メキシコ 2024情勢への政治的立場
右翼を打ち破り急進的変革へ
住民の幅広いエネルギー結集し右翼に痛打を
MS―PP
メキシコでは、6月2日大統領選をはじめとする選挙が行われ、中道左派の現職の路線を引き継ぐ候補者が、右派の対立候補に大差をつけて圧勝した。メディアでは、どちらが勝ってもメキシコで初の女性大統領になることに焦点が当てられた。以下は選挙を前にした声明だが、選挙が何をめぐる争いだったのかを知らせている。(「かけはし」編集部)
2024年6月2日の選挙への考え方として、ムビミエント・ソシアリスタ―ポデル・ポプラー(MS―PP)が5月26日以下の声明を出した。
1.社会的な不平等の縮小
残忍な新自由主義の36年は、最低賃金引き上げや人口中のもっとも貧しくされた諸層を助ける現政権の社会的諸計画にもかかわらず、メキシコを世界でもっとも不平等な国のひとつにしてきた。生み出された富のほとんどは、以前の6年に実行された私有化から利益を引き出し続けている者たち、たとえばスリム、ラッレラ、サリナス・プリエゴ一族といった、国民経済を支配しているエリートたちの手中にとどめられている。人口の最富裕層10%が、国の富の60%を集中している(世界不平等レポート2022)。メキシコでもっとも裕福な男であるカルロス・スリムの富は、人口の半分、すなわち6800万人のそれに等しい(オクスファム2024)。人口の最貧困50%のひとりが平均で1日150ペソ稼ぐ一方、カルロス・スリムは2千万ドル稼いでいる。大金持ちに課税する税制改革は、ノルディック諸国で実現しているように急を要している。
2.脱私有化および戦略部門の国有化
経済の戦略的な部門に対する国家による支援や介入や初期の統制を実行したことのない社会福祉を抱える国民はまったくいない。メキシコがその例外であってはならない。石油と電力の産業、水、鉱物資源、土地、航空、鉄道、通信を取り戻すことは、それらの使用が全員にとって利用可能になるために、それらが商品ではなく人権とみなされるために、また国民的発展の増進が可能になるために、国家にとって決定的だ。
3.環境的荒廃との対決
人間への主な脅威は、環境的危機であり、それは日々われわれの健康に影響を与えている。われわれは地球温暖化を厳しく軽減しなければならない。それは、高度に傷つきやすい国とみなされているメキシコにも影響を及ぼしている。われわれは、ハリケーン・オーティスのアカプルコにおける驚くべき激しさという形で、この脅威を経験したばかりだ。
今日、われわれの自然地域の大きな部分がすでに失われている。組織犯罪による山火事と違法伐採がその領域を荒らしている。面と向かって伐採業者と闘っている者たちは、コミュニティメンバーの諸グループ、および「森林保護のための先住民労働者全国組合」を建設しようと今闘っている大隊メンバーだ。われわれの天然資源を保護するためには、森林労働者、農民、また先住民の人々の闘いと一体的に環境運動を再活性化することが基本になる。
4.右翼を打ち破ろう
2018年におけるMORENA(国民再生運動)の勝利は、政治と経済のさまざまな側面におけるひとつの転換点を意味した。今、メキシコ右翼は猛烈に怒っている。オリガルヒが税を払うよう強制されてきたからだ。さらに、PEMEX(国有の石油企業:訳者)やCFE(連邦電力委員会、国有電力企業:訳者)の消失が逆転され、若者や障害をもつ者やシングルマザーへの支援と並んで65歳以上の者に普遍的な年金が与えられ、懲罰的教育改革が取り消され、最低賃金がインフレ以上に引き上げられ、政治家や実業家が国家を犠牲にして実行してきた途方もない腐敗が限定されてきたからだ。
右翼の意図は、これらの前進すべてを清算すること、そして再度メキシコの人民を一握りの資本家の利害に従わせることだ。われわれの場合、われわれはこれらの前進すべてを歓迎し擁護するとはいえ、それらは大金持ちに課税する税制改革を実行することで深められなければならない、と考える。また、違法で正統性がなくいかがわしい債務を監査し無視すること、経済の戦略的な部門の再国有化、見苦しくない年金制度の再確立、賃金契約の回復、公正な電力料金や人権としての電力エネルギー利用権、社会的正義を達成する他の基本的任務の中でも現存の労働紛争の解決、も必要だと考える。
もっと論争になる問題は、4T(注1)における女性問題の扱いになっている。それがフェミニスト運動を軽んじていると同時に、多くの政府の公人が女性に対する暴力とフェミサイドとの闘いを唱えてきたからだ。性―ジェンダーの不一致に関連して、ジェンダーアイデンティティの認識とHIVを抱える人々に対する犯罪視に反対する闘いで、進歩が生まれてきた。しかしながら同時に、メキシコは、トランスの人々を敵視するヘイト犯罪が世界で2番目に多い国になっている(注2)。
2024年にわれわれは、メキシコがこれまで経験した最大の選挙プロセスを前にしている。選挙の勢力は、一方で、権力を握るかれらの組織が確立してきた新自由主義の構想を擁護する反動的で腐敗した右翼の諸政党からなる連合として形成されている。これらの政党(PRI〈長い間政権党だった制度的革命党〉、PAN〈国民行動党〉、PRD〈民主革命党〉)の信用失墜は、かれらにソチトル・ガルベスを指名させた。この者は、彼女の全政治生活が最後までPANと歩を並べて貫かれながら、自身を無所属と、また進歩的とすら称している。
他方、矛盾に満ちた政党であるMORENAが率いる左派選挙勢力がいる。ロペス・オブラドール(現大統領でMORENA創設者:訳者)が新自由主義との初歩的決裂を導いてきたとはいえ、この党のプラグマチズムはその指導部に潜り込むような日和見主義者を生み出してきた。そしてその者たちは次いで、PRIやPAN出身の変節者にかれらの候補者の圧倒的多数派を与えてきた。MORENA、PT(労働党)、PV(緑の党)から構成される左翼連合は、大統領職にクラウディア・シェインバウムを、メキシコ市長にクララ・ブルガダを今強力に押し出している。
実業家のダンテ・デルガドが率いるモビミエント・シウダダノ(MC、市民運動)はそれなりに、その後に他の諸政党の異論派を引き連れるオルタナティブとして自らを位置させたがっている――うまくいっていないが――。
左翼の経験が皆無か疑わしい人物や諸政党がシェインバウムのキャンペーンに加わっているが、大統領候補の人物像、またブルガダのそれは、ロペス・オブラドールのそれにもっとも近いものであり、進歩的構想を継続する最大の可能性をもっている。
これこそが、右翼がさまざまの戦線で、つまりメディア、実業界、首長として、彼らが本当は真の変革の反対を代表する出世主義者であるのに、社会的戦士かつ自由の擁護者のふりまでして、今必死に圧力を行使中の理由だ。
極右が世界規模で前進中であるこの歴史的時期にあたっては、メキシコでそれを止めることが基本だ。そしてシェインバウムは、MORENA内部に諸限界や矛盾があっても、行政執行機関から骨化した右翼を締め出す可能性を代表している。
この意味で、実のある急進的な変革の路線を深めるために、われわれは、PRI、PAN、PRDのPRIANRD連合、あるいは市民運動の候補者には投票しないよう、また最後には常に裏切ることで終わるMORENA内部の偽左翼の提案を厳しく非難するよう訴える。同様に重要なことは、このキャンペーンの中で進歩的な憲法改正を保証することを求めると約束した候補者たちによって、メキシコ議会内3分の2の多数を勝ち取ることだ。この改正は、産業、土地、鉱山、さらに戦略的な国民サービスの脱私有化に加えて、2月5日に提示され憲法改正イニシアチブの多数の中で熟慮されている。
5.われわれの権利、つまり公衆衛生、住宅、ケア、教育、命を守ろう
40年間以上新自由政策によって厳しく打撃を受けてきた公衆衛生、住宅、教育といったメキシコにおける社会的権利は、新型コロナパンデミックによりひどく厳しく荒廃させられてきた。公衆衛生の非常事態は世界経済の全体を悪化させ、何よりも国民的に、住民の大きな部分の暮らしを惨めにした。この時期を通じて、数十万人の少女、少年、また若者たちが、何らかの教育課程に入る可能性もないまま、教室を後にさせられた。
新自由主義が残した破壊された公衆衛生部門は、パンデミックに対抗できなかったが、それは明白だった。まともな住宅の利用可能性は、ますます新しい世代が前にする大きな問題になっている。
政府には、政府が今行っているような子どものケアや女性と子どものシェルター向けに財源を与えることに代えて、もっと多くを創出し資金を増やす義務がある。
女性およびLGBTQIコミュニティに対する暴力に反対する闘いは、声明を出すだけではなく、積極的に行動し、イニシアチブに資金を充てるものでもなければならない。
われわれは、行方不明の個人を探している諸組織にあらゆる支援を与える必要があり、また特にアヨツィナパの行方不明になった43人の学生の事件を解決する必要がある。
6.この国の全面的変革を
社会的で民衆的な決起が僅かの、オブラドール運動の政治的ヘゲモニーという情勢の中で、そしてそこでその政治的課題設定を基礎にこれまで右翼が街頭に繰り出そうと挑み、今反乱の気分になっている中では、裂け目を広げ、それに応じて反新自由主義の構想を深めることが、そしてその中で、政権への復帰を熱望する反動的諸階級のイデオロギーと断絶する成長中のプロセスを拡大できるような、社会的で政治的な主体が登場することが必要だ。
その綱領と一体的な反政府派の権力への復帰は、巨大な後退、全体としての民衆運動の敗北、そして社会的受動性の維持を意味するだろう。政治権力にいる右翼は、政治的分解に導き、より深い変革を止めることになるような、退歩的諸政策を当然と考えている。
われわれは、何十年もはびこってきた政治的で経済的なシステムとの断絶を目的にした諸勢力の相互関係を維持し強化しなければならない。それこそが、この選挙プロセスを支配的諸階級との衝突として利用することをわれわれが目的にしている理由だ。そしてその衝突の始点は、政府綱領内のもっとも先進的な提案を推し進めること、変革プロセスを遅らせるようなそこでのいくつかの立場と闘うことだが、しかしその闘いを住民の幅広い層に左翼への投票と決起を呼びかける行動志向の姿勢によって進めることだ。(2024年5月26日、「プント・デ・ビスタ・インテルナチオナル」よりIVが訳出)
▼MS―PPはメキシコの第4インターナショナルの1組織。
(注1)4Tは、2018年におけるロペス・オブラドールの大統領選キャンペーン公約を指し、それは、メキシコを悩ませてきた政府公職者による高給と贅沢な生活スタイルの特権的利用を取り除く、というものだった。(注2)ブラジルに次ぐ2番目。(「インターナショナルビューポイント」2024年6月2日)
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