投稿:中学入試に「パレスチナの詩」出題 SNS上で話題に
「あしに おなまえかいて、ママ」
「あたしはばんごうになりたくない」
SM
「中学受験の最難関校の一つとして知られる、中高一貫の私立灘中(神戸市)は1月17、18日、入学試験を実施した」(2026年2月16日・月曜日『毎日新聞』朝刊19面)。国語では「二〇二三年からパレスチナで起きていることをきっかけに(間違い。本当は「二〇二六年現在もパレスチナで続いていることをきっかけに」が正しい。試験後に訂正された)書かれた詩」として、「英語から日本語に訳された2編の詩に関する問題が出題された」(同上)。2編の詩は、ムスアブ・アブトーハー(「ムスアブ・アブートーハ」の間違い。試験後に訂正された)の「おうちってなに?」(山口勲訳)とゼイナ・アッザームの「おなまえ かいて」(原口昇平訳)だ。
その一つ、「おなまえ かいて」は、こういう詩だ。詩とその後ろに書かれている「CNN報道」を紹介したい。(『現代詩手帖』2024年5月号37~38ページ)。
あしに おなまえかいて、ママ
くろいゆせいの マーカーペンで
ぬれても にじまず
ねつでも とけない
インクでね
あしに おなまえかいて、ママ
ふといせんで はっきりね
ママおとくいの はなもじにして
そしたら ねるまえ
ママのじをみて おちつけるでしょ
あしに おなまえかいて、ママ
きょうだいたちの あしにもね
そしたらみんな いっしょでしょ
そしたらみんな、あたしたち
ママのこだって わかってもらえる
あしに おなまえかいて、ママ
ママのあしにも
ママのとパパの おなまえかいて
そしたらみんな あたしたち
かぞくだったって おもいだしてもらえる
あしに おなまえかいて、ママ
すうじはぜったい かかないで
うまれたひや じゅうしょなんて いい
あたしはばんごうになりたくない
あたしは かずじゃない おなまえがあるの
あしに おなまえかいて、ママ
ばくだんが うちに おちてきて
たてものがくずれて からだじゅう ほねがくだけても
あたしたちのこと あしがしょうげんしてくれる
にげばなんて どこにもなかったって
ガザでは、自分や子どもが殺されても身元が分かるよう、子どもの名前をその足に書くことにした親もいる。―― 二〇二三年十月二十二日 CNN報道 (原口昇平訳)
「おなまえ かいて」(日本語訳)が掲載されている『現代詩手帖』2024年5月号(特集 パレスチナ詩アンソロジー 抵抗の声を聴く、思潮社、1430円)には、訳者の原口昇平さんの「解題」が「おなまえ かいて」と「CNN報道」の後ろに載っている。紹介したい。「…… かつて強制収容所の被収容者の腕に登録番号を彫ったナチス。イスラエル軍は死者にそれと同じことを行っていて、一九六七年以来、「数字の墓地」と呼ばれる秘密墓地を非公開の軍事地帯に設け、墓標に名前でなく番号のみを記し、三百超にのぼるといわれるパレスチナ人レジスタンスの遺体を遺族に返還せず埋めている。石原吉郎の言葉が記憶からよみがえる。「ジェノサイドのおそろしさは、一時に大量の人間が殺戮されることにあるのではない。そのなかに、ひとりひとりの死がないということが、わたしにはおそろしい(略)死においてただ数であるとき、それは絶望そのものである。人は死において、ひとりひとりその名を呼ばれなければならないものなのだ」(「確認されない死のなかで」)。生においてもそうだ …… (原口)」(『現代詩手帖』2024年5月号38ページ)
なお、『現代詩手帖』2024年5月号には、パレスチナに関しては、「来歴も世代も異なるが、パレスチナという経験を共有する12名の詩人の声」(Note、168ページ)と岡真理さんのインタビューと原口昇平さん・永方佑樹さんの論考と「Note」(編集後記のようなものか)が載っている【注】。
パレスチナの詩に関する問題が灘中入試で出題されたことは、『朝日新聞』と『毎日新聞』が紹介している。『朝日新聞』は「灘中入試にパレスチナの詩 「ニュースに関心を」」(2026年1月26日・月曜日、朝刊3面、松浦祥子・甲斐江里子記者)で、『毎日新聞』は「パレスチナの詩 灘中入試で出題 あたし かずじゃない おなまえがあるの 作者からメッセージ 「ガザに正義と平和を」」(2026年2月16日・月曜日、朝刊19面、矢追健介記者)だ。
後者の1部分を紹介したい。「学校に行ったり、友達と遊んだり、家族と過ごしたりして楽しみたいのは、パレスチナの子も日本の子も変わりがない。ゼイナさんは「私たちは皆、人間であるという共通点でつながっており、互いへの思いやりを持たなければなりません」と考えている。「どうか、ガザ地区の子たちのことを心に刻み、正義ある平和がもたらされるよう、日本を含む世界中の人々が取り組んでほしい。パレスチナ人が故郷の地で繫栄できるように、パレスチナ人の人権が確実に守られるようにすることは、道義心と思いやりを備えた人間としての、私たちの責任なのです」……今回の出題は、交流サイト(SNS)で大きく話題となった。「これはほんとうに素晴らしい入試問題だよな。…… 灘の先生、グッジョブ」。作家の高橋源一郎さんが投稿するなど、感心する声が多く見られた。一方で、「政治的偏向を感じる」などと批判する声も一部あった。ゼイナさんの詩を訳した原口さんは、設問を読んだ印象をこう話す。「『イスラエル・パレスチナ紛争』というように、ほぼ対等な2者間の衝突と捉える人は、あの詩を取り上げることを一方的だと考えてしまいがち。しかし、実際には対等な衝突では、断じてないんです」「2年以上にわたり虐殺され続けている人々の声について、受験する児童に考えさせる真剣な問いです」灘中の久下正史教頭は、問題の意図を説明してくれた。「政治信条を問う問題ではないし、話題目的で作問しているわけでもない。本校の入試科目には社会がなく、世界で起きている出来事に関心を持ってほしいので、例年国語で社会に関わる文章を出題している。受験生は広い視野を持ち、いろんな立場にある人がいることを知ってほしい」。
なお、『朝日新聞』の方には、「入試問題」が小さな字でだが載っている。
―― 私の立場は「ハマスも支持しないが、イスラエルはもっと支持しない」というものだが、こう思う。日本で街を歩くと「パパ―」「ママ―」という子供の声が聞こえてくる。一方で、パレスチナでは、子どもの体に名前を書く親もいるという。子どもの体に名前を書くときの親の気持ちはどんなだろうか。なぜだろう。考えると、涙が出てくる。ほとんどが民間人だと思われる7万人を超える人びとを殺しておいて謝罪すらしない国の指導者とはなんなのか。何の責任もとろうとしないのはどうなのか。人間としてどうなのか。私が国の指導者なら、軍のトップなら、1人でも民間人を傷付けたら謝罪し責任をとる。このような国ぐにを許しているということは、映画「関心領域」の主人公たちと同じことをするということにほかならない。そのようなことは、私は断固拒否したい。そして、あなたにも拒否してほしい。同じ人間として。強くそう思う。
【注】パレスチナの詩とは、どういうことなのか。正確にいうと、どういうことなのか。「パレスチナ人の詩」ということか。「パレスチナ系の人、パレスチナの血をひく人の詩」ということか。「ひろく、パレスチナ問題に関わる人の詩」も含むということなのか。出版社に問い合わせたら、「パレスチナの血をひくとは、どういうことか」「ならば日本人とは何か」「各詩に詩人の経歴が載っているので、それをみてほしいということだ」と言われた。私は、あまりいい感じはしなかった。
【おことわり】「」の中の「」は、『』にするものだと思っていたが、「」の中の『』はどうすればいいか分からなかったので、「」の中の「」も「」にした。
(2026年3月7日)
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