投稿 映画『ニーキャップ』
沢中仙
まず冒頭で記事の訂正を指摘します。2025年7月28日号(第2872)の英国発『パレスチナ連帯、偽善に死を ガザ連帯は反ユダヤ主義ではない』(デイブ・ケラウェイ)記事中のラップグループ「クニーキャップ」とあるのは「ニーキャップ」の誤りです。それを小生が指摘したのは、かけはし読者会の席でした。その時はこれから紹介する映画も未見でした。ではなぜ小生がそれを知っていたのか? 特別北アイルランド問題に関心があったわけではなく、ラップに詳しいわけでもない。その先日ラジオで映画評論家の町山智宏が上映中の映画『ニーキャップ』を紹介していたのです。その話の中でニーキャップとは膝頭を意味する英語であり、北アイルランドの武装組織が敵対勢力の戦闘員を捕らえた際に、銃で膝を撃ち抜き戦闘不能にするところからきていると言っていて印象に残っていました。ちなみに記事中で「イスラエル国防軍(IDF)に死を」と叫んだのはボブ・ディランの誤りではありません。ボブ・ヴィランというパンク・ラップ・デュオがあるのです(念のため)。
読書会とかけはし編集部から誤植訂正の投稿を要請された小生ですが、折角なので映画を観て紹介記事を書いてみようと思い立ちました。映画はニーキャップ本人たちを主役に起用し、真実とフィクションを絡めて、現代の北アイルランドのベルファストを映し出しています。
あらすじを紹介します。ドラッグで逮捕されたリーアム(モ・カラ)は、取り調べで英語の使用を拒否、アイルランド語しか話さないため、通訳としてJJ(DJプロヴィ)が呼ばれます。JJはアイルランド語教師をしており、恋人はアイルランド語法制化運動の闘士です。JJはニーシャが所持していた手帳を読んだところ、アイルランド語で書かれた詩の才能に驚き、自分がDJをやるので歌わないかとリーアムを誘います。リーアムの幼なじみの親友ニーシャ(モウグリ・バップ)もまきこみ、ラップグループ「ニーキャップ」が結成されます。
ニーシャの詩の才能はどこから来ているか。ニーシャの父はIRA(暫定派)(アイルランド共和国軍・アイルランドの統一を目指すシン・フェイン党の武装組織のうち、議会政治参加に反対するグループ)のメンバーで現在消息不明なのですが、幼少の頃2人ともどもアイルランド語をたたき込まれました。父曰く「言葉は自由のための弾丸だ」「TVで西部劇を見る時はインディアンの立場で見ろ」。しかし父の世代の爆弾闘争は様々な歪みを生みました。リーアムの母は父が行方不明になって以降、引きこもりになってしまいます。
グループの人気が出るにつれて、パフォーマンスも過激になっていきました。JJは職場である学校には秘密で、目出し帽を被ってプレイしていたのですが、ステージで尻を出し、そこに「Brits out!」(英国は出ていけ!)と書いてあったのがネットで拡散、とうとう学校に正体が露呈し馘首になってしまいます。
この映画ではもっぱら北アイルランド・ベルファストが舞台であり、アイルランド共和国(以下共和国)は写されていません。あえて写さなかったように見えます。なぜでしょうか。共和国はアメリカリスクはあるものの、堅調な経済成長が見込まれており(注1)、北アイルランドとの格差が急速に拡大しているといいます(注2)。
またカトリックの価値観が根深く残っていた共和国ですが、1995年に離婚を、2015年に同性婚を、2018年に妊娠中絶をそれぞれ認める憲法改正が行われるなど、社会的権利の獲得が進んでいます。この共和国の状況をあえて映画で取りあげないことで、分断された北アイルランドの閉塞した状況が際立ったのではないでしょうか。
実際のニーキャップの活動ですが、かけはしで紹介の通り、パレスチナ連帯を表明しています。でも政治一辺倒のポリティカルグループだと思うとそうではないようで、近藤真弥さんというライターが、実際にこの記事のフェスに参加したレビューをブログに書いていて、「聴く人を楽しませるサービス精神を忘れない」「楽しさや喜びを忘れずに抗う姿勢」が両グループに共通しているということでした(注3)。
小生同様この映画がアイルランドへの関心の扉となれば幸いです。そしてどんな言葉が我々の「自由のための弾丸」となりうるのか、一緒に考えたいです。
参考資料
(注1)EUのHP
"Economic forecast for Ireland"
(注2)ダブリン経済社会研究所HP "Comparative Analysis of Economies of Ireland and Northern Ireland"
(注3)近藤真弥note「ボブ・ヴィランとニーキャップのライヴは“歴史”そのものだった グラストンベリー・フェスティバル2025レポ」
(以上2025年9月3日閲覧)
参考文献 北野充『アイルランド現代史』中公新書、2022年

映画より
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