移行 トラウマ そして騒然とした時代に

かけはし 第2659号 2021年3月29日

米国 トランプ主義の労働者階級への浸透を打破することが左翼の重大課題に

アゲンスト・ザ・カレント編集部

 1月6日は確かに、「大統領権力のアメリカにおける平和な聖なる移行儀式」を示す高度に独自的なやり方を、また騒然とした時代の継続という標章を刻み付けた。それはこの時代向けの見せ物――去りゆく大統領が示した権力維持に関する決定的に空しい理解力、もっとも道理を欠いた半一揆から議事堂内部での死を招くリンチを求める程興奮した暴徒までの変化に富む形態、そしてその後の、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスの選挙人による承認票決に向けた夜遅くの議会招集――だった。
 これらのできごとがもつ長く続く影響、およびそのありそうな余波を評価するには一定の時間が必要になるだろう。ドナルド・トランプに対する2回目の弾劾審理は、誰もがそうなるだろうと分かっていたように終わりを迎えた。つまり、彼の有罪を示す圧倒的な証拠、および判決言い渡しを拒否した共和党上院議員による無罪放免をもって。しかし、トランプ政権の連続的な犯罪的事業が最終的には、バイデン、ハリス、ナンシー・ペロス、チャック・シューマーの中道的新自由主義者の下で、米資本主義国家の「正常な」作動に道を譲る中で、多くの逆説と諸矛盾はそのまま残る。

米国の現状と世界の際立つ対照

 反民主的な抑圧と腐敗に反対してまさに多くの国で起きている進歩的な蜂起と、トランプとQアノンが焚きつけた白人至上主義者の1月6日の暴動の間にあるはっきりした対照をよく考えてみよう。ちなみにわれわれは前者についてはその各々について、終身的大統領プーチンのロシアとベラルーシのアレクサンドラ・ルカシェンコ、香港、ペルー、中絶の権利を求めて決起した女性たちとの関係でのポーランドとアルゼンチン、彼らの生き延びに対する政権の攻撃に反対して決起中の農民を抱えたインド、レバノン、スーダン、アルジェリアにおけるアラブの春の復活、さらに今軍事クーデターに抗議中のビルマ、の討論を計画している。
われわれが本誌を印刷に回している時にもっとも劇的なこととして、ミャンマー(ビルマ)で将軍たちのクーデターに対する抵抗が、潜在的可能性として世界を揺るがすできごと――憤激した住民による毎日の街頭決起、そして職場放棄や道路封鎖を含んだ大衆的ストライキ――になった。クーデター政権の戦車を前に運動は非武装であるものの、軍は脆弱だ。つまり、国の経済に対するそのマフィア風支配は、国内の反乱が国際的な制裁から支持を勝ち取るならば、無力化され得るのだ。あらゆることの中でもっとも重要なことは、民衆運動がその圧倒的な弱さ――ロヒンギャの人々や他の民族的な被抑圧マイノリティに対する軍の残忍な戦争に関する長きにわたる沈黙――を克服しつつある、という兆候だ。
もう一つの対照は、バイデンのほとんど完全に慣例的な閣僚指名名簿にもかかわらず、トランプのもっとも冷笑的で悪どい動きのいくつか(すべてではない)をひっくり返す、バイデンの大見出しになるような大統領令だ。新大統領の急ぎの動きである「最初の100日」が示す絵柄は部分的に、トランプに対するまったくの対照を――しかしまたバイデンの相対的に大規模な支援と経済刺激策とワクチン接種という諸計画をも――映し出している。
これらの動きは客観的な諸々の危機の途方もない規模によって強要されている。つまり米国経済は、今もってはるか彼方の回復―――特に職と所得が途方に暮れるものにされたアフリカ系米国人とラティーノの女性にとって―を付随して、2020年に3・5%縮小した。そこでは、普通のゆっくりとした、慎重な「二党協調」的なアプローチは、失敗を保証されていると思われるのだ。

共和党をとらえる鋭い二律背反

 もう1つの逆説は、トランプに付き従う共和党につきまとう諸矛盾の中にある。今ではツイッターを欠いたビッグ・ツイートは、その支持者基盤の大きさと熱量を広げ、彼の個人的なカルトを作り上げ、米国社会の中で不穏な生粋米国人主義者と白人至上主義者の部分に活力を与え、そして今や何千万人もが、トランプの「地滑り的勝利」が盗まれたという、現実とは無縁のもう一つの世界に住んでいる。
これは今やこの党を、極右と陰謀論に酔いしれた歩兵隊の人質にしている。この部分は党の支持基盤の約半分を構成し――世論調査で、トランプ支持者の議会侵入を是認した45%、また党における彼の引き続く大きな役割に賛意を示す共和党員の50%によって示されるように――、党を資本にとって何ほどか信頼性と有益性の小さな道具にしている。「グランド・オールド・パーティ」(共和党の別称)は危うい内戦の初期段階にある。
共和党の政治家、党職員、また資金提供者内部の内輪もめは、米国の偉大さに関する2つの考え方を共に保持しようと試みている党の、この興味深い二律背反を反映している。
1つは、いわゆる「伝統的な保守主義」のいわば質が落ちた形態だ。それは主に、緊縮、大衆に対しては諸々のサービスのカット、企業エリートに対しては金ぴかの豊穣、世界を支配する米軍の力、そしてそれらの政策を管理すると共に偽装する「諸制度」に対する敬意、といったものの保持だ。
このいわゆる伝統的な保守主義に反対して発生してきたものが、いわば偽装をかなぐり捨てたカルト的な白人民族主義であり、それは、先のまさに諸制度を、政治生活の中に存在している民主的な実体すべてと共に、軽蔑の念をもって見ている。

新自由主義的統治による深い傷


しかしながら、社会主義的左翼の立場に立つわれわれのような者にとってもっとも重要なことは、われわれ自身の状況が抱える問題だ。この声明の残りのほとんどでは、われわれはそれに焦点を当てたい。
われわれはこの国のほとんどと世界の残りと同じく、汚辱にまみれたトランプの君臨の終わりで一息つき、決定的に重要な諸州で投票抑圧を打破したアフリカ系米国人とラティーノの組織化によって鼓舞された。しかしわれわれは、バイデン―ハリスの選出が「団結」のような何かをもたらし、米国の労働者階級を汚染し続けているレイシスト的二極化を克服する、というような幻想をまったくもっていない。
この国の有害な諸政策の根っこは、ジャクソン・リアース(米国の歴史研究者)によって適切にまとめられている(同じく歴史研究者のアンネ・アップルバウムの『民主主義の黄昏:権威主義の魅惑的な魅力』に対する鋭く批判的な評論として、『ニューヨーク書評』2021年1月14日)。つまり「市場を駆動源とする諸政策への民主党の転回、公共領域の二大政党協調による解体、グローバリゼーションのコクピット内でのウォールストリートとシリコンバレーの空中結婚―これらの介在が新自由主義的統治の長期にわたる横領を確立し、それが米国人の僅かな少数を富ませ、他方で残りのほとんどを略奪した」と。
これらの力学の選挙上の結末は、『アゲンスト・ザ・カレント』誌今号の、2020年の選挙に関するキム・ムーディのエッセイで相当詳しく論じられている。そして、バイデンのイニシアチブに込められた最初のエネルギーが先の背景から予想されていたかもしれないものを何ほどか超えて先まで行っているとしても、それは、バーニー・サンダースや民主党の「分遣隊」チームからの何らかの圧力というよりも、危機の重さをはるかに多く反映している。

労働者階級の変容による諸困難


確かに、バイデン―ハリス政権が圧力を受ける――経済刺激策や支援に関し、移民や拘留と家族分離の破局的状況に関し、環境や大量投獄に関し、さらにもっと多くに関し――可能性がさらに高まれば高まる程、それはもっとよいことだ。しかし、今日の危機に対し意味のある形で介入する左翼の能力は、厳しく限定されている。それは、力の小ささとわれわれの諸組織の断片化によるものだけではなく、もっと多く、白人労働者階級の民衆の相当な大きさになる部分がこの間、「トランプ主義」の生粋米国人主義でレイシズムの右翼権威主義に引きつけられてきた、という冷厳な事実によるものでもあるのだ。
労働者階級のあらゆるトランプ支持者を、強硬なレイシスト、あるいは「嘆かわしい者たち」あるいは別の何かとして、同じ幅広の刷毛で塗りつぶすことは決して適切ではない。また労働者は、トランプの中核的支持者の多数派でもない。しかし、人々は多くの多様な理由から彼らのやり方で票を投じているとしても、以下のことはそれでも真実なのだ。つまり、この社会でもっとも見苦しい政策のいくつかが、米国が長い間で経験してきたよりももっと深く――そして現時点では、社会主義的左翼の主張が可能性を得るよりも相当に強く――、労働者階級の中に根を下ろしている、ということだ。
大衆的な労働者階級の運動や社会運動の「統一戦線」内部で、今日の米国左翼が、現場で極右勢力とぶつかり、それらを物理的に打ち負かすための指導的勢力になり得る、というあらゆる考えは、ほとんどのところで言葉上の欺きになる。そう言うことは、われわれが沈黙したり後退してもよい、あるいはそうすべきだ、ということではない。むしろその逆だ。それは、われわれが今いるところに対する冷静な評価から始める、ということを意味している。

前進に向けて重視すべき3点

 さまざまな組織やオンラインのプラットホームで展開中の重大な議論に対する貢献として、われわれは以下の注目点と提言を提供する。
第1点。右翼と闘い、バイデン―ハリス政権に圧力をかけ、最終的にそれに抵抗する上では、社会運動が鍵となる勢力だ。それはそれらが、トランプ政権の暴虐に抵抗する中で、また非武装の黒人と褐色の市民に対する連続的な警察の殺人に対抗する中で、そうであったことと同じだ。もっとも成功を見た抗議行動は、はっきりした要求と民主的な決定策定に基づいた、断固とした戦闘性をもち、戦術的に規律の取れたものだった。
これらの運動の中で、またいくつかの有望な復活した労働者の闘争の中で、左翼活動家はかなりの存在感をもち、重要な組織的貢献を行っている。たとえば多くの都市で、これらの活動家は居住権運動や反追い立て運動の中核にいる。
第2点。今や政治的人物と政府諸機関を直接の標的にしている右翼の暴力の爆発は、「われわれの前にある最大の安全保障上の脅威」として「極右と白人至上主義者の国内テロ」を公然と認めるよう、FBIと司法省を強いた。1月の暴力の犯人を捜し、逮捕し、おそらく白人至上主義者関係箇所のいくつかを閉鎖する攻勢が進行中だ。
これらのウルトラ反動勢力が明確な現在の危険を提起していることに疑いはない。そうであっても依然として真実であることは、市民的自由と民主的な諸権利に対する最大の脅威はこの資本家の帝国主義国家諸機関、ということだ。下院で導入されようとしている「国内テロ」立法は、暴力的なウルトラ右翼に向けられるだけではなく、ブラック・ライブズ・マターの抗議参加者、先住民と環境保護活動家の水源保護活動参加者、さらにパレスチナの自由を求めるBDS(ボイコット/投資引き上げ/制裁)運動を含む他のものにも向けられる――おそらく遅かれ早かれ――だろう。
大多数の民主党リベラル派と中道派はこれまで、歴史と経験からは何ごとも学ばないという、度肝を抜くような能力を見せつけてきた。たとえばそれは、2001年9月11日の攻撃に対する「一致した」対応で示されたが、それは、愛国者法、グアンタナモ、本土安全保障局をもたらしたのだ。またさらに1980年代や1990年代まで遡れば、レイシズム化された大量投獄に直接導いた、「麻薬との戦争」の立法や「犯罪に断固とした」立法、という事例もあった。
武装し危険な白人民族主義者のネットワークに対する十分な操作と解体に向けた必要は、現存の諸法がすでに十分以上のものになっているこの時に、二党合意を名目に、警察やFBIのもっと危険ですらある監視権限や潜入権限の拡張にまで容認されては絶対にならない。
第3点。この社会の人種的、階級的階層化をあからさまにしただけではなくそれを広げてもいる――そして反合理主義、気候変動否認、Qアノン、トランプ主義の急進化、広範な経済的自暴自棄にも強力に力を貸した――、猛威をふるうコロナウイルス・パンデミックの只中ですら、一定数の希望のある労働者の闘争が現れてきた。
これらには、パンデミックの最前線に立つ教員や看護士による諸行動、アマゾンや食料品店の労働者による組織化、勝利を得たフンツ・ポイント産物市場(ニューヨーク近郊にある最大規模の食品流通施設の1つ)におけるティムスターのストライキ、その他が含まれる。全米自動車労組内には、労組指導部頂点内部の腰を抜かすような腐敗を背景に、頂点専従要員に対する直接選挙を求める運動もある。そうしたことは、現在の空気においては極めて大きな前進と思われる。
労働者階級の諸闘争は、与えられた時点でそれが上昇基調にあるか後退局面にあるかにかかわらず、常に社会主義者の注目および組織化の中心に置かれなければならない。それは、それらが他の決定的な運動の代わりとなるからではなく――そして確かなこととして、それらが差し迫った革命を日程に載せるからではなく――、むしろ、労働者運動が、本気の民主的で社会的な変革の勝ち取りとその維持を最終的に可能とするからだ。

闘争現場と運動内部を中心に


それは、大変動と諸危機というこの転回点にある今、特に真実だ。社会主義運動の能力がたとえ限定されているとしても、それが具体的な違いを作る闘争の現場はある。大きな比率の若者たちにとって「社会主義」がもはや禁じられた言葉ではなくなっている、そして、たとえ不正確に定義された形においてであろうが、事実上ますます魅力的な考えを表している、ということには巨大な重要性がある。
しかしながら、今日の米国の社会主義的左翼は、決して大衆的組織ではないし、あるいはそのように行動する能力もない。前進に向けた鍵は、左翼の強さに対する過大評価を経由するものではない。また確実だが、「バイデンを左へと押しやる」ために民主党に浸透している進歩派への幻想を経由するものでもない。最初の100日の疾風という大統領の行動は、政治的な停滞という諸条件の下に、中道派イデオロギーの復古へと、またあざとい「2党協調」の妥協へと、今後早々に道を譲りそうに見える。
活動家にとってもっとも重要な場所は、われわれが直面する巨大な危機に取り組むよう「諸機関」に迫ることができる運動と草の根の勢力を建設する現場に、また儀式的な形態ではなく実質を基礎として民主主義を拡大するために闘う歩みの中にある。(『アゲンスト・ザ・カレント』誌211号、2021年3・4月号)

▼『アゲンスト・ザ・カレント』誌は、第4インターナショナルのシンパサイザー組織である米国のソリダリティが発行している。それは、その目標を説明する隔月刊分析誌であり、米国左翼内部の再結集と対話というわれわれのより大きな目標の1部として、幅広いさまざまな課題に関していろいろと違いのある観点を提示している。そのようなものとして論争は、左翼の立場に立つ活動家、オルガナイザー、研究者間の討論を促進するという目標の下に、頻繁かつ啓発的だ。(「インターナショナルビューポイント」2021年3月号)  

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