インドネシア 抗議の権利を守れインドネシアへの国際連帯を
市民社会による共同声明
東南アジアの大国、インドネシアはスカルノ体制の下で強力な労働組合が組織されていたが1960年代の軍事クーデターによって破壊された。しかし本声明で紹介された事態は、労働者の闘いが新たな広がりを開始し、市民運動も合流した闘いの発展を示している。(編集委)
労働者数万人が各
州・郡で抗議行動
2025年8月28日と29日、インドネシアの労働者数万人がマノクワリ、スマラン、ソロ、マゲラン、メダン、ベンクル、テガルなど各州・郡で抗議行動を展開した。ジャカルタの国会議事堂(DPR)前が抗議活動の中心地となった。
抗議者らは、2026年度における最低賃金8・5~10%の引き上げ、大量解雇の停止、アウトソーシングの廃止、包括的な税制改革、憲法裁判所決定第168/2024号に沿った新労働法の制定、資産没収法案の可決、選挙法改正などを要求した。これらの要求は、労働者の「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」、社会的保護、民主的参加という基本的権利を反映している。
3日前の2025年8月25日、数百人の学生と市民がDPRビル前で抗議活動をおこなっていた。これは議員が複数の手当増額を受けたと報じられた直後のことで、 その一つである月額5千万ルピア(1人あたり3千ドル)の住宅手当はジャカルタの最低賃金の10倍に相当する。一方で同時期に8万人以上の労働者が大規模に解雇され、固定資産税が100%以上急騰し、教育・大学予算が削減される事態が発生していた。失踪者・暴力被害者委員会の記録によれば、このデモは12名の民間人負傷者と351名の恣意的拘束(うち196名が未成年)で終結し、放水銃の使用に加え、期限切れの催涙ガスが住宅地に無差別に影響を及ぼした。
国家警察によ
る弾圧
8月28日及び29日の抗議活動に対する国家機関の対応は、より深刻な懸念を引き起こした。失踪者・暴力被害者委員会は、インドネシア国家警察による一連の過剰な武力行使の実態を記録した。これには実弾射撃、拷問、暴行、恣意的逮捕、強制解散、群衆制御兵器の無制限使用が含まれる。その結果、約113名の重傷者、3名の死亡、734名の逮捕者が発生した。これらの数字は、憲法上の権利を行使する市民に対する組織的な暴力の憂慮すべきパターンを示している。
最も悲劇的な事件の一つは、2025年8月28日にジャカルタで発生した。抗議活動中に、機動隊の戦術車両に轢かれた若き配車サービス運転手アファン・クルニアワンが死亡した。彼は家族の唯一の稼ぎ手であった。彼の死は、市民的・政治的権利に関する国際規約第6条に違反する恣意的な生命の剥奪であるだけでなく、インドネシア治安部隊による民間人に対する不均衡かつ無差別な武力行使を如実に示している。アファン殺害は、公の抗議空間に存在する権利を行使しただけという「罪」しか犯していない一般市民が、いかに国家暴力の直接的な標的となるかを浮き彫りにした。
過剰な武力行使、恣意的逮捕、拷問に相当する行為は、市民的・政治的権利に関する国際規約や拷問等禁止条約を含む国際人権法上の義務に反するだけでなく、インドネシア自国の国内法体系にも直接違反している。特に、2009年国家警察長官令第1号「武力行使に関する規定」及び2006年国家警察長官令第16号「群衆管理に関する規定」は、法執行官に対し合法性、必要性、比例性、説明責任の原則を遵守することを明示的に要求している。現在の実践はこれらの基準に対する体系的な違反を露呈しており、法の支配を損ない、国家機関に対する国民の信頼を損なうものである。
さらに悪いことに、国家情報機関元長官A・M・ヘンドロプリヨノは、デモがインドネシア国外の勢力によって仕組まれたと主張している。国家機関が構築する主要な物語の一つとして、市民社会組織(CSO)が国際機関と関与しており、それらの組織が外国や西側勢力の走狗と見なされるというレッテル貼りのパターンが存在する。
強制連行・行方不明などが横行
こうした事例は孤立した事件ではない。むしろ、2019年の「改革と腐敗撲滅」運動、2020年のオムニバス法、2024年の「緊急事態宣言」から、2023年のレンパン国家戦略プロジェクト反対デモやパプア抗議活動に至るまで、インドネシアにおける平和的集会に対する警察暴力の反復パターンを反映している。過剰な武力行使、大量逮捕、[自らの行為に対する]免責を特徴とする抑圧のサイクルは、恐怖の文化をさらに定着させ、正当な異議申し立てを沈黙させる。こうした組織的な虐待は、民主主義原則の遵守失敗を示すだけでなく、説明責任と正義を求める市民運動の正当性を意図的に否定する試みでもある。
この体系的な暴力の中で繰り返される不穏な慣行が、強制失踪のパターンである。デモ参加者、特に学生や若き活動家が国家機関によって強制的に連行され、数時間あるいは数日間も行方不明となる。多くの場合、具体的な法的根拠や適正手続きもともなわない。この手法は、1998年の権威主義体制下で横行した強制失踪の遺産を継承し、反映している。
インドネシアが「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」に未加盟であることは法的空白を生み、こうした慣行が処罰を免れたまま継続することを許している。国家がこの国際人権基準を批准しないことは、再発防止、法的責任の確保、国家主導の恣意的拉致からの保護といった重要な安全装置を排除している。
同時に、報道の自由を抑制する憂慮すべき動きも見られ、これも過去の権威主義体制を反映した形態である。最近の抗議活動において、インドネシア放送委員会が、2025年8月28日、警察の暴行や抗議活動の場面を報道しないようメディアに圧力をかけたことが記録されている。この国家主導の情報遮断は透明性をさらに阻害する。こうして国家は強制失踪とメディア検閲を組み合わせ、1998年の危険なパターンを再現している。
したがって、われわれ市民社会はインドネシア政府に対し以下のことを要請する。
警察と国軍の武力弾圧許すな
国家警察は直ちに過剰な武力行使を中止し、すべての群衆統制作戦が2009年警察令第1号及び国連非致死性兵器ガイドライン、国連法執行官行動規範などの国際人権基準に準拠することを確保し、虐待行為に関与した警察官を公平に調査すること。
国家警察委員会は、2025年8月28日の警察暴力に関する緊急調査を開始し、懲戒処分及び刑事制裁を勧告することにより、独立した監督権限を行使すること。
警察機関とインドネシア国軍は、強制失踪及び短期強制失踪のあらゆる慣行を停止し、恣意的に拘束された全民間人の即時解放と保護を確保すること。
国家人権委員会は、最近の抗議活動に関連する拷問、恣意的逮捕、法外殺害の全事例について、迅速かつ公平で透明性のある調査を実施し、被害者と証人を保護すること。同機関はまた、催涙ガス、警棒、ゴム弾などの群衆制御兵器の過剰使用、特にデモ中に配車サービス運転手が機動隊車両に轢かれた事件における戦術車両の使用など、事件の特定要素に対する監視を強化すべきである。
インドネシア国民議会(DPR)は、警察長官を公的説明責任聴聞会に召喚し、違法な弾圧に関する説明を求め、今後の群衆統制作戦が国内法と国際基準を厳格に遵守することを保証することにより、真の立法府による監視を確保すること。DPRはまた、労働権、社会的保護、市民的自由を保障する法律の審議と可決を直ちに加速させなければならない。国民から抗議を受けている機関として、DPRは弾圧の陰に隠れることはできず、インドネシア市民社会と直接向き合い、その不満に耳を傾け、公的信頼を回復するために責任ある行動を取らなければならない。市民から抗議を受けている主要な主体として、議会は抗議活動においてインドネシア市民社会の諸要素と直接向き合うべきである。
インドネシア国民議会は、強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(ICPPED)を直ちに批准し、強制失踪の再発防止、迅速かつ公平な調査の実施、およびすべての加害者の責任追及を確保するための必要な国内法を採択しなければならない。
インドネシア大統領は警察の暴力行為を公に非難し、平和的集会の権利の保護を保証するとともに、デモ中の警察暴力に関連するあらゆる裁判が透明かつ公開の形で実施されることを含む、国際人権義務への完全な順守を確保すべきである。警察は非暴力的な手法を優先してデモ対応を評価すべきである。
2025年8月31日
(「国境を超えるヨーロッパ連帯」のサイトによる)
この共同声明は、216団体と65名の個人が署名して、発表された。署名者については、以下のサイトを参照すること。
https://www.
europe-solidaire.org/spip.
php?article76063
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社