「電気屋さん」
コラム「架橋」
私はかつて、自民党副総裁(元首相)の田舎の実家に故障したテレビを直すのについて行ったことがあった。あいさつもそこそこ、彼はテレビの横板・後ろ板を叩いた。そうしたら、なんと高級そうに見えたテレビが映ったのである。家の人は「ありがとうございます」と言い、友人は「請求書は後に送ります」と言って帰ってきた。
友人に本当に直ったのかと聞くと「映ったから直った」と答えた。再度聞くと「電気製品の故障の60%以上は接触が悪い。叩くと映るとか、直るのはこの接触のせい。つまりハンダごてが悪いのだ。だから叩く。叩いてダメなものは分解してみますと言って持ちかえればいい。開けば、接触か断線か不良部品のいずれかだ。持って帰れば初めて電気屋の仕事になる。われわれは電気屋の仕事を持って帰る係」だと言うのだ。
店に帰ると相棒は電気屋に事情を説明した。それを聞いた電気屋さんがわれわれに「ご苦労さん」と言って終了である。分かりやすい仕事であった。
叩いて終わったのは、その後ラジオでも一件あった。おそらくこれも接触が悪く、ハンダ付けで直りました、である。
かなり前、静岡でテレビを作っている工場に入った。予想したのとは違って、テレビの内部はコードであふれていた。これではすぐに直せないと思った。友人に言うと「昔とほとんど変わらない。ただ、叩いて直るのは昔のように60%ではなく20%に落ちただけだ。昔の方が雑な作り方をしていただけだ。映るシステムはほとんど変わっていない」という。「カラーになり、外国の番組が映るようになった分、複雑になっただけ」、とあっけらかんと答える。口が開いたままで閉まらない。しかし友人の名刺から電気屋の文字が消えた。
昨年、友人の車で三浦半島に出掛けた。久しぶりに「まぐろのづけ丼」を頼んだ。私は「わさびが足りない」と言おうと思ったが店主はテレビに映った小泉新次郎に対して「シンちゃん、シンちゃん」と芸能人並みの声援、ここまくでくると「芸能人と国会議員の違いはない」。テレビを叩いて消したくなった。総裁選の話が出るとこのこのシーンを思い出す。 (武)

