第21代大統領選挙が明らかにした労働者階級の課題(上)

ペク・ジョンソン

李俊錫の躍進は何を意味するのか

 今回の大統領選挙で最も特徴的な点の1つは、総得票率8・34%を記録した李俊錫が、若者層から高い支持を得たことである。大統領選挙の地上波3社による出口調査によると、李俊錫は20代の男性から37.2%と最も高い支持率を記録した。次に36.9%を獲得した金文洙が李俊錫と肩を並べ、李在明は24.0%にとどまった。非常事態宣言による内乱を労働者・民衆の闘争で鎮圧した後の選挙だったこと、また、女性やマイノリティが広場での重要な主体だったことを考えると、男子青年層の政治的傾向が、労働者や民衆の間に懸念を引き起こしている。
 20代の男性青年層は不安定な集団である。雇用不安により非正規雇用やプラットフォーム労働への参入が日常化している中、兵役という重荷も背負わなければならない。このような条件の中で、20代の青年男性の多くは、青年女性を就職市場の競争相手と見なすようになる。李俊錫は、このような青年層を対象に、「特定の集団が利益を独占している」と煽動することで浮上した。彼の主張は次のようなものだ。
 「この過酷で不公平な世の中で、自分たちだけ利益を得ている集団がある。あなたがたが苦労しているのは、まさにその集団のせいだ。その既得権益集団とは、次のような者たちである。皆が苦労しているのに、自分だけの権利を主張して反文明的なデモを行う障害者たち。利己的に定年延長を要求して、良い職を独占しようとしている大企業の正社員たち。自分たちに有利な国民年金制度改悪で若者から搾取し、社会保障制度の恩恵を独占している中高年層。狭い就職市場で男性に対する逆差別で不当な利益を得ているのに、いまでは学校でテロに近い暴動を起こすフェミニスト集団などだ。」
 今回の大統領選挙で「女性家族部の廃止」を第1号公約に掲げた李俊錫の戦略は効果的だった。李俊錫の煽動は、「自分たちを代弁する唯一の人物」を見つけたという20代の青年男性たちの歓声につながった。
 より長い目で見れば、李俊錫の政治的な台頭は、曺国事件に象徴される民主党政権の偽善と二重基準に対し、若者の間で怒りが蓄積した結果だった。もちろん、曺国事件の直後に、民主党に対する若者の支持が急落したわけではない。2020年の総選挙では、20代の男性の47.7%が依然として民主党を支持していた。当時はコロナ禍が本格化しており、文在寅政権は初期の防疫成果を武器に高い支持率を維持しており、野党の未来統合党は黄教安代表体制において、若者層にとって魅力的な代弁者とはなり得なかった。つまり、2020年の総選挙は、曺国事件後に浮上した「公正」の議論を政治的な対案にまで押し上げ、それを結集する人物が具体化する前の段階だったといえる。
 このような状況の中で、2021年の国民の力党代表選挙は、公正論が政治的表現を獲得し、拡張する契機となった。李俊錫は、「女性割当制の廃止」や「公職候補者資格試験制度」など、公正競争のイデオロギー、能力主義のイデオロギーを前面に打ち出して登場した。このような流れは、文在寅政権下の検察総長だった尹錫悦が、大統領候補として浮上する過程とも軌を一にしている。李俊錫は、民主党政権の偽善と腐敗を背景に急浮上し、2022年の尹錫悦政権発足後は、「既得権層と闘って不当に追放された、若くて有能な政治家」という「カリスマ性」も得た。
 「曺国事件が民主党の本質を露呈させた陰で李俊錫が浮上した」という文脈は、昨年実施された2024年の総選挙でも一貫して表れていた。2024年の総選挙の特徴の一つは、尹錫悦政権の度重なる暴挙に対する大衆の怒りが、祖国革新党の躍進につながったことである。2024年の総選挙では、祖国革新党の比例代表得票率は24・25%に達し、李俊錫の改革新党の3・61%の7倍近くとなった。それでも、総選挙の出口調査の結果、20代の男性の改革新党への支持率は16・7%で、祖国革新党の17・9%と肩を並べるほど、李俊錫は青年男性の意見の代弁者として台頭していた。
 第21回大統領選挙の出口調査の結果、20代の男性における李俊錫の支持率が37・2%だったことをどう解釈すべきだろうか。大まかに分類すると、20代の男性37・2%の情緒は次のようなものだろう。彼らは非常事態宣言に反対し、弾劾にも賛成し、表面上は正義を叫ぶものの、実際には不公正な民主党も代弁者ではないと考えている。その多くは、圧倒的な支持を受けて出発した文在寅政府と民主党に期待を寄せていたが、今ではまさにその民主党が自分たちに苦痛をもたらした主犯だと考えている。

階級闘争の政治、その不在が生んだ右派ポピュリズムの台頭

 特に、女性を巡る議論と国民年金問題は、李俊錫が支持者を結集する主要な契機となったことを忘れてはならない。まず、女性を巡る議論を見てみよう。李俊錫の極右の煽動のように、文在寅政権は女性のために男性を逆差別したのだろうか。もちろんそうではない。文在寅は候補時代、男女賃金格差を OECD 平均の15%レベルまで縮小すると約束したが、依然として韓国は 29・3%(2023年)と、OECDにおける男女賃金格差で1位を記録している。文在寅政権の年間平均最低賃金上昇率は7・2%で、歴代政権の中で2番目に低く、朴槿恵政権の7・4%よりも低かった。雇用委員会を設置し、「雇用状況ボード」を大々的に展示したが、資本側に立った文在寅政権は、女性にも男性にも良質な雇用を増やすことができなかった。
 文在寅政権下において増加が見られたのは、女性高官や公企業の女性役員の数にとどまる。文在寅政権は、2022年までに女性高官の割合を10%、女性公共機関役員の割合を20%とする「公共部門における女性代表の拡大」を掲げ、実際に女性の代表は増加した。しかし、性別を問わず搾取者や抑圧者が増えるだけでは、真の平等は達成できない。
 さらに、民主党が「フェミニズム」を掲げて政権を握りながら、朴元淳氏のような性暴力加害者を擁護・追悼し、被害者には集団リンチを加えた偽善的行為は、若い男性層に「民主党式フェミニズム」への皮肉と不満を募らせる結果となった。このように、民主党政権は、男女労働者の生活をより安定的かつ平等にするどころか、保守勢力による反フェミニズムの憎悪煽動の触媒となったに過ぎない。つまり、階級闘争を通じて真の男女平等を達成しない限り、「フェミニズム=高位職の割り当て=不公平」といった煽動は止まらないだろう。
 李俊錫が支持層を結集したもう一つの要因は、国民年金制度改悪だった。李俊錫は、「既得権世代が若い世代の分け前を奪っている」という構図を前面に押し出した。3月末の世論調査によると、3月20日に国会で可決された「国民年金法の一部改正案」に対する若者の意見は「反対」が圧倒的だった。18~29歳では反対が63%、30代では反対が58%を記録し、李俊錫は大統領選挙で「旧年金」と「新年金」の分離運用を公約に掲げ、青年世代を団結させた。
 国民年金を介した李俊錫の青年世代結集は、階級政治の不在が生み出した右翼ポピュリズムの勝利と言えるだろう。「より多く払い、より多く受け取る」年金を志向する社会民主主義的な年金改革論者は、青年層の反対世論を「連帯意識の欠如」と解釈する傾向があるが、青年層が3月20日の国民年金法一部改正案に反対する理由は、それが実際に改悪であるからである。
 労働者・民衆、特に青年労働者は、より多くの保険料を負担する余力がない。2024年下半期の国政監査によると、国民年金に加入していないか、加入していても経済的困難で保険料を支払えない人が1034万人に上る。特に青年層の死角地帯の割合が高い。2020年の基準で、18歳から34歳の人口のうち、年金保険料を支払えない層の割合は55・7%に達している。
 労働者が選択すべきは、国民年金における資本負担の増大を目指す階級闘争に他ならない。圧倒的な少子化は客観的な現実であり、国民年金問題は少子化から派生している。国家と資本は、年金制度の維持の負担を労働者階級に押し付けようとしている。自由主義市民社会や社会民主主義者も、その程度は異なるものの、労働者の保険料率引き上げに同意し、「より多く払い、より多く受け取る」国民年金への再編を志向している。民主労総も同様である。
6月25日
(「社会主義に向けた前進」より)

【次号へつづく】

朝鮮半島通信

▲金正恩総書記は7月8日、金日成主席の死去から31年にあたり、金主席の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿を訪れた。
▲60代の男性が7月9日、日本の国際交流基金が運営するソウル日本文化センターに放火しようとしたとして、現行犯逮捕された。
▲昨年12月の戒厳令宣布について捜査している特別検察官は7月10日、特殊公務執行妨害などの疑いで尹錫悦前大統領を逮捕した。

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