6・13止めようヘイト!市民集会
札幌チカホ「アイヌ人権侵害パネル展」をめぐって
【札幌】アイヌ民族への差別問題を考える「止めようヘイト!市民集会」が、北海道クリスチャンセンターで開かれた。今年3月、札幌市の公共空間である札幌駅前地下歩行空間(チカホ)において、「アイヌの史実を学ぼう!」パネル展が開催された。和人がアイヌ民族の生活の糧や文化を奪い、尊厳を傷つけてきたという歴史的事実をねじ曲げるパネル展が開かれたことに対して、ヘイトとデマに抗議する人々のカウンター活動が行われた。
昨年12月に出された「アイヌヘイトに対する3学協会共同会長声明」も「ヘイトは(中略)アイヌ民族の暮らしをふたたび脅かし、共生の理念を否定する言動に他なりません。」と、ヘイトスピーチによるアイヌを貶めようとする動きを「看過できない」と強く非難している。
パネル展を行った「アイヌの史実を学ぶ会」は、アイヌ施策推進法(2019年施行)に危機意識を抱いた極右活動家らによって立ち上げられた。この「勉強会」に名を連ねるのは、日本会議北海道本部常任理事の伊藤昌勝、事務局に日本保守党北海道支部事務局の西井千鶴子である。
2024年から始まる「学ぶ会」によるパネル展示を、公共空間を管理する市はなぜ止められないのか、どうすれば止めさせられ、和人とアイヌ民族それぞれの文化を尊重し合う社会が作れるのかを考え、学ぶ集会だった。主催は「止めようヘイト!市民集会実行委員会」、17の賛同団体によって開催され、会場の収容人数を超える約200人が参加した。
差別の正当化
基調講演は「差別はどのように正当化されるのかー札幌パネル展とその背後」と題され、マーク・ウィンチェスターさん(国立民族学博物館・助教)によって行われた。
「差別はしばしば平等の言葉で語られる」として、1788年のイギリスによるオーストラリアの植民地化の過程から話は始まった。先住民族アボリジナルによる植民者への抵抗を抑えるため植民地政府が作成した図は、殺人をすれば白人もアボリジナルも同様に罰せられ、どちらの側にも同じ基準が適用されることを示している。こうした言説は、そもそも置かれた立場の非対称性を無視し「どちらの側にも同じ基準を適用すべき」「一方だけを特別扱いしてはいけない」「逆差別ではないか」など形式的平等を押し付ける。こうした差別は時代が変わっても根っこは変わらず、こうした論理が同様に昔ながらのアイヌへの差別として、時代に合わせた形で焼き回しされていると述べた。そして展示された25枚のパネルの一部に触れ、その内容を批判した。
アイヌヘイトを
吹き込むパネル展
パネル№17 『一夫多妻だったコタンの首長』 マイノリティを性的に貶めることは人種差別の一形態。和人にも「側室」制度や「妾」制度があった。パネルの説明にある「酋長」という単語はアイヌ社会を見下す差別的な表現で、現在はほとんど使われていない。
「コタンでの身分は厳しいもので……」という表現は近代以前のアイヌ社会は「平等社会」ではなく、明治国家によって「近代化された」という文化主義的人種差別によるマジョリティによる教化の正当化と、人間性の否定である。
また、アイヌの人口減少についても、和人からの伝染病、強制労働などへの言及がなく「アイヌ文化の未開性」に原因を求めている。
パネル№18『土人教育/手を焼いた朝登校・入浴躾』 アイヌ児童が受けた教育は、質が低く期間も短いものだった。和人との別学制度によって「土人学校」「土人学級」の生徒だと蔑視された。アイヌを「文明化されていない」ものとして見下すものであり、衛生などへの過度な注目は差別である。
パネル№19『至れり尽くせりの北海道旧土人保護法』 同保護法は行政の不正と救助に関するアイヌの陳情も契機だったが「アイヌ代表の強い要望」は印象操作だ。むしろこれによって帝国議会は「保護」の名の下に強制的同化の法的根拠を築こうとしたのであり、アイヌ代表が同保護法の成立を要望したというのは事実無根である。1871年の戸籍法によって天皇のもとに「平等」な日本臣民になったはずのアイヌは、「旧土人」という呼称によって「かつて土人だった人々」と差別され続けることになった。
また、パネルでは同保護法の下付地の面積を「開拓農民の標準経営面積と同じ広さ」とあたかも「平等」な政策であるかのように見せているが、2009年の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告書」には「既に和人への土地の払い下げが進んだ後であり、アイヌの人々に下付された土地には農地に適さないものが少なくなかった。また、農業指導はほとんど行われず、アイヌの人々の貧窮を十分に改善するには至らなかった。」とある。「学ぶ会」は、明治政府によるこういった杜撰な管理を無視して恩恵的植民地主義の神話を作ろうとしている。
一連のパネルによって、①アイヌが先住民であることを否定し、②アイヌを和人が文明化したと主張し、③北海道開拓においてアイヌが優遇されていたかのように見せかけ、差別を正当化している。差別を普及し、喧伝し、扇動する内容で、まさに公共の場でのヘイトスピーチである。
公共空間使用
への抗議
2024年3月の日本会議による講演会には、C.R.A.C. NORTHがスタンディングで抗議した。また、北海道内外の大学教員、メディア関係者、アーティストらからなるグループ「意見箱プロジェクト」が講演会場に意見書を提出。これまでパネル展は今回を含め4回開催され、その都度、前記の団体などが開催施設に対して意見書、抗議を行なってきた。昨年9月にはパネル展を認めないよう札幌市に求めるオンライン署名運動を展開し、2万5千筆を超えた。一般社団法人「アイヌ力(ぢから)」も同様の署名運動を行い1万6千筆強を集めた。
こうした動きを受け、札幌市は差別的な内容を含むパネル展の問題について議論する第三者機関を設置することを決めた。市アイヌ施策推進委員会の専門部会という形で設置し、6月に初会合が行われた。会合は冒頭を除いて非公開で行われ、アイヌ民族関係者の参加は認められなかった。
会合に先立って5月に札幌市に提出された「札幌チカホにおける差別展示問題について、国際人権法に則った対応を要求する意見書」には「差別問題を検討する第三者機関について、アイヌ民族の『自由意志による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)』を保障するために、少なくとも委員の半数はアイヌに出自を持つ者とすること。また、委員会資料・議事録を原則公開し、透明性を確保すること。」とある。
前記を求める理由として、2007年に採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(国連宣言)を引用している。15条は先住民族との協議及び協力に基づき、偏見と闘い、差別を撤廃することを国に求めている。また19条は、先住民族に影響を及ぼしうる立法上又は行政上の措置を決定・実施する前に、関連する先住民のFPICを得るために、先住民族が自ら選んだ代表機関を通じて、国が誠実に協議及び協力する義務を確認している。人種差別撤廃条約の一般勧告23も「先住民族の構成員が公的生活に効果的に参加することについて平等の権利を有することを確保し、並びに、十分な説明を受けてなされる同意なしに、先住民族の権利及び利益に直接関係する決定を行わないことを確保する」ことを求めている。
日本では締結された条約は国内的効力を持ち、その効力順位は法律より上位である。締結された人権条約を実施する義務は、地方自治体にも及ぶ。にもかかわらず、アイヌ民族の自己決定権を認めず、学識経験者と言われる人々による非公開の専門部会になっており、そのことが植民地主義であり差別である。
北海道開拓と
植民地化
1669年のシャクシャインの乱に始まる軍事衝突、江戸時代以降の不平等な商取引など、北海道のアイヌ民族は数百年にわたって日本からの侵略・植民地化に苦しんできた。その歴史の中でアイヌは人種化、和人に対して従属化された集団とされてきた。
梁英聖はレイシズムをこう定義している。「人種差別を引き起こすチカラ」「人種差別という行為を可能にする権力関係」。さらにミッシェル・フーコーの議論を援用し「レイシズムとは、人種化して、殺す(死なせる)権力である。」と。
人種に関するユネスコによって起草された「人種に関する声明」(50年)と「人種の本質と人種の違いに関する声明」(51年)では、人類がホモ・サピエンスという単一の種であること、人種の生物学的な差異は存在しないと人種優越の理論を否定したうえで、人種は生物学的現象ではなくて「社会的神話」であると強調している。すなわち科学的レイシズムを明確に否定している。
日本の形質人類学者たちは、これまで「学問のため」「考古学の発展のため」といった言葉でアイヌ民族、琉球民族、かつての帝国植民地支配圏内で人骨探しを続け、単一民族という幻の日本民族のルーツ探しを続けてきた。しかし、彼らは決して日本国内の天皇陵とされる遺跡に鍬を入れようとしない。また、宮内庁所管の遺跡には近づくことすら許されていない。
今まさに皇族数の減少に直面し、皇室典範「改正」論議が喧しいが、あからさまな性差別と血統に固執する日本の差別意識の根源である天皇制の廃止の論議こそが必要である。
先住権を否定
する司法
7月2日、札幌高裁はアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」(十勝管内浦幌町)が求めた地元の川で「サケ漁をする権利」確認の行政訴訟を棄却した。これは一審と同様に国や道の主張をほぼ追認するもので、サケ漁をアイヌ民族による「文化享有権」としてだけ認めたものである。
「国連宣言」に明記されている先住民族が持つ先住権とは、自己決定権、自治権のことである。自己決定権とは「先住民族は、自己決定の権利を有する。この権利に基づき、先住民族は、自らの政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。」ことである。自治の権利とは「先住民族は(中略)自らの内部的および地方的問題に関連する事柄における自律あるいは自治に関する権利を有する。」である。
日本政府は「国連宣言」の採択に賛成しており、また「アイヌ施策推進法」ではアイヌ民族を先住民族と明記している。
にもかかわらず、アイヌ民族が求めている国有地などでの活動の権利、漁業権の復興など自律的な経済活動、奪われた遺骨の返還、アイヌ語など文化と教育の充実、若者への教育支援、農業・林業・漁業などへの財政的支援、高齢者への福祉向上、差別抑圧の歴史への謝罪などに対して、政府は真摯に答えようとせず、和人が許容するアイヌ文化をステレオタイプなイメージによる観光にのみ利用する政策である。
「推進法」は施行から5年後以降に改正を行うことになっており議論が始まっている。改正によって具体的にアイヌ民族の要求に応え、「国連宣言」に沿った「先住権」を認めることが必要である。
差別禁止法の
制定を
日本保守党の百田尚樹による「アイヌ民族を日本の先住民族と認める国会決議や法律は大きな過ちだ」という発言や杉田水脈などによる差別発言に、法的な措置をとることができなかった。
梁は反差別ブレーキを以下の四つにまとめている。①差別する自由を規制することこそ真の自由、②「人種」の否定、③差別煽動と極右の違法化、④国家の差別煽動への対抗。
日本は「差別撤廃条約」が義務付ける包括的差別禁止法をつくらず反レイシズム規範が欠如している。したがって「①社会に差別の基準が存在しないまま、②被害者が何を言うかに差別の真理の基準が、社会がみんなで判断の責任を負うべき分まで含めて押し付けられてしまう。」と梁は言う。こうしたことによって、被害者が極右や差別する加害者の攻撃のターゲットとになる。また「被害者の声を聞け」という日本型反差別が被害者を沈黙に追い込んでしまうと言う。
「差別撤廃条約」はレイシズムとは人類が撲滅すべき社会悪であると定義している。その定義を①人種化されたグループへの②不平等な③効果を持つ行為や制度をレイシズムである、と梁はまとめる。この定義を明確にした上で、被害者と支援者という関係だけではなく、社会正義の実現をめざす「マジョリティーの反差別闘争」として闘い、「推進法」に具体的に差別を禁止し処罰する法律を明記させることである。
石原は書籍のなかで「日本において先住民の問題について考えるということは、多数派が今日も享受する特権や資源に深く結びついた人種政治や人種資本について忍耐強く問い続けることを意味する。」と記述する。このことは反差別・反抑圧の闘いを侵略者であり今もって植民地支配者として存在している和人自身の問題として、アイヌ民族とともに闘い続けなければならないということを示唆している。 (白石和巳)
【参考文献】
・石原真衣/村上靖彦『アイヌがまなざすー痛みの声を聴くとき』岩波書店
・楊海英(Yang Haiying)『人類学と骨ー日本人ルーツ探しと学説史』岩波書店
・梁英聖(Ryang Yong-Song)『レイシズムとは何か』ちくま新書
・アイヌの史実を学ぶ会:https://ameblo.jp/ainuno-shijitu/
・「アイヌヘイトに対する3学協会共同会長声明」:https://anthropology.jp/assets/docs/Ainu_Hate_Speech_JP_251215.pdf
・「札幌チカホにおける差別展示問題について、国際人権法に則った対応を要求する意見書」:https://drive.google.com/file/d/184H7oVosb1y1H-DckqCA0GJQQyetJK_0/view
・「「アイヌの史実を学ぶ会」によるアイヌヘイトパネル展を検証 #子どもにアイヌヘイトを吹き込むな1115」C.R.A.C. NORTH(対レイシスト行動集団NORTH):https://note.com/northloungeradio/n/n1ce06fbe43cd
・「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告書」:https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/ainusuishin/pdf/siryou1.pdf
・「先住民族の権利に関する国際連合宣言」:https://www.cais.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2012/03/indigenous_people_rights.pdf
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