転載「国旗の損壊等の処罰に関する法律」の成立に抗議する憲法研究者声明 (要旨)

 8月4日、全国の憲法研究者199人が国旗損壊処罰法制定に抗議と廃止を求める声明を発表した。同声明を支持する立場から要旨を転載する。廃止に向けた取り組みに賛同していくことを呼びかける。(編集委)

 2026年7月17日、「国旗の損壊等の処罰に関する法律」案が、参議院本会議で可決され、成立しました。私たち憲法研究者有志は、このいわゆる国旗損壊罪を規定する当該法律(以下、「本法」という)が、憲法上、極めて大きな問題を含み、違憲であると考えるものであり、その成立に強く抗議し、速やかな廃止を求めます。

1 表現行為に対する刑罰を用いた規制であること


 ……そもそも、国旗は、国家それ自体を象徴するだけでなく、しばしばその時々の政権・政策や当該国家の歴史と深く結びつくものです。それゆえ、世界各国では、時々の政権や政策に対する最も強い抗議の意思を示すために、国旗を燃やすなどの行為が行われてきたという歴史があります。しかも、日本では、「日の丸」は日本の戦前・戦中の軍国主義や植民地支配を象徴するものと考える人々もおり、必ずしも肯定的にばかり評価されてきたものではありません。
 したがって、日本においても、国旗を焼き払ったり、切り刻んだりするなどの行為は、言語を用いたものではないとしても、現政権やその政策に対して強く抗議の意思を表し、あるいは日本の戦前・戦中の軍国主義・植民地支配に対する強烈な否定的評価を伝達したいという場合には極めて有効な表現行為としての意味を有することになります。こうした行為は、憲法学においては、象徴的表現と呼ばれ、憲法21条1項の保護が及ぶものとされています。すなわち、憲法21条1項は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を保障するものであり、この「一切の表現」には象徴的表現も含まれると解されるということです。
 ……政治的表現行為が過度に萎縮させられてしまっては、民主主義社会は成り立ちません。それゆえ、表現行為に対する刑罰を用いた規制の合憲性は慎重に見極められるべきです。
 確かに、本法3条において、本法の適用に当たっては、「表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」と定められています。しかし、上記の通り、法案提案者が規制される例として挙げる具体的な行為は、これまで歴史上、政治的表現行為としても行われてきたものであり、また、後述の通り、本法はその存在自体が表現行為を萎縮させるものです。本法が表現の自由との関係で問題を生じないと考えることはできず、こうした規定の存在も大した安心材料にはなりません。

2 表現内容規制であること


 憲法学においては、表現内容に着目した規制(表現内容規制)と表現内容に対しては中立的な時間帯や場所、方法のみの規制(表現内容中立規制)とを区別し、前者のタイプの規制についてはより厳密にその合憲性を審査しなければならないと言われています。……表現内容規制は、表現内容中立規制と比べても、国家がそうした個々人の判断を先取りして、あらかじめ特定の考えを価値のないものと決めつけて、公共の議論から排除しようとすることを狙ったものである可能性が高いと考えるべきでしょう。
……本法は、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」によって、公然と国旗を損壊するなどの行為を処罰するものです。これは、国旗損壊等の行為をすべて規制の対象にするものではなく、「不快又は嫌悪の情を催させる」という効果を伴うもののみを規制の対象にするものであり、それは特定の国旗損壊等の行為がもつメッセージがその受け手に与える効果(伝達効果)に着目した表現内容規制です。
 また、「不快又は嫌悪の情」は、国旗やそれが象徴する国家などへの否定的な評価を含む国旗損壊等の行為から生ずるものであることを考えると、本法は、国旗や国家に対する否定的な意見や見方を伝達する表現行為を処罰するものであって、単なる表現内容規制にとどまらない見解規制です。したがって、本法の合憲性は、極めて厳しく審査されなければなりません。……

3「国旗を大切に思う国民感情の保護」という法益の評価


 ……都合の悪い表現行為を法律によって封じ込めることを通じて、時の政府が望む特定の国民感情を醸成しようとすることは、日本国憲法が想定する自由で民主的な社会と相容れないものです。それゆえ、このような理由で表現の自由を規制することは認められません。
……

4 規制範囲の漠然性・不明確性

 ……憲法31条から要請される罪刑法定主義によれば、刑罰法規は、処罰対象行為を明確に定めるものでなければなりません。……

5 結び

 以上の通り、本法は、政治的表現行為を規制するものであるにもかかわらず、その規制の合理性も必要性もなく、かつ、規制の範囲も漠然とし、不明確です。それゆえ、本法に基づいて、捜査機関が国旗損壊等の行為を立件するようなことは許されませんし、また、本法の合憲性を問う訴訟が起こされた場合には、本法は、裁判所により当然に違憲と判断されなければならないものと考えられます。
 民主主義は、異なる考え方をもつ人々が、互いの存在を承認しあうことによってはじめて成り立つものです。
 しかし、本法は、特定の見解をもつ人々の表現行為を、刑罰によって抑止しようとするものであり、自由民主主義の規範に照らして、極めて問題があると言わざるを得ません。
 私たちは、憲法研究者として、自由民主主義の原理を深刻に傷つけるこの法律を傍観することはできません。私たちは、本法の速やかな廃止を求めます。

2026年8月4日

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