8月のジャーナリズム
コラム「架橋」
1945年8月の敗戦から80年目の夏。毎年3月、東京大空襲および東日本大震災も加わってメディアの関連報道が活発化する。「3月ジャーナリズム」と呼ばれる。8月は6日の原爆広島投下、9日の長崎への投下。そして15日の敗戦で、過去の戦争がもっともクローズアップされる。
漫画家ちばてつやは幼少期を旧満州で過ごした。日本帝国主義は中国東北部への侵略の「人間の盾」として20万人を超える人々を「開拓団」と称して送り込んだ。長崎に原爆が落とされた8月9日にソ連の侵攻が始まると、関東軍はわれ先に逃亡した。残されたのは戦地に駆り出された男たちを除く女性や子供、高齢者がほとんどだった。上映中の映画「黒川の女たち」は、ソ連兵による性的虐待と引き換えに「黒川開拓団」の命を守った女性たちの回想録である。帰国した彼女たちを待っていたものは、周囲の厳しい差別と偏見だった。。
軍部敗走と現地人民からの報復の大混乱の中で、ちばさん一家を匿ったのは、叔父の同僚の中国人である。略奪と暴動、飢えと寒さのなかで多くの死者が出たが、一家は命からがら帰国を果たした。ちばさんはそのときの壮絶さを、作品を通じて平和の尊さを訴えている。
おりしも7月の参院選。極右ポピュリズム政党が大躍進した。無知をさらけ出して歴史をねじ曲げ、耳障りのいい言葉を無責任に羅列し、新しさを前面に出して支持者を得た。凋落する自公と既成野党に期待できない無党派層を取り込むと、従来の保守言論までがその傍若無人ぶりを批判した。
テレビではNHK「スペシャル」、TBS「報道特集」はじめ民放各社が「戦後80年」の特番を組んだ。日中戦争、太平洋戦争開戦、沖縄戦、特攻、原爆投下などテーマは例年通りだが、より踏み込んだコメントが目立ったのではないか。安倍政権の長きにわたる報道統制から解き放たれた製作側が、このかんの世論の右傾化と排外主義の横行に危機感を持ち、「左バネ」が働いたと分析するのは言い過ぎか。
戦争体験者が次々と鬼籍に入るなかで、歴史の正しい伝承が求められている。出兵も敗戦も、安保闘争も全共闘運動も体験しなかった我ら世代もまた、謙虚に学ぶ姿勢を忘れたくない夏である。(隆)

