シニア就職戦線
コラム「架橋」
失業中の友人Aが就職した。彼は高卒後、デザイン専門学校を退学し、同級生の伝手で印刷関連会社を渡り歩いた。やがて外資系広告代理店で頭角を現し、大手経済紙の全面広告を手掛け渡米もした。しかしまさかの倒産で離職を余儀なくされ、ここ数年は自宅テレワークで生計を立てていた。
だが本部からの一方的な賃下げ通告。夜間も自宅の電話が鳴る拘束に嫌気がさし昨年末、年金支給開始と母親の他界を機に自ら身を引いた。親と住む予定で買ったマンションの負債が残り、パートナーに就労を促され続けた。
この夏。都内の倉庫番の仕事を得たが、年下の正社員からの暴力的パワハラに遭い10日で辞めた。その後採用面接を繰り返し、10月から大手スーパーに就職した。各フロアの買い物カートを置き場に集める作業。制服と「実習生」の腕章をつけ、試用期間ですら汗だくになる。労組は日本最大の単産だが、65歳以上は加入できないという。
定年退職後、好奇心と熱意だけで運よく新職場を確保した私だが、「非正規」の壁は厚く固い。10月3日付東京新聞は「働くシニアのメンタル守れ」の見出しで、再雇用者の精神不調に警告を鳴らした。
年代別の図表を載せ不調要因を探る記事だ。60歳代は「・長く習慣化した対面や紙文化・親の介護の本格化・再雇用による業務の変化」を背景とし、兆候は「・オンラインやデジタル機器への戸惑い・裁量縮小によるモチベーションの低下」とある。当てはまる! 思わず膝を打った。
現役時代。私は契約や支払いで下請け会社との交渉を担当。社内の生産量を調節する立場にいた。「後輩を助け管理職をくじく」がモットー。出世とは無縁だが裁量が大きく、業界に人脈を作った。
新職場では様々なキャリアアップを推奨。制度を利用し資格を取得しても、それが自分の暮らしや健康に生かせないのは皮肉である。その日に何をするか、デスクに着くまで不明。業務における裁量の小ささは、大きなストレスを生む。
喫茶店で近況を語り、慰め合う。音楽と恋に憧れた若き日の回想が、今を生きるシニアのよすがかも知れない。 (隆)

