突然の解散総選挙をめぐる政治情勢

自民・維新連立政権にノーを突きつける選挙に
大森敏三

 この原稿を執筆している時点(1月18日)では、まだ解散総選挙について高市首相から正式な表明はおこなわれてはいない。しかし、すでに解散総選挙は既定の事実として、政治情勢が動いている。この小論では、解散総選挙が意味するもの、および立憲・公明による「中道改革連合」結成の背景を中心に、現在の政治情勢について考えてみたい。

高市首相による突然の解散総選挙の意味するもの

 昨年10月、自民・維新の連立によって高市政権が発足した。この政権について、『週刊かけはし』新年号「高市政権成立後2ヶ月のバランスシート 自民・維新連立政権の右派的性格と左派の課題」において、以下のように指摘した。

 日本の政治、とりわけ議会政治の場において、左派が決定的に弱体であり、社会運動や大衆運動も大きな影響力を持たない中、左派が保守中道勢力にとって脅威とは感じられないという状況下で、保守中道勢力内の政治再編の結果として成立したものである。自民・公明というかつての与党連合が衆院に続いて参院でも過半数割れを起こし、自民の右に位置する極右政党が躍進し、自民支持保守層の一部が極右支持へと転じたことへの自民党内での危機感、中道右派勢力内での国民民主と維新との力関係の変化、立憲民主が政治的イニシアチブを取れない状況などが組み合わさったことで、高市早苗が自民党総裁に選ばれ、首相に指名される流れが作られたのである。しかし、(中略)高市政権の基盤は盤石なものではなく、その政策の選択肢もそれほどフリーハンドではない。

 そして、高市政権の性格と政治再編について「かつての自公連立政権の時のような安定政権から程遠い状況にある。いずれにしても、高市政権はあくまで過渡的な政権であり、その意味では保守中道勢力内での政治再編は、一部では極右政党も巻き込みながら、一定期間続くと考えなければならない」と分析した。現在の政治状況は、幸か不幸か、この予測通りに進行してしまっている。
 日本ブルジョアジー主流派にとって、政治的安定の確保とその中での資本優遇の経済政策の遂行が何よりも求められている。その意味では、高市首相による「台湾有事」発言は彼らにとって決して歓迎されたものではなかった。1月5日、関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)が「(大阪・関西)万博中にあのコメントがあったら(と思うと)、私はぞっとした」「あれは全然だめだと言っている。もうちょっとうまいことやらないと」「(米中)両大国に挟まれた日本が一方的に走っていくと問題は必ず起こる」(1月5日、産経ニュース)と発言したのは、そうした彼らの苛立ちが垣間見えたものだった。
 高市政権にとって「政治の安定なくして力強い経済政策、外交・安全保障を推進できない」(1月5日の記者会見)ため、安定政権を目指すことは悲願だったが、そのためには二つの選択肢があった。その一つは、連立政権の枠組みを国民民主にまで広げ、自民・維新・国民民主連立政権とすることで国会内の多数派形成をするというもので、麻生副総裁や鈴木幹事長らが推進してきたと言われる。おそらくはブルジョワジーの多数派はこれを望んでいたのだと考えられる。もう一つは、高市首相に対する高い支持率をバックにして解散総選挙をおこなうことにより衆院での単独過半数を目指すというもので、まさに今回選択された道である。
 そして、高市首相が後者の道を選択したのは、高い支持率への自信もあるだろうが、国民民主が(支持組織である連合が連立入りに断固反対の姿勢であることも影響して)連立入りに優柔不断で決断できないことや、このまま通常国会に突入すれば、物価高、政権とカネ、統一教会問題、『台湾有事』発言と日中関係、政府高官の「核保有」発言、連立相手の維新議員の国保忌避疑惑など、野党からの追及に耐えられず、肝心要の高支持率に陰りがでかねないとの判断があったからだろう。しかし、公明の連立離脱、連立相手の維新との選挙区での競合、参政党の圧力など不安定な要素を抱えながらの総選挙であり、高市首相にとっても大きな賭けであることは間違いない。

立憲・公明による選挙連合=「中道改革連合」の結成

 その一方で、「保守中道勢力内での政治再編」として、立憲と公明による新党(実質的には新たな選挙連合)の結成が浮上してきた。立憲と公明の衆院議員が両党から離党して、新たに結成される「中道改革連合」に入党する形となる。総選挙では、公明が小選挙区から全面撤退し、小選挙区では立憲の候補者を支援する代わりに、各地域の比例区統一名簿の上位に掲載されるのだという。
 立憲の野田代表は、1月15日の両院議員総会で「昨年9月の総裁選の頃から、水面下で公明とは接触していた」と述べ、公明党の斉藤代表も記者団に対し「昨年10月に自公連立に区切りを付けた後、『中道改革の軸になる』との大きな方針を定め、政治勢力を結集する活動をおこなってきた」と述べたことからも、この選挙連合の結成は密かに準備されてきたことがわかる。
 その際、公明党は「中道改革」の5つの旗として、▽現役世代も安心できる新たな社会保障モデルの構築▽選択肢と可能性を広げる包摂社会の実現▽生活の豊かさに直結する1人当たりGDP(国内総生産)の倍増▽現実的な外交・防衛政策と憲法改正(!)▽政治改革の断行と選挙制度改革の実現を掲げていた(昨年12月1日、公明党サイト)。そして、今回の「中道改革連合」の結成にあたっても、公明は「新党でも主要政策の維持を求めており、斉藤氏は『新しい党の理念に賛同した人が集まってくる。賛同できない人はいないだろう』と述べた」(1/16、毎日新聞)とあるように、この5つの旗を踏み絵にしてくることが考えられる。立憲の原口一博衆院議員が「立憲民主党への降伏勧告です。ハイジャックです」「アイデンティティーの剥奪です」と怒るのももっともである。
 公明党は、現在の国際的な政治の枠組みについて、「今、世界で分断と対立が進み、極右や極左勢力が台頭している。日本でも政治の右傾化が見られる中で中道改革勢力を結集することが重要だ」(1月16日、公明新聞)という認識を持っており、それは部分的には正確な情勢認識だが、「中道改革勢力」とはあくまで中道右派として、リベラル派を右に引っ張ることを意図したものである。
 公明が新党結成に応じた背景には、支持組織である創価学会の弱体化があると言われている。選挙活動を積極的に担ってきた活動家の高齢化と学会員の意識変化もあって、自民との連立解消で小選挙区での当選は覚束なくなり、比例区での得票数も減少の一途をたどっている中、少なくとも国政選挙をこれまでのように担い続けることが困難になったのであろう。
 一方、立憲の側からこの政治再編を主導したのは野田代表ら党内保守派であり、彼らが昨年秋頃からしきりと安保法制について「制定から10年で、明らかに違憲だったと言えることは私の知る限りない」(野田代表)、「違憲部分はない。だから変えなくていい」(枝野元代表)と発言してきたことは、今となっては公明との連携の布石だったことがわかる。ある意味では、突然の解散総選挙で時期が早まったとはいえ、立憲の側からも中道右派結集を周到に準備していたのである。
 1月15日の立憲両院議員総会は、約1時間にわたる非公開の議員懇談会の後に開かれ、もはや議論する場ではなく新党結成の提案に了承の拍手をする場になっていた。中継を見ると、拍手していない議員もそれなりの数いたようだったが、表面的には前回一致で了承された形となった。
 その後、報じられた「中道改革連合」の綱領原案は、明らかに公明の5つの旗に即したものとなっている。そして、第4の柱として「現実的な外交・防衛政策と憲法改正論議の深化」が掲げられ、「憲法の平和主義に基づく専守防衛を基本に、日米同盟と平和外交を軸とした、国民の平和と安全を守る現実的な外交・防衛政策を進める」とされている。公明の掲げていた「憲法改正」が「憲法改正論議の深化」となり、「憲法の平和主義に基づく」と付け加えたことで、公明と立憲の折衷とも言える内容だが、「安保法制は合憲」とするなど明らかに立憲の従来のスタンスから大きく「右」へと傾いていることは間違いない。こうした事態にたいして、立憲支持者の中には「もう立憲は支持できない」という声が広がっている中、立憲内のリベラル勢力の対応が注目される。2017年の「希望の党」をめぐる政治再編の際には、小池百合子東京都知事による「リベラル派排除」宣言を契機にして、「希望の党」への合流を拒否して旧立憲民主党が結成された。では、今回はどうだろうか。新党は今回の総選挙用の選挙連合に過ぎないのだからという口実で、とりあえずは大勢に従うのだろうか。
 しかし、ここでもわれわれを含む左派に突きつけられている「問題は、そうした政治再編プロセスにおいて、左派が全く蚊帳の外に置かれていることである」ということなのである。

総選挙総選挙を自民・維新連立政権にノーを突きつける場にしよう

 他方で、議会内左派も総選挙に向けた体制作りを急いでいるが、いわゆる立憲野党と市民の統一候補の実現が、沖縄など一部を除いてほとんどの小選挙区で絶望的な状況にある中、現在の左派の周縁化・孤立化を突破できる戦略と方針を持ち合わせてはいないのが実情だろう。
 たとえば、共産党は中央委員会幹部会の声明で「いま主要な野党の多くが、高市政権に迎合し、『政治の表層』だけを見るならば、日本の政治は右翼的潮流に覆いつくされているようにも見えます。しかし、それは『社会の深部の流れ』─多くの国民の切実な要求、世界の動きと深い矛盾をもっています」と分析し、「国民要求にもとづく政策的訴えと一体に、『人間の自由』が豊かに花開く未来社会論・・・を攻勢的に語り広げ」ることで勝利をつかめると訴えている。しかし、そこでは「国民要求にもとづく政策的訴え」と「未来社会論」はあくまで並列的に対置され、それをつなげる過渡的要求という観点は持っていない。
 また、社民党は、福島党首が記者会見で「消費税減税をどうするか、物価に対してどうするか、医療や福祉はどうするという根本的なことを政治がやらなくてはいけないのに、全部放り出して解散することに、社民党は強く抗議する」と述べ、「社民党は受けて立つ。全国に複数の候補を擁立する」とした。だが、新垣衆院議員の離党で衆院の議席を失った中、きわめて厳しい状況に置かれているのは間違いない。
 そうした政治情勢において、われわれは自らの政治主張を体現できる自前の候補者を持ち得ていないが、あらゆる場面を通じて、高市政権の軍拡・戦争準備、生活破壊・資本の利益優先の政策を批判し、総選挙において自民・維新連立政権にノーを突きつけていくことを訴えていかなければならない。

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