第4インターナショナル第18回世界大会・ウクライナ決議対案(1)

 本号から、代議員連名で世界大会に提出され、少数否決されたウクライナ決議の対案を掲載していく。世界大会に向けた事前討論の中では、多数派による決議案に対して、スペイン支部とドイツ支部からほぼ全面的な修正案が出されていた。ただ、ドイツ支部内では多数派決議案を支持するメンバーも多く、僅差で修正案の提出が決まったとのことである。世界大会では、ドイツ支部の修正案は取り下げられ、スペイン支部提出の修正案に加筆修正されたものが対案として提案され、多数派決議とともに議論の俎上にのぼった。なお、このウクライナ決議対案は長文のため、3〜4回の連載になることをお断りしたい。


 この地域の労働者人民に対する有益な連帯志向を持ち、反帝国主義と階級独立の伝統を維持するためには、そして誤った解釈や性急な結論を避けるためには、戦争を引き起こした事実の厳密な唯物論的分析にもとづいて、地政学的・歴史的文脈の中でウクライナ戦争を理解する必要がある。この決議の目的は、こうした前提にもとづき、2022年以降わが潮流が持ってきた方向性に代わる別の方向性を発展させることにある。
 この決議が最初に書かれて以降、劇的な展開はわれわれの全般的な分析を確認するものだった。2月12日、トランプはプーチンに電話をかけ、和平交渉が開始されると述べた。そのあと、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官が、ウクライナを分割するプロセスを開始するために、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とサウジアラビアで会談した。ウクライナ政府とEUはこのプロセスから除外され、恥をかかされた。
 信じられないことだが、トランプは戦争を始めたとして、ゼレンスキーを非難したのである。彼はウクライナの原料の50%を要求したが、それと引き換えに安全保障を提供することさえしなかった。彼は開始するとされる公式の和平交渉にウクライナ政府を加えると約束するのを繰り返し拒否した。アメリカは、イスラエルやロシアとともに、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議に反対票を投じた。
 それがトランプによって思い描かれている新たな世界秩序の姿である。そこでは、第二次世界大戦後のいわゆる「国際的ルールにもとづく秩序」は壊されることになるだろう。トランプは二つの計算によって動いているように見える。つまり、第一に、アメリカの最も重要なライバルである中国に焦点を当てることに軸足を置く一部として、そして第二には、選挙民の期待に応える方法として。
 もし[和平協定が]結ばれれば、これは帝国主義間の和平となるだろう。それは、その戦争が侵略に対する正当なウクライナの闘いであるのと同時に、帝国主義間の代理戦争であったのと同じである。それは、ロシアに領土を大きく割譲し、アメリカにレアアース資源を大量に提供することにもとづくものになるだろう。
 アメリカ政府の新たな立場が戦争の終結につながる可能性が高いという事実は、この紛争の代理戦争的性格を強調しているにすぎない。アメリカの積極的な支援がなければ、ゼレンスキーやウクライナ政府の個人的な好みにかかわらず、彼らは戦い続けることはできないだろう。反対はあっても、彼らは屈辱的な和平に従わざるを得ない可能性が高い。
 この展開に反応して、われわれがトランプ政権にウクライナへの武器供与を継続するよう要求すべきだと考えるなら、それは理屈に合わない。それは、われわれを西側資本家階級のよりタカ派的な一派の列に並べることになるからである。
 その代わりに、アメリカとロシアによるウクライナの不当な分割を糾弾しつつ、労働者階級の方法によるウクライナ人民への支援に扇動を集中させる必要がある。われわれは、ウクライナの債務帳消しを求める声をさらに強化するべきである。われわれは、ロシアとアメリカがウクライナの天然資源を盗もうとする企てに積極的に反対すべきである。われわれは、ウクライナの労働組合活動家とわれわれとの関係を深化することを追求すべきである。われわれは、いまや加速化されようとしているヨーロッパの軍国主義化プロセスに反対する運動の構築を追求すべきである。
 主要帝国主義中心地で始まった2007年から翌年にかけての大不況以来ぐずぐずと長引いている停滞の長期的力学、パンデミックのさらなる影響、主要な価値生産中心地が南と東に移転したことの結果としての国際的な勢力関係の変化、ほとんど蓄積せずに、あるいはまったく蓄積せずに利益を回収するメカニズムとしての金融化力学の枯渇・・・は、世界レベルで二つの根本的な力学に道を開いた。つまり、一つは帝国主義間の緊張の激化であり、もう一つは、一般的に言えば、急進右派の強化、政治運営勢力の危機、社会民主主義から革命的左派までの左派の分裂と世界的な弱体化というベクトルの相互作用から生じる政治的不安定性の増大である。
 第一の力学に関連しては、現在、帝国主義間の緊張の四つの主要なホットスポット(パレスチナと中東、ウクライナと東ヨーロッパ、サヘルとサハラ以南アフリカ、台湾と東南アジア)、および完全にエスカレートしている二つの公然たる戦争(アメリカとヨーロッパの支援を受けたイスラエルによるパレスチナ・イエメン・レバノンに対する戦争とシリア・イランに対する攻撃、ロシアの侵攻以来の3年間のウクライナ戦争とロシア連邦に対するNATOの代理戦争)がある。多くの外交官・アナリスト・活動家は、現在のエスカレーションが二重の方向に進むリスクについて警告している。つまり、公然たる紛争が一つに収斂するリスクと、それがあらゆる緊張領域に火をつけ、核兵器使用の危険性が高い世界的紛争につながるリスクである。
 この決議で、われわれはウクライナ戦争の原因・性質・起こり得る結果について論じ、反帝国主義のとりくみ、反軍国主義路線、第4インターナショナルのウクライナ・ロシア労働者階級との国際主義的連帯を確認するために、空間的・時間的焦点を切り開いていくだろう。

 焦点を切り開く

 現在の世界の緊張は、西側諸国(主にアメリカ)が、商業・金融・政治・軍事的手段によって、世界における自国の力の衰退を阻止しようとする試みと関係がある。冷戦終結以来、ワシントンが継続している悲惨な戦争は、アフガニスタンからリビア、イラクに至る円弧と旧ユーゴスラビアでの戦争において、4百万人の死者と4千万人の避難民を作り出す結果を招いた。それは、共和党と民主党に共通する、1992年に策定されそれ以来ずっと実践されてきた単独「世界支配」というネオコンの考え方と関係がある。中国の台頭、ロシアの反動化、グローバルサウス(世界人口の過半数を占める)の疎外感の高まりは、長い間、世界の緊張の高まりを示してきた。
 アメリカのヨーロッパに対する優先事項は、よく知られ記録されているように、ドイツをロシアから引き離し、北京が主な原動力となっているユーラシアの地政学的コングロマリットに欧州連合が統合されるのを防ぐことだった(この概念は、2022年6月にマドリードで開催されたNATOサミットで採択された文書に明確に組み込まれていた)。中国はEUの最大の貿易相手国である。ロシアはEUの主要なエネルギーパートナーだった。アメリカは両方の関係を断ち切ろうとしている。ロシアについてはすでに達成されており、その断絶は長くても数十年続くだろう(北海のノルドストリームへの攻撃は、何が危機に瀕しているかをよく象徴している)。中国についてはより困難だが、進展しつつある(AUKUS、およびNATOと日本・韓国・台湾・フィリピン・オーストラリアなどとの協力の拡大)。その結果は、EUのアメリカへの従属関係の強化、ドイツの深刻な経済不況(ロシアとのエネルギー供給断絶と進行中である中国との関税戦争が直接に影響している)、極右の台頭、15年以上前にユーロ危機によって始まったEUの政治危機の深刻化、地中海ヨーロッパの政治的・社会的危機、英国のEU離脱、移民抑圧の犯罪的政策となるだろうし、現にそうなりつつある。

 紛争を特徴づける

 左翼には、ウクライナ戦争の原因と性格を単純化する二重の傾向がある。ある者は、それを独裁政権による「挑発なき」侵略に対する民族解放闘争に矮小化する。この見解は、プーチンを悪魔化し、彼のことをレーガンがソ連を「悪の帝国」と呼んだものを再建し、東ヨーロッパ全体を征服しようとする異常者として描写することに固執する、それは多くのNATOおよびEU当局者の当初の言説とそれほど変わらない。また、早々と帝国主義間の衝突について語り(BRICS諸国の多くや、ソ連を懐かしむスターリニスト勢力や毛沢東派スターリニスト勢力の言説)、ロシアの侵略を無視し、民族自決権を考慮せずに、プーチンの決定を正当化し、許容しようとする者もいる。
 進行中の紛争を正しく特徴づけるためには、二つの力学(民族的抑圧と帝国主義間の衝突)の間に弁証法があることを理解する必要がある。しかし、プーチンの侵攻当初のウクライナ人民の大半の抵抗の意志が、ロシアに対抗してキーウを支援する勢力の目的・方法・政治的軍事的方向性に次第に従属するようになったという点で、戦争の力学は間違いなくその量に変化をもたらした。同時に、長い消耗戦の枠組みの中での軍事情勢の停滞は、それ以来、ますます多くの人民の間で不満や疎外感を高め、ますます反戦的な態度を強めてきた(召集兵の大量逃亡や、幻想である勝利の約束を信じないウクライナ軍兵士の大量脱走など)。
 あらゆる帝国主義の侵略と同様に、非難されるべき犯罪的侵略に対してロシア連邦が単独で責任を負っていることは疑いの余地がないが、「挑発がなかった」と主張するのは明らかに誤りである。(つづく)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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