投稿 選挙が映し出す階級政治の欠如(下)
今こそ反資本主義の道提示を
西島志朗
働く者のための「新しい平和憲法」を
新たな対抗軸を提起することこそが、求められている。「日米同盟を前提にした憲法」なのか、「中立主義を打ち立てる憲法」なのかが問題なのである。「覇権国家」中国に対抗するために、もう一つの「覇権国家」アメリカと手を組むことは、日本の「安全保障」にとっても経済にとっても最悪の選択だ。米軍基地がある限り米中軍事衝突の戦場となるのは日本である。
「アメリカの核の傘」を不要とする道は、「永世中立国宣言」以外にない。日本は、その地政学的な位置と経済構造からして、大国間の政治的軍事的対抗の中で、「中立国家」としての立場を明確にする以外に、未来に向けて平和を守る方法はありえない。
「改憲反対」ではなく「働く者のための新しい平和憲法」をめざす。そこには、「非核中立の日本」(外国軍基地の撤去)と「近隣諸国との恒久的な平和外交」を明記した憲法9条に代わる新たな条文が必要だ。それは、9条の平和主義の精神を明確に具体化するものとなる。
さらに新しい憲法は、雇用と労働、社会福祉についての新たな最低基準を明示する。たとえば、雇用者に対する「生活賃金支払い義務」を明記すべきだ。労働者に生活賃金を支給しないビジネスは存在させない。さらに、「非正規雇用」を一切禁止し、関連法の中で「短時間正社員」を制度化しなければならない。
「改憲」をめぐる論議は、「トランプのアメリカと運命を共にするのか否か」で「国論を二分する議論」に転換されねばならない。「改憲か否か」は、「平和と生活防衛」をめぐる資本と労働の闘いに、階級政治に、拡大されねばならない。
自衛隊の法的地位を認めねばならないが、下級兵士の待遇改善とハラスメント撲滅を目指す兵士組合の組織化の権利、上官の不当な命令を拒否する「抗命権」の保障が、関連法に明記されねばならない。兵士も労働者であり、誰も住んでもいない「尖閣諸島」の防衛のために命を懸けるような理不尽な命令を拒否できねばならない。
言うまでもなく、軍隊そのものに反対するのではなく、軍隊の獲得のために闘うことが、社会主義者の原則的立場である。
「憲法前文」には、明治以降のアジア侵略と植民地化の真摯な反省・謝罪・賠償責任を明記し、「近隣諸国との恒久的な平和外交」を表明する条文は、領有権を争っている島々(釣魚台、竹島、北方四島)の「領有権放棄」から始まる。当然、琉球(沖縄)とアイヌの自治権・自決権の擁護、天皇制廃止も憲法に明記すべきである。
「永世中立国宣言」(安保条約の破棄)こそが、中国人民の民主化闘争との連帯を築く道であり、労働者階級の国際的連帯と自国政府打倒の闘いこそが戦争を阻止する唯一の力である。
「自立化」へ向かう軍事
トランプの「ドンロー主義外交」は、「西半球」にアメリカの「領土」と「衛星国」を拡大し、その地域から中国の政治的・経済的影響力を排除する政策であり、「同盟国」には「軍事予算対GDP比5%」を求めて「自立化」を促す。
世界の政治情勢を特徴づけているのは、歴史的な「覇権の移動」であり、アメリカの「孤立主義」である。高市政権が直面しているのは、「覇権の交代」という現実であり、「後ろ盾」を失うであろう「小さな島国日本」の現実である。

日本は「自立化」しなければならない。しかし、アメリカの軍事的プレゼンスを抜きに、中国と対抗することは不可能だ。「小さな島国」にとって「自由貿易」は生命線だが、アメリカは「保護主義」へさらに傾斜する。「中国の脅威」を煽ることは、国内統治基盤の強権化(改憲、スパイ防止法等)と軍備拡大に不可欠だが、経済の「デカップリング」は容易に進まない。
「トリプル・ジレンマ」の下で、高市政権の「危険な綱渡り」は続く。
本丸は「責任ある積極財政」
高市首相は、9日の記者会見で、「国論を二分するような政策転換に、国民の支持が得られた」と強調した。高市自身が記者会見で明確に述べたように、その本丸は、「責任ある積極財政」である。
「高市政権で進める政策転換の本丸は責任ある積極財政です。長い自民党の歴史の中で政権公約に書かれたのは初めてです。行き過ぎた緊縮思考、未来への投資不足から完全に脱却しなければなりません。日本経済の実力としての成長力を示す潜在成長率は、主要国と比較してずっと低いままでした。その要因を分析すると日本人の底力とも言える技術革新力や働き手の効率性は主要国と遜色ない高いレベルにあります。しかし国内投資が圧倒的に足りませんでした。政府が一歩前に出て様々なリスクを最小化する危機管理投資、先端技術を花開かせる成長投資により、官民協調によって投資を大胆に促していく必要があります。国が一歩前に出て大胆に国内投資を推進していく。これは世界的な流れであり、手をこまねいている余裕はありません」(朝日2月9日)。
この記者会見が、高市政権の「責任ある積極財政政策」を要約している。それは、AI・半導体関連産業を中心とする国内製造業の投資促進政策に他ならない。
「国内投資基盤」の確立
記者会見での高市の発言は、危機感に溢れている。「未来への投資不足」「潜在成長率はずっと低いまま」「国内投資が圧倒的に足りない」。
高市の危機感は、日本資本主義の構造的危機をそのまま反映している。問題は、「国内投資基盤の確立」であり、つまり、国内で投資して(資本の国籍を問わず)期待する利潤率を確保できるか、ということである。
資本主義は、その歴史と同じくらい古い問題に直面している。ひとつは、「利潤率の低下」であり、もう一つは「剰余価値の実現の困難性」である。
利潤率を引き上げる方法は3つしかない。
①補助金投入による不変資本の割合の引き下げ
②労働法制改革(雇用の一層の劣化を含む)とAIの実装(これはまだひとつの可能性に過ぎないが)による剰余価値率(搾取率)の引き上げ
③販売価格の引き上げ(価格転嫁)と法人減税。

AI・半導体や核融合の開発などは、巨額の資本を必要とする。固定不変資本の肥大化は利潤率を下押しする。莫大な「補助金」の贈与や投資減税なしに期待する利潤率を確保することは困難だ。「官民協調によって投資を大胆に促していく必要があります。国が一歩前に出て大胆に国内投資を推進していく」。
そのためにこそ「積極財政」が必要なのである。そして、最先端産業での競争力が確保されなければ、「世界の中心で咲き誇る」ことはできない。
軍需産業は、2023年度から防衛省の買い上げ価格を引き上げた(保証利益率を8%から15%へ)ことで、すでに利潤を拡大しつつある。さらに、武器輸出条件の緩和でマーケットを海外に拡大し、量産化による利益増を狙う。
ロシアのウクライナ侵略で、輸入原材料価格が高騰したことを好機として、資本は、国内販売価格を引き上げることに成功した。「官製春闘」がそれを援護射撃する。賃上げや減税で「可処分所得」が増えれば、その分「価格転嫁」は進む。現在の「価格転嫁インフレ」は、消費が目に見えて減退するまで継続し、販売会社の利益を膨らませる。
しかし、相変わらず消費は低迷している。GDPの60%を占める個人消費は、実質的には横這いで、一部で減退し始めた。もとより、住宅や家電、自動車などのような高度成長を支えた莫大な需要は期待できない。
インフレで、「売れても儲からない」国内市場の状況は、ある程度改善されたが、「作っても売れない」国内市場の狭隘化を反転させることは困難だ。人口減少と高齢化、そして雇用の劣化がもたらした構造的低賃金が「剰余価値実現」の足枷であり続ける。
政権基盤を飛躍的に安定させた高市政権は、「責任ある積極財政」で、AI向けデータセンターの建設や国産先端半導体開発等へ「官民協調によって投資を大胆に促していく」。
しかし、財源の目途はたっていない。「責任ある」の意味合いは不明瞭で、金融市場の不安定要因のひとつとなっている。莫大な補助金も、軍事予算の増額も、消費減税も、「給付金付き税額控除」も、国債の利払い費の増加も、財源をどうするのか明示されていない。
赤字国債の増発以外に方法があるとすれば、消費税の ― 経団連が長年求め続けてきたように ― 増税しかないだろう。AI関連企業とデータセンターの建設会社と軍需産業だけが活気づき、原発を再稼働させなければ、電力が不足することになるだろう。
本当の争点は「生活苦」(物価高対策)
今回の選挙では、チームみらいを除くすべての政党が「消費税減税(または廃止)」を主張した。高市は消費税減税や「給付付き税額控除」の制度設計に向けて超党派の「国民会議」の開催を呼び掛けた。選挙での「争点ぼかし」は成功したが、最大の「争点」が「物価高対策」であり、賃上げであり、減税であること、つまり「生活苦」であることは変わらない。
「生活苦」からどうやって脱出するのか、「出口」はどこにあるのか。共産党は、「タックス・ザ・リッチ」というスローガンを強調したが、残念ながら、共産党やれいわを含む全議会政党が、不況からの脱出、「新たな経済成長」を政策の根底に据えている。
労働者が社会の富を作り出している、と共産党は正しくも主張する。では、なぜ2%程度の資本課税なのか? 生活苦で多くの国民が苦しんでいる時、株主配当や国債の利子で、企業と富裕層がますますリッチになることを放置して、なぜ、わずかな「改良」(修正)で対処しようとするのか。

れいわの山本代表は、 GDPが世界2位で、製造業の生産性が1位だった「ジャパン・アズ・No・1」の時代よ、もう一度、と訴えた。これでは、「日本列島を強く豊かに」 という高市の二番煎じであり、その「積極財政論」に飲み込まれてしまう。
国民は「ジャパン・アズ・No・1ナショナリズム」に酔いしれた時代に引き戻されたかのようだ。AI・半導体の開発、新たな技術革新を取り込めば、日本の潜在的な技術力をもってすれば、再び「世界の真ん中で咲き誇る」ことが可能なのではないか。高市の演説は心地よく響く。「生活苦」からの「出口」はここにあるという錯覚こそ、高市の真の勝因である。
ここにあるのは、「経済成長への期待」であり、「テクノロジー幻想」であり、辺境な「ナショナリズム」であり、アメリカに従属はしても中国には負けられないという、アジアの民衆への歪んだ差別意識である。労働力のために外国人は必要だが、決して「定住」させてはならない。日本の美しい文化と伝統を守れ。保守勢力が一貫して多数派(3分の2)であることの根拠はここにある。エビデンスはないが、チームみらいの躍進の要因も、大阪万博の意外な「成功」に示された国民の「テクノロジー幻想」にあると言えないだろうか。
左派は、明確な対抗軸を提起しなければならない
「経済成長への期待」は、すでに成人の4分の1が口座を開設したNISAの普及と株高で、物質的根拠を与えられている。子どもの教育費や老後の年金は「自己責任」で、資産運用で、個人の力で準備する。AIとロボットは、大量解雇と雇用の一層の劣化、労働強化をもたらすものであるのに、その新たなテクノロジーが「強く豊かな日本」を創るのだと信じられている。覇権国家中国に対抗して平和を守るためには、強力な軍事力が必要だ・・・。国民の多数がここに獲得された。
しかし同時に、高市政権は「物価高対策」で失敗することが許されない。国民の60%が「生活苦」を訴えているのであり、消費税減税と「給付付き税額控除制度」の導入が速やかに実現されなければ、たちまち支持率は低下し、求心力を失うだろう。
その「財源」はどうするのか。軍事予算増額と莫大な補助金に、もっと巨額の「財源」が必要なのに、どうやって減税や給付を行えるのか。おそらく、大企業と富裕層へのわずかばかりの増税とセットで、消費税増税に踏み切ることを余儀なくされるだろう。
軍事外交面の「トリプル・ジレンマ」とともに、高市政権が直面する深刻なジレンマが、ここにある。赤字国債に頼ろうとすれば、金融市場の不安定化は避けられない。これがもうひとつの5つ目のジレンマである。
左派が提起すべき対抗軸は2つある。
①「改憲対案」の提起。「中立主義宣言」によって、「自衛隊合憲化」の議論を超えて、争点を「軍事同盟による平和か、中立主義・非同盟による平和か」に組み替えること。
②「生活苦」からの「出口」は、資本主義の部分的な「修正」(おためごかしの減税や給付金やわずかばかりの富裕層・大企業増税など)にではなく、徹底的な資本の犠牲によってしか、こじ開けられないことを明確にすること。
高市政権の改憲案に対して労働者の「新憲法案」を提起し、戦争準備に反対する闘いを、「平和と生活防衛」のための反資本主義闘争に転化しなければならない。
◦非同盟・中立の日本を
◦最低賃金の「生活賃金」水準への引き上げ
◦生活必需品と家賃の物価統制実施
◦国債の償還と利払いの停止
◦金融市場(株式市場)の閉鎖
◦上場企業の利益の公有化
階級的左派は、リベラル左派の勢力との広範で真摯な議論を展開して、「生活苦」との闘いの道は、徹底的に反資本主義であり、資本の犠牲において「生活賃金」と物価統制を求めることであり、金融資本の跳梁跋扈を放置するのではなく、金融資本の権力に真っ向から挑戦する道であることを粘り強く訴えねばならない。
「経済成長への期待」と「テクノロジー幻想」、そして「自己責任」。この強固な支配的イデオロギーを突き崩す可能性は、NISAに投資する余裕などない「アンダークラス」の組織化にかかっている。2人以上世帯の3割強は、「金融資産ゼロ世帯」である。彼ら彼女らの多くがエッセンシャルワーカーであり、この社会を底辺で支えている。彼ら彼女らが働かなければ、社会は崩壊する。労働者には、「自己責任」ではなく、社会的解決策を求める権利がある。国の借金を返済する責任などあるわけがない。大企業の利益を、働くことでそれを生み出した者たちに「返還」することを求める正当な権利がある。
選挙の結果が示したのは、階級政治の欠如であり、階級的左派の不在である。左派は、今はどんなに「展望」が見えなくても、「アンダークラス」の労働者に、真の階級的諸要求を示すことができねばならない。日々の労働と生活で打ちひしがれ、投票にも行かなかったこの社会の本当の多数派が、労働組合の仲間と共に、街頭に登場する道を拓かねばならない。 (2月15日)
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