民衆は少なくとも当面資本主義に挑み続ける

かけはし 第2657号 2021年3月15日

ボリビア MASの権力復帰
民主主義は回復も未来は不確実
諸運動の政治的自立性が決定的

 ボリビアは世界に民主主義での印象的な教訓を与えたが、この国の反動的な部分はあらためて彼らの反民主主義的な衝動を露わにし続けている。2020年10月18日、この国は1年のうちに2度目の選挙に向かった。パンデミックと激しい二極化にもかかわらず、彼らは、左派のMAS(社会主義運動)党候補者のルイス・アルセに55%を届けた。それは、MAS党が14年にわたる経済成長を管理してきたということを前提とすれば、それほど驚くべきことではないと思われる。しかし、2019年の選挙に続いた混乱――不正に対する大規模な抗議行動、および最後に軍が後押ししたエボ・モラレス大統領の打倒、を経験した過程――の後では、多くが、MASの時代は終わりになったと考えた。彼らは間違っていた。

モラレスの脱線とその結末

 エボ・モラレスは、彼の批判者にもかかわらず、14年にわたる経済的安定と繁栄を何とか管理できた。彼はそれを、資本――特に天然ガス産業と内需企業の利害関係者、後者では特に企業農業のエリートたち――とのプラグマチックな協調を通して行った。天然ガス輸出から得られた外貨準備の節約的管理、および公共支出の気前のよい割り当てが、いわばドルの詰まった貯金箱、安定した為替レート、経済成長、さらに貧困削減に余地を与えた。
確かに、ボリビアではこれまで長くあったように、腐敗事件は普通だった。批判者はさらに、エボの諸矛盾をも指摘した。彼は、より多くの鉱山開発とガス採掘を推し進めつつマザーアースについて発言した。彼は、一定の国家開発計画に反対した先住民組織を手荒く扱う一方で、先住民の再興をしきりに勧めた。そして彼は、女性に対する暴力の高まる危機の最中での過度に男主義的な政治の型、また中絶の権利と性的平等の課題に関して前進することへの拒絶、を体現した。
エボとMASはまた、農地改革にブレーキをかけ、先住民自治構想を一握りの自治体再編に限定するなど、農業企業に利権を与えることによっても何とかヘゲモニーを維持することができた。それでもこのすべてには、相対的な経済的好調さ、また国のあらゆる部分における、草の根層の深く強い支持、が対抗要素として作用した。
同時的に広範に広がった不満があった。これは、ボリビアの東部都市、サンタクルスで最強の極右部分から予想された。金融や建設や大規模アグリビジネスが14年にわたって好調だったとはいえ、ガスブームは終わりに近づき、特に農業企業は深刻な試練を見つめつつあった。それらは、もっと多くの遺伝子操作(GMO)種子、もっと多くの農地、もっと多くの免税、もっと多くの補助金(低燃油価格や国家貸し付けの形態での)、農民諸組織からのもっと多くの保護、を強く求めた。
エボ・モラレスへの彼らの反対――彼らのエリートに対する交渉申し入れにもかかわらず――は、アンデスの人々に対する深いレイシズムによって早くから形作られていたが、強まった。2019年10月の投票以前ですらこの反政府勢力は、トランプをオウム返しにして、エボが選出されるならばそれを不正だと宣言する意図を言明していた。
都市の中間階級の穏健な部分の中やボリビア左翼の多くの内部でさえも、エボ・モラレスに対する可能性のすり切れ感があった。モラレスは、この国の天然資源採掘依存を深め、恩着せがましい便宜供与を基礎とした政治システムを拡張するためにそれらの資源を利用してきた。そしてそのシステムは日を追って、退廃的で品位を落としていると見られていた。
MASの早い時期における大きなイデオロギー的興奮(それは今も、ボリビアの外に暮らす多くの左翼から声にされている)にもかかわらず、MAS構想の革命的な核の中で残っていたものはほとんどなくなっていた、ということはますます明らかになっていた。大企業に対する譲歩、最近での、新たなGMO種子を承認し、東部における新たな農地開発に刺激を与える一連の法的手段は、エボが何らかの革命的課題と同じ程大資本支持であることを示した。
そして最後に、憲法を変え、3期目を自らに可能としたエボの策謀は、多くに間違ったやり方を刻み付け、独裁者や権力の座を永続させたがる者たちに対する強い不信をボリビア人に思い起こさせた。これらの穏健派の多くもまた、エボの立候補に反対し、選挙プロセス自体にも深い疑いを向けた。

新政権頂点間の微妙なバランス

 2019年の投票日に続いたできごとは今も論争の対象になり続けている。ある人たちは、不正があり、クーデターなどはまったくなかった、と語っている。他の人々は(私自身を含んで)、広範な不正という証拠は薄く、他方でクーデターの外観は事実上否定しがたい、と語っている。とにかく、街頭に出た数千人の人々と軍の示唆によって彼は退陣し、モラレスは国を去った。
その後に続いたことは、腐敗、残忍性、さらにコヴィッド19を前にした無能さ、を特徴とする一年の臨時政府だった。おそらくこれらの理由によって、ボリビア人の多数は明らかに、1年後投票所に出かけた時心を変え、ほぼ歴史的な投票率とルイス・アルセに対する圧倒的多数をもって、MASを権力の座に押し戻した。
次に起きることは、主要な挑戦課題だ。新しい大統領と副大統領は、いくつかの連携を築き上げるMASの力を映し出しているが、しかしそれはまた内部的な分裂と対立をも示唆している。先住民とは自己認識していない一エコノミストであるアルセは、MSA連合の技術官僚陣営とつながっている。副大統領のデイヴィッド・チョケフアンカはアイマラ族であり、はびこる天然資源採掘主義と西側スタイルの家父長制と権力に対する批判を含んだ先住民思想、の指導的知識人として高い敬意を払われている。11月8日の就任式典におけるアルセの演説では、経済回復に焦点が当てられた。チョケフアンカのそれは、継続する権力乱用、裁判の政治化、さらに植民地主義的家父長制に反対するある種の(それほど隠されることのない)訓戒を含んでいた。
しかしこれは、何らかの深い分裂を暗示するものではない。アルセもまた先住民性とその核心的なシンボルを取り入れ、はっきりと左翼の立場に立つチョケフアンカは「権力は経済同様再配分されなければならない」と語ったからだ。とはいえ先住民の立場をもっと密接に一体視しているMAS連合のいくつかの部分は、チョケフアンカが大統領になるべきだった、と考えた。
しかしまた、名簿の頂点に「白人の」ボリビア人を置くことによって都市中間階級にアピールすることを期待して、アルセを押し出したのはエボ・モラレスだと言われている。それが選挙の勝利を説明しているかどうかに関わりなく、この組み合わせは当座のところ前向きな反応をつくり出しつつある。モラレスにますます幻滅を感じていた知人たちは、アルセとチョケフアンカには権力の誘惑に落ち込むことを避ける可能性がある、との一定の希望を明らかにした。
政治を行う古いやり方に対するチョケフアンカの思慮深い批判が重みをもたらすことができるか否かは、今後に明らかになることとして残されている。彼自身は、エボの実に不愉快な過ちのいくつかに同調することに進んで陥ることを嫌い、モラレス政権の後期には幾分周辺化されてきた。

経済的後退と二極化激化の中で


ともかく将来は試練に富むものになるだろう。エボの14年にわたる任期のほとんどの間経済相であった大統領のルイス・アルセは、天然ガス価格低下とそれ故の国家歳入収縮に直面している。アルセはエボ同様、激しい二極化を背景に、社会のさまざまな部分からのしばしば対立する諸要求のバランスを取らざるを得ないだろう。
サンタクルスの極右過激派はまさに就任日のその時まで、再度動員された。逆のあらゆる証拠にもかかわらず、彼らは、選挙は不正、と言い続けていた。前回MASが選挙活動をしていた時には不正を疑う理由がいくつかあったかもしれなかったとしても、今回それは笑うべきものだ。米国政府の「民主主義のための国家基金」の一時的雇われ人であるアルバトーレ・ロメロが選挙プロセスの任にあたった。クーデター政府がそれを監督した。そしてそれでもMASが地滑り的に勝利したのだ。
東部の少数派過激派は、米国の銃を背負ったトランプ支持者と大いに似かよって、明確に民主主義には全く信をおいていないのだ。彼らは、スキーマスクと野球帽をかぶった若い凝り固まった男たちと共に通りを封鎖した。そして、福音派キリスト教徒の者たちを含んだ多くは、文字通り今も軍部にクーデターを懇願している。11月3日、「市民委員会」との名称をもつ非選出のサンタクルス市民会議所が憲法裁判所に、ルイス・アルセの就任停止を請願し、選挙プロセスの監査(基本的には再集計)を求めた。判事たちは、ある程度の滑稽さを付随させて、この市民委員会に聴取の機会を与えたが、それは、大統領交代の2日後である11月10日に期日指定された。

モラレスの役割にも懸念要素が


エボ・モラレスの場合は、彼自身もまた紛糾の要素になる可能性がある。11月9日、アルセとチョケフアンカの宣誓就任日翌日、彼は勝利を誇りつつ、アルゼンチンとボリビアの国境を歩いてまたぎ、ボリビア南東部に入った。彼は、幸福感に包まれた群集に迎えられ、彼のいのちを救ったとして、アルゼンチン大統領と仲間の左傾旅行者に感謝を述べた。彼は、ボリビア中央部の彼の本拠地、チャパレに戻る2日間のキャラバンを計画した。
彼は明らかな形でアルセの政治の外部にとどまると誓った。それでも、MASの否定しがたい歴史的指導者――そしてMAS党組織の現党首――として、彼は、影響力のある役割を、おそらくは公的にというよりも私的な形で、確実に演じるだろう。多くはこの可能性を支持している。とはいえ何人かは、権力に復帰するというエボの衝動がアルセ―チョケフアンカ政府をともかくも脱線させるかもしれない、と恐れている。
彼の閣僚を例として、エボと協力した多くの元高官たちは、新政権からは一定の距離を取って置かれ続けている。批判者も共鳴者も同様に、いわゆる「招かれた」者や「潜入者」――MASへの深い忠誠やその歴史をまったく欠いているが、政治的支持を整える目的の下にエボからポストを与えられてきた人物たち――についてますますやきもきした。前閣僚のフアン・ラモン・クインタナのようなこうした人物たちの何人かは、エボとMASをより先住民的な路線から離れるよう圧力をかけた者たちの一部だと見られている。
これらの内部的な政治のすべてにもかかわらず――さらに彼自身のイデオロギー的というよりもむしろ純粋に個人的で政治的なスタイルにもかかわらず――、モラレスは依然として、左翼とピンクの潮(2000年代始めにラテンアメリカ全体に広がった左翼中道諸政権の登場を指す:訳者)の国民的かつ国際的な聖像だ。さらにモラレスは、ボリビアへの彼らの帰還以来公的視界から遠く外部にとどまってきた前副大統領のアルバロ・ガルシア・リネラと共にだが、別のところのさまざまな運動との結びつきを明瞭に表現する役割をも果たすかもしれない。
たとえば、彼は彼のボリビア帰還の中で、エクアドルとアルゼンチンの先住民組織と労働者組織と会合をもった。そしてわれわれは、今なお左翼側に立っているアルゼンチンとベネズエラ、ピノチェト時代の憲法を投げ捨てる票決を行ったばかりのチリ、動乱の渦中にあるペルー、さらにエクアドルでまもなく迫り、ブラジルでは2年ちょっとで到来する選挙をもって、新たなピンクの潮が、あるいは最低でも「ピンクの流れ」がその引き潮を経て戻るのを見る可能性もある。

社会運動再形成が決定的な鍵に

 エボが大幅な妥協を行ったという条件の下で、アルセが資本の権力に挑もうと務めるのか否か、に関し主な問題は依然残っている。当面のところそれはありそうにない。これは部分的に、政治的かつ経済的な不安定さという理由による。
東部ボリビアの銀行、保険、農業の資本家に大きな支援を受けた反動諸勢力は、MASとルイス・アルセに対する圧倒的な権限委任に地域的な力の見せつけをもって対抗するために、もっともらしい不正という主張を利用しようとした。他方でこの国は、この14年で初めて経済後退の局面に入り込んでいる。アルセは、プラス成長への回帰には2年かかるかもしれない、と語っている。
左翼と環境保護派は採掘産業と大農業企業の破壊力からの離反を見たいと思っているとしても、アルセは気づいてみると、経済を再度進めさせる賭として、先の両者を支援しているかもしれない。本稿を書いている時点で彼は、ベニのアマゾン出先機関を訪れ、肉牛牧場と農業の拡張への投資――両者共、環境保護にもっと心を砕いている外部観測者からは、問題あり、と見られている――を約束したばかりだ。
社会主義者というよりもケインジアンであるアルセは、政府を急進的に左翼に向けさせそうにはない、あるいは、環境保護として採掘主義の抜本的な再考に乗り出しそうにもない。ケインズ主義は新自由主義よりはましだとはいえ、資本との約束が国家の再配分路線を維持できるか否かは、未だ白紙の問題にとどまっている。
多くは、労働者階級と地方の社会諸運動が再結集し再組織に向かうかどうか、またそれがどう進むか、にかかることになるだろう。エボ以前、諸運動は戦闘的であり、少なくとも政治的には相対的に自立していた。MASの14年の中で、多くの指導者は国家の公職者になり、諸々の運動はしばしば、国家との間で後援者―特恵的受益者という関係に吸収された。
忠誠を示した者たちは報いられた。MASを批判した者たちは排除された。政治的変化に影響を及ぼす点では、一定の自律性の回復が決定的だ。今われわれは、後退の中での国家の贈り物に基づいて、変革のより進歩的な歩みへの回帰に向けた舞台を設定するという、ボリビアの歴史的な運動の一つの再形成を見ることになるかもしれない。
当座、2020年10月18日の冷静で真剣、かつ辛抱強い民主主義プロセスの実行が、人民の必要を満たすとの意味が込められている国家と国民の――そして政治の一形態の――理念に対するこの国の傾倒を示した。レイシズムと排他的な話題を声にしている少数部分に反対する、集団的な道義的意識が存在している。それは全般的に、国家の暴力、軍の介入、そして不公正にいらだっているのだ。エボ・モラレスについてどの立場に立とうが、また前途に控える試練にもかかわらず、はっきりしていることは、少なくとも当面は、ボリビア人が資本主義とその正統的慣行に挑み続ける、ということだ。(「ニューポリティクス」より)

▼筆者は、セントルイスのワシントン大学人類学准教授。(「インターナショナルビューポイント」2021年1月号)

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