支配者と同じ立場では、労働者を守ることはできない
イ・ヨンドク
 全米自動車労働組合(UAW)の幹部が7月初旬、金属労組の招待で韓国を訪れた。UAWは、2007年に既存の労働者と新規採用者の間で賃金格差を設ける「二重賃金制」に合意した。これにより、新規採用者の賃金は既存労働者の約半分となり、このUAWの行動は長年にわたり御用組合として批判されてきた。2023年にいわゆる民主派執行部が登場し、差別賃金制を大幅に緩和する団体協約を締結したが、最近その限界が露呈している。
 UAWは、大規模な移民の追放、公務員の大規模解雇など、労働者・民衆に対して野蛮な攻撃を繰り広げるトランプ政府の関税政策を支持している。それにもかかわらず金属労組は、何の批判もせずにUAWを招待し、共同記者会見や討論会を開催した。
 両組合は、自動車産業のサプライチェーンに対する威嚇に共同で対応することを約束した。分裂や対立を起こさず、協力し合って闘い、未来を築いていく、と述べた。しかし、これは両組合の実際の行動とはかけ離れた、単なる美辞麗句に過ぎない。
関税戦争は自動車産業労働者の勝利か?
 UAWは、トランプの関税戦争を「自動車産業労働者の勝利」と称賛した。UAWのショーン・フェイン委員長は、3月26日にトランプが米国市場に輸入される乗用車とトラックに対する主要関税を発表すると、次のように述べた。
 「私たちは、何十年にもわたって労働者コミュニティを破壊してきた自由貿易の惨事を終わらせるために行動を起こしたトランプ政権を歓迎する。」
 UAWは、自動車関税を「米国での生産回帰を導き、海外への雇用移転と地域経済の荒廃をもたらした政策によって損害を受けたブルーカラー地域社会を回復するための措置」だと主張している。ショーン・フェイン氏は、北米で販売されるフォルクスワーゲン車の75%はメキシコで生産されており、高率の関税によって、この生産を非常に短い時間のうちに米国に戻すことができると強調した。
 労働者の生存と雇用は、資本の生存、国際的な勝利によってのみ決定されるという労使協調主義的な見方が根底にある。米国の自動車産業の労働者に雇用が創出されれば、他の産業や他国の労働者がどうなっても構わないという組合主義的、利己的な態度の典型である。このような状況にもかかわらず、「UAWは自動車産業労働者の勝利」と主張している。誰に対する勝利なのか?
資本家の言いなりなのか?
 国や産業、企業によって、関税戦争の影響は異なる。米国でも、輸入物価の上昇やグローバルサプライチェーンの不安定化を憂慮する声が相次いでいる。クライスラー、ジープ、ラムなどのブランドを保有するステランティス(フィアットとPSAが合併して設立したグループ)のジョン・エルカーン会長は、「メキシコとカナダで生産された製品は(米国製の部品が多く搭載されているため)無関税を維持すべきだ」と述べ、フォードの最高経営責任者ジム・ファーリー氏は 「メキシコとカナダから輸入される自動車に25%の関税を課すことは、米国の自動車産業に前例のない打撃を与えるだろう」と述べた。
 トランプが関税戦争を推し進めている代表的な産業である鉄鋼・アルミニウム産業の資本家たちも、すべてが関税戦争を歓迎しているわけではない。カナダに工場を持つ企業は、トランプの関税戦争の直撃を受けるからである。
 政府と資本家は、自分たちの必要に応じて自由貿易と保護貿易を巧みに使い分けている。自由貿易と保護貿易の範囲やスピードも調整する。このように資本家の言いなりになれば、どのような事態を招くだろうか。労働者が、自らが雇用されている資本の立場に応じて、その時々で方針を変えるとしたら、何が起こるだろうか。
 第一に、労働者は国別、産業別、企業別に分断される。第二に、政府や資本家たちが打ち出す産業再生、企業再生の論理に反対できず、賃金カットや整理解雇の攻撃を容認し、生存の崖っぷちに追いやられる。
 労働者の代案は、保護貿易か自由貿易かではなく、利潤競争体制そのものを闘争の対象とし、自国市場保護のための自国資本家との連合ではなく、世界全体の資本家に対抗する労働者の国際連帯の強化である。
皮肉
 UAWが国際連帯の大義を破壊していることは明らかである。そのためか、ジェイソン・ウェイデンUAW委員長首席補佐官は、もっともらしい言い訳を並べ立てた。
 7月10日に開催された「転換期にあるグローバル自動車産業と労働者の権利拡大策を模索する討論会」においてウェイデン氏は「自由貿易は米国で最も強力な反組合政策として機能してきた」とし、「労働条件の改善を要求すると、企業は雇用を海外に移転すると威嚇するのが現実だ」と述べた。そして、「(自由貿易により)企業が韓国から撤退して東南アジア諸国に移転すれば、韓国の労働者も米国と同じ苦しみを受ける」とし、「UAWは米国の組合員だけの利益を確保しているとの見方もあるが、世界中の労働者は皆、私たちの敵ではない」と述べた。
 トランプの関税政策を支持し、自国の一部の労働者にのみ有利な保護貿易を主張しながら、世界中の労働者は皆、私たちの敵ではないという無茶な発言ができる厚かましさの源はどこにあるのだろうか。
トランプの気まぐれ?
 金属労組のチャン・チャンハ氏は、7月10日のゼネスト談話で次のように述べた。
 「戦争、気候危機、トランプの気まぐれで、世界の貿易と生産のサプライチェーンは混乱している。特に、トランプの関税戦争は、私たちの雇用を直接威嚇している。危機を防御する政府の賢明な対策と同様に、自国の産業を保護する断固とした姿勢が必要だ。私たちの闘争は、自らの職場から始まり、韓国産業の未来を守る正義の闘争である。」
 「自国の産業を保護する断固とした姿勢」、「韓国産業の未来を守る正義の闘争」という言葉からわかるように、そこにはすべての国の労働者が団結して、すべての国の支配者と闘うという展望はまったく見当たらない。階級対立を消し去り、国家のために団結し、犠牲になるべきだという愛国主義まで持ち出している。
 トランプ政権が4月2日に大規模な高率関税措置を発表した後、4月9日に中国を除く国々に対して90日間の関税賦課の猶予を発表したのは、トランプの気まぐれによるものではなく、株価の暴落、物価の上昇、消費の低迷、生産量・雇用の減少などの影響が深刻だったためである。
 トランプ政権の戦略は、必然的に、より大きな戦争の威嚇とより激しい世界的な競争を生むだろう。どの国、どの資本が競争の波に翻弄されて没落するかはわからないが、一方の部分的な没落は、世界全体の深刻な経済危機として急速に広がる可能性がある。そうなれば、政府と資本は労働者をより激しく競争させ、労働者大衆にさらなる犠牲を強いるだろう。
 私たちはこのような論理から脱却しなければならない。1997年のIMF危機、2008年の金融危機は、協調主義、愛国主義に陥って労働者民衆が武装解除されたときに、どれほどの代価を支払うことになるかを示した。
別の展望
 7月10日の討論会で、金属労組現代自動車支部未来変化対応タスクフォース(TF)のイ・イクジェ委員は、「韓国の自動車労組の立場から見ると、UAWは自分たちだけで生き残ろうとしているという側面がある」と述べた。それでは、尋ねずにはいられない。現代自動車支部は別の態度を示しているのだろうか。世界中の労働者と共に生きようという態度を実践しているのだろうか。
 元請の大企業は、部品メーカーの労働者の抵抗を抑制するために、生産量を二元化、三元化することが多い。労働組合のない他の部品メーカーにも同じアイテムを生産させ、労働組合のストライキの効果を封じ込め、生産の混乱を防ぐのだ。このような攻撃に対抗する労働者の代案は、他の部品メーカーでも民主的な労働組合を建設し、同じアイテムを生産する他の部品メーカーがストライキに入った場合、代替生産を拒否することである。
 生産量が移転された場合でも、労働者の生存権を守るため、非正規労働者を含む全労働者の総雇用保障、賃金カットのない労働時間短縮のために闘わなければならない。事業場を越え、国境を越えて団結できる道を模索すべきであり、さまざまな場所で共同のネットワークを構築しなければならない。
 もちろん、このような展望は、今すぐに実現可能な展望ではない。指導部の官僚化や現場活動家の後退だけが問題ではなく、多くの平組合員たちの意識も変えるべきである。
 関税戦争の衝撃は、金属労組だけでなくすべての労組の前に、問題を再び投げかけている。関税戦争を理由に、労働者に譲歩と犠牲を強いるあらゆる攻撃に対抗するためには、資本と労働の対立軸を明確にする必要がある。民族主義、愛国主義の囚人になるか、国境ではなく階級で団結して世界を変えるか。この根本的な問いから逃れることは、誰にもできない。   7月25日
(「社会主義に向けた前進」より)
朝鮮半島通信
▲尹錫悦前大統領の妻、金建希氏を巡る不正疑惑を捜査している特別検察官は8月13日、金氏をあっせん収財などの疑いで逮捕した。
▲金正恩総書記は8月18日、駆逐艦「崔賢」を訪問し、艦の武装システムの統合運用試験過程と海兵の訓練状況を確認した。
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