ウクライナ債務・G7談合とは?
返済の凍結維持か、維持終了か
戦争の責任者、また受益者への闘いが必要だ
エリック・トゥサン
G7はなぜウクライナの債務を今討論しているのだろうか?
ロシアのウクライナ侵略後、対ロシアで連携した主要大国の指導者たちは、G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)で討論を続けてきたが、ウクライナの戦争と再建にどう資金を提供するかに関し、合意に達することができずにきた。
心にとどめられるべきだが、NATOメンバー諸国が課した制裁の一部として、ロシア連邦の西側諸国内にある金融資産は、総額で3千億ドルに僅か足りないが、この間凍結されてきた。
ウクライナの
債権者とは?
同じく思い起こされるのが当然のこととして、米国と西欧諸大国が提供した援助は、米国の場合、兵器や他の資金援助の供与形態であり、他方で欧州人は、兵器は供与形態で、残りの資金援助はウクライナが返済しなければならない貸し付け形態で提供している。
ウクライナの負債は千億ドル以上になる。
金融市場、すなわちブラックロックやPIMCOを含む大手投資ファンドや銀行は、ウクライナの債券保有者だ。ハゲタカファンドもまた、機会を狙ってうろつき周り、ウクライナ債券を割引価格で購入してきた。ウクライナの債権者には世界銀行、IMFといった多国間組織が含まれる。世界銀行とIMFは供与は提供せず、IMFは戦争の中ですら、高利での債務返済を求め続けた。
現在の交渉の
目的は何か?
2022年7月、西側諸大国は2年間債務返済を先延ばしすることで合意した。債務返済の凍結が今年7月に延長されなければ、ウクライナは返済を再開しなければならない。
結果として、今年7月の後何が起きるかを決定するために数ヵ月の交渉が企てられた。EUは、返済再開の日付けを数年間延期していた。したがって問題になっていることは主に、私的債券者、また一定の諸国に対する返済だ。そして後者は、西側同盟の直接的な部分ではない国、あるいはこの西側同盟にむしろ反対している、特に中国だ。しかも中国は、ウクライナの債権国のひとつだが、またロシアの債権国でもある。
また指摘しなければならないこととして、キーウの当局はウクライナ債務の帳消しを今求めてはいない。かれらは単に、国の債務積み増しの継続を好んでいる。ゼレンスキーの新自由主義政府は、戦争とロシアの侵略への抵抗に資金を充てるために国内的に借り入れ、また海外でも特にIMFその他から借り入れ続けた。
2022年に、債務帳消しの請願が始められた。
戦争に反対する社会運動と左翼は今、この重荷を取り除いてウクライナ民衆を楽にするために、またかれらに抵抗とかれらの利益にかなったかれらの国の再建に余地を作るために、ウクライナ債務の全面的な帳消しを求めて声を上げている。世界的な請願が2022年以来回覧され続けてきた。
G20でなくG7
理由は対ロ制裁
戦争と再建への資金投入に関する交渉は、G7の枠内で行われている。それがG20で行われたとすれば、そこにはグローバルサウスの諸国、特にBRICS諸国が含まれると思われるからだ。そして後者には、西側の制裁政策に反対しているロシアと中国が含まれるのだ。ブラジル、インド、南アフリカもまた、制裁に反対している。たとえばインドは、米国の同盟国であるにもかかわらず、ウクライナへの侵略以来ロシアからの原油購入を増大させてきた。
心配の種は
対EU投資
G7内には大きな不一致点がある。米国政府は、主にEU内に、特にブリュッセルに置かれているロシア連邦資産の押収は可能だ、と主張している。「これらの資産、これらの金融資産を取り上げよう、そしてそれらを戦争と再建に資金を充てるファンドに組み入れよう」、米国はこう言う。一方欧州人、これまでのところEU内欧州人の多数派は、「いや違う、われわれがそうすれば、われわれは国家の免責に悪影響を及ぼすことになる、そしてそれはロシア連邦だけに関係するとはならないだろう」と言っている。
何よりもかれらは次のように懸念している。つまり、ロシア連邦の資産が、特にブリュッセルのそれが押収されるならば、EUに投資している中国、湾岸諸国、また他の諸国がかれらの金融投資をEUの銀行から引き上げるだろう、と。ロシア連邦に起きることは、将来他の理由でそれらに制裁が課される場合、それらにも起きることもあり得るからだ。
結果として、欧州中央銀行総裁のクリスティーヌ・ラガルドは、またイタリア、ベルギー、フランス、ドイツの政府は、国際準備通貨としてのユーロ、および欧州の大手私立銀行に対するはね返りを理由に、ロシア連邦にふれることにも即座に押収することにも反対している。これが前例になると、ユーロの準備通貨としての地位喪失に、あるいは最低でも実質的に、国際準備通貨としてのその役割の弱まりにいたると思われる。
欧州の私立銀行内にある大国の、たとえば中国や中東の預金の相当な塊もまた、引き上げの危険を内包すると思われる。この討論の中で、英国人は全体的にワシントンに合意している。しかしかれらも、大西洋の対岸の政治家たちよりも慎重だ。
ウクライナ債務
さらなる増大へ
われわれは疑いなく、G7が決定することになる1点に近づきつつある。その決定は、ロシア資産を押収せず、こうしてロシア資産の凍結を維持し、これらのロシア資産あるいはその資産によって提供される利子を基礎に、ウクライナ名義の、あるいは請け合ってよいが、ウクライナにマネーを貸し付ける諸国で構成される国際借款団名義で、債券を発行する仕組みを作り出すという決定だ。
この情勢の中で、ロシア資産は、この債券を買い入れ、ウクライナにマネーが貸し付けられることを可能にし、したがって実質的にウクライナの債務を増大させる、こうした大手の投資ファンドや銀行にとっては担保物件として役立つと思われる。
商業報道では、300億ドルの貸し付けという話がある。
戦争受益者への
重課税は一方策
原則として私は、侵略国家、つまり他の領土を侵略した、あるいはもうひとつの国に対する軍事侵攻に現に取りかかっている国、の資産を押収することは許されるべき、と確信する。しかし問題は残る。その資産を誰が何の目的で管理するか、ということだ。今日の国際情勢においては、押収された資金の利用が真に攻撃された国の民衆の利益に役立つようになるため、何らかの押収が侵略を受けた国の市民によって、社会運動によってどのように管理される可能性があるか、を思い描くことは全く困難だ。
そして、侵略国の資産の押収は、確実にあらゆる侵略国家に適用されなければならない。そしてそれは、数え切れない侵攻と侵略に関与してきた米国とその同盟国もまた、この規制に従わなければならない、ということを意味する。しかしこれは現実ではない。米国は1世紀半にわたって、多くの機会に乗じて、1例だけ挙げれば、1915年のハイチのように、それが攻撃しあるいは侵略した国の財産をはじめとして、他国の財産を押収してきた。
しかしながら、考えられる唯一の療法が侵略国家の資産の押収であってはならない。ウクライナの再建と侵攻に対する抵抗に資金を充てる基金は、戦争から利益を得ている巨大企業に税金を課すことによって資金を得る可能性もあり、またそうでなければならない。ドイツ、フランス、北米また他の諸国の兵器製造業者は高まる軍事予算やウクライナその他への兵器供与から今莫大に利益を得続けている(注)。
たとえばこれは、巨額の利益を刈り取っているドイツのラインメタルに、また他の重要な軍需企業に当てはまる。それらは最低でも、それらの利益増加分に対比できる、あるいは等しい税を払わなければならないだろう。そしてその全額は、ウクライナ民衆により直接管理される開発基金に移されなければならない。
ロシア人とウクライナ人両者の、ウクライナの侵攻から利益を得ているオリガルヒの資産は押収されなければならない。こうして、ウクライナ民衆の抵抗と国の再建に資金を充てるために、かなりの額は集められる可能性がある。
次のことが留意されなければならない。つまり、この戦争関連で、また一般に戦争関連で軍需企業があげた追加的利益に匹敵する税を課すことは、それらが戦争から直接利益を得ないと思われるがゆえに、戦争の継続を喜ぶような、またそれに力を貸すようなこれらの企業の欲望を限定するだろう、ということだ。
オリガルヒの資産を押収し、これらの財産を没収し収用する諸方策は、私的財産の神聖性に直接逆向きの効力をもち、結果として、2022年以後大規模な押収は全く行われなかった。西側政府は、たとえ彼らがロシア連邦に対抗しているとしても、そうする気になっていないからだ。
G7の課題設定
に明確な対抗を
これまでに成し遂げられたことは正確に評価される必要があるが、しかしいずれにしろ、それは極度に限定的であり、これまでにウクライナ民衆が支配する基金に移されたものは何もない。実際、この戦争から利益を得てきた企業に対する特別税は全くなかった。
私は兵器企業にふれたが、しかし私は、ロシアのウクライナ侵略の結果として天然ガス・石油企業があげた巨額の利益を議論することもできる。利益は、世界中で穀物を市場取引する企業の場合も増大してきた。そこには、世界の穀類取引の80%を支配する四大多国籍企業が含まれる。3つは米国企業、ひとつは欧州企業だ。
これらの企業の利益に対しては、特別税が、課税されていなければならず、また遡ることも含め課税されなければならない。あらゆる住民の必要に資金を充てるため、またウクライナ民衆を助けるための両面でだ。われわれはまた、ウクライナ債務の帳消しも要求し続けなければならない。
G7の指導者たちによっては、このどれひとつとして計画されていない。こうしてわれわれは、戦争を引き延ばし、それに債務を通して資金を出すというG7の課題設定に対抗する、明確な代わりになる立場を明らかにしなければならない。
G7メンバー諸国の意図は情勢を利用すること、特に、ウクライナの天然資源を押さえる可能性、そしてウクライナの公的企業を私有化する可能性を利用することだ。後者の企業の例は、ガス企業や電力生産、また流通企業だ。これらは公的企業であり、IMF、世界銀行、欧州、EU、英国、さらに米国の政府すべてがそれらが私有化されるのを見たがっているのだ。
そしてもちろんわれわれは、戦争に直接巻き込まれた諸政権に、またウクライナにカネを貸し付けることで、今戦争から利益を得続けている大手投資ファンドや銀行と、またそこから大量のカネを引き出している者たちと闘わなければならない。
次のことも述べる価値がある。つまり、オーストリアのライファイゼン、ドイツのドイッチェバンクやコムメルツバンク、オランダのING、イタリアのウニクレディットとインテサ・サンパウロを含むいくつかの欧州の私立銀行が、ロシア連邦内で活動し続けている、ということだ。そしてそれらは制裁にもかかわらず、ウクライナへの侵略が始まって以来、それらの利益を4倍化している。
それらはロシア当局に、EU当局が何の行動もとらないまま、法人税として80億ユーロを払ったばかりだ。2024年4月28日付けのフィナンシャルタイムスの暴露記事「ロシア内西側銀行、昨年クレムリンに80億ユーロの税を払う」を参照してもらいたい。(2024年5月23日)
▼筆者はCADTM(不正統債務帳消しを求める委員会)の国際スポークスパーソンで、ATTACフランスの科学評議会の1員。多くの著作があり、第4インターナショナル指導部の1員。
(注)もちろん、ロシアの軍需産業もフル稼動で操業中だ。(「インターナショナルビューポイント」2024年5月25日)
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