11.21アジア連帯講座:「なぜ中国は環境破壊を止められないのか」を読む
アジア連帯講座/公開講座
講師は、『なぜ中国は環境破壊を止められないのか』(リチャード・スミス著/柘植書房新社)を翻訳した寺本 勉さん(ATTAC関西グループ)。
講座の冒頭、寺本さんは、リチャード・スミス(カリフォルニア大学)が「中国の環境危機がなぜ深刻に進行しているのか」、「中国共産党が世界で最もひどい警察国家を統治していることを考えると、その指導者たちはどうして、二酸化炭素の排出を含む国有企業からの汚染でさえ、抑え込むことを部下である役人たちに強制できないのか」という問いを紹介した。そのうえで彼は、「次なる中国革命」を射程にしながら「資本主義か、それともエコ社会主義か?」について迫っていこうとした。以下、寺本さんの提起(要旨)である。(Y)
(1)グリーン権威主義を解き明かす
エコ社会主義社会がいつ実現するかわからない、民主主義社会でも資本家の抵抗などでなかなか地球温暖化対策が進まないのであれば、エコロジーに理解がある権威主義的独裁政府の方がより有効にCО2排出削減や環境対策に取り組めるのではないかという議論がある。
しかしグリーン権威主義への疑問がいくつかある。
①中国のGDP成長率が(略)鈍化したちょうどそのときに、『グリーン権威主義』者である習近平のもとで(略)中国の二酸化炭素排出量は絶え間なく増加してきたのである。(本書・8ページ)
②グリーン権威主義者である習近平の政権は、どうして飲料水・農地・食材への汚染が何十年も続くのを許容したのだろうか?
③党支配国家はどうして石炭をやめてCO2排出を抑え込めないのか?・・・このリストはさらに続く(本書8ページ)
④中国共産党は、中国のことを指導部が「人民に奉仕する」ことに身を捧げる社会主義国家であると言っている。そして習近平は、中国を「生態文明」へと転換する意図を繰り返し述べてきた。だから、中国指導部が自国の民衆と世界を絶滅させる政策を追求しているのはどうしてなのか?(本書・54ページ)
そもそも「中国の急成長は労働者の犠牲の上に」ある。
具体的には、①鄧小平の「改革開放」路線のもとで、中国は急速な経済成長を遂げた。その原動力は「中国プライス」と言われる低価格での商品生産にあった。その背景に、農民工をはじめとした労働者の低賃金・長時間労働・過酷な労働環境と環境に一切配慮しない大量生産。
②「農民工の奴隷労働による急成長」は、「改革開放路線の中で設けられた経済特区において、低賃金、長時間労働、過酷な労働環境で働く膨大な数の農民工の力によって、中国は世界の工場となり、多くの商品を世界中に輸出し、資本主義的発展を遂げた」。
つまり、使い捨て労働者が使い捨て世界のために使い捨て製品を作るということだ。
③「チャイナ・プライス」による価格革命によって、耐久消費財分野が消滅し、安価で使い捨ての代用品で置き換わった。そのため、仕立て屋や仕立て直し屋、さまざまな修理屋が姿を消した」。
結果として、資源の浪費、膨大な廃棄物によって環境コストが膨大になった。
(2)労働者の闘いの前進と習近平による弾圧
中国労働者は、1990年代後半から2000年代前半にかけて、非合法ストライキや抗議行動を活発に展開。2010年以降、賃上げ、労働条件改善、権利侵害の減少、残業上限の制限などの成果をかちとった。
しかし、習近平政府は、労働者組織化の動きを徹底的に弾圧し、賃金未払いなどに対する抗議行動の多発に対しても、すぐさま警察を動員して、鎮圧を図っている。
2012年、守旧派は共産党を資本主義から救い、かつての信条を復活させるために習近平を指名した。
(3)CО2排出と止まらない環境破壊
中国のCO2排出量が前年比で減少したのは、新型コロナ禍にあった2022年が最後だった。
「石炭消費の急増とCO2排出」は、「2023年、中国の石炭消費の増加は4・4%、GDP成長率は5・2%で、CO2排出量は5・2%の増加だった。石炭にさらに依存し、数百カ所もの新たな石炭火力発電所を建設」。(本書・8ページ)
「再生可能エネルギーは世界一だが中国の風力・太陽光の発電能力は全体の36%を占めるが、実際の発電量では12%しかない。石炭による発電量が60%だ」。
(4)汚染防止・廃棄物処理のコストなし
「中国の急成長は、環境コストを考慮しないことによって実現された『チャイナ・プウライス』の賜物だ」。
深刻な大気・水・土壌・食品の汚染」は、「エアポカリプス」に象徴される大気汚染〜年間150万人の命を奪ってきた。表面水・地下水の水質は依然として悪化している。
結果として「違法投棄や汚染水排出による土壌の汚染により、中国耕地の多くが耕作不適地になり、止まらない有毒食品製造と汚染農産物が増えた」。
(5)無駄で不要な建築物の過剰建設
①全土に広がる「鬼城」。例えば、「内モンゴル自治区オルドス市康巴什新区。誰もいない公共図書館」
②住民のいない高層アパート
「中国都市部のアパートは5軒に1軒が空室となっていて、それはおよそ6500万軒もあり、アメリカ人口の半分に家を提供できるほどの数である。これらの大部分は投機のために建てられた」。(本書・110ページ)
③「おから工事」による建造物の崩壊。
例えば、「2018年3月27日、寧波市の金池大橋が60メートルにわたって、貨物船の上に落下した。4人の乗組員が行方不明となった」。(本書113ページ)
④「過剰建設の象徴・三峡ダム」
ダムを作っても中国の石炭火力発電所の需要は減らなかった。それどころか、これまでの経験によれば、ダムは石炭消費を増加させている。というのは、中国のダムの大半が太陽光や風力と同様に断続的にしか稼働しないため、少雨期には石炭のバックアップが必要だからである。
多くの巨大ダムが断層の多い地震多発地域に作られ、ダムの貯水によってさらに地震を誘発している可能性がある。既にダムの決壊によって多くの人命が失われてきたが、ほとんど報道されない。官僚集団の利益と見栄のために、巨大ダムプロジェクトが進められている」。(本書・181〜185ページ)
さらに「ゴミ溜めと化した三峡ダム」となっている。「ゴミがダムの発電タービンに詰まってしまわないように、おびただしい数の平底運搬船がゴミを引き上げなければならない」。(本書・134ページ)
(6)中国独特の資本主義システム
①「鄧小平以来の中国の生産様式を資本主義と官僚的集産主義が融合したものと主張する。つまり、支配官僚が、資本主義の利益や市場原則とは異なる政治的基準にしたがって、国家と経済を集団的に管理するという考え方。1940年代にシャハトマンらによって提唱された」。
②「資本主義経済と中国経済の原動力はどこが違っているのか」
「資本主義経済では、最大化されるべき唯一のもの、すなわち利益が原動力となっている。それは予め組み込まれたもの。
中国独自の生産様式では、最大化されるべきもの、つまり党官僚層の安全、権力、富の維持が原動力となっている。すなわち、党幹部の意識的な決定が原動力」。
③そもそも「国家主導の経済発展の原動力」は、経済成長と自給自足的工業化の最大化。雇用創出の最大化。消費と消費主義の最大化。
加えて、官僚の汚職それ自体が成長、過剰消費、過剰建設、そして不可避的に汚染の原動力になった」。
そうであるがゆえに「中国政府は成長を放棄できない。中国政府が望んでいるのは、たとえ化石燃料を燃やし尽くすことで中国や世界が火に包まれることになったとしても、成長と発電を最大化することなのである。1989年以降、中国共産党と中国社会との間で、暗黙の社会契約があり、それを放棄することができない」。
「共産党と社会は、1989年の天安門広場での抗議行動から今日まで、中国共産党と中国社会との間で、『経済成長を維持し仕事や消費財を提供するから、抗議のプラカードを持って天安門に戻ることはしない』という暗黙の社会契約があった。それはうまく機能しなくなっている」。(329ページ)
④地方官僚の「面従腹背」について
「習近平は政治的には絶対的な権力を持っているように見えるが、実は地方官僚との間で権力の分配がある。官僚には、それぞれのレベルで固有の既得権や利害があり、国有企業などとの癒着があり、中央の『指令』がそのまま地方にまで貫徹されるとは限らない」。
「地方官僚にとって、無駄と分かっていても、過剰生産やインフラ・「箱物」の過剰建設によって、その地方のGDPを増加させることで昇進の道が開ける。だから官僚が昇進したり異動したりするたびに、そうした過剰建設の残骸が残ることになる」。
同時に終わらない「反汚職戦争」が続いている。つまり、習近平自身やその一族が、国の資金を横領したり、国の事業から資金を吸い上げたり、自分たちの息のかかった企業に国の資金を流し込んだりして、蓄財に励んでいる以上、「反汚職闘争」は大きな掛け声と見せしめ的摘発に終わらざるを得ない。
(7)地球と人類を絶滅から救うために
具体的に①脱成長が必要 ②制御不能な成長にはブレーキが必要 ③次世代の人間、他の動植物のために、十分な資源を残しながら、世界のすべての諸国民に尊厳ある生活を提供することのできる、世界全体で持続可能かつ受容可能な平均値くらいにまで生産を「縮小・収束」させる必要がある(本書22ページ)
④「不要で有害な産業の停止」のために「化石燃料をベースとする何千もの持続不可能な産業を操業停止、段階的閉鎖、縮小しなければならない。それは痛みを伴い、何億人もの労働者を失業させるため、新たな低炭素・脱炭素の仕事を作り出さなければならない。(本書・36ページ)
(8)エコ社会主義への転換が唯一の道
次に向けた方向性はこうだ。
「中国のシステムも、アメリカに代表されるシステムも、持続不可能で自殺的。
*ほとんどの生産手段の公的所有、民主的に計画された必要のための生産、経済・社会の民主的な運営に基礎を置くエコ社会主義世界経済で置き換える」。(本書・56ページ)
さらに「次なる中国革命」を考察する材料として以下明記する。
①2018年、工場争議への毛沢東派学生の支援と習近平による弾圧。2019年、香港の民主化運動とその後の弾圧。2022年、四通橋での決起と白紙運動。現在、賃金未払い・土地接収などに対する労働者・農民の抗議行動が取り組まれた。
②中国における民主化闘争は長い歴史を持っている。(略)現代中国における民衆闘争の長い歴史は民主化という共通の目的を掲げてきた。その中でも最も急進的なものは、政治だけでなく経済の民主化も構想してきた。そこに中国の最良の希望がある。(本書・352ページ)
③中国の非常に創造的で、才能があり、勤勉だが長い間抑圧されてきた市民のイニシアチブだけが彼らを押さえつけてきた警察国家の束縛から解き放たれ、「急ブレーキをかける」ために奮闘する世界中の人々に加わって、地球を救うための緊急計画を創り出し、地球規模のエコロジー文明を創造する道を切り開くことができる。(本書・353ページ)


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