草の根組織への攻撃が始まった

かけはし 第2651号 2021年2月1日

香港 民主活動家大量逮捕

シェイ・イン・シャロン・ヤム、フン・X・L

反対意見すべて
の抑圧が鮮明に


2021年1月6日、香港警察は、国家安全維持法にもとづいて、立法会の民主派予備選に出馬したとして、50人以上の民主派政治家や活動家を逮捕した。
2020年7月に行われたこの予備選には60万人を超える有権者が参加し、伝統的な汎民派と香港本土派の陣営の中から、民主派候補を選ぶための投票をおこなった。これは、2020年11月に予定されていた立法会選挙で勝利できる可能性の高い[地域選挙区と職能別選挙区の]二つの民主派候補者名簿を民衆が選ぶことを意味したが、立法会選挙は最終的にはコロナウイルスの脅威があるという口実で香港政府によって延期された。
予備選に立候補した候補者は、野党有力者や若手活動家を含めてほぼすべて逮捕された。香港の年次予算案を否決するために立法会の過半数を確保しようとした彼らの意図は、国家安全維持法のもとでは「政府転覆行為」とみなされた。警察はまた、独立系の報道機関や選挙の世論調査をおこなった香港世論調査所にも捜索令状を提示した。
北京政府が2020年11月に4人の現職議員を失職させたことで、立法会の民主派議員が大量に辞職したことに続き、このことは香港立法会における実際の政治的対立に終止符が打たれたことを意味している。
この無法な逮捕の波は、すべての反対意見を抑圧し、それを犯罪にしようとする政府の意図を確固たるものにしている。これは、政府による議会反対派の排除が香港の市民社会への全面的な攻撃にまで拡大したことを意味しており、その中には学者、研究者、労働組合オルグ、そして社会的に疎外されたコミュニティのための社会正義の擁護者を標的とした逮捕が含まれている。

マイノリティの
擁護も攻撃対象


香港の民主化運動は、二重の意味での普通選挙権(行政長官および立法会全議席を直接選挙する権利)を中心的な要求の一つとして強調してきたが、この運動は相互に関連した社会正義の問題をも包含している。逮捕された53人の中には、労働者・移民・人種・障害者の正義のために闘う経験豊富な活動家やオルグもいた。
逮捕された民主派予備選候補者であるジェフリー・アンドリュース[中国名:安徳里。九龍西選挙区に無所属で立候補し、得票数は最下位]は、香港で初めてのインド系ソーシャルワーカーであり、また、白人以外の少数民族として初めて立法会に立候補しようとした人物でもある。アンドリュースは、亡命希望者のための立ち寄り型地域センターである難民センターのシニアソーシャルワーカーとして、施設内から少数民族の権利を代表したいと考えていた。
李芝融[新界東選挙区に無所属で立候補し、得業数は最下位]は障がい者の正義を擁護しようと考えて予備選に参加したが、彼も逮捕されてしまった。李は重度の障がいを持つ娘を介護しており、よりアクセスしやすい公共交通機関と都市計画を提唱していた。
逮捕された著名な民主派人士である朱凱廸[新界地域の住民運動の指導者で予備選当時は立法会議員だったが、昨年9月に民主派議員4人の議員資格剥奪に抗議して辞職]も、移民収容者や移民の家事労働者の権利擁護や民主的選挙を長い間要求してきた。アンドリュース、李芝融、朱凱廸にとって、立法会で議席を確保することは、北京の支配に挑戦するというだけではなく、香港の周縁化されたグループを擁護することでもあった。そうした人々の経験やニーズは、企業や権力者の利益になるように無視されることが多かったからである。

労働運動弾圧で
抵抗の可能性は


こうした議員候補の大量逮捕は、数十億香港ドルの予算を香港警察に配分するという政府の計画や、不動産開発業者の利益のために土地を譲渡し、環境破壊を悪化させる「大嶼山(ランタオ島)将来ビジョン」のような「白象プロジェクト」[持続不可能な開発プロジェクトのこと。白い象を飼育するにはきわめて多額の維持費が必要となることから名付けられた]に対して、資格剥奪を免れた民主派候補者が法律的に闘うことができるという幻想を打ち砕くものである。
逮捕された民主派予備選候補者の中には、呉敏兒と余慧明のような労働組合のリーダーもいた。呉敏兒は[民主派ナショナルセンターの]香港職工会聯盟(工盟HKCTU)議長であり[もとは英国航空客室乗務員組合の指導者で、予備選には工黨(労働党)から立候補した]、余慧明は[香港病院局で新たに結成された労働組合である]医管局員工陣線(HKEA)の創設者で議長を務めている。
香港の新しい労働組合運動は、ゼネストの調整をおこなうとともに立法会の職能別選挙区[労組枠]から議員を選出しようとする試みから生まれた。そして、情報共有、労働者の連帯の構築、2020年2月の医療労働者ストなどのストライキ行動の実施を通じて、運動力量を拡大することをめざしていた。余慧明は、米国と香港の労働運動活動家の交流と学習を促進するために、6月下旬に『流傘/LAUSAN』[在外香港人による香港民主化運動のオンラインサイト]が主催したウェブセミナー「医療労働者組合―米国から香港への運動構築」で報告をおこなっていた。
新しい労働組合運動は、民主化要求を経済闘争と結びつけ、香港の階級的不平等を永続させる資本主義的な物質的条件と民主化運動とは切り離すことができないことを明らかにした。香港職工会聯盟の組合オルグである鄧建華[レオ・タン、19年10月6日のマスク禁止法に抗議するデモで逮捕された際、攻撃性武器を所持していたとして起訴され、2020年9月の裁判で4カ月の禁固刑の判決を受けて服役中]が刑務所からの手紙の中で述べているように、新しい労働組合運動は労働者の権利と政治的要求を結びつけ、「関係の転換を通じて運動を持続させる可能性を見出している」のである。呉敏兒と余慧明の逮捕は、実際に一歩一歩力をつけてきた新たな労働組合運動に対する香港政府の公然たる侮辱を示すものである。
弾圧による後退であることは間違いないが、闘いの前線の再構築は、新たな抵抗の形を見出す可能性がある。立法活動における運動のエネルギーを直接行動に向けることができるだろうか? 活動家リーダーへの迫害の激化によって、一般大衆は自らのコミュニティを組織し、コミュニティを防衛せざるをえなくなるだろうか? われわれは、国境を越えた闘争の相互に結びついた領域において、どのようにして他の運動やコミュニティとつながることができるのだろうか?
(『インターナショナル・ビューポイント』2021年1月10日、『流傘』サイトに1月7日掲載)

ジェフリー・アンドリュースについては、
https://www.thestandnews.com/politics/香港少數族裔參政權/
を参照のこと。

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