みつばちのはなし ③
たじま よしお
長野県上田市 保育園児の頭上から
空から降り注ぐネオニコチノイド、知らずに食卓に潜入しているネオニコチノイド、この農薬がもたらしている禍は、ミツバチだけに止まらない。トンボやスズメ。そして私たち人間も、害虫を殺そうとして開発された強力殺虫剤に、じわりじわりと侵され始めている。2008年6月の末のある日のことだった。上田市で保育園を経営する田口操さんは、園の子供たちの様子が明らかにいつもと違っていることに気づいた。普段はきちんと行動できる子供が、急に落ちつかなくなり大声を出し同じところを走り回った。10人いた園児のほとんどが腹痛や頭痛を訴え大混乱となった。しかも園長の田口さんもこの日はいつになく頭がぐるぐる回るような不快感を覚えた。近隣で、ヘリコプターによる農薬の空中散布がおこなわれた直後のことだった。
この年、上田市では松枯れ対策のために空中散布の農薬として、例年使用されてきた有機リン剤に代わり、新しいタイプのネオニコチノイド農薬、アセタミプリドを含む「マツグリーン液剤2」が、上室地区や武石小山地区で散布(無人ヘリコプター)されていた。また、近隣の東前山地区や青木村の東郷地区では、有機リン剤「スミパインMC」が(有人ヘリコプター)散布されていた。
農薬中毒で入院した娘 ─茨城県龍ケ崎市
空から降り注ぐ農薬で苦しんでいる人は全国各地にいる。龍ケ崎の仲村さんは、毎年7月の農薬の空中散布の時期になると、自宅から避難することにしている。この17年間、「農薬散布をやめてほしい」と何回も空中散布防除協会を訪れては訴え、たった一人で戦ってきた。署名を集めて市に請願したが事態はまったく改善しなかった。
2008年夏、空中散布のヘリコプターの音が響いた直後のことだった。30代の娘の体調が急に悪化し、フラフラになって家の中で倒れ込んだ。娘は激しい手足の痺れと、頭をボルトで締め付けられるような痛みを訴え、救急車で病院に運ばれ集中治療室に入れられた。徐脈、頻脈、命が危険な状態が何日も続いた。この時、担当の医師は、農薬防除協会へ電話して散布された農薬名を問い合わせ「農薬中毒」と診断した(仲村智代「17年間、水田空中散布に苦しめられて」反農薬東京グループ「てんとう虫情報」2008)。
長年、この地域では有機リン剤のダイアジノンなどが撒かれていたが、2006年からはネオネコチノイド系のスタークル剤(ジノテフラン)と、いもち病などを防ぐためのアミスターエイト乳剤(ストロピルリン系殺菌剤)が混用で撒かれていたのだ。ネオネコチノイドが新たな薬剤として加わる前は、これほどひどい被害を受けたことはなかった。その後仲村さんは空中散布防除協会に娘の診断書を持参し、再び散布中止を訴えた。こともあろうに担当者は「農薬は飲んでも死なない、あと2年は散布を続ける」といった。
農薬中毒の患者が急増 ──群馬県前橋市
2004年の春から夏にかけて、群馬県前橋市の青山内科小児科医院には、連日農薬中毒と見られる患者が押しかけ待合室は患者で溢れかえっていた。例年風薫る5月には、家庭のガーデニングだけでなく、農作物への殺虫剤や殺菌剤、除草剤散布が急増する時期だ。健康被害を受ける住民にとっても、こうした患者が増える医者にとっても嫌な時期である。しかし、この時はいつもと明らかに違っていた。従来の有機リン系殺虫剤空中散布の後によく見られる、頭痛、吐き気、めまいのほかに、胸の痛み、胸の苦しさ、動悸を「訴える、心電図に異常が見られる患者が増えていたのだ。その中には重度の農薬中毒とみられる患者も大勢いた。一体何が起きたのだろうか。
青山医師もこの年ばかりは戸惑った。これまで有機リンの解毒剤として使用してきた薬剤に対しまったく異なった反応をする患者が現れ、何かとんでもない事態が起きていることを感じたからだ。みえないところで予想もしなかった方式でのネオニコチノイドの散布が始まっていたのだ。
反農薬東京グループの情報によれば、2003年から群馬県ではスーパースパウダーという大規模扇風機によるネオニコチノイド系農薬(マツグリーン液剤2…成分名・アセタミプリド)の松林への散布が始まっていた。長年散布されてきた有機リン剤に代わる新しい薬剤の散布実験である。それは県内十数箇所で実施されており、翌2004、2005年も同様に、この薬剤を、住宅近くの公園などでも大量散布を始めていた。青山病院のこの時期の患者急増と、従来見られなかった症状とはこの散布実験の時期に符合する。
このネオニコチノイドの散布実験が、周辺住民にどれほど深刻な健康被害をもたらしたのか、ほとんど誰にも知られることはなかった。
ここまでが本書「ネオニコチノイドが日本を壊す・水野玲子著/高文研」の「第一章ミツバチの被害は人間まで」の抜粋の紹介ですが、暗い話の連続で気が滅入るばかりです。しかし、「第六章 動き始めた市民運動」には次のように記されています。
全体は六章で構成されています。各市区町村の図書館に要請して本書を備えてもらって一人でも多くの人々に読んでもらいたいと思うのですが。 (つづく)
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社


