペッテリ・オルポ(国民連合党党首)の政府に入閣し、主な右翼政党やキリスト教民主党やスウェディッシュ・マイノリティ党と並んでいくつかの省庁を確保した。
真のフィン人党は、経済、財務、内務、司法、および社会問題の省庁を確保した。注目すべきことだが、2023年夏以後フィンランドは、この政府が実行した反社会的「改革」に反対する連続的なストライキや大学の抗議行動にとらえられてきた。その最新のものは、新たな雇用法に反対し今年3月11日から15日間続いた政治的と見られたストライキだった(法案には、いわゆる政治ストライキの禁止の意図があるものの)。
他のEU諸国でも、極右は強い力を示す位置にいる。オランダでは、自由党(PVV)の2008年における創設者(かつ法的には現在までただひとりのメンバー)であるヘルト・ウィルダースが、2021年に10・79%を得たことに続いて、2023年11月22日の最新議会選で得票率23・49%に基づき、先頭に立つ選挙勢力の指導者として現れた。
PVVはその後議会の支持不足が原因でウィルダースを首相として抱える政府の形成に失敗したものの、オランダは、指導的勢力としてPVVを抱える連立政権に向かって動きつつあるように見える。将来の連立は、PVVに加え、環境基準(BBB)に抗議している農民党、右翼のリベラル党(VVD)、またキリスト教民主党からの分裂一派を結集すると予想されている。
オーストリアでは、脆い連邦政府が2020年以来保守的右翼(ÖVP、オーストリア国民党)とグリーンズを結集してきた。しかし極右(FPÖ、オーストリア自由党)は、2024年秋の総選挙で勝利すると見られている。そしてそこではこの党が、30%内外を受け取ると予想されているのだ(注2)。それまでFPÖは現在、この国の8地域の中で3つの政府内にいる。
東欧では、2023年10月15日のポーランド議会選で民族主義保守派のPIS(法と正義党)が敗北したものの、2010年以来権力を握っている首相のヴィクトル・オルバンのハンガリーのフィデス党は今もブダペストで統治にあたっている。このふたつの政党は、フランスでは極右部分と右翼両者を包含すると思われるような一定範囲をカバーしている。
ハンガリーでは、それらには政権部分ではない極右の1政党が加わる。つまりジョビク(「最良」)だ。この党は、もっとも近いところで再結集に挑んできたが、しかしそれは、より強硬でより過激な潮流からの分離という危険を犯すものだった。ちなみにその潮流は、2018年のミ・ハザンク(「わが祖国」)運動の元になった。
世論調査は現在ジョビクの得票率が、2014年の14・67%、2019年の6・34%に比べ、3%以下に落ちると予測している。しかし新たなミ・ハザンク組織は8%以上に躍進すると予想されている。
EU議会内極右の2グループ
EU議会内の極右は主に別々の2グループで代表されている。一方には、2019年に創立された「アイデンティティと民主主義」(ID)グループがあり、そこには、フランスの国民連合(RN)、イタリアのレガ、オランダのPVV、オーストリアのFPÖ、さらにドイツのAfD(「」ドイツのための選択肢」)が含まれている。他方には、「欧州の保守派と改革主義者」(ECR)グループがある。その背骨ははじめ、それがブレグジットに続きEU議会から去るまで英国保守党だったが、イタリアの同胞、スウェーデン民主党、真のフィン人、またスペインのVOXを含んでいる。ポーランドのPISは今最大の勢力だ。
しかしながら2021年3月、フィデスは欧州人民党(EPP、古典的なブルジョア右翼を結集している)から離脱し、今ECRとIDを含む他のグループに加わることを交渉中だ。このハンガリーの政党は、先の2グループを近づける点で重要な役割を演じる可能性もある。
もっともIDとECRの間には、特に経済問題で顕著な違いが諸々あり、たとえIDグループがフランスのRNのようにポピュリスト的な社会的民衆扇動を強調する――少なくとも各々の国でこれらの政党が野党にある限りは――としても、ECRの多数派は多かれ少なかれ、経済問題では新自由主義だ。
最後に、フランスの再征服党(反ムスリム急先鋒のエリック・ゼムールの党:訳者)が、2019年にRNリストで選出された唯一の現職議員のニコラス・バイに基づいて現在ECRグループに席を占めている。この党は、また今回の選挙にリストを提出しているが、議会参入に必要とされる5%の敷居超えの保証はない。しかしながら、極右「一族」にはそれを貫いて走る形で、さまざまな議会グループの形成に加わることに加え、深い分割線がある。
ロシアをめぐり成長する亀裂
EU内のこれらの政党の多数派は、特に西側部分とドイツで、2000年後の年月、ロシアの体制に対し歴史的に支持の姿勢が極めて強く、また結びつきまであった。しかしこの立場は、ウクライナに対する戦争開始以後、公然と引き受けるにははるかに難しくなっている。
フランスのRNは現在、ロシアのウクライナ侵略に対するもっとも遠慮のない批判者のひとりだ。その理由は単純だ。フランスの主要な極右は、かれらを多数派の世論と争う位置に置くと思われるような立場を採用する余裕はないほどまで、全国的な権力に近づきつつある、と信じているのだ。
それは2022年の大統領選キャンペーンの時と同じだ。その時、ウクライナにおける戦争開始の公表後RNは、8ページのリーフレット120万部を捨てることを余儀なくされた。理由は、そこに、「国家を背負う女性」としての彼女の資格を見せつけるために、プーチンと並ぶマリーヌ・ルペンを示す写真が例示されていたからだった。その後の日々マリーヌ・ルペンは、ウクライナは「民族解放闘争」の積極的な例示だと主張し、彼女の政党も同じ論理にしたがっている、と主張した。
他の諸政党は、RNと組織的に連携しているが、同じ立場をとっているわけではない。これはFPÖの場合であり、それもまた2016年以来プーチンの統一ロシアと公式的協力協定を抱えてきた。その代表者の何人かは今、協定は「単なる儀礼」だったと主張している。しかしながら、FPÖの提案で2017年末に指名された外相のカリン・クネイスル(とはいえ彼女は党員票ををもっていない)は、2018年8月に彼女の婚礼にプーチンを招待した。2023年9月クネイスルは、サンクト・ペテルブルグに移動中と公表した。さらに、オーストリア国家安全保障・情報管理局の元工作員の、ロシアのためのスパイ行為を理由とした今年3月29日の逮捕以来、オーストリアの国家機構は親ロシア活動の暴露により揺さぶられてきた。
フランスのRNは時を置かず、EU連携に関するRNの政策の1支柱であるFPÖとの連携を問題にした。RNの現在の公式的立場にとってはもっと悪いことに、かれらの議会グループ(ID)は、2024年2月末にその隊列をベルギーの政党「ルネサンス」とスロバキア民族党(SNS)を含めるまでに拡張した。しかし両党は、EU内におけるプーチン体制の親密な連携者なのだ。
ベルギーの党に関する限り、その議員の3人は、2024年2月16日のモスクワにおける統一ロシア集会に参加した。SNSの場合、それはブラチスラバで連立政権の一部であり、その政権は、ハンガリーのフィデスと並んでEUメンバー諸国すべての中でもっとも親ロシア的な政策を保持している。
移民めぐる亀裂はごまかしだ
今年2月に、もうひとつ大いに人為的な分割線が現れた。今年1月半ば以来、さまざまなドイツの都市で100万人以上の参加という形で、AfD反対の大規模なデモが起きてきたのだ。その動機になったものは、AfD執行部、国粋主義運動メンバー、CDU(キリスト教民主同盟、古典的な右翼政党)内最右翼の代表者たち、そして経営者団体の一部の間で非公開で行われた会合に関する、隠しカメラの報道写真の、今年1月10日の発表だった。
そしてこの会合ではオーストリアの国粋主義活動家であるマルティン・セルネル――彼はドイツ入国をずっと禁止されてきた――が、「レミグレイション」(注4)という主題について腹蔵なく話していた。セルネルはこれまで、「統合が不十分」だった、あるいは大規模移民を共謀していたドイツ国民を含む200万人を、かれらを引き受けると思われる北アフリカの未確定のモデル的国家に送還することを夢想してきた。
したがってマリーヌ・ルペンは、このドイツの政党から距離をとり、EU議会内でそれとの協力を続けるべきかどうかにあからさまに疑問を呈した。AfDの共同代表であるアリス・ヴェルデルは、彼女宛に公開状を書き、翻訳間違いに言及しつつ、彼女の党は有罪判決を受けた外国人犯罪者が「法に従って」送還されることを求めていたにすぎない、と主張した。
変わらず事実であることは、世論から見ての健全な見栄えを装い、どのような「過激派」の外見も避けることを願う彼女の切望をただひとつの理由にしたマリーヌ・ルペンの公的な立場との関係で、この分割線は大いに架空のもの、ということだ。しかしながら、EU議会内IDグループの支柱のひとつであるFPÖ、および特にその党首のヘルベルト・キックル――2017年から2019年までオーストリア内務相だった――は恥知らずにも、何年もの間「レミグレイション」という用語を使い続けてきたのだ。そしてそれをマリーヌ・ルペンがとがめたことは今まで一度もない。
ファシズ一掃する別のEUを
真の分割線は、その立ち位置がまさに伸縮自在である極右内部にではなく、極右とその敵対者の間にある。EUの指導者たちは、いわば戦争に向かう急流という背景に逆らってかれらの国内経済の方向(予算削減、搾取強化、「構造的」失業)を変え経済を生き返らせる必要がある。
民衆的不満を前に、反動的、家父長的、そして外国人排撃の民衆扇動が、諸々の決起に対する抑圧と組になって、極右に潤沢な余地を残している。そしてその極右はしばしば、唯一の実体的野党であるように見えている。この意味で、EUの新自由主義諸政策は必然的に欧州ファシズムの踏み石になっているのだ。
あらゆる形態として今なお受け容れ不可能であるかれらの理念を拒否する原則的立場を基礎に闘うことは、われわれの任務だ。われわれは、開かれた国境とEU規模での富の再配分を求める。即時の政策としてわれわれは、EU最低賃金と全員に対する平等な社会的権利を支持する。これは、EUによって強制されている束縛から抜け出すことを意味し、この大陸を貫く大規模な勝利的決起を必要とする。(2024年4月、「ランティカピタリスト」誌よりIVが訳出)
(注1)1988年創立のSDは当初公然としたネオナチ党だったが、今は「正規」なものになっている。
(注2)FPÖは、自身が1949年につくり出された「独立同盟」を転形することによって、ナチズムのかけらから1955年に創立された。
(注3)2013年創立のAfDは、来るEU議会選で得票率18%内外をとると予測されている。
(注4)「レミグレイション」は、フランス人作家のレナウド・カムスがつくり出した概念。(「インターナショナルビューポイント」2024年5月19日) )
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